ピンチは突然に
三刃は心の中で面倒なことに巻き込まれたと思った。警察がコンビニの周りを取り囲んでいるのだが、騒動を聞きつけたマスコミも辺りにいる。
「こんなことに巻き込まれるなんて、不運よね……」
「ああ……」
三刃と姫乃が会話をしていると、50代の強盗犯は二人を睨んでこう叫んだ。
「うるせーぞガキ共!黙らねーとぶっ殺すぞ‼」
三刃と姫乃は一旦黙り、強盗犯の動向を伺った。強盗犯はコンビニの出入り口に近付き、周囲を見回した。
「チッ、もうサツ共が駆け付けやがったか……てめーらが連絡したんだな!?」
強盗犯は刃物を振り回しながら、コンビニの店員に問いかけた。店員は悲鳴を上げながら、レジの下へ潜った。だが、その前に強盗犯がレジを乗り越え、店員の首元を掴んでこう叫んだ。
「金と車を出せ‼今すぐにな‼死にたくなかったら、俺の言う事を聞け」
「は……はひぃ……」
命が危機だと悟り、店員はおとなしく強盗犯の言うとおりに従った。店員が金と車を用意している間、強盗犯は出入り口にいる警察とマスコミに向かってこう叫んだ。
「変なことをしたら、この女をぶっ殺す‼俺の後を追っても、この女をぶっ殺してやるからな‼」
逃走を邪魔されないためか、強盗犯は警察にこう伝えたのだ。強盗犯が三刃と姫乃の後ろを向いたため、二人は今がチャンスだと察した。
「いくぞ」
「ええ」
まず、三刃が小さな風を出し、強盗犯のズボンのベルトを切り裂いた。その結果、強盗犯のズボンが下にずれ落ちた。
「なっ!?何でだ!?」
強盗犯は女性を離し、ずれたズボンを直そうとした。その隙を狙い、姫乃は小さな火の玉で強盗犯に攻撃をした。
「あづっ!あづづっ!?」
攻撃を喰らい、強盗犯は悲鳴を上げながらその場で跳ね始めた。その後、強盗犯は三刃と姫乃の方を睨み、ナイフを持ってこう言った。
「お前ら……もしかして今噂の魔法使いか?」
「変なことをしな方がいいよ」
「もっとひどい目に合うわ」
二人はこう言ったが、強盗犯はにやりと笑い、逃げ出そうとした女性を捕まえようとした。だが。
「待て‼彼女は関係ない、人質なら僕がなる‼」
と、女性の連れらしき男性が大きな声を出したのだ。
「お前が人質に?」
「そうだ」
強盗犯はこう聞くと、唾を吐いてこう言った。
「悪いが野郎を人質にする趣味はねぇ」
「逃げだした先で彼女を犯すつもりか?」
「あったりまえよ。何か問題でもあるか?」
強盗犯の言葉を聞き、姫乃はブチ切れそうになったが、三刃が姫乃をなだめた。
「少し様子を見よう」
「分かったわ……変なことしたら灰にしてやる」
と、小さな声で姫乃は呟いた。その頃、女性は連れの男性の所へ行き、後ろへ隠れた。
「隠れるなよ。出てこないとお前の連れの野郎を殺すぞ」
「……」
その時、空からヘリコプターの音が鳴り響いた。何事かと思い、強盗犯は空を見上げた。
「チッ、警察の連中が援軍を呼びやがったか……仕方ねぇ。おい‼そこの兄ちゃん‼」
強盗犯は女性の連れの男性を呼び出し、捕まえてナイフを近づけた。
「お前の言う通り人質にしてやらぁ。大人しくすればあの姉ちゃんの所へ帰してやる」
「約束だな」
「ああ約束だ」
強盗犯は店員に近付き、刃物を構えながらこう聞いた。
「金と車の用意は出来たか!?」
「はい‼外に宅配用の車を用意しました‼」
「よろしい、じゃあさっさとどけ‼」
強盗犯は男性を連れ、裏口から逃げて行った。その後、裏口から車のエンジン音が響き、発射する音が響いた。
「逃げたか……」
三刃は静かにこう言ったが、直後に彼は動き出した。それと同じく、姫乃も同じように動いていた。二人は裏口から外に出て、走りながら会話をしていた。
「風の魔法でもっと早く動ける?」
「多分な」
「じゃあお願い!」
と、姫乃は三刃に抱き着くと、三刃は軽くジャンプをした。
「しっかり捕まってろよ」
「うん」
その後、三刃は強烈な風を発し、猛スピードで車の後を追って行った。
その頃、車内では男がハンドルを荒く回しながら、怒声を上げていた。
「どけどけポンコツ車共が‼」
そうしているうち、目の前に車が現れた。その車に乗っていた男性は驚きのあまり、急ハンドルで強盗犯の車を避けた。しかし、その結果別の車と激突してしまった。
「ったく、高齢者ドライバーが!あんなのがいるから事故は起きるんだよ‼ジジイババアが車の運転するんじゃあねえ‼」
「今のは君が悪いのでは?」
と、人質に取られている男性がこう言った。その言葉を聞いた強盗犯は、苛立ちながらハンドルペダルを踏み込み、町の外へ向かって行った。
その後を追っていた三刃と姫乃は、強盗犯が起こした事故のせいで足止めを喰らっていた。
「くそ!あの野郎!こんな事故を起こしやがって‼」
三刃は魔法を使い、車内に閉じ込められている人を助け、姫乃は治癒魔法で怪我人を治療していた。
「これじゃあどうしようもないわ……」
「あとは警察に任すしかないか」
三刃はこう言いながら、風の魔法を使って人を助けていた。
数時間後、強盗犯は近くの森で車を止め、人質の男性を無理やり外に追い払った。
「おいクソ野郎‼舐めた口をききやがって!ぶっ殺すぞ」
男性は口についた泥を手でふき、周囲を見回した。
「オイゴラァ!無視するんじゃねーぞ‼」
「人は……僕と君以外いないようだね……」
「だからどうした?一人で死ぬのが寂しいのか?」
強盗犯は笑いながらこう言ったが、男性はそれに対してこう答えた。
「いや。死ぬのは君だ。君みたいな愚か者は死に値する。自分の為に他の人を傷つける行為は、絶対に許さない」
男性の返事を聞き、強盗犯は大声で笑い始めた。
「はーっはっは‼何だお前?正義の味方のつもりか?いい歳こいてクッソつまらないヒーロー番組でも見てるのか?」
「正義の味方?悪いが僕はそんな者じゃない。君みたいな愚か者が殺したいほど嫌いなだけだ」
男性はそう言った後、右手を上に上げた。何をするつもりだと強盗犯は思ったが、自分の周りの土が、急に上に上がったのだ。
「なっ……何だこりゃ!?」
「僕もあの子達と同じように、魔法使いなんだ」
男性はそう言うと、上に上げた右手を下におろした。それに合わせるかのように、上に上がった土は強盗犯を飲み込み、元の地面へ戻った。しばらくし、強盗犯が飲み込まれた地面から、血が滲んで浮かんできた。
「ふぅ……少し遠くへ来てしまったな。予想外だ……電波が届くといいけど」
男性は小さく呟くと、ポケットの中にあるスマホを取り出して誰かに連絡をした。
「クイーンかい?僕は無事だよ。強盗犯は……殺した。それしかなかったんだ。僕の居場所は分かるかい?……もう探知して迎えが来てるって。そうか。分かったよ。君は無事かい?……無事ならよかった」
会話中、車のライトが男性を照らした。その車は男性の傍へ止まり、車のガラスが下がって行った。
「今迎えが来たよ。君も迎えに行くから、ちょっと待っててね」
男性はそう言って、通話を切った。その後、車に乗り込んだ男性は運転手にこう伝えた。
「〇×コンビニへ行ってくれ。そこにクイーンがいる」
「分かりました。ジョーカー様」
その後、ジョーカーを乗せた車はクイーンがいるコンビニへ向かい、走り出した。