魔宝石職人の実力
ジャベは焦っていた。自身の魔力を込めた最高の一撃が湯出には通じず、更に湯出は実力を隠して戦っていたことが判明した。
今になってジャベは分かった。このオタク野郎は自分よりもさらに強いと言う事を。
「く……くそ!」
ジャベは後ろを向いて逃げ始めた。コラルと合流しようと思っただが、湯出は銃を装備し、ジャベの足に向かって発砲した。弾丸はジャベの右足に命中し、攻撃を受けたジャベは転倒した。
「ガアッ!」
「おいおい、逃げるなよ」
湯出はゆっくりと歩いて転倒したジャベに近付いて行った。近付いてくる湯出に恐怖を覚えたジャベは、近くにあった石を投げて攻撃をしたが、そんな攻撃は通じなかった。
「た……頼む!見逃してくれ‼」
「それは出来ないな」
湯出は斧を装備し、左手でジャベを立ち上がらせた。
「お前はもう少し痛められることを知った方がいい」
「ヒィッ‼」
斧の強烈な攻撃がジャベに命中した。この攻撃で吹き飛んだジャベは、遠くの崖に激突した。激突の際、ジャベの口から血が出てきた。
「がぁっ……あぁぁっ……」
激突で骨が何本か折れた。背中が痛い。足の傷もさらに深くなった。降りようにも、崖の所に吹き飛ばされたせいでどうしようもできない。魔力を使って降りようにも、動くたびに体中に痛みが走る。
「嫌だ……こんな所で死にたくねぇよ……」
恐怖のあまり、ジャベは泣きながらこう言った。その時、湯出が魔力を使って空を飛び、ジャベの近くに降り立った。
「頼む……助けてくれ……」
「その言葉をテレビ局の人が言ったはずだ。それに対してお前はどうした?」
湯出はジャベを助ける気はない。そのことを察したジャベはさらに悲鳴を上げた。湯出はジャベを片手で宙に投げ、右手で装備している銃でジャベの足と腕を打ち抜いた。
「ギャアアアアアアアア‼」
「まだ終わってないぞ」
湯出は飛び上がり、落下するジャベの下に回り、強烈な斧の攻撃を浴びせた。その攻撃を喰らったジャベは、再び上に吹き飛び、近くの崖に激突した。
「あ……あぁ……」
強烈な猛攻を受け続け、ジャベは立つ体力さえ残っていなかった。だが、彼が倒れているのは輝海と剛三の死体の近く。
運が回って来たぜ。
ジャベはにやりと笑い、全身の残った力を振り絞り、剛三の死体に魔力を注ぎ始めた。
「お前……まさか……」
「その通りだ……魔法使いの死体なら……高度なモンスターを作れる!」
ジャベの魔力を注がれた剛三の死体は、徐々に肌が紫色に染まって来た。そして、まぶたが開き、剛三の死体はモンスターとなって蘇ってしまった。
「モンスターよ‼俺様が製造主だ、俺様の命令に従え!あのオタク野郎をぶっ殺せ‼」
モンスターは大きな叫び声をあげると、ジャベの体を掴み、飛んでくる湯出を見つめた。
「おい、離せ‼俺の言う事を聞け、俺はそんな事命令していないぞ‼」
捕まったジャベはこう叫んでいるが、モンスターはジャベの言う事を聞かず、そのまま彼を湯出に向けて投げた。
「うあああああああああああああああああああああああああああ‼」
「哀れな奴だ……」
湯出は大剣を装備し、飛んできたジャベを下の崖に向けて吹き飛ばした。そして、モンスターに接近し、大剣を振り下ろした。
「すみません……剛三さん……」
攻撃する際、湯出は小さくこう言った。だが、大剣による攻撃はモンスターに通じなかった。刃はモンスターに命中していたのだが、皮膚が固く、斬れなかったのだ。
「……だったら……」
湯出はアサルトライフルを装備し、一転に集中して弾丸を連射した。その攻撃により、固い皮膚は徐々にひび割れ、破裂した。
モンスターはダメージを受け、悲鳴を上げた。その隙を伺い、湯出は両手に剣を装備し、モンスターを切り刻んだ。バラバラになったモンスターの破片は、地面に落ちると塵となって消えた。
「終わったな……」
輝海が立ち上がり、湯出にこう言った。
「輝海さん、少し休んでてください。俺は三刃君の援護に行ってきますので」
「いや、これは俺がまいた種だ。俺が何とかする」
「……頑固な人ですね。気持ちは分かりますが、今は休んでください」
湯出は輝海を座らせ、足元の崖を覗き込んだ。
「まだ動くのかよ」
ジャベが何かを企んでいると湯出は察し、再び飛び上がって崖の下に向かった。
「はぁ……はぁ……こんな所で死んでたまるか……」
ジャベは這いながら崖から出ようとしていた。動くたびに痛みが走るのは変わらないが、その痛みに彼は慣れていた。何とか上に出て、休んだ後あのオタク野郎をぶっ殺す。そう心の中でジャベは思っていたのだが、その前に湯出の魔力を察知した。
「何をするつもりだ?」
湯出は這って移動するジャベの足を狙い、弾丸を放った。足に命中したのを確認した後、次に湯出は両腕を狙って撃った。
「がああああああああああああああああああああああああああッ‼」
「変な真似はさせないぞ」
湯出はジャベの体から魔宝石を取り出し、破壊した。
「そんな……俺の武器が……」
「言っただろ、俺は魔宝石職人。魔宝石の作り方はもちろん、壊し方も知っている」
最後の手段が消滅した。ジャベは己の敗北を察し、湯出にこう言った。
「頼む……殺さないでくれ……」
「ああ。殺しはしないよ。でも……」
湯出は魔宝石から魔力封印剤を取り出し、ジャバに打ち込んだ。
「いろいろと話をしてもらおう。その後どうなるか分からないけど」
湯出は気を失ったジャベを担ぎ、空を飛んで崖から離れた。
一方、三刃と戦っているコラルは、ジャベが負けたことを察知していた。
「あららぁ。ジャベの奴負けちゃったよ」
「よそ見をするな‼」
三刃が風丸を振り下ろし、攻撃を仕掛けたが、コラルは攻撃を難なくかわした。
「どうやら向こうに凄腕がいるようだね……状況はこちらが不利……か」
コラルは三刃の攻撃をかわしながら、今後の事を考え始めた。
ジャベが敗北した以上、この戦いが長引くと援護が来る可能性がある。その前に三刃を倒したとしても、ジャベを倒した湯出がコラルに挑んでくるだろう。それに、コラルは湯出の戦法を知らない。知ったとしても、向こうはジャベとの戦いで魔力が消耗しきったわけではない。まだ力を残しているとコラルは考えている。
「こりゃ、一旦逃げた方がいいかもねぇ……」
「逃がさない‼」
三刃は風を操り、コラルの行く手を阻んだ。弾丸で風を打ち抜こうとしたが、弾丸は風によって切り刻まれてしまった。
「あらあら。結構な切れ味な事」
コラルは三刃の方を振り向き、銃口を向けた。
「坊ちゃん、大人をからかっちゃあいけないよ」
「僕を子ども扱いしない方がいいぞ」
「じゃあ大人として認識していいね。問答無用で打ち抜いちゃうよ?」
コラルはこう言うと、3発の銃弾を三刃に向けて発射した。三刃は飛んでくる弾丸を落とすため、自分の目の前に風を発生させた。その風の中に刃があるせいか、弾丸は再び切り刻まれてしまった。
「そんな攻撃、通じないぞ」
三刃はこう言うと、風を止めた。その隙を狙い、コラルをもう一発弾丸を発射した。
「まだ弾が残ってたのか」
再び風を発生させたが、今発射された弾丸は勢いがよく、三刃が風を発生させる前に三刃の右肩を貫いた。
「グゥゥッ‼」
右肩に激痛が走り、三刃は手にしていた風丸を落としてしまった。
「ほーらほら、今度はこっちの番だよ」
コラルが銃口を三刃に向け、こう言った。だが、三刃の後ろにいる湯出がコラルに向けて、ライフルを構えていた。
「あちゃー……援軍が来たようだね……」
「これ以上三刃君に攻撃してみろ、お前を打ち抜くぞ!」
湯出はライフルを構え、コラルにこう叫んだ。