いざ修行へ
数日後、三刃の怪我は完治した。
「これでやっと修業が出来る……」
三刃は右手を動かしながら、横にいた梅子にこう言った。
「ばあちゃん。これで修行できるだろ?」
「そうだね。ひっひっひ。こん時を待っていたんだよ……」
梅子の笑みを見た姫乃は、少し恐怖を覚えていた。
数分後、三刃と姫乃は宗次郎がいる車の近くに来ていた。
「三刃とその子の修行は私達が見る」
「え?おばあちゃんが相手してくれるんじゃないんですか?」
翡翠がこう聞いた時、後ろから声が聞こえた。
「翡翠ちゃんの相手はわしがするよ」
後ろから声をかけてきたのは、梅子と同い年位の老婆だった。その姿を見て、三刃は驚いた。
「菊のばあちゃん!?どうしてここへ!?」
「あのバーさんに呼ばれたんじゃよ。こんな所で会うとはのう」
「呼んだのは私じゃがな」
菊は笑い始めた梅子に近付き、話を始めた。
「お互い孫には弱いのう」
「そうじゃの。だが、修行は甘くはしないがな」
「それはわしもじゃ」
そう言うと、二人は笑い始めた。そんな中、翡翠は菊にこう聞いた。
「もしかして、私達の修行相手って菊おばあちゃん?」
「その通り」
「大丈夫ですか?私達の修行、ちゃんとできます?」
「失礼な子じゃのう」
無礼なことを言われたと思った菊は、その場に龍の形をしたオーラを出した。その瞬間、三刃と姫乃は物凄い重圧感に襲われた。
「何これ!?」
「なーに。ちょっと龍を出しただけじゃ。お主らも鍛えればこの位は出来る」
「ホント!?」
目を輝かせながら凛子はこう言ったが、菊は慌てるなと言い、こう続けた。
「お主らの修行内容は中にある龍の力の解放と鍛錬。そうすれば今の倍以上は強くなれる」
その後、菊は3人についてこいと言い、この場から去って行った。
「じゃあ私らも行こうか」
「はい」
「ああ」
三刃と姫乃は同時にこう返事した。
数時間後、宗次郎は人里離れた山奥へ車を止めた。
「ここで修行するのか?」
「そうだよ。あんたらが行うのは鍛錬だけ。今から私らが迎えに来るまでここで生活すること!」
この言葉を聞き、三刃と姫乃は驚いた。
「こんな山の中で!?」
「というか、私と三刃君二人っきりでですか!?」
「当たり前だよ。今のあんたらに足りないのは体力と危機感。それさえ補えばどんな戦闘にも楽に進めるはずだ。そして嬢ちゃん」
「はい」
「あんたは龍の力を使えるらしいけど、それを使いこなすほどの体力はない。だから三刃と一緒にサバイバル生活をしな‼」
「ええ……でも……」
「何じゃ、恥じらいか。三刃と一緒に住むのが恥ずかしいかこのひよっこが‼」
梅子は茶化すように笑い始め。姫乃の肩を叩きながらこう言った。
「強くなりたければ恥じらいを捨てよ、ついでにプライドも捨てろ‼先に進むには何かを捨てていかなければならないことがある‼」
「いやでも……三刃君、ああ見えてスケベだし」
「そんなもんよー知っとる‼相場の奴も相当なスケベじゃった‼とにかく二人で過ごせ‼」
その後、梅子は戸惑う三刃と姫乃を車から蹴り落とし、そのまま宗次郎に去るように伝えた。
「……仕方ない。こうなったら力合わせて生きるぞ」
「しょうがないわね……だけど三刃君、これだけは言わせて」
「何だ?」
「変なことしたら承知しないから」
それに対し、三刃は分かったと返事をし、先に森の中へ進んでいった。その後を追うように、姫乃は走って行った。
その頃、翡翠達は風原家へ来ていた。翡翠は幼い時というか、まだ梅子と共に暮らしていた時、何回か風原家へ来ていた。だが、三刃と二人暮らしするようになってからは一度も来ていなかった。
「久しぶりに来たけど、やっぱ大きいね~」
「大きいってレベルじゃないよ」
「これ豪邸……」
目の前の豪邸、そして自分達に頭を下げる召使を見て、凛子と凛音は恐る恐るこう言った。
家に入った後、3人は菊と共に廊下の奥へ向かった。扉を開けた先は、洞窟のような場所だった。
「こんな所があったなんて……」
「普段は出入り禁止にしてあるからね。この先があんたらの修行場だよ」
数分後、洞窟の出口を抜け、3人の目の前に大きな滝と、ボロボロの畳がある場所へ着いた。
「あんたらは今からこのぼろ畳の上で座禅を組んでもらう」
「どの位やるの?」
「龍と会えるまでだよ」
笑いながら菊はこう答えた。3人は言われるまま、そのぼろ畳の上で座禅を組み始めた。一体どんな修行何だろう?そう思いながら、翡翠は座禅をしていた。
三刃と姫乃が山の中へ入り、数分が経過した。
「くそっ、草が絡まって先へ行けない……」
「三刃君助けて、沼にはまって動けない」
三刃は姫乃の体を抱き上げ、沼から出したが、その反動で三刃は後ろへ倒れてしまった。
「ちょっと~、何やってるの?」
「草踏んでずっこけたんだよ。足元が悪いからさ……」
何とか立ち上がり、先へ進み始めた。
その後、二人は何とか休める場所を見つけ、腰を下ろした。
「あー……何だこの山?整備されてねーじゃん」
「喉が渇いたわね……三刃君。梅子さんから何か貰わなかった?」
「全然。貰うどころかスマホも荷物もばあちゃんに取られたじゃん」
「……完全にサバイバル生活ね……」
姫乃が不安に思ったその時、草陰から音が聞こえた。二人はすぐに魔法を使えるように構えを取り、音の主が来るのを待った。そして、巨大で凶暴な猪が、二人にめがけて突進してきた。それも、群れで。
「嘘だろ……こんなに猪がいるのかよ‼ガァッ‼」
猪と激突し、三刃は倒れてしまった。姫乃は三刃を助けようとしたのだが、姫乃も猪の突進に巻き込まれてしまった。
猪が去り、攻撃を受けて傷ついた二人は何とか立ち上がり、周囲を見回した。
「僕、ばあちゃんが伝えたかったことが分かった気がする」
「ええ。私も」
二人とも、この修行の意味を察知した。生きたければ強くなれ。そうすれば自然と力は身に着くだろう、そう言う意味だと。
座禅を始めて数時間が経過した。ずっと身動きできなかったため、凛子はうずうずしていた。
「あーもう‼何これー‼」
「修行……かな?」
「こんなんやって意味あるの?ねぇ翡翠……翡翠ちゃん?」
話しかけても反応しない翡翠を見て、凛子は変に思った。
「眠っちゃったのかな?」
「どうやら、龍と会えたようだね」
その時、菊が姿を現した。
「龍と会えたって……」
「龍と会うには精神統一し、己の中の世界に入らなければならないんだよ」
「えーっと……どういうこと?」
「簡単に言うと、頭空っぽにして落ち着けってこと。その状態でしばらくいれば龍は自然と出てくるはずさ」
菊は翡翠の様子を見て、何か不自然な事に気が付いた。
「それにしても、もう龍と会えたなんておかしいね。普通なら1日座禅しなければならないのに」
「1日!?そんなに長く!?」
「そう。まぁこの話はあとで聞いてみるよ。あんたらも早く龍に会いに行きなさい」
その後、凛子と凛音は急いで座禅を組み、精神統一できるように落ち着き始めた。
(ここはどこ?)
翡翠は気が付いたら、真っ黒な空間へ来ていた。それに、足元もなく、ただ自分の体が浮いているような感覚がしていた。
(私、夢を見てるのかな)
(これは夢ではない。ここはお前の精神世界だ)
翡翠の脳内に、誰かの声が聞こえた。周りを見渡したが、声の主らしき姿は見えなかった。
(あなた、誰なの?声だけ聞こえるんだけど)
(姿が見えるよう念じてみろ)
(念じてみろって……)
翡翠は言われた通り、私の目の前に姿を出してと念じた。すると、目の前に緑と白が混じった光が現れ、徐々に形となって行った。
(何これ……)
(我は風龍。やっと会えたな……我が主よ)
翡翠の目の前には、緑色の巨大な龍みたいな生物が、姿を現していた。