番外編 そして別れの時は来る
翡翠とユアセルは、セミレットを探すため、アジト内をくまなく探していた。翡翠は近くの扉を蹴り開き、中を調べた。
「ここにもいないみたい……」
ぱっと見で誰もいないことを察し、すぐに部屋から出て行った。
「一体どこにいるのかしら?」
「無事だといいんだけど……」
不安そうに、ユアセルはこう言った。その時、後ろから部下の一人が襲ってきた。翡翠は武器を銃の形にし、部下の左肩を打ち抜いた。
「イデェェェ‼」
「丁度いいわ。あなた、午前中に来た魔法使いの事、何か知ってる?」
「教えるかバーカ‼」
その直後、翡翠は部下の右肩を打ち抜いた。
「私、今ちょっとイライラしてるの、これ以上イラつくことしたら、どうなるか分かる?」
「教えます教えます‼あの女は多分、処理場にいると思います」
「処理場?」
「実はあの女は……」
「これ以上教えるな、無能が」
別の男の声がした。その後、一発の銃声が響き、弾丸は部下の額を貫いた。
「貴様らか、侵入者の仲間は……」
「あんたがカベロね」
翡翠は武器を突き付け、こう聞いた。カベロはフッと笑い、突き出された武器をどかし、翡翠にこう言った。
「その通り。俺がカベロだ」
「お前がカベロか……」
「坊主、お前には興味がない」
カベロの言葉を聞き、ユアセルはカベロに襲い掛かった。カベロはユアセルの攻撃をかわし、ユアセルに蹴りを入れた。蹴りを喰らい、ユアセルは近くの壁に激突した。
「壁とのキスはどうだ?感想を教えてくれ」
「ウッ……」
ユアセルのうめき声を聞き、カベロは笑い始めた。
「止めなさい‼」
翡翠は武器を剣の形にし、背後からカベロに斬りかかった。攻撃は、カベロに命中した。
「フッ……不意打ちとはやるねぇ……」
「黙りなさい‼さっさとセミレットさんの居場所を教えないと、次は首をはねるわよ‼」
「恐ろしい事を言うお嬢さんだ。だが、ここは逃げあるのみ‼」
と言って、カベロは逃げてしまった。
「しまった‼」
「背中から流れる血を追いましょう‼」
二人はカベロの後を追って行ったが、途中で部下達に襲われた。
「ここから先は通さねぇぜ」
「貴様らを始末してやる‼」
襲われた二人は、瞬時に武器を装備し、部下達を蹴散らした。
「面倒だな……全員まとめてかかってこい‼」
「私達が相手するわよ‼」
その頃、別の部下達と戦っている輝海と海人の方は、まだ熾烈な戦いが続いていた。
「やっと……相手の数が減って来たな……」
輝海の周りには、傷ついた部下達が倒れていた。
「つ……強すぎる……」
「せめて、あのガキだけでも殺すぞ‼」
と、部下の一人が銃で海人を狙った。だが、発砲する前に海人の姿は消えた。
「なっ、どこへ?」
「ここだ」
現れたのは、部下の目の前だった。海人は手にした小刀で、銃口を切り落とした。そして、部下が持つ銃をバラバラにした。
「あ……ああ……」
バラバラにされ、落ちていく銃を見て、部下は嘘だろと言わんばかりの声を漏らした。
「俺達に攻撃するのは止めろ。そうすれば、命は助けてやる」
海人は武器をしまい、こう言った。だが、この言葉を聞いた部下は馬鹿笑いを始めた。
「どうかしたか?」
「命は助けてやる?俺達はなぁ……一度死んでいるんだよ‼」
次の瞬間、部下達の体が怪しく動き出した。
「何だこりゃ?テメーら、何かしたか!」
「俺達は人間を超えた生物となった。簡単に言えば……半分モンスターになったんだよ!」
人型モンスターの姿になった部下達を見て、輝海と海人は驚きのあまり、立ち尽くしてしまった。
「死ねェェェェェェェェ‼」
巨大な腕の一撃が、海人に迫ろうとしていた。その時、チェーンソーのエンジン音が響き渡った。
「話は聞きました。モンスターになったんなら……殺してもいいんですよね‼」
凛音のチェーンソーが、モンスターの腕を切断した。
「クソッ‼仲間がいたのか‼」
「輝海さん‼無事ですか‼」
湯出が投げ槍をモンスターに投げて攻撃し、輝海に声をかけた。
「ああ。だけど何で来た」
「あの双子のせいですよ」
溜息と共に、湯出はこう言った。
「納得」
輝海がこう言った直後、凛子が輝海の頭を踏み台にし、高く飛び上がった。
「さぁ、バトルの始まりよ‼」
「てめー‼人の頭を踏み台にするなー‼」
輝海の怒声を無視し、凛音は槍を振り回しながら、モンスターに攻撃をした。
「怯むな‼さっさとあのガキ共を殺せ‼」
「そういう人から先に死ぬんですよー」
凛音は命令をした部下の首をチェーンソーではね、その頭を別の部下に蹴り飛ばした。
「音が激しくなってきたな……」
後ろの音を聞き、ユアセルは小さく呟いた。
「立ち止まってる暇はないよ‼」
翡翠はユアセルを襲おうとした部下を撃ち、こう言った。ユアセルは部下を蹴り飛ばし、翡翠の後を追って走って行った。しばらく走っていると、翡翠とユアセルの目の前に扉が現れた。翡翠は躊躇なくその扉を蹴り飛ばし、中を見た。
「誰かいるのか?」
「いるわ」
翡翠はユアセルが部屋に入ったのを確認し、部下達に気付かれないように扉を閉めた。二人で部屋を調べる中、異臭が漂ってきた。
「何だ……この匂いは……」
ユアセルが小言を漏らした、その時だった。
「ユ……ア……」
小さな声が聞こえたのだ。
「何だ今の?」
「匂いの方から聞こえたわ」
二人は互いの顔を見つめあい、頷いた。覚悟を決めて匂いがする方へ向かった。そこには、巨大なピンク色の液体があった。
「何だあれは……」
ユアセルがそれに近付こうとした。すると、液体が動き出した。
「ユアセル……」
声の元は液体からだった。さらに、その液体はユアセルの名を呼んでいた。
「何だよあんた……何で僕の名を!」
「ワタシヨ……セミレットヨ……」
この一言で、翡翠とユアセルは液体の正体が、セミレットである事を知った。悲惨な姿になったセミレットを見て、翡翠はその場に座り込み、ユアセルはセミレットに触ろうとした。
「ゴメンネ……ヒトリデイッテ……アナタニナニモイワズ……カタキヲトロウトシテ……」
「姉さん……もういいよ。それより、どうやったら元に戻るの?」
「……モウモドラナイワ。ワタシハ……スデニ……カベロタチニ……コロサレタ」
「もう……どうしようもないの?」
「ソウ……ゴメンネ……アナタヲ……ヒトリボッチニサセテ……」
「姉さん……」
「ユアセル……モウ……ワレヲモテナイ……イマノウチニ……ワタシヲケシテ」
「そんな!そんなことできないよ‼僕に……姉さんを殺せないよ……」
「じゃあ俺がやってやるよ」
後ろから、部下の声がした。翡翠がこの言葉に反応し、風を発生させようとしたが、それより先に部下が放った銃弾が、セミレットを吹き飛ばした。部下は鼻を掴み、こう言った。
「ウッゲェ~。この失敗作やっぱくせ~な。ウンコよりひでぇや」
部下の一人が、飛び散った液体の一部を踏んでしまい、悲鳴を上げた。
「ウワッ!ウンコ踏んじまったよ‼」
「うっわ、きったね~」
「靴捨てねーとな。あのウンコ魔法使いのクソが付いた靴なんて、履いてらんねー」
「いい素材かと思ったのによー。クソみてーな女だったな」
「体つきは良かったけどな、殺す前に一発ヤりたかったな」
と、セミレットを馬鹿にするような言葉を言い、笑い始めた。ユアセルは怒りを抑えきれず、部下を殴ろうとした。だが、その前に翡翠が動いた。
「あなた達」
「あん?あ、さっき追ってたガキだ」
この直後、強烈な突風が部下を襲い、遠くの壁に吹き飛ばした。突風を受けた部下の体が徐々にモンスター化していったが、地面に落ちた際に体は塵となって消えた。
「人の命を何だと思ってるの?生き物の命を何だと思ってるの?」
翡翠は武器を構え、部下達に近付いて行った。
「命……ハッ‼他の命なんて知った事か‼俺達は俺達、好き勝手に生きる。他の命を奪おうがそんなん弱い奴が悪い‼」
「俺たちモンスター様に歯向かう弱者は、全員ぶっ殺すんだよ‼」
部下達はモンスター化し、翡翠に襲い掛かった。
「弱い奴が悪い。じゃあ……私に殺されても、文句言わないでね」
その直後、翡翠は目の前の部下達を切り刻んだ。
「どうかしたか?」
別の部下が、部屋に入って来た。翡翠はすぐにその部下に近付き、こう聞いた。
「あなた達は全員モンスターなの?」
「……そうだ。ならどうする?俺を殺すのか?」
「あなた達、全員を殺すわ」
翡翠は部下の首をはねた。首を失った部下の体はモンスター化したのだが、塵となって消えた。
「おい、こっちだ‼」
「いたぞ‼」
「銃を持ってこい‼」
翡翠達を追っていた部下が、全員集まってしまった。ユアセルは恐る恐る翡翠に近付いた。
「ユアセル。部屋の中で隠れていて」
「で……でも」
「私の言う事を聞いて。あいつら全員……私が始末するから」
そう言うと、翡翠は魔力を解き放った。魔力から発生したオーラは、龍の形を作り出した。
その頃、別の部下と戦っていた凛子と凛音は、翡翠の魔力の変化を察し、動きを止めた。
「どうかしたか?」
「翡翠ちゃんの魔力が変わった」
「龍の力を開放した、お姉ちゃんと同じだ……」
海人の質問にこう答えた後、二人は先に行ってしまった。
「どこ行くんだよ!」
「翡翠ちゃんのとこ‼」
「何かあったみたい‼」
「あとの事、よろしくね」
二人は海人にこう言った後、先に行ってしまった。
風龍の力を開放した翡翠の力は、部下達に恐怖を植え付けていた。
「おい‼こっちにいるぞ‼」
「早くカベロ様に逃げろと伝えろ‼」
「やばい、俺達に気付いた!」
「応戦しろ、銃か魔法で攻撃しろ‼」
「風のせいで銃も魔法も通用しません‼」
慌てる部下達の悲鳴が、廊下に響いた。翡翠は部下の声をたよりに、敵を探していた。そして、翡翠は逃げ回る部下達を見つけた。
「見つけた」
「ヒィィィィィィイィィ‼」
「やけくそだ‼一斉射撃だ‼」
部下達は翡翠に向けて発砲したが、翡翠が纏っている風が、銃弾を切り刻んでいった。
「次はお前らを切り刻んでやるわ」
翡翠が右手を前に出すと、無数の風の刃が部下達を切り刻んでいった。しばらくし、廊下にいた部下達はバラバラになっていた。その中で、一人だけが生き残った。
「い……生きてる……」
間一髪、生きていることを察し、生き残った部下は涙を流した。だが、翡翠が後ろにいた。
「あなた。カベロの居場所を教えなさい」
「お……教えたら見逃してくれますか?」
「私の気分次第ね」
翡翠は部下を立たせ、カベロの元へ案内させた。
「こ……ここです」
翡翠は扉を蹴り飛ばした。その直後、中にいたカベロに奇襲された。
「よくも俺の部下達を、よくも俺の計画を‼」
「あなたこそ、結社の魔法使いや、セミレットさんを殺し、死体を下らないことに使って……絶対に許さない」
翡翠は部下をカベロに向かって蹴り飛ばした。
「おい、邪魔だどけ‼」
「すみません‼」
「まとめて始末してやる。人の皮を被ったモンスター共」
翡翠は巨大な風を作り出し、カベロと部下に向かって風を動かした。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
「見逃してやるって言ってたのに‼」
「こうなったら、意地でも風から抜け出してやる‼
風の中のカベロと部下は風に対抗しようと思い、モンスター化した。だが、風は徐々に龍の形に変形し、二人を噛み砕いた。風が消えると、そこには無残な死体となったカベロと部下の姿があった。翡翠は死体に風を当てると、死体は塵となって消えた。
「翡翠‼」
ここでユアセルが部屋に入って来た。それに続き、凛子と凛音、輝海と湯出と海人もやって来た。
「一人でやったのか」
「ええ……」
翡翠はこう答えたが、その直後に倒れた。
数時間後、翡翠は湯出の車の中で目を覚ました。
「あ、起きた‼」
「気分はどう?」
「凛子ちゃん……凛音ちゃん……」
「あ、起きたんだ。だけど、もう少し寝てなよ。まだ頭がくらくらするんじゃない?」
「うん……」
翡翠はもう一度横になり、凛子と凛音にこう聞いた。
「あの後どうなったの?」
「カベロ達は全滅。翡翠ちゃんがやっつけたのよ」
「アジトは後に結社が調べることになってるわ」
「翡翠ちゃん、龍の力を使ったのよ」
「私が……」
「きっと、セミレットさんが殺されたのをきっかけで、使えるようになったんだよ」
「セミレットさんの……あ‼ユアセルは!?」
「輝海さんの車の中。ショックで立ち直れてないみたい」
「そうですか……」
翡翠はこう言うと、再び眠りについた。
その後、結社内でセミレットの簡易的な葬式が行われた。参加していた翡翠は、ユアセルの姿を探していた。どこにもいないので、翡翠は近くにいた輝海に聞いた。
「ユアセルはどこ?」
「部屋から出てこないよ。あれからずっと出てこないんだ……」
「……すみません、ユアセルの所に行ってきます」
と言って、翡翠はユアセルの部屋に向かった。
「ユアセル、入るわよ」
部屋の扉を開け、翡翠は部屋に入った。部屋は暗く、どこにユアセルがいるのかどうか分からなかった。
「ユアセルどこー?」
「……翡翠か?」
ベッドの方から声がした。翡翠はベッドに近付き、ベッドの下でうずくまっているユアセルを見つけた。
「隣座るね」
翡翠はこう言うと、ユアセルの隣に座った。
「……ごめんね、セミレットさんを助けられなくて」
「翡翠の責任じゃない。あの時点で、姉さんは殺されていた……あの時、僕が早く起きて姉さんを止めてれば……僕は……弱い。大切な人を守れなかった‼」
ユアセルはこう言った直後、大きな涙を流し始めた。
「姉さん……姉さん……」
翡翠はユアセルを抱き寄せ、こう言った。
「気が済むまで泣いていいわ。私の胸、貸してあげる」
「翡翠……」
「苦しい時は強がらないで泣いて。セミレットさんの代わりにはなれないけど、慰めることと涙を受け止めることは出来るから」
その後、ユアセルは翡翠に抱き着き、声を殺して泣き始めた。翡翠はユアセルが落ち着くまで、ずっとユアセルを抱きしめていた。
翌日、翡翠達は空港にいた。ユアセルの帰国の日が来たのだ。
「皆さん、お世話になりました」
ユアセルは翡翠達に向かい、頭を下げた。
「いや……セミレットさんを助けられなかった俺に頭を下げる必要はないよ」
輝海は申し訳なさそうにこう言った。続いて、ユアセルは翡翠に近付きこう言った。
「翡翠、本当に世話になった。君がいなかったら、僕は自分の弱さに気が付かなかった」
その後、ユアセルは翡翠の顔に近付き、そのままキスをした。この光景を見て、凛子と凛音は顔を真っ赤にし、輝海と湯出は驚いて口を開き、海人は茫然とした。
「次は強くなって戻ってくる。約束だ」
「……うん」
最後にユアセルは笑顔を見せ、去って行った。翡翠は自分の唇に手を触れ、去っていくユアセルを見てこう言った。
「待ってるからね、ユアセル」
今回で番外編は終了です。次回から、また通常の話に戻ります。