トランプカードの風使い
闇に命中したリリックは、闇を飛ばした夕を睨んでいた。
「そこのガキ、俺に傷を付けるとは大した度胸じゃねーか」
リリックは立ち上がると、周囲に風を纏ってこう言った。
「俺はあいつを始末します」
「分かった。気を付けろよ」
ジャックはこう言うと、服部と海人を睨んだ。
「時代遅れの忍者か」
「時代遅れとか、失礼なことをいう奴だな」
「失敬、思ったことをつい言ってしまった」
「言葉には気を付けろよ、おっさん」
海人がジャックに接近して斬りかかろうとしたのだが、ボランドがジャックの前に立ちふさがり、海人の攻撃を防御した。
「ジャックさん、忍者は俺がやります。一度戦ってみたかったんですよね」
「ボランド、あまり闘争本能をむき出しにするな。俺達の目的は戦いではなく、コラルとジャベの始末だぞ」
「分かってますって。じゃ、さっさと片付けて戻ってきます!」
ボランドは服部と海人に向かって飛びかかり、攻撃を仕掛けた。
「ふぅ……残ったのは俺だけか」
残ったジャックは溜息を吐き、先へ行こうとしたのだが、後ろから声が聞こえた。
「待ちな、お前の相手は俺がするぜ」
声の主は輝海だった。すでに武器を装備し、戦いの準備を終えていたのだ。
「……ほう。雑魚しかいないと思っていたが、強そうな奴がいるじゃないか」
ジャックはこう言うと、にやりと笑った。
夕は襲ってくるリリックから逃げながら、闇を飛ばして攻撃していた。リリックは夕の攻撃手段を察し、いろいろと対策を考えていた。
「いっけぇぇぇぇぇぇ‼」
夕は矢のような闇を作り、リリックに向けて発射した。
「今度は矢か!」
リリックは槍を装備し、飛んできた闇の矢を弾き飛ばした。
「ほう。闇は普通に物理攻撃で弾き飛ばす事が出来る。いい事を知った」
対策を練ったリリックは、一気に夕に近付いた。
「行くぞ闇使い!貴様がこの結社の中で一番弱い事は察した!」
リリックはこれまでの夕の行動を見て、彼が一番弱い事を察していた。攻撃方法も闇を飛ばす以外仕掛けてこないため、戦闘の経験があまりないと考えた。
「まず貴様から始末してやる!」
槍を構え、リリックは夕に向かって突っ込んで行った。だが、リリックの目の前に巨大な光が現れた。
「何ッ!?」
急ブレーキをかけたのだが、リリックの体は止まらず、光に当たってしまった。全身が焼けるような痛みを感じ、リリックはその場に倒れて転げまわった。
「イテェ‼熱いしイテェ‼」
「どうだ光の力は?」
この時、リリックは思い出した。光の魔法を使える奴もいたと言う事を。
「クソ……光の魔法使いもいるのかよ!」
リリックは腕組をして立っている光賀を睨み、こう言った。
「警告しておく。これ以上俺らと戦うならもっと酷い目にあうぞ。あいたくなかったら大人しく降参しろ」
「降参?俺はまだ戦えるぞ!」
リリックは雄たけびのような声を出した後、光賀と夕に向けて風の刃を放った。光賀と夕は刃をかわし、相手の出方を伺った。
「チッ、避けやがったか」
舌打ちをした後、リリックは立ち上がって槍を構えた。そして、夕に向かって襲い掛かった。その事を察した光賀は剣を装備し、リリックに斬りかかった。
「そんなにこの坊主が大事なのか?ホモか?お前ホモなのか!?」
「ダチを傷つける奴は許せねェェェェェェェ‼」
光賀はリリックを蹴り飛ばし、壁にぶつけた。
「おいおい……俺の質問に答えろよ」
「答える気はない」
光賀は剣を構え、せき込むリリックに向けて斬りかかった。だが、リリックは風を使って防御をしていた。
「風で……」
「ほらよ‼」
突如、光賀の腹に強烈な一撃が入った。相手がパンチやキックを放ったわけではない。なのにどうして?光賀は考えながら、乱れた呼吸を整え始めた。
「何だ今の攻撃は……」
「教えるわけねーだろバーカ‼」
リリックはうつ伏せになった光賀に近付き、何度も何度も踏みつけた。
「ハッハー!死んどけクソガキ‼」
圧倒的優位に立ったリリックは、笑いながら光賀へ攻撃し続けた。だが。夕はこの光景を見て怒りに震えていた。
「止めろォォォォォォォォ‼」
夕は闇を自分の腕に纏い、手の先に大きな爪を作った。夕の叫びを聞き、振り返った。
「何だよそれ……そんな攻撃ありか!?」
リリックは夕の攻撃を防御しようとしたが、夕の攻撃はリリックの防御を貫いた。
「ガアッハッ‼」
闇の爪の一撃は、リリックの腹を深く傷つけた。
「くそ……ここまでやられるとは……」
流れる血を拭きながら、リリックは立ち上がった。
「この俺がここまで追いつめられるとは……」
「終わりだな、おっさん」
光賀が剣の先をリリックに向けてこう言った。夕も追撃の準備をしている。
「はっ、ガキに追い詰められるなんてな。こりゃちょっと、無茶しないとね」
リリックは雄たけびをもう一度上げ、再び風を纏った。
「今度こそ!お前らをぶっ殺す!」
「行くぞ夕!援護を頼む!」
その後、光賀は剣を構え、リリックに向かって飛びあがった。飛び上がった光賀を見て、リリックは槍を構えた。だが、夕はその隙を奪い、爪を伸ばしてリリックを掴み、動きを封じた。
「チッ」
「そのまま掴んでいてくれ!」
光賀は剣を構え、リリックの胸に突き刺した。この際、リリックが発している風に触れ、少し傷ついてしまった。
「この一撃はきついぜ。少しでも動いたらやばいと思う」
「ぐ……そんな攻撃……効く……もんかよ……」
リリックは光賀を吹き飛ばし、一緒に剣を体から抜いた。そして、傷ついた体で夕に近付き、攻撃をしようとしていた。
「止めを……刺して……や……」
ここでリリックの動きが止まり、ゆっくりと倒れた。夕は倒れたリリックに近付き、様子を調べた。
「気を失ったみたい」
「勝ったのか……」
光賀は息を吐き、その場に座り込んだ。夕は戦いが終わったのか、気が抜けて倒れた。
その頃、三刃と姫乃は慌てながら周囲を見渡していた。遠くにいるのだが、光賀と夕の魔力を感じていたのだ。
「慌てんな二人とも。そこで大人しくイチャイチャしてなさい」
「イチャイチャしてません!」
「冗談じゃ冗談。ヒッヒッヒ。慌てるのも無理はない、今激しい魔力を感じたからのう」
「だったらもっと早く……」
「わーっとるわい」
その後、梅子は宗次郎に車を止めろと言うと、三刃と姫乃を連れて近くのスーパーへ向かった。
「ばあちゃん!この状況分かってる!?」
「ああ」
「なのに何でスーパーに行くんだよ!?」
「いいから黙ってついて来なさい!」
梅子の気迫に押され、三刃は黙って梅子の後について行った。三刃と姫乃が連れてこられたのはスーパーの裏。スーパーの店主が梅子の姿を見て、歓喜の声を上げた。
「梅子さん!久しぶりですねぇ」
「緊急事態だ。結社の入口を開けてくれ」
結社の事が話題に出て、二人は驚いた。
「ヒッヒッヒ。この店の店主も昔は魔法使いでねぇ。今は引退して小さなスーパーをやっとるが、いざという時の為に結社への入口は残してあるんだよ」
「さ、入ってください!」
入口が開き、三刃と姫乃は行こうとした。だが、三刃は梅子の方を振り向き、こう言った。
「じゃあばあちゃん、行ってくるよ」
「ヒッヒッヒ。生きて帰ってきなさいね」
「分かった」
梅子の言葉を聞き、二人は結社へ向かって行った。