それぞれの焦り
ザグボ達の事件から、1ヶ月が経過した。その間、三刃と姫乃の容態は回復し、何とか日常生活とモンスター退治が行えるようにはなった。だが、まだ完全には治っていないらしく、三刃は時々体の一部が痛むというし、姫乃も少し動いただけでばててしまう。
結社の方は、トランプカードの扱いに困っていた。毎日結社の幹部が集まり、会議を行っていたのだ。
「あれから一ヶ月、硲輝海から連絡はあったか?」
幹部の一人が焦り気味に、こう言った。
「彼と仲の良い役員に聞いたところ、硲輝海はトランプカードのアジト近くのホテルにいると言う事です」
「近くにいるのなら、何故行動を起こさない‼」
「一人ではトランプカードを潰せない。という事でしょう」
この言葉の後、幹部達は黙ってしまった。
彼らは輝海の能力を信頼している。多くの困難な事件の解決を、輝海に任せるほどだ。そんな輝海が、苦戦をしている。改めて彼らは、トランプカードがどれだけ厄介な存在か知った。
「応援を出すか?」
「会議の後で聞いてみます」
「分かった」
しばらくし、会議は終了した。
三刃は山の中で、モンスターと戦っていた。相手は何度も相手にしてきた鳥類型のモンスター。数は5匹。
「せりゃぁっ‼」
三刃は飛び上がり、近くを飛んでいたモンスターに剣を突き刺した。その後、モンスターを蹴って別のモンスターに向かって飛びあがり、同じように突き刺して攻撃した。だが、この一撃でモンスターは倒れなかった。三刃は突き刺したモンスターをクッションにし、地面に降りた。
三刃の襲撃を知った別のモンスターが、奇声を上げて三刃に襲い掛かった。鋭い爪や牙が三刃を襲ったが、その攻撃はかわされていった。
「終わりにしてやる」
三刃は魔力を剣に込め、振り下ろして風の刃を発生させた。風の刃に斬られたモンスターはバラバラになって消滅した。
戦闘後、三刃はあたりを見回し、他にモンスターがいないか確認した。
「……いないようだな」
モンスターを全滅させ、三刃はスマホで連絡を始めた。
「姫乃、五目山のモンスターの討伐、終わったからな」
『お疲れさま。結社に戻ってきて』
「あいよっと」
スマホの通話を切り、三刃は結社に戻って行った。
結社に着き、三刃はモンスター討伐を報告しようとカウンターへ向かった。
「モンスターの討伐終わりました」
「お疲れ様です」
報酬をもらい、三刃は帰ろうとしたのだが、周りを見渡し、いつもより結社の中があわただしい事を察した。
「何かあったんですか?」
「いえ。別に何も」
カウンターの人は、笑ってこう言った。それを見て、三刃は絶対に何かあったと察した。
その後、三刃は裏方の仕事をしている姫乃の元へ向かった。姫乃は今、モンスター討伐とは別の仕事をしている。体調が治るまで、裏方の仕事をするようにと湯出から言われているのだ。
「姫乃ー、いるかー?」
三刃はモニター室へ向かい、姫乃の姿を探した。
「どうかしたの?」
モニターの前に座っていた姫乃は、三刃の声に反応し立ち上がった。
「なんかさ、最近結社の中あわただしくねーか?」
「そうねぇ。私もこの事を聞いたんだけど、曖昧な返事されちゃって……」
「輝海さんも仕事でいないし、どうなってんだか」
しばらく考え、三刃はこう言った。
「もしかして、トランプカードの事か?」
「……そうかもね。私達がこの前相手にしたのは、ただの下っ端だし……」
「また事件でも犯したのか?」
もう一度二人で考えたが、答えは出てこなかった。
「分かんねーな」
「ええ。ま、後で分かるでしょ」
「だな。じゃ、僕は帰るから」
「また明日、学校で」
その後、三刃は家へ帰って行った。
輝海はホテルの一室で、窓から見えるビルを眺めていた。
一見普通のビルに見えるのだが、この中にトランプカードのアジトがある。この前ザグボに自白剤を使った時、ここにアジトがあると言ったからだ。
潜入して一気に叩きたいと輝美は思っているのだが、ビルの外から恐ろしい魔力が伝わってくる。一人で入ったら、確実に殺されるだろうと輝美は思ってるのだ。
「一人で行くって言ったの……取り消した方がよかったな……」
窓を見て、輝海は小さく呟いた。その時、スマホが鳴り響いた。相手は湯出だった。
「どうした?」
『輝海さん、今会議で応援を呼ぶかどうか議題に上がってるんですよ』
「ナイスタイミングだ。丁度ほしい所だった」
『そうですか。じゃあ、指名したい人はいますか?』
「そうだな……じゃあ……」
その後、輝海は応援に来てほしい魔法使いの名前を湯出に伝えた。その中には、三刃達の名前は入っていなかった。
『分かりました。このメンバーを集めるように上に伝えます』
「頼む。それと、この事を三刃君達は知ってるか?」
『いえ。まだ知らないです。ですが、最近結社の中の異変に察しているみたいです』
「いいか、たとえこの事を知られても、三刃君達には関わるなと伝えてくれ。この事件は他のものとは違う、かなり危険な仕事になりそうだからな」
『分かってます』
「そうか。じゃあ頼んだ」
会話を終え、輝海はシャワーを浴びにシャワールームへ向かった。
翌日、学校を終え、結社にやって来た三刃と光賀、夕はカウンターに来ていた。その時、見知らぬ魔法使い達が集まって行動しているのを目撃した。
「あの人達は誰だろう?」
「いや、俺も知らんな」
「僕もだ。別の地方の人達かな……」
3人で会話を交わした後、三刃はカウンターの人に先ほどの魔法使いの事を尋ねた。
「すみません。あの人達は誰なんですか?」
「さぁ、この事について私達の方に連絡は入っていないんですよ。異動で魔法使いが入ってくるなんて一言も聞いていませんし」
「本当に何かあったんでしょうかね……」
「さぁ?とりあえず、モンスター発生地域をお知らせしますね」
その後、三刃達はカウンターから発生地を聞き、そこへ向かった。
三刃達が見知らぬ魔法使いは4人いた。その4人は結社のバスに乗り込み、会話を始めた。
「ったく、輝海の野郎。一人ででかい仕事を背負いやがって」
こう言ったのは火の魔法使い、赤山剛三。彼が持っている武器は大剣である。
「だから私達を呼んだんだろう」
紅茶を飲みながら答えたのは、想水忍。彼は水の魔法使い。武器は装備をしていない。本人曰く、美しい水があれば攻撃も防御もできるとのこと。
「こんな時に紅茶を飲んでる場合ですか?忍さんよー」
欠伸と共に、忍にこう言ったのは、来丸閃助。電気の魔法を使い、高速移動で敵をかく乱、そして攻撃するのが彼のスタイル。彼は砥石でナイフを研ぎながら欠伸をした。
「剛三、忍、話をする暇があれば閃助のように戦いの準備をしておけ」
と、深呼吸をしながら緑池砕がこう言った。彼は三刃と翡翠と同じ風の魔法使いだが、彼も忍と同じように武器は持たない。
「わーったよ。あんたの一撃は恐ろしいから、喰らいたくねーな」
剛三はそう言い、武器の手入れを始めた。しばらくし、バスの運転手が到着した。
「やっと来たか」
「その分念入りに準備ができた」
剛三と砕の言葉の後、運転手はこう告げた。
「皆様。これより輝海様の元へ送ります。その前に、わたくしから一言……生きて帰ってきてください」
運転手の言葉の後、4人はこう言った。
「俺達、Dブロックの魔法使いがそんな簡単にくたばるかよ」
「くたばるのはトランプカードの方だ」
「ま、行ってすぐに帰ってきますよっと」
「無事に帰ってくる。安心しろ」
4人の言葉を受け、運転手はホッとした表情を作った。
「では、これより出発をします。シートベルトのご着用をお願いします」
その後、4人を乗せたバスは輝海の元へ向かって行った。