決戦への下準備
三刃と姫乃がコンビニ強盗に巻き込まれた事件から数日、あの事件のニュースはすぐに収まった。事件の後、二人は学校中で話題の人物となった。だが、二人ともあの強盗があの後どうなったのかは分からないのだ。警察の調べでは、現場から少し離れた森の中で強盗が逃走に使ったとされるコンビニの車があり、その近くには血痕があった。その血痕を調べた結果、犯人のものと判明した。しかし、周辺を調べても強盗は発見されなかった。
結社内の会議室では、姫乃の父親を中心に会議を行っていた。会議の内容は、トランプカードとの決戦について。コラルがトランプカードのアジトの事を話したため、ジョーカーがいる場所を突き止めたのだ。会議は長時間、念入りに行われた。話し合いの結果、一部の魔法使いがアジトへ攻め、残った者達が結社の防衛を行うことになった。
「作戦執行はいつにしますか?」
幹部の一人がこう言うと、姫乃の父親は少し考えこう言った。
「三日後だ。それまでに決戦準備を整えろと全魔法使いに伝えろ」
その言葉を聞いた幹部達は返事をし、会議室から出て行った。
数時間後、トランプカードの本アジトの急襲作戦を行うことが結社内で知らされた。もちろん、三刃や姫乃、翡翠達妹もこの事を知った。
「ついに始まるのね……」
結社内で話を聞いた姫乃は、小さな声で呟いた。
「ああ。奴らとの因縁もここで終わらそう」
三刃は拳を握り、こう言った。その時、輝海が二人に近付いてきた。
「話は聞いただろ」
「はい」
「三日後、ついに奴らと戦うんですね」
三刃の返事に対し、輝海は首を縦に振って返事をした。
「今からそのことについて、皆と話をしたい。湯出の店に来てくれないか?」
その後、三刃と姫乃は輝海と共に湯出の部屋へ向かった。道中、光賀や夕、服部と海人に連絡をし、湯出の店に来るようにと言った。数分後、三刃達は湯出宝石店の地下にいた。
「では今から話をする。話の内容は誰がアジトに行くかと、結社内に残るかだ」
「はいはい!私はアジトをぶっ潰したいです‼」
凛子は手を上げてこう言ったが、輝海は頭を抱えてこう言った。
「あのなぁ、これから戦う奴らは今までの魔法犯罪者とはレベルが違うんだぞ。いくらお前が龍の力を身に着けても、勝てるかどうか分からねーんだぞ」
「やって見なくちゃ分からないわ……」
凛音がボソッとこう言った。それに対し、湯出が返事をした。
「相手の事が詳しく分からないから、ここは慎重に行きたいんだ」
「そんなの関係ないわよ、ぶっ潰せば問題ない‼」
「はいはい、落ち着こうな」
光賀が凛子に落ち着くように促した。輝海は小さく「やっと静かになったか……」と呟いた後、咳ばらいをして話を続けた。
「上の連中はアジトへ攻める際、優秀な魔法使いを出撃させたいようだ。その優秀な魔法使いの中には、君達も入っていると考えていいだろう」
「僕達が……優秀な……」
夕は優秀と言われ、少し嬉しそうだった。だが、輝海はこう言った。
「確かに君達は優秀だが、まだ子供だ。出来れば皆結社の防衛に回ってほしい」
「えー!?そんなのつまんなーい!」
頬を膨らませながら、凛子はこう言った。だが、翡翠は輝海の考えを読んでいた。
「もしかして、私達の身を案じて……」
「そうだ。なるべく君達は安全な所で戦ってほしい……だが、それは俺の考えだ。上の連中は龍の巫女である姫乃、凛子、凛音、翡翠ちゃんのどちらかをアジト殲滅に加えたいようだ。実際……そうでないとアジトでの戦いはきついらしい」
輝海の話を聞き、姫乃が立ち上がった。
「私がアジトへ行くわ。それでいい?」
姫乃の言葉を聞き、輝海は目をつぶって考え始めた。しばらくし、輝海はこう答えた。
「分かった。じゃあ翡翠ちゃん達は防衛の方に回ってくれ」
「やだ‼」
「お姉ちゃんだけを危ない所へ行かせたくない‼」
凛子と凛音の話を聞き、輝海は予想通りの展開になってしまったと心の中で思った。だが、三刃が凛子と凛音にこう言った。
「僕が姫乃についていく。それでいいか?」
「三刃だけじゃ不安だ。俺も行くぜ」
三刃の次に立ち上がったのが、光賀だった。二人の言葉を聞き、服部と海人がこう言った。
「私達も行こう」
「忍者がいれば、少しは役に立つだろ」
三刃達の言葉を聞き、凛子は三刃の腹を軽く殴ってこう言った。
「お姉ちゃんを傷だらけにしたら許せないんだからね……」
「分かってるよ。姫乃は僕達が守る」
「話はまとまったな」
というわけで、三刃達のトランプカード殲滅戦でのポジションが決まった。
・アジト急襲チーム
三刃、姫乃、服部、海人、光賀、輝海
・結社防衛チーム
翡翠、凛子、凛音、夕、湯出
「チームは決まったな。じゃあ今から作戦に備えて準備を始めろ!」
その後、三刃達は各々の作戦の準備を始めた。
魔法結社、イギリス支部。職員が慌てながら手にした資料を運んでいた。そんな中、依頼を終えたユアセルが戻ってきた。
「なんか慌ただしいですね、問題でもありましたか?」
ユアセルが近くにいた職員にこう聞くと、職員はずれたメガネを直しながら返事をした。
「今情報で、手配中のチェル・エニシェルが日本にいるかもしれないって話が出てるんだ」
「……チェル・エニシェル?誰ですか?」
ユアセルの言葉を聞き、職員はバランスを崩した。
「えーっと……チェル・エニシェルは女の科学者。優秀だったらしいんだけど、彼女の考えがかなり危ないから、すぐに学会から追放されたんだよ。チェルはそのことを恨み、自分が世界で一番優秀だと世界に知らしめるため、テロの援護をしたり、危険な物を作ってたりしてたんだ」
「そんな奴が、何で日本に?」
「分からない。今日本では、トランプカードという魔法犯罪者の集団が暴れまわっているらしい。私の予想ですが、チェルがトランプカードへ入り、何かしら行っていると思われます」
話を聞いたユアセルは、大急ぎで上司の所へ向かって行った。
「どうしたのだユアセル?」
血相を変えて走って来たユアセルを見て、上司は驚いていた。ユアセルは息を切らせながら、上司にこう言った。
「日本へ行ってもいいですか!?僕も……翡翠達と一緒に戦います‼」
「……今、日本の魔法結社が大変なことは知っているのか?」
「トランプカードという魔法犯罪者の集団の事でですか?」
ユアセルの言葉を聞き、上司は「そうだ」と返事をした。
「奴らは並大抵の魔法犯罪者とはわけが違うぞ。とんでもなく強いと話を聞いた。結社の優秀な魔法使いも、何人か殉職したと情報も入っている」
「……だけど、僕は日本へ行きます。翡翠を……日本の皆を助けたいんです」
「……分かった。すぐに手配しよう」
上司はこう言うと、椅子から立ち上がった。部屋から出る際、上司はユアセルにこう言った。
「ユアセル、生きて帰って来いよ」
「はい」
去っていく上司を見ながら、ユアセルはこう返事をした。