察知した気配
輝海はジャックとの戦いで、自分が劣勢になると察していた。コラル達の戦いからしばらくは経っているが、怪我は完全に治ったわけではないのだ。
今、輝海は槍を使って軽い攻撃をジャックに放っている。ジャック自身、こんな攻撃を行う輝海を見て不思議に思っている。
「おりゃっ!」
輝海が槍を振り下ろしたが、ジャックは魔力を発して輝海を吹き飛ばした。
「一つ聞きたいことがある。どうしてそんな攻撃を繰り返す!?」
ジャックは輝海にこう聞いたが、輝海はその質問には答えず攻撃を仕掛けてきた。
「答える気はないか」
「敵の質問なんて、誰が答えるかよ‼」
輝海はそう言って、ジャックを蹴り飛ばした。蹴りを受けたジャックは防御をしていたが、そのまま後ろに吹き飛んだ。この時、ジャックは謎の魔力を察した。
誰か来る。
そう思い、ジャックは周囲を見回した。だが、謎の魔力はまだ少し離れた所にいるようだ。
「誰か来てるな……貴様の知り合いか?」
「だーかーらー、敵の質問に答える気はねーよ‼」
輝海はそう言いながら、電撃を槍に纏わせた。
「俺は敵の野郎とお話しする趣味はねー、ここでくたばってもらうぜ」
「やれるものならやってみろ。私は連れの二人とは違うんでな」
「そうですかっと‼」
この言葉と共に、輝海は高く飛び上がり、ジャックに襲い掛かった。
「襲って来るか……無駄なことを‼」
ジャックは両手にこん棒を装備し、その周囲に水を発生させ、一気に凍らせた。
「氷のこん棒か。ぶっ壊してやるぜ‼」
「壊せるものならやってみろ‼」
その後、輝海の槍とジャックのこん棒がぶつかった。
「な……何だと……」
ジャックが凍らせた氷は、攻撃を受けても欠けはしなかった。電撃を纏っている槍はそれなりに攻撃力も増すはずだが、それでも欠けていなかった。
「だから言っただろ。無駄なことと」
攻撃を受け止めたジャックは、もう片方のこん棒で輝海を殴り飛ばした。輝海は短い悲鳴を上げ、壁にぶつかりつつ地面に倒れた。
「くそ……」
輝海は口からつばのように血を出し、後ろに下がった。
「ほう。逃げるか。劣勢になったら結社の魔法使いは逃げるのか?」
「お前らだって、犯罪犯したときに俺らを見たら逃げるじゃねーか」
ジャックの挑発に対し、輝海は軽く笑いながらこう返した。
「じゃあ、今はその逆の立場だな。貴様が逃げ、俺が追う」
ジャックは傷ついた輝海を追い始めた。輝海は何とかジャックから逃げようと走り出したのだが、あっさり追いつかれてしまう。
「何だ。鬼ごっこはもう終わりか。つまらないな」
「それじゃあ戦いを再開するか‼準備はいいぞ‼」
と、輝海は大声でこう叫んだ。この時、ジャックは思い出した。何者かの魔力の存在を。改めて察してみると、その魔力がこの近くに来ていた。
「しまった!貴様の仲間か‼」
「その通り!」
輝海の後ろから何者かが現れた。数は二人。子供のようだが、魔力は物凄かった。
「子供!?」
「ただの子供と思うんじゃねーぞ‼」
「修行の成果を見せてくれよ、三刃君‼」
三刃は風丸を構え、ジャックに斬りかかった。
一方、別の部屋で待機している光賀達は、三刃達の魔力に気付いた。
「おい‼三刃の魔力だ!姫乃もいる‼」
「修行を終え戻って来たか」
「以前よりも強くなっているな」
服部と海人は冷静にこう言ったが、夕は少し慌てていた。
「だけど、今相手になってる人って強い人だよね。援護に行かなくていいかな……」
「大丈夫だって。今のあいつらの魔力を察しただろ。以前より強くなってる」
と、光賀は笑顔でこう返した。
三刃の攻撃は、ジャックが装備するこん棒を切断した。真っ二つになった自分の武器を見て、ジャックは驚愕していた。
「この子供は一体……何だこの強さは!?」
「敵に自分の情報を教える人はいませんよ」
と、姫乃は武器を構えてこう言った。その直後、姫乃は刀から炎を発した。この炎を受けたジャックは、炎の中で苦しみだした。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
炎の中で、ジャックの悲鳴が轟いた。
「やったか?」
輝海がこう聞くと、姫乃は首を横に振って答えた。
「まだ動けるみたいね」
「魔力で防御してます」
その後、三刃は姫乃に炎を止めろと伝えた。炎が止んだ後、そこには少し焦げているジャックの姿があった。
「今の攻撃で少しはダメージがあったようね」
「あとは僕がやる」
三刃がジャックの前に立ち、膝をついているジャックを立たせた。
「あんたがどういう人か分からないけど、トランプカードの一員である以上あんたを倒さなければならない。覚悟しろ」
「子供が……偉そうにこんなことを……言うもんじゃないぞ‼」
ジャックは右手を刃のように凍らせ、三刃に攻撃を仕掛けた。だが、ジャックは別の魔力を察した。
「何だ……この魔力は……」
この直後、ジャックの目の前に龍の形をしたオーラが迫っていた。しかも一匹ではなく、三匹。
「龍だと!?」
「凛音ちゃん、凛子ちゃん、少し威力を抑えてね」
「まっかせなさい‼」
「任せて」
「翡翠!?何だよ、お前も戻って来たのか!」
三刃がこう言った直後、三人の攻撃がジャックに命中した。火と風の咆哮が、ジャックに襲い掛かった。
「そんな……何だこの攻撃は」
この直後、ジャックは攻撃を受け、その場に倒れた。彼の体は一部が焦げとなり、一部が風で斬り刻まれたか血が流れていた。
「ふー、なんとなかったね」
額の汗を腕で拭った凛子は、姫乃の姿を見つけ抱き着いた。
「久しぶり、お姉ちゃーん‼」
「凛子、凛音。ずいぶん強くなっちゃって。龍の力を手にしたの?」
「うん」
「前よりもっと強くなったよ」
この話を聞いた三刃は、苦笑いをしていた。
「こいつらがもっと強くなったら大変なことになるんじゃあ……」
「何言ってるのお兄ちゃん」
横にいた翡翠が、呆れてこう言った。改めて三刃は翡翠の魔力を探ってみた。翡翠の魔力は以前よりも強くなっていた。
「お前もまぁ強くなっちゃって」
「お兄ちゃんよりも強くなったかもね」
「そうか?」
三刃は少し考えてみた。自分も地獄のサバイバル生活で生命力も力も魔力も増しているが、翡翠はそれとは別で龍の巫女の力を持っている。その分自分より上なのは確実である。
「五分五分だな」
「意地はっちゃって……」
三刃の返事を聞き、翡翠は呆れた。その時だった。傷だらけのジャックが立ち上がったのだ。
「嘘‼」
「あれだけの攻撃を受けて、まだ立ち上がるの!?」
「俺は……捕まるわけにはいかない‼」
ジャックはそう言って、魔力を開放し、猛スピードで去って行った。三刃達も後を追うとしたのだが、そのスピードには追い付けなかった。
「まさか、奴にあれだけの魔力があったとは……」
傷の手当てをしていた輝海がこう言った。少し間を取り、輝海は続けてこう言った。
「だけど、奴の二人の連れは捕まえた。奴らから詳しく話を聞こう」
その後、三刃達は服部達がいる場所へ向かって歩いて行った。