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海に潜むもの

 宿泊訓練が終わり、時が流れた。時期は夏。待ちに待った、夏休みが始まろうとしているのだ。


「夏休み……か」


 湯出宝石店の地下。トレーニングの休憩中の三刃が、懐かしそうにこう呟いた。


「魔法使いになったら、ほとんど魔法犯罪者か、魔物の戦いだよね」


「多分そう」


 夕と三刃はこう言うと、姫乃が声を出した。


「だけど、手当てはいつも通り出るわよ。しかも、夏休み中はいつもより少し多めよ」


「欲しい物が買いたい放題だぞ三刃、夕」


 光賀もこう言った。その時、翡翠が下から降りてきた。


「おじゃましまーす!見てみてお兄ちゃん、今月の手当分、結構上がってたわよ‼食費が上がってきつかったから、助かったわ」


 喜んでいる翡翠を見て、三刃はまぁいいかと思った。その後、湯出の指導の下修行を開始した。




 数時間後、修行を終え、休憩している三刃達の元に、輝海がやって来た。


「皆揃ってるね」


「どうしたんですか輝海さん?」


「厄介なモンスターが現れたって話だ」


「場所はどこです?」


「近くの海岸だ」


 輝海の答えを聞き、女子たちは歓喜の声を上げた。それに対し、三刃と光賀は何かを考えている顔になった。


「二人とも、どうしたの?」


「夕君、スケベ野郎なんてほっときなさい」


 姫乃は夕にこう言うと、輝海に話しかけた。


「で、どんな敵なんですか?」


「敵は海中にいるため、どんな姿かは分からない。だが、毒を使うことは判明している」


「どうやって知ったんですか?」


「魚だよ。魚が大量に不審死しているから、調べたんだ。そしたら毒死だったんだ」


「そうですか。まだ姿が分からないのが恐ろしいですね」


「ああ。調査が明日までに終わるから、明後日には海に行くと思うよ」


「明後日ですか!」


「じゃあ水着買わないと‼」


 凛子と凛音が嬉しそうにこう言う中、輝海は呆れて二人に言った。


「おーい。遊びに行くんじゃないんだからな」




 海への調査当日。三刃と翡翠は荷物を持ち、湯出宝石店へ向かっていた。


「いいか翡翠?海へは調査に行くんだからな」


「何を偉そうに。姫乃さんや服部さんの水着姿に見とれてボーっとしないでよね」


「分かってるって。僕がそんな男に見えるのか?」


「隠してたエロ本、処分したから」


「は!何であそこに隠したの分かったんだ!?」


「乙女の勘よ」


「……何が乙女の勘だ。お前、そんなに乙女か?湯出さんから聞いたぞ、イギリスから来た男の事キスしたって」


 三刃の呟きを聞き、翡翠は顔を真っ赤にし、三刃を道路に押し倒そうとした。


「おい馬鹿止めろ‼車が通ってるんだぞ‼」


「うるさいうるさいうるさい‼」


「なーにやってるのよ?」


 二人の行動を見て、呆れた姫乃が声をかけた。


「聞いてください姫乃さん‼お兄ちゃんが私のファーストキスを茶化したんですよ‼」


「え?ファーストキス?」


 後ろから来た凛子と凛音が慌てながら、姫乃に事情を説明した。


「翡翠ちゃん、私より先に大人になったね」


「え?姫乃さんってまだキスしたことないんですか?」


「したことないわよ。それに、彼氏もいないし」


「お姉ちゃんの彼氏なんて、私認めたくない」


 凛音が姫乃に抱き着き、こう言った。


「それより、早く湯出産の所に行くぞ。待たせると失礼だし」


「そうね。行きましょ」


 その後、三刃は姫乃達と合流し、湯出の所へ向かった。数分後、三刃達は湯出宝石店の前にいた。


「おーっす三刃‼」


「姫乃さん達と一緒に来たんだね」


 湯出の車の中には、すでに光賀と夕がいた。


「お前らはえーな。いつ来たんだ?」


「僕は一時間前。湯出さんと魔武器について話をしてた」


「夕君の魔武器?どんなの?」


「まだ決まってない。でも、闇を使うから武器はいらないかもって湯出さんは言ってた」


「で、光賀はいつ来たんだ?」


「昨日は湯出さんちに泊った。すぐに移動できるようにな」


 と、光賀は海用の遊び道具がぎっしり入ったバックを見せた。


「子供ね……」


 呆れたように、姫乃は呟いた。




 数時間後、三刃達は海に来ていた。すでに大勢の海水客が来ており、賑わっていた。


「すげーいるな」


「ああ。モンスターがいるとは思えないな」


 と、二人は近くにいるビキニ美女を見ながら会話をしていた。


「おい、どこを見て話しているんだ?」


 声をかけてきたのは服部だった。彼女は競泳水着っぽい物を着ていた。その横には海人もいた。


「あれ、茉奈。お前学校の水着か?私用の水着持ってないのか?」


「光賀、下の名で呼ぶのは止めろと言ってるだろ。あと、これが私の私用の水着だ。ビキニは守備能力がなさそうだから着ない」


 と言っているが、競泳水着のせいで服部の胸がかなり強調されており、かなり目立っていた。横にいる海人の顔も、少し赤くなっていた。


「茉奈……少し胸が……」


「ん?ああ。実は少し大きくなってな……」


「そういう事じゃない……ちょっと目立ってるぞ……」


「そうか」


 その時、三刃の後頭部に何かが命中した。


「スケベメガネ‼あまりきょろきょろしないで‼」


「不審者だと思われるわ」


 三刃が後頭部を抑えながら後ろを振り向くと、そこにはフリフリの水着を着た凛子と凛音が立っていた。


「おい、何投げたんだよ」


「その辺に落ちてた小さなスコップ」


「ったく、そんなもん投げるなよ……」


 三刃は二人を睨み、こう言った。しばらく周りを見ていたが、三刃は翡翠と姫乃が来ないことを気にしていた。


「お待たせ」


 その時、水着に着替えた夕がやって来た。


「夕、翡翠と姫乃を見なかったか?」


「ううん。僕より先に出たと思うんだけど」


「……僕ちょっと見てくる」


 と、三刃は光賀たちにこう言い、二人を探しに行った。


 三刃は今いた所から駐車場までの道のり、そのどこかに二人がいるだろうと考えた。駐車場まで戻っている時、不自然な男の群れを見つけた。もしかしてと思い、三刃はそこへ向かった。


「あ、三刃君」


「お兄ちゃん、助けに来てくれたんだ」


 男の群れの中に、二人はいた。


「何だよ、二人ともナンパされてたのか?」


「ええ。あなた達には用がないって言っても返してくれなかったの」


「助けに来てくれて本当に助かったよー」


 三刃が来たことで、周りの男たちは「んだよ、男がいるのかよ」と呟きながら、散って言った。


「凛子と凛音が来なくて正解だったな。あいつらだったら血祭にしてるだろうな」


「本当。そうね」


 三刃は姫乃の方を振り向き、話そうとした。だが、姫乃の水着姿を見て、立ち尽くした。姫乃は白色のビキニを着ている。そのせいで姫乃の体をより綺麗に、美しく際立たせていた。


「……」


「お兄ちゃん、変な目で姫乃さんを見ない‼」


 と、翡翠は三刃の耳を思いっきり引っ張った。


「いちちち……」


「そんなに目立つ?この水着?」


「目立つというかエロすぎる。刺激が強い」


「そうかしら?」


 姫乃は笑いながらこう言った。




 数分後、三刃達は海の家に行き、輝海と湯出と会話をしていた。


「で、これから夜まで遊んで時間を潰すの?」


「そうだな。いろいろ戦いもあったし、気分転換にはいいだろう」


「だけど、遊びすぎないように‼夜の海は大変危険だからね」


「はい‼」


 そう言うと、三刃達は海へ走って行った。輝海と湯出は椅子に座り、海で遊び始めた三刃達を見た。


「あーやってみると、本当に子供だよな」


「まだ中学生と高校生ですからね。本来なら遊びたいと思いますよ」


「そうだよな。魔法使いは架空の存在で、漫画ゲームが好きな人は一度なりたいと思うだろうが……」


「実際、自分が魔法使いだと言われても、その後の事が面倒ですからね」


「ああ。仕事は危険。食費もかかる。いつどこでモンスターが来るか分からない」


「たまには遊ぶってことも必要ですね」


「もちろん俺達もな。ねーちゃん、生ビール二杯‼」


 そう言って、輝海と湯出は飲み始めた。




 数時間後、もう夕方になっていた。


「輝海さん、湯出さん‼」


 二人は三刃の声で気が付いた。テーブルにはビールのジョッギが何杯も置かれており、おつまみも散乱、皿も散らかっていた。


「あ……飲んでる時に……寝ちゃったのか……」


「頭が痛い……」


 完全に酔った二人は立ち上がろうとしたが、また倒れてしまった。三刃と姫乃が輝海を立たせ、光賀と夕が湯出を立たせた。


「しまった……はめを外しすぎた……」


「全く、いい大人が何をしているのやら……」


 三刃達が海の家から出ようとした時、店員が近付いてこう言った。


「会計五万円になります」


「じゃあ輝海さん湯出さん、後はよろしく」


 と言って、三刃達は輝海と湯出を置いて出て行った。


 三刃達は岬に集まり、結社が手配した大型船に乗り込んだ。


「あれ?輝海さんと湯出さんはどこですか?」


 船員がこう聞くと、姫乃が酔って倒れたと答えた。


「仕方ありません。あの飲んだくれはほっておいて、我々だけで行きましょう」


「ええ」


 その後、三刃達を乗せた大型船は港から出発した。船員がモニターを見ながら、三刃達にこう言った。


「そろそろ魚が大量に不審死した現場に着きます」


「分かりました」


「じゃあそろそろ武器の準備をしないとな」


 三刃は魔武器の宝石を取り出し、こう言った。その時、船員が声を出した。


「また魚の死体です‼それに、大量です‼」


「また出たか‼」


 ライトに照らされた海面には、仰向けになった魚が大量に浮いていた。


「うげぇ……」


 凛子が気持ち悪そうに声を出した。三刃は海面を見つめ、船員にこう言った。


「海中にいるんですよね」


「多分そうです。三刃さん、これを装備してください」


 船員は三刃にゴーグルとマスク、そしてスーツを渡した。


「早急に作った対毒ガスのゴーグルとマスクとスーツです。これを着て潜ってください」


「はい」


 三刃が装備する中、光賀と凛子は船員に話しかけた。


「俺達の分はないのか?」


「一人だけじゃ不安だよ‼」


「……いえ。準備が間に合わず、今は三刃さんが装備している一着しかありません」


「じゃあ今回、俺達は三刃のフォローをするのか」


「え~?暴れた~い」


「仕方ないだろ。三刃、準備できたら言ってくれ」


「ああ。ちょっと待ってろよ」


 数分後、装備を終えた三刃は船の端にいた。


「じゃあ潜ってくる」


「気を付けろよ、危ないと思ったらすぐに危険を知らせろ。急いで引っ張り上げるから」


「その時は任せた」


 と、三刃は海の中に潜って行った。その様子を見ていた翡翠は不安そうに姫乃にこう言った。


「本当に大丈夫かな……」


「大丈夫よ。スーツの背中部分にはクレーンのロープが付いている。何かあれば手元についているスイッチを押して伝わるわ。それに、三刃君はそこまで馬鹿じゃないと思う」


「ですよね」


 翡翠は少し安心し、また海面を見つめた。


 三刃は潜り続けている間、浮上している魚の死体をいくつも目撃した。それを見て、目標の敵がここにいると察した。しばらくし、奥の方から紫色の煙が発生しているのを目撃した。そして、黒い物体が動くのも。


 あそこにいるな。


 三刃はそう思い、黒い物体の方に向かって泳ぎ始めた。黒い物体も、三刃の方に気付き、動き出した。三刃は武器を出そうとした。だが、ここは海の中。思うように剣が振れないことを察し、魔武器の宝石をしまった。魔法で戦うしかないと思い、いつでも魔法が出せるように態勢を取った。しばらくし、黒い物体に向けて、ライトが照らされた。物体の正体は巨大なタコだった。色は紫色で、巨大な触手がいくつも生えていた。そして口以外にも突起物があり、そこから毒ガスが発生していた。三刃はマイクボタンを押し、大型船にいる姫乃達に連絡をした。


「モンスター発見。巨大タコだ」


「了解。三刃君、援護はいる?」


「魔法で戦う。風で切ればダメージは通ると思う」


「分かったわ。だけど、無茶しないでね」


 通話を終え、三刃は巨大タコに視線を向けた。右手に風を纏い、思いっきり振り下ろした。風は刃の形になり、タコに向かって飛んで行った。タコは刃に気付き、触手で防御をした。だが、刃は触手の一部を切りおとした。三刃は続けて攻撃しようとしたが、別の触手が三刃に向けて伸びてきた。まずいと思った三刃は浮上しようとしたが、その前に触手が三刃の足に絡みついてきた。三刃は慌ててクレーンのボタンを押した。


 海面にて。三刃の信号をキャッチしたチャイムが鳴り響いた。


「三刃が危ない‼」


「早く引き上げろ‼」


 船員たちが慌ててクレーン作業に移る中、翡翠達は武器を構えていた。


「皆、敵はいつ来るか分からないからな、準備しておけよ」


 光賀は西洋剣を装備し、夕は両手に闇を作っていた。姫乃は不安そうに海面を見つめていた。


 三刃は風で触手を斬ろうとしたが、なかなか出来なかった。タコの方も無理矢理三刃を引っ張り始めた。その時、三刃をつなぐクレーンのロープが鈍い音を立て始めた。三刃はまさかと思い、ロープを見た。その直後、大きな音とともにロープが外れた。


 姫乃の方も、異変を察していた。


「しまった‼ロープがちぎれたぞ‼」


 船員の声を聞き、姫乃と翡翠は同時に船員の方に向かった。


「私が助けに行きます‼」


「替えのダイバースーツはないんですか?」


 船員はしばらく黙った後、ロッカールームへ行き、ダイバースーツを持ってきた。


「実は代用品が一つだけある。しかし、こいつを使う時は空気ボンベの装備が必要なんだ」


 翡翠が声を出そうとしたが、姫乃が翡翠にこう言った。


「翡翠ちゃん、あなたはここで待機してて。いざという時、皆と戦って」


「……姫乃さん、任せました」


 その後、姫乃は代用のダイバースーツと空気ボンベを装備し、海に潜って行った。

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