勇者だもの強いよね?
「本当にコウさんは凄いんですか?」
朝食中にシュリが聞いて来た。
最近は俺とカナとシュリの三人で一緒に食事をするようにしている。バトラーの分は無し。バトラーの同席はカナが拒否した。
偉そうにメイドを立たせながらの食事は俺には辛い。カナはもう恋人だし、カナを座らせてるのにシュリだけ立たせるのはあんまりだしな。しかも最近はメイドの二交代もぐだぐただ。別に夜番とかしてもらわなくても困らないし。暗殺者が襲ってきてもメイドじゃなにも出来ないし、敵なら俺が察知して撃退するし。そもそも夜中に呼び出しなんか来ないし。
「す、凄いとか判んない!アタシ、コーしか知らないし。凄い・・と、思う・・よ」
もにょもにょしだすカナ。
狼狽えてるし顔も赤い。
ええと、シュリの質問はそっちの意味? てっきり勇者としての事だと思ったのに。いや、凄いのかな? 昨夜もカナが『凄い!』連呼してたし、やり過ぎかな?と思ったら『やめないで』と言われた。今のカナは実家での初夜の時とは別人だ。
「いや、そっちの話じゃないわよ。勇者として強いのかってこと! あっちのことは聞いてないです! 夜中にカナがしっかり感想叫んでるから、そっちはよく分かったわよ」
更に赤くなるカナ。
かつて声がデカイとシュリを責めていたのにこんなことになるとは。
「ご、ごめん」
カナが勘違いに気付き、更には声が聞こえてたことに恥ずかしくなったか声が小さい。
「シュリ、あんまり苛めるな。それにな、カナも凄いぞ」
「す! 凄いって! 恥ずかしい・・よ・・コー」
あ、援護のつもりがカナにトドメを刺してしまった。
「はいはい。ノロケはいいですから。コウさん、武道大会とか出てみない? 草大会とかなら月イチでありそうだし」
「いや、そういうのには出ないことにしてるんだ。前の世界でも有ったんだけど、賞金泥棒とか商品泥棒と罵られたからさ。他の参加者の迷惑になるんだ」
「じゃ、強いのは確かなのね?」
「ああ」
「よーし」
「ん?」
そのあとシュリは提案とか質問とかしてこなかった。不気味。
カナは終始もにょりっぱなし。
もにょもにょもにょ。
そして、カナは朝食のあと『夜の疲れ』で寝室で寝てしまった。俺の寝室で。
「だったら寝室の掃除はカナしろ!」
と、シュリが怒鳴っていた。
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「・・以上です」
夕食後、シュリが家に引き入れたのはリン夫人だった。
リン夫人は俺に『賭け腕相撲大会』の説明をしてくれた。
シュリは朝食のあとリン夫人と打ち合わせをしたらしい。勝つのが判りきってる俺をなにかの大会に出場させてもつまらないから、俺をイベントの中心にして、『勇者を倒したら賞金と商品』というやり方を思い付いたらしい。司会進行はシュリがすると。リン夫人によるとこれはシュリの売り込みの意味もあるんだそうだ。
軍には話は通したそうだ。
『トラブル』を懸念されたが、収益の数パーセントをロケット工場に渡すことにして手打ち。武道大会でなくて腕相撲大会なのもトラブルを避けてのこと。俺もその方がいい。うっかり相手殺したらやだし。
話は遡るが、リン夫人はプロダクション社長を連れてシュリを訪問したんだそうだ。だがそれがまずかった。そのあとシュリに惚れた社長が何日も何日もシュリを口説いたり襲おうとしたりして、怒ったリン夫人はプロダクション社長と縁を切った。
ここでシュリの芸能界デビューが消えたかと思ったら消えていなかった!シュリのためにリン夫人は会社を立ち上げてしまった。独立だ。
リン夫人は、いや、リン社長は解っていた。
どの業界でも新参者は辛い。売り込みにしてもスポンサーや銀行にしても。だが挨拶にシュリを同席させると全て通る。リン社長も有名人だがもう過去の人。しかも縁を切ったプロダクションの嫌がらせもあるだろう。出資主や関係業者へ新規で挨拶に行かねばならないが、新参者には風当たりが厳しい。だが同行したシュリが微笑めば全てが通る。恐るべしシュリ! 以前は魅力が仇になって身の危険が有ったが、リン社長という盾がある。しかもその盾はシュリが居ると威厳がつく。
恐ろしい。
リン夫人の独立開業には家族の猛反対があったそうだ。理由は・・まあ、分かる。そしてその理由は解決してないのだね。
あら、シュリが忙しくなったらメイド業務は?
メイドはやめないらしいが。
「お母さん呼ぶからいい」
カナが言いきった。
お母様、すいません。
あ、バトラーどうするんだろう?
「バトラー要らない!」
そうですか。
可愛そうなバトラー。
あ、可愛そうでもないか。
シュリは魅力チートです。