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戦いの後

 薄暗い部屋の中、部屋の中央に置かれた椅子には結社の役員と束縛されているザグボが座っている。


 ザグボの様子は、三刃と戦っていた時と違っていた。目は天井を向いていて、口からは少量のよだれが出ている。そして、ザグボは小さなうめき声をあげていた。


 部屋の外にいるもう一人の役員が、作成した資料をまとめ、部屋から出て行った。それを見た部屋の中にいる役員が、注射器を取り出し、ザグボの腕に刺した。


「つっ……なっ……」


 我に戻ったザグボは、周囲を見回し、役員と部屋の中を確認した。


「どこだここは?」


「お前達が嫌いな魔法結社の中さ」


 返事を聞き、ザグボは椅子から立ち上がろうとしたが、縄できつく縛られており、立ち上がることは出来なかった。さらに、魔力を封じ込める薬を飲まされたのか、魔力を発生することもできない。


「……俺に何をした?」


「魔力を封じ込めた」


「他に何をした!?」


「結社特製の自白剤でトランプカードの事を聞きだしていた」


 役員は鼻で笑いながら答えた。ザグボは舌打ちをし、役員に向かって言葉を投げた。


「結社のやり方がこんなのでいいのか?特製の自白剤で犯罪者から話を聞きだすのか?」


「手段を選ばないのさ」


「テメーら、本当に正義の味方か?」


「黙れテロリスト。貴様らよりはまともな仕事をしている」


「……おい。俺の仲間はどうした?」


「お前と同じように自白剤を打って話を聞いているだろう。ま、力山郷士は後で処分するだろう」


「あとの俺らはどうなる?」


「力山と同じように処分されるだろうな」


 会話を終え、ザグボは溜息を吐き、下を向いた。




 その頃、三刃の家では服部達が集まっていた。


「すまん、大人数で押しかけてしまって」


 服部が申し訳なさそうに頭を下げた。


「いいえ、大丈夫ですよ。それに、頭を下げるのは私の方です。お兄ちゃんのお見舞いに来てくれてありがとう」


 翡翠はお盆の上に載っているお茶を、服部達に渡した。


 戦いの後、大きな傷を負った三刃は、しばらく家で休むことになっている。その間、学校へ行くこともできないし、モンスター退治もいけないのだ。動きが出来ないほど、三刃は大きなダメージを追ったのだ。


「三刃君、大丈夫なの?」


「あいつの事だ。エロ本を読めば怪我なんて回復するだろう」


 光賀のこの言葉を聞き、翡翠は彼を睨んだ。三刃の部屋からは、「光賀、早く本を持ってこい!翡翠に取られる前に!」と、声が聞こえた。光賀が返事をする前に、翡翠が本を奪い取り、風で本を斬り捨てた。


「ああ‼あれ買うの大変だったんだぞ‼」


「知りませんよそんな事。それより、姫乃さんの所へは行きました?」


「この後で行く。俺の方から凛音の方に連絡をした」


 海人がスマホを見ると、凛子からの返事が大量に来ていた。海人は慌てて中身を見た。


「うわ……凛子からめっちゃ連絡来てる……いつ来るの?早くお見舞いに来て……向こうはこっちが来るのを待ってるな」


「少し話したら姫乃さんの所に行こう」


 夕がこう言うと、キッチンから翡翠の声が聞こえた。


「私も行きます。お兄ちゃんは怪我してるけど、魔法は使えると思うので」


「決まったな。よし、三刃に挨拶して姫乃の所に行くか」


 その後、翡翠達は三刃の部屋に入った。三刃は部屋のベッドの上で、横になっていた。


「気分はどうだ?」


 光賀がこう聞くと、三刃は全身の痛みをこらえながら、こう答えた。


「体が痛い。傷口はふさがってるけど、まだ痛いんだ」


「傷口の痛みはいつか消える。ま、普通に話ができるなら回復が近いな」


「だといいんだけど」


 会話を終えた後、服部達は姫乃のお見舞いに行くといい、帰って行った。翡翠も服部達と一緒に姫乃の家に向かった。


 一人になった三刃は、右腕を上げ、風を発生させた。少し風を操った後、三刃は風を消した。


「少しでも、強くならないと」




 翡翠を加えた一行は、姫乃の家に来ていた。玄関には、凛子と凛音が立っていた。


「何だ、出迎えてくれたのか」


 光賀が笑顔で手を振ったが、二人は光賀を無視して翡翠に近付いた。


「翡翠ちゃんも来てくれたんだ!」


「お姉ちゃん、喜ぶと思う」


「おいおーい、無視しないでくれよ。ま、それよりも、姫乃の容態はどうだ?」


 光賀がこう言った後、二人は黙ってしまった。


「もしかして、三刃君よりもひどいんじゃあ……」


「巫女の力を使って、ひどく疲れたかもな」


 夕と服部が小さな声で会話をした。その後、翡翠達は姫乃の部屋に向かった。


「お姉ちゃん。入るよー」


 凛子がこう言った後、部屋から姫乃の慌ててる声が聞こえた。


「姫乃、無事なのか?」


「無事と言えば無事。何だけど……」


 凛子は溜息を吐いてこう言った。そして、部屋を開けた。部屋の中は綺麗だったが、ゴミ箱の中にはパンの袋やカップめんの容器が大量に捨ててあった。で、姫乃は何かを頬張っているのか、頬が膨らんでいた。


「むぐうむぐむぐむぐむ~‼」


 何かを言っているが、口の中に物が入っているせいで、うまく聞き取れない。結局、姫乃は慌てて口の中の物を噛んで、飲み込んだ。


「あー、ごめん。みっともない所を見せちゃって」


 姫乃は照れながらこう言っているが、机の上に置いてあるドーナツを手にして食べ始めた。


「お姉ちゃん、あれから物凄い食べるようになっちゃってね」


「まぁ、あれだけ魔力を消費したんだもん。物凄くお腹が空いてるの」


「確かに魔力の元はカロリーだが、食いすぎじゃねーのか?」


 姫乃はドーナツを飲み込んで、光賀の言葉を返した。


「巫女は普通の魔法使いと違って、魔力の消費が半端ないの。その分、大量に食べないと動けないのよ」


「巫女でも弱点はあるんだ」


 食べ続ける姫乃を見て、夕は呟いた。




 その頃、魔法結社ではザグボの取り調べが続いていた。


「おいおい、自白剤で話は聞いただろ?」


「まだ全部じゃないようだ」


 取り調べの役員が、注射器を手にしてザグボに使づいた。


「さぁ、続けようか」


 注射器の針を睨み、ザグボは冷や汗をかいた。その時だった。サイレンの音と共に、声が響いた。


『侵入者あり!侵入者あり!Aの9ブロック付近の魔法使いは、全員戦闘隊形を組み、侵入者を捕らえよ‼』


「チッ、侵入者か!やるしかねぇな!」


 取り調べの役員は、新たに強力な拘束魔法をザグボに使い、外に出て行った。


 数分後、灰色のローブを被った3人の男が取調室に入って来た。3人のうちの1人がザグボを見て、こう言った。


「情けない姿だな」


「うるせー」


 短い会話の後、男の一人がザグボにかけてあった拘束魔法を解除した。


「ふぃー、助かったぜ。で、ザラザとザボッサは?」


「ここだ」


 3人組の後ろには、気を失っているザラザとザボッサがいた。二人とも、上半身は裸で、生々しい傷ができていた。


「結社の連中、酷い事をしやがる……」


 二人の傷を見て、ザグボは呟いた。


 その後、男たちに連れられ、ザグボは取調室から脱出した。




 翌日。現場となったAの9ブロックにて。


「こりゃ……ひでぇ」


 現場に来ていた輝海は、目の前の惨状を見て呟いた。


 9ブロックには結社の魔法使いの死体が無数に倒れていた。その中には、手足を失ったり、斬られた腹から臓器がはみ出ている死体もあった。他にも、頭のない死体もあり、真っ二つに斬られている死体もあった。


「昨日の侵入者か?」


 輝海の質問に対し、近くの役員が答えた。


「はい。どうやら、トランプカードの魔法使いだと思われます。彼らは、この前の事件で捕らえたザグボ、ザラザ、ザボッサを解放した後、どこかへ向かいました」


「捕まった仲間を助けに来たのか」


「そのようですね」


 輝海は少し考えた後、役員にこう言った。


「俺があいつらの跡を追う。お前ら役員は全員カバーをしてくれ」


「一人でいいんですか?」


「お前らレベルの魔法使いが束になっても敵わないってことが分かっただろ。無駄に命を散らすんじゃねー」


 そう言って、輝海は去ろうとしたが、ある事を思い出してもう一度こう言った。


「この事、三刃君達には伝えるなよ。まだ傷も治っていないし、無茶もすると思うから」




 三刃達が住む町から離れた岩場。ザグボ達はそこにいた。


「いやー、まさかキング様が助けに来てくれるなんてなー。助かりましたよ~」


 ザグボは笑いながらこう言ったが、キングと部下二人は笑いを見せなかった。


「どうかしましたか?」


 ザラザがこう聞くと、キングはゆっくりと口を開いた。


「ジョーカー様が言っていた。この事件の後始末は、私が決めろと」


「後始末?」


 ザグボには、キングの言っていることが分からなかった。だが、キングが日本刀を装備した瞬間、ようやく意味を理解した。


「騒動の黒幕、ザチョルはすでに始末した。次は、貴様らだ」


「あぁん?殺されるのはお前だよ侍野郎が‼」


 ザボッサがキングに襲い掛かったが、それより先にキングの居合斬りがザボッサを襲った。キングが刀を鞘に納めた直後、ザボッサの上半身はゆっくりと下にずれ落ちた。


「ひえっ!」


「マジで俺らを殺す気だ‼」


 ザボッサの死体を見て、ザグボとザラザは逃げようとしたが、キングの部下が魔力を解放した。解放された魔力はビームのような形状になり、逃げる二人を包み込んだ。ビームが消えたが、そこに逃げた二人の姿はいなかった。


「始末は終えた。戻ろう」


 キングは部下にそう言うと、アジトへ戻って行った。

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