勇者を倒せ!大腕相撲大会!
「最初の五人抜き達成は『パン屋カトリーヌ』の主人のアイルさん30歳! 毎日パン生地を練るその腕はまるで大木のよう!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
シュリの声が会場に鳴り響き、大盛り上がりの腕相撲会場。大会参加者は100人程だが、観客は2千人を軽く越える。実際は会場外に売店やら小イベントが有ってそこにいる人も含めると・・想像もつかん。町内会のお祭り程度を想像してたのに、どうしてこうなった?
会場と会場周辺にはシュリの姿を大きく描いたイベントポスターが沢山貼られている。そのポスターがあちこちで剥がされて持ち去られてる。既に狂信的なファンが居る様だ。
因に俺の肖像画も何枚か貼られたが、そのまんまで誰も盗まない。
ステージを歩きながら進行をするシュリ。
あいつこんなに滑舌よかったっけ?しかし、このマイクというのは凄いな!音がでかくなるとは不思議だ。博士の発明品だそうで、黒竜石を使った声デカ機。軍からの有料レンタル品だそうだ。
会場の数ブロックで行われる腕相撲大会の予選。
参加料を払えば誰でも参加出来、負けても三回まで再挑戦出来る。
予選で五人抜きするとメインステージで中ボスと対決、勝利するとラスボスとの対決となる。
当然、ラスボスとは俺の事だ。
「五人抜きおめでとう御座います!今のお気持ちは?」
「カトリーヌ!やったよー!」
「カトリーヌ?あ、奥さんですね。なんとご主人はお店の名前に、奥さんの名前をつけてらっしゃいます。素晴らしい愛妻家ですね。あ、手を振ってる人がいます、奥さんですね。では奥様にもステージに上がってもらいましょう!」
シュリ、見事な司会だ。
赤と黒のタイトな衣装。肌の露出はあんまり無い。うん、その方がいい。お前のエロさは危険だからな。清楚系ではないが清潔感がある衣装と化粧。うぶで清楚を売りにするには中身に問題が有りすぎる。だからといって最初からお色気ムンムン作戦はしないようだ。だが、ステージ下には鼻息の荒いヤロウ共が既に群れになっている!
ステージ登るご婦人。
カトリーヌさんだね。
胸には小さな女の子を抱いている。かわいい奥さんじゃないの。
ひゅーひゅーと、囃し立てる観客!
「奥さん、旦那さんやりましたよ!五人抜きです!これから賞金戦になりますが旦那様に一言!」
「がんばってー」
「さて、アイルさん。これより超人との対決になりますが、誰を指名しますか!」
そう、中ボスは三人でイベントでは『超人』と言われる。青の超人、赤の超人、緑の超人の三人。対戦はそのうちの一人を選べる。全員と戦わなくていい。それに勝ったらラスボスの俺との対戦になるが、多分俺のところまでは殆んど来れないだろう。俺、暇かもな。
「青の超人!キラーゴーン!」
パン屋の主人が指名したのは、拳闘士元チャンピオンのリングネームキラーゴーン。イベントの為にリン社長が引っ張ってきた。元チャンピオンとはいえ強い。そして現チャンピオンではないがチャンピオン期間が長かったので知名度ならこちらの方が上でイベント向けだそうだ。
うおおおおおおおっ!!
って、盛り上がる観客。
「「「ゴーン!ゴーン!ゴーン!」」」
「「「ゴーン!ゴーン!ゴーン!」」」
「「「ゴーン!ゴーン!ゴーン!」」」
会場に響くゴーンコール!
歓客に向かって手を上げて笑顔で応えるキラーゴーン。すげえ人気。
てな感じでイベントは進んで行った。
パン屋 対 元チャンプは?
うん、普通に元チャンプが勝ってパン屋の主人は記念品を貰って帰っていったよ。勝てば賞金だったが残念。更に俺に勝てばもっと大金だけど、俺強いからなあ。
雛壇の一番上、暇だ。
俺ってば、開演の時に紹介されたけれど、知名度低いなあ。勇者なのに。
俺以外の中ボス三人は有名人だから腕相撲の無い時もサインやら握手やら人気だ。
ぼーっと、会場を眺めてると聞きなれた声がした。
「コー、差し入れよ」
向けば、輝く俺の女神が居た。
長い髪をまとめ左から前にさらりと流し、青いドレスと厚底靴に白い手袋。
暫く見つめる。
「コー?」
「綺麗だ」
「え?」
「綺麗だよカナ」
「え、ちょ、なに、そんなあ」
カナが照れて顔をすくめると、鳥の羽で作った長い髪飾りが揺れる。
「食べてしまいたい」
「ほぁっ! コーったら!」
真っ赤になりながらくねくねするカナ。俺への差し入れのチキンサンドが落ちそう。
「カナさん、しゃんとして!」
いつの間にかそこにいるリン社長。
リン社長も着飾っているが主役ではない。あくまで興行主。
「あ、はい」
ぴしりと背筋を伸ばすカナ。流石に壇上でくねくねしてたらみっともない。
カナも今日はスタッフとして動き回っている。リン社長からは出演者側に出てほしいと言われたが、俺が断った。俺の愛しのカナを他の男共に売り込むような真似はしたくなかったから。独占欲だ。
「衣装折角用意したのに・・」
と、いうことでリン社長の用意した衣装は着させて貰っている。
「それにしても暇だな」
「そうねー、コーのカッコいいとこ見れない」
「コウさん、カッコいいか?」
社長、あんまりだ。
「コーは最高よ!判んないの?凄いんだから!」
いや、最後の言葉は誤解を生むから。あ、いや、二人の間では誤解でない。当然カナも凄い。
「まあ、終盤にコウさんの出番が来るように仕込んであります。相手強いけど負けないでね」
「どういう事だ?」
「それはお楽しみ」
リン社長、中ボス側でなく参加者にも強者を突っ込んで来たか! 誰だろう? と、言ってもこの世界に知り合いなんか居ないんだ。
「暇そうだな」
ん?
聞き覚えがある声だけど誰だっけ?
俺の前に立つのは身体のラインがまるわかりのぴたぴた黒スーツの女性。胸の形もへその位置もまるわかりなうっすいぴたぴたスーツ。肩丸出しで腰は左右非対称の布をベルトで巻いている。小物入れも兼ねてるようだ、スカートとは違う。セクシー路線の格好をしているこの女性、フェイスマスクで顔の上半分が見えない。
「えーと」
誰だっけ?
「判らんか?」
この声、この身長、この胸。誰だっけ?髪はちらりと見える、銀で短い。
「まあ、あとで対戦しよう。楽しみにしておれ」
対戦?
武闘派女性となると、ますます分からん。しかも痴女だ。(見えてません)
午後も中盤になった頃、シュリの声が響いた!
「おおっと! なんと女性初の五人抜き達成者が出ました! 誰でしょう?顔をマスクで隠してます」
ん!
あの怪しい痴女!
対戦とか言っていたけれど、本当に参加者だった!
女性で5人抜きって凄く無い? 参加者の中には皆が疲れてくる午後狙いで体力温存していた人も結構いたよ?ひょっとしたらひょっとするかもしれない。
シュリが参加者リストを出し、エントリーNo.を見て探す。
「こちらの女性は、え〜と、カリーナさん。職業は『天才』年齢は空欄です〜。てか、職業天才って何ですか!」
シュリがそう言ったところでカリーナと名乗る女性はスペアマイクを取ったよ。
「天才は天才だ。天才は腕相撲でも最強だ!」
「おお、凄い自信です!頭の良さと腕相撲がどう結びつくのか判りませんが、五人抜きしたのは事実です!さあ、カリーナさん、どの『超人』に挑戦しますか?」
雛壇には、
青の超人 拳闘士元チャンピオン キラーゴーン
赤の超人 筋肉芸人 トビー ドウゾン
緑の超人 現役軍人最強 ルフィ
「緑と対戦しよう」
「カリーナさん、緑の超人 最強軍人ルフィとの対戦です!」
「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」
「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」
「「「おおおおおおおおおおおおおお!」」」
盛り上がる観客!
ここまで数戦、『超人』が全て勝っているので観客は飽き始めていた。俺はもっと飽きてるけど。
だが、ここで謎の女性挑戦者の登場! なにか有るのでは? と観客は盛り上がった。
ええと、誰だっけかなあ。カリーナって名前は覚えてない。あの喋り方どっかで・・
思い出せないままステージは対戦に移った。
テーブルに肘をつき構えるカリーナさん。たゆんとタレぎみの胸が揺れる。少し年配か。
向かうは緑の超人ルフィ。
そしてカリーナさんは、なんかゴツい手袋してるし。いやね、どうみても仕掛けが有りそう。怪しさ満点!
だからと言って、それは手袋だけなのね。腕相撲だから肘から先をイカサマで強くした所で、腕全体いや体全体が強く無ければ効果はない。かといって若くも無い女性がどうやって五人抜きした?
流石のシュリもその手袋が気になった様だ。
「あのう、その手袋は・・・・・?」
ニヤリとカリーナさんが悪い笑みを披露した。
「ただの健康器具だ」
どう見ても噓でしょ!
カリーナさんの衣装はトゥームレイダーのアンジェリーナジョリーを思い出して下さい