天空の告白
マルコは自身の過ちにより、アンブレラの自爆ボタンを押してしまった。突如鳴り響くアラームを聞き、三刃と姫乃は動揺した。
「何だ何だ!?」
「三刃君見て‼」
姫乃が指さすモニターには、爆発まであと3分と書かれていた。
「しまった……間違えて自爆ボタンを押してしまった……」
マルコの顔面は青く染まっていくのを二人は目撃した。あの自信過剰なマルコが、あそこまで怯えるので、かなり強い爆発があると二人は予想した。
「おい……どうすればいいか分かるか!?」
「自爆解除ボタンなんてものは存在しない、付けてないんだ‼」
マルコがこう叫んだ直後、マルコの足元が大きく爆発をした。発生した爆風から目を守るため、二人は手で顔を覆った。しばらくすると、マルコのいた場所には大きな穴が広がっていた。
「嘘だろ……」
三刃は恐怖した。最初の爆発でも、足場が崩壊するほどの強さがある。もし、地上付近でアンブレラが大爆発を起こしたら、大惨事になりかねない。
「ぐ……うおおおおおおおおおおおおおお‼」
これ以上被害を広げてたまるかと思いながら、三刃は大声を上げて体を動かした。
「三刃君……」
姫乃も三刃の後を追い、ゆっくりと歩いて行った。
「これがコントロールパネルかな……」
「多分そうね」
二人は何とかアンブレラをコントロールするパネルの前に到着し、アンブレラの操作を始めた。しかし、自爆スイッチを押したためか、アンブレラは言う事を聞かなかった。それどころか、徐々に下降している。
「嘘でしょ……落ちてきてる……」
「上がれ、上がれよ‼」
三刃はモニターを見回した。すると、上矢印のマークが描かれているスイッチを見つけた。一か八かと思い、三刃はそのボタンを押した。
「正解のようね……」
姫乃は安堵の息を吐いてこう言った。アンブレラは少しずつ上に上がってきているのだ。しかし、そのボタンを指から離すと、アンブレラはまた下降を始めた。
「……時間まで押してろってことか……」
三刃はため息を吐き、再びボタンを押した。姫乃もボタンを押そうとしたのだが、三刃がこう言った。
「姫乃、先に戻ってろ」
「……いえ、戻らないわ。三刃君一人置いて帰れない」
三刃は再び溜息を吐き、姫乃にもう一度伝えた。
「この距離ならまだ間に合う。結社に戻るんだ」
「戻らない」
「いいから戻るんだ‼ここにいると、死ぬぞ‼」
「絶対に戻らない‼」
「いいから戻れ‼僕はお前を死なせたくない‼」
三刃は呼吸を整えた後、目をつぶってこう言った。
「僕はお前の事が好きなんだ。手紙……見ただろ」
「ええ」
「……姫乃、お前だけは死なせたくない。結社に戻って、それから……なんて言うかその……僕の分まで生きてくれよ」
「嫌だ」
「……何でだよ?僕と一緒に死ぬかもしれないんだぞ……なんで帰らないんだよ?」
「好きな人を置いて帰れるわけないじゃない」
この言葉を聞き、三刃の口が開いたままになった。茫然とする三刃を見て、姫乃はクスリと笑ってこう言った。
「私もあなたの事が好きよ、三刃君。だから……最後まで一緒にいさせて」
「姫乃……」
「覚悟してるわ。あなたがそばにいるから、怖くはない」
「……分かった。姫乃、最後の最後まで……僕の傍にいてくれ」
「ええ」
告白の後、二人はずっと上昇ボタンを押していた。2分後、アンブレラは雲よりも高く上昇していた。
『爆発まで、あと1分。カウントダウンに入ります』
と、アナウンスの声が聞こえた。この直後、光っていた上昇ボタンの光が消えた。
「あれ?もう動かないの?」
「そのようだな……」
二人はその場に崩れるように座り込み、互いの顔を見合わせた。
「後1分ちょいだな……」
「それまで何してる?」
三刃は少し考えた末、少し恥ずかしそうにこう言った。
「キス……とか……」
「キスって……あの時したじゃない」
「人工呼吸じゃない、本当のキスだ」
「……本当のキスね……」
三刃は姫乃の頬を触ろうとしたのだが、体に激痛が走り、腕が止まった。
「私から行くわ」
姫乃は三刃の頬を両手で触り、そのまま三刃とキスをした。
「最後まで……こうしていようよ……」
「そうね……二人で行けるなら……それはそれで最高ね……」
短い会話の後、二人はずっとキスをしていた。そして、モニターに映るカウントダウンの数字は、0になった。
一方、結社では大勢の役員やトランプカードの一員が外に出て、上空を見上げていた。
「アンブレラはどこだ?」
「もうかなり上まで上がってるんじゃねーのか?」
「望遠鏡でも見えねーよ‼」
「何回か爆発音がしたけど……大丈夫なのか!?」
「爆発が起こっただけでもやべーだろ‼」
そんな会話の中、翡翠は黙って上を見上げていた。後ろから凛子達がやって来て、翡翠に様子を聞いた。
「翡翠ちゃん、お姉ちゃんとあの野郎はどうなってるの!?」
「分からない……見えないから、何がどうなっているのか……」
「かなり遠くまで上がったのか?魔力が察知できねーぞ」
光賀は目をつぶり、集中して二人の魔力を探っていたが、察知できないでいた。
「お兄ちゃん……姫乃さん……」
翡翠が祈りながらこう呟いた直後、上の方から花火のような爆発音が響いた。それからしばらくし、上空から何かが落ちてきた。
「何だありゃ?」
「もしかして……アンブレラの破片か!?」
その後すぐ、上空からアンブレラの残骸らしきものが次々と海に向かって落ちてきた。翡翠はそれを見た直後、ショックのあまり気を失った。
それからすぐ、結社の魔法使い達は落下したアンブレラの調査を始めた。調査開始から数日後、結社はマルコの腐乱死体を見つけた。上空から海面に着水した時の衝撃が大きかったせいか、マルコの死体はかなり痛んでいた。その後はアンブレラの残骸が多く見つかった。
翡翠、凛子、凛音はずっと下を向いていて、一言も言葉を発しなかった。貢一は3人の姿を見て、頭を抱え込んだ。その様子を見たクイーンが、輝海にこう言った。
「まだ見つからないの?」
「ああ……これだけ探しても、まだ見つかってないんだぜ」
輝海は疲れ果てたのか、その場に座って息を吐いていた。その直後、湯出が慌てて部屋に入って来た。
「どうかしたか?」
「見つかりました……三刃君と姫乃ちゃんを見つけました……」
この言葉を聞き、翡翠達は歓喜の声を上げようとした。しかし、湯出の浮かない顔を見て、どういう状況か察した。