三刃の危機
海中に出現したモンスターを討伐するため、三刃達は海に来ていた。三刃が海に潜り、モンスターと戦うも、慣れない海中での戦いで苦戦を強いられた。しかも、三刃と船を結ぶロープが壊れてしまった。三刃の危機を察した姫乃は、予備のスーツとボンベを装備し、一人で三刃の救出へ向かった。
巨大タコと戦っている三刃は、何とか風を出そうと魔力を練っていた。敵に捕まっているせいで慌てており、集中して魔力を練ることは出来なかった。
「クソッ‼このままじゃあ……」
その時、足元が急に冷たくなった。足を動かすと、水のような感触がした。三刃は察した。スーツのどこかが破損したのだと。まずいと思った三刃は焦りだした。その時、何かがこっちに近付いてきた。同じダイバースーツを着ていて、手には炎のようなものが動いていた。三刃は耳についていた小型マイクを使い、上と連絡を取った。
「翡翠、光賀‼誰でもいいから連絡してくれ‼」
『どうしたのお兄ちゃん!?』
マイクから翡翠の声が聞こえた。上と連絡が取れ、三刃はほっとしたのだが、すぐに翡翠にこう聞いた。
「誰が来たんだ」
『姫乃さんよ。お兄ちゃんを助けるって言って海に潜って行ったの』
「あいつは火属性の魔法だろ?海の中で戦えるのか?」
『戦えるから潜ったんじゃない?とにかく‼お兄ちゃんは今危ない状態だから、姫乃さんを頼ってね』
「ああ……」
三刃は姫乃の助けを待つことにした。姫乃は巨大タコに近付き、周囲を泳ぎ始めた。巨大タコは姫乃の存在に気付き、三刃を捕らえている触手の一部を離し、姫乃を追い始めた。一部の触手が離れたことにより、三刃は動きやすくなった。この隙に、三刃は急いで脱出した。
「翡翠、これって姫乃の方にも連絡ってできるか?」
『ちょっと待って……できるみたい。イヤホンの近くにボタンがあるから、それで姫乃さんの方と連絡できるみたい』
「分かった」
三刃はイヤホンのボタンを押し、姫乃と連絡を始めた。
「姫乃、今触手から抜け出したぞ」
『分かったわ。態勢を整えてあいつに攻撃して‼』
「ああ」
三刃は態勢を整え、魔力を練り始めた。姫乃を追っているタコを目視しつつ、両手に風を発生させた。海の中にいるせいか、ゴボゴボと音が出ているのが聞こえてくる。しばらくし、その音が激しくなっていった。これならタコを斬れる。そう察した三刃は風を巨大タコに向けて投げた。タコは音に反応し、海上へ動き出そうとしたが、三刃の攻撃の方が早かった。風はタコの触手を斬った。その時、姫乃はタコに接近し、炎を発した。
「水の中でも炎って使えるのかよ」
『魔法で作られた炎は特別なのよ』
勝利を確信した二人だったが、炎が止んだ後、触手が姫乃の方に向かって飛んできた。油断していた姫乃は捕まってしまった。
『キャア‼』
「姫乃‼」
三刃は急いで姫乃の方へ泳いで向かい、触手を断ち切ろうとした。だが、先ほどよりも触手の移動スピードが増しており、狙いが定まらない。
「待ってろよ、僕が触手を切断するからな‼」
三刃は残りの魔力を練り始めが、浸水が腰まで来ていた。次の攻撃でタコを倒さなければ、二人とも死んでしまう。三刃は落ち着いて周囲を見回した。よく見ると、触手の方はものすごいスピードで動いているが、本体のタコはあまり動いていなかった。本体を攻撃すれば、触手は止まる。こう考えた三刃はタコの方に狙いを定めた。
「喰らえっ‼」
三刃はもう一度、風をタコに向けて投げた。猛スピードで飛んでいく風は、タコを真っ二つに切り裂いた。
「三刃君……」
触手から解放された姫乃は、三刃の方を見た。三刃も姫乃の視線に気づき、ピースサインをした。その直後、三刃は慌てて姫乃に連絡をした。
『姫乃、助けてくれ‼浸水が進んでいるんだ‼それに……何か……苦しい……』
「三刃君?三刃君‼」
姫乃は急いで三刃の元へ向かった。動かない三刃を抱え、海面に上がり、三刃のダイバースーツのマスクを取った。
「三刃君‼返事して‼三刃君、三刃君‼」
姫乃は三刃に声をかけたり、頬を叩いて反応を見たが、うんともすんともいわなかった。慌てて周囲を見回すと、近くに岩場があった。姫乃は三刃を抱き寄せながら、そこへ向かった。岩場に上がり、姫乃はもう一度声をかけたり、頬を叩いたりした。しかし、三刃の反応はなかった。この時、姫乃は一瞬思った。人工呼吸するしかないと。これって、ファーストキスになるのかな?と、姫乃は内心思っていたが、三刃の命がかかっている以上、するしかないと思い、人工呼吸を始めた。三刃の意識が戻るまで、何度も何度も息を吹きかけ、腹を押し続けた。数分後、三刃は席を出した。
「ゲホッ!ガハッ‼」
「三刃君、気付いたのね‼」
「え……あれ?ここどこ?あのタコはどうしたんだ」
「三刃君が倒したわよ。おかげで助かったわ」
三刃が起きたせいか、姫乃の目からは少し涙が出てきた。心配していた姫乃の事を知らず、三刃はこう言った。
「どうして泣いてるんだ?」
「忘れたの?あの後溺れて死にかけたのよ‼」
「……そうか、お前が助けてくれたんだ。ありがとう」
と、三刃は姫乃にこう言った。その後、二人は迎えが来るまで、待つことにした。三刃はそのまま横になっており、姫乃はその隣で横になっていた。
「なーんか疲れたなー」
「そうね、海での戦いって滅多にしないから」
「こういう事もあるだろうし、次はもう少し考えながら戦わないとな」
「私ももう少し魔力を使えるように、努力しよっと」
その時、三刃は夜空で何かを見つけた。
「あ、流れ星」
「嘘?どこどこ?」
「また流れた。あそこ」
「うわ~、初めて見た」
二人の頬がぶつかった。この瞬間、姫乃は人工呼吸の事を思い出し、少し赤くなった。
「何で赤くなってんだ?」
「ちょっと、顔近づけないで」
「はぁ?どうしてだよ?鼻毛でも出てるのか?」
「出てない。出てないんだけど……」
「なんか変だぞお前」
この時、急にランプが二人を照らした。
「見つけたー‼」
「お兄ちゃん、姫乃さん、大丈夫!?」
「無事でよかった……」
二人を見つけた大型船が、近くに来ていた。二人が船に乗った後、船は港へ戻って行った。
次の日の朝。三刃は朝の用事を済ませた後、輝海と湯出の部屋に来ていた。
「輝海さん、湯出さん。入ります」
「あ……ああ……入ってくれ……」
部屋に入ると、ベッドでうめき声をあげている輝海と湯出の姿目に入った。
「まだ二日酔いが治らないんですか?」
「あ……ああ……」
「調子乗って……飲まなきゃよかった」
「はぁ……とりあえず。報告します、昨日の夜にタコ型の巨大モンスターを討伐しました」
「了解……今日は一日休んで、明日帰るね」
「もう一日……海で遊んでもいいよ……」
「俺達は寝てる」
「分かりました。では失礼します」
そう言って、三刃は部屋から出て行った。
その後、三刃は海の家で食事をしていた。そんな中、光賀と夕がやって来た。
「よっ、三刃。お前は泳がないのか?」
「あとで泳ぐ。昨日力を使いまくったせいか、腹が減ってるんだ」
「海での戦いはきつかった?」
「ああ。自由に動けないし、腕を上手く振り下ろせないからいつもより風は操れないし、それとスーツが破れて浸水してた」
「危なかったね……」
「姫乃が来なかったら死んでたよ。なんかあいつに礼をしないとな」
三刃はこう言うと、焼きそばを食べ始めた。
食事をし、海で遊んだ後、三刃は近くの売店に来ていた。棚に並んでいた貝殻型のキーホルダーを見つけ、手に取った。その時、三刃は後ろから攻撃を受けた。
「いつっ‼」
「こんな所で何やってんのよ‼」
三刃を蹴ったのは凛子だった。その横には凛音もいる。
「何すんだ!?」
「お姉ちゃんを困らせた罰よ‼もう一発蹴ってやる‼」
「凛子ちゃん、蹴るんじゃなくて真っ二つにしちゃいましょう」
「こんな所で物騒なことを言うな‼」
三刃はツッコミを入れた後、凛子にこう聞いた。
「そうだ、お前らなら姫乃の好み知ってるよな?」
「知ってるけど、教えてあーげない」
腕組をし、フンと鼻を鳴らした凛子だったが、三刃は財布から千円を取り出し、こう言った。
「好きなの買っていいぞ」
「……もう一声」
「……仕方ない」
三刃はもう一枚千円札を出し、凛子に渡した。
「お姉ちゃんも普通の女の子よ。可愛い物が好き」
「こういうのとか?」
と、三刃は桃色の貝殻のネックレスを手に取り、こう言った。それを見て、凛子は感心した。
「ほー、あんたにしてはいい物選ぶじゃない」
「僕だって女の子の好みは大体わかるつもりだ。これにしよっと」
三刃は貝殻のネックレスを持ち、レジへ向かった。
買い物後、三刃は宿泊先のホテルへ戻ろうとした。だが、途中で人だかりを見つけた。気になった三刃はそこに近付いた。人だかりの中心には、服部と海人が砂でかなりリアリティの高い城を作っていた。
「よっ、砂で城を作ってるのか?」
「三刃か。見ろ、私と海人で作った傑作だ」
「かなり時間がかかったんだ。どうだ、三刃の兄ちゃん?」
「名作だなこりゃ。インスタ映えするな」
「いんすた?私はそんなのをしないぞ」
「とりあえず、写真かなんかで撮っとこうよ」
「何故だ?残るから大丈夫だろ」
海人がこう言った直後、近くの男性が叫んだ。
「でっかい波が来るぞー‼」
その直後、大きな波が服部と海人が作った城を崩した。
「……傑作が……」
「……自然には敵わないか……」
「こうなるから記念に撮っておこうと言ったんだ」
落ち込む二人と共に、三刃はホテルへ向かった。
「そう言えば、服部は姫乃と一緒の部屋だったんだよな。今姫乃っているか?」
「ずっと部屋にいるな。昨日の戦いの疲れが残ってるから休んでるんだろう」
「そうか……昨日あいつに無茶させたからな……」
「三刃の兄ちゃん、姫乃の姉ちゃんに何か渡したいのか?」
海人は三刃が何かを持っていることを察し、こう聞いた。
「ああ。昨日の礼でプレゼントを買って来たんだ」
「ほー。そうかそうか。じゃあ今から三刃が行くって連絡をしておく」
服部はスマホを取り出し、姫乃に連絡をした。その時、エレベーターから翡翠がやって来た。
「あれ翡翠?お前どこにいたんだよ」
「輝海さんと湯出さんの部屋にいたの。あの二人の二日酔いを直すために、治療魔法を使ってたの」
「練習してたのか?」
「丁度いい実験台になったわ」
「実験台とかいうなよ。ちょっと怖いぞ」
「三刃、今姫乃は部屋にいるぞ」
服部がこう言うと、翡翠がジト目で三刃を見つめた。
「な……何だよその目?」
「何しに行くの?」
「プレゼントを渡すだけだよ。昨日助けてくれたお礼」
「ふーん。変な気起こさないでね」
「起こすかよ。そんなことしたらあの双子に殺されるからな。じゃ、行ってくる」
三刃はエレベーターに乗り、姫乃の部屋がある階まで向かった。部屋の前に立ち、ノックすると、姫乃の返事が聞こえた。三刃はドアノブを回し、部屋の中に入って行った。
「どうしたの三刃君?」
「昨日のお礼。プレゼント持ってきた」
「はは……そんなことしなくていいのに」
「お前がいなかったら僕は死んでた。今生きているのは、姫乃のおかげだ」
そう言うと、三刃はプレゼントが入ってる紙袋を姫乃に渡した。姫乃は紙袋を開け、貝殻のネックレスを取り出した。
「かわいい……」
一瞬見せた姫乃の女の子らしい顔を見て、三刃は少しドキッとした。
「ん?何意識してるの?」
「あー、姫乃も女の子らしい所があったんだなーって思って」
「何よそれ、酷くない?」
「いつも真面目な所しか見てないから」
「……確かにそうね」
「もし、僕とお前が付き合ったら意外な一面も見れたりするのか?」
「付き合うとか……」
姫乃は笑い飛ばそうとしたが、昨日の人工呼吸の事を思い出した。あの時は三刃を助けたい一心で何度もやった。姫乃は少し恥じらいながら、三刃にこう聞いた。
「ねぇ……人工呼吸って……キスのうちに入ると思う?」
「人工呼吸……」
三刃も昨日の事を思い出し、顔が赤くなった。
「いやーそのあの……えーっと……命がかかってるんだからノーカンじゃないのか?」
「そうよね!死ぬか生きるかだから、キスとか関係ないわよね‼」
「そうだそうだ‼」
二人は笑いながらこう言ったが、恥じらいを感じるせいか、段々と笑い声は小さくなった。
「……なんかごめん。僕、部屋に戻るから。ちゃんと休めよ」
「うん。プレゼントありがとうね」
その後、三刃は部屋から出て行った。一人になった姫乃はベッドの上で横になり、自分の唇を触った。
「そういえば……三刃君の唇、柔らかかったな……」
翌日。三刃達は海から帰ってきていた。
「やーっと着いたか」
光賀は背伸びをした後、執事が用意していたリムジンに向かった。
「じゃ、俺は帰って休む。またモンスター退治の時に合おうぜ」
「おー。ゆっくり休めよー」
「三刃も休んどけよ‼」
その後、光賀を乗せたリムジンは去って行った。夕も姫乃達も挨拶をして、帰って行った。
「皆も帰ったし、僕達も帰るか」
「うん」
三刃と姫乃は荷物を持ち、輝海と湯出の方を見た。
「じゃ、お疲れ様です」
「うん。気をつけて帰ってねー」
二人が去った後、輝海と湯出は宝石店に入り、結社に向かった。
「ただいま戻った」
「お疲れ様です、輝海さん湯出さん」
オペレーターの女性が輝海に近付き、書類を渡した。
「この書類を目に通してください。トランプカードが動き出しました」
この言葉を聞き、輝海と湯出の目が変わった。
「また……奴らが動き出したか」
「前の事件の時は一年前でしたからね……何で今頃……」
「とりあえず書類に目を通そう。俺の席に行くぞ」
「はい」
二人は書類を持ち、輝海の席に向かった。