表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/85

番外編 そして別れの時は来る

 翡翠とユアセルは、セミレットを探すため、アジト内をくまなく探していた。翡翠は近くの扉を蹴り開き、中を調べた。


「ここにもいないみたい……」


 ぱっと見で誰もいないことを察し、すぐに部屋から出て行った。


「一体どこにいるのかしら?」


「無事だといいんだけど……」


 不安そうに、ユアセルはこう言った。その時、後ろから部下の一人が襲ってきた。翡翠は武器を銃の形にし、部下の左肩を打ち抜いた。


「イデェェェ‼」


「丁度いいわ。あなた、午前中に来た魔法使いの事、何か知ってる?」


「教えるかバーカ‼」


 その直後、翡翠は部下の右肩を打ち抜いた。


「私、今ちょっとイライラしてるの、これ以上イラつくことしたら、どうなるか分かる?」


「教えます教えます‼あの女は多分、処理場にいると思います」


「処理場?」


「実はあの女は……」


「これ以上教えるな、無能が」


 別の男の声がした。その後、一発の銃声が響き、弾丸は部下の額を貫いた。


「貴様らか、侵入者の仲間は……」


「あんたがカベロね」


 翡翠は武器を突き付け、こう聞いた。カベロはフッと笑い、突き出された武器をどかし、翡翠にこう言った。


「その通り。俺がカベロだ」


「お前がカベロか……」


「坊主、お前には興味がない」


 カベロの言葉を聞き、ユアセルはカベロに襲い掛かった。カベロはユアセルの攻撃をかわし、ユアセルに蹴りを入れた。蹴りを喰らい、ユアセルは近くの壁に激突した。


「壁とのキスはどうだ?感想を教えてくれ」


「ウッ……」


 ユアセルのうめき声を聞き、カベロは笑い始めた。


「止めなさい‼」


 翡翠は武器を剣の形にし、背後からカベロに斬りかかった。攻撃は、カベロに命中した。


「フッ……不意打ちとはやるねぇ……」


「黙りなさい‼さっさとセミレットさんの居場所を教えないと、次は首をはねるわよ‼」


「恐ろしい事を言うお嬢さんだ。だが、ここは逃げあるのみ‼」


 と言って、カベロは逃げてしまった。


「しまった‼」


「背中から流れる血を追いましょう‼」


 二人はカベロの後を追って行ったが、途中で部下達に襲われた。


「ここから先は通さねぇぜ」


「貴様らを始末してやる‼」


 襲われた二人は、瞬時に武器を装備し、部下達を蹴散らした。


「面倒だな……全員まとめてかかってこい‼」


「私達が相手するわよ‼」




 その頃、別の部下達と戦っている輝海と海人の方は、まだ熾烈な戦いが続いていた。


「やっと……相手の数が減って来たな……」


 輝海の周りには、傷ついた部下達が倒れていた。


「つ……強すぎる……」


「せめて、あのガキだけでも殺すぞ‼」


 と、部下の一人が銃で海人を狙った。だが、発砲する前に海人の姿は消えた。


「なっ、どこへ?」


「ここだ」


 現れたのは、部下の目の前だった。海人は手にした小刀で、銃口を切り落とした。そして、部下が持つ銃をバラバラにした。


「あ……ああ……」


 バラバラにされ、落ちていく銃を見て、部下は嘘だろと言わんばかりの声を漏らした。


「俺達に攻撃するのは止めろ。そうすれば、命は助けてやる」


 海人は武器をしまい、こう言った。だが、この言葉を聞いた部下は馬鹿笑いを始めた。


「どうかしたか?」


「命は助けてやる?俺達はなぁ……一度死んでいるんだよ‼」


 次の瞬間、部下達の体が怪しく動き出した。


「何だこりゃ?テメーら、何かしたか!」


「俺達は人間を超えた生物となった。簡単に言えば……半分モンスターになったんだよ!」


 人型モンスターの姿になった部下達を見て、輝海と海人は驚きのあまり、立ち尽くしてしまった。


「死ねェェェェェェェェ‼」


 巨大な腕の一撃が、海人に迫ろうとしていた。その時、チェーンソーのエンジン音が響き渡った。


「話は聞きました。モンスターになったんなら……殺してもいいんですよね‼」


 凛音のチェーンソーが、モンスターの腕を切断した。


「クソッ‼仲間がいたのか‼」


「輝海さん‼無事ですか‼」


 湯出が投げ槍をモンスターに投げて攻撃し、輝海に声をかけた。


「ああ。だけど何で来た」


「あの双子のせいですよ」


 溜息と共に、湯出はこう言った。


「納得」


 輝海がこう言った直後、凛子が輝海の頭を踏み台にし、高く飛び上がった。


「さぁ、バトルの始まりよ‼」


「てめー‼人の頭を踏み台にするなー‼」


 輝海の怒声を無視し、凛音は槍を振り回しながら、モンスターに攻撃をした。


「怯むな‼さっさとあのガキ共を殺せ‼」


「そういう人から先に死ぬんですよー」


 凛音は命令をした部下の首をチェーンソーではね、その頭を別の部下に蹴り飛ばした。




「音が激しくなってきたな……」


 後ろの音を聞き、ユアセルは小さく呟いた。


「立ち止まってる暇はないよ‼」


 翡翠はユアセルを襲おうとした部下を撃ち、こう言った。ユアセルは部下を蹴り飛ばし、翡翠の後を追って走って行った。しばらく走っていると、翡翠とユアセルの目の前に扉が現れた。翡翠は躊躇なくその扉を蹴り飛ばし、中を見た。


「誰かいるのか?」


「いるわ」


 翡翠はユアセルが部屋に入ったのを確認し、部下達に気付かれないように扉を閉めた。二人で部屋を調べる中、異臭が漂ってきた。


「何だ……この匂いは……」


 ユアセルが小言を漏らした、その時だった。


「ユ……ア……」


 小さな声が聞こえたのだ。


「何だ今の?」


「匂いの方から聞こえたわ」


 二人は互いの顔を見つめあい、頷いた。覚悟を決めて匂いがする方へ向かった。そこには、巨大なピンク色の液体があった。


「何だあれは……」


 ユアセルがそれに近付こうとした。すると、液体が動き出した。


「ユアセル……」


 声の元は液体からだった。さらに、その液体はユアセルの名を呼んでいた。


「何だよあんた……何で僕の名を!」


「ワタシヨ……セミレットヨ……」


 この一言で、翡翠とユアセルは液体の正体が、セミレットである事を知った。悲惨な姿になったセミレットを見て、翡翠はその場に座り込み、ユアセルはセミレットに触ろうとした。


「ゴメンネ……ヒトリデイッテ……アナタニナニモイワズ……カタキヲトロウトシテ……」


「姉さん……もういいよ。それより、どうやったら元に戻るの?」


「……モウモドラナイワ。ワタシハ……スデニ……カベロタチニ……コロサレタ」


「もう……どうしようもないの?」


「ソウ……ゴメンネ……アナタヲ……ヒトリボッチニサセテ……」


「姉さん……」


「ユアセル……モウ……ワレヲモテナイ……イマノウチニ……ワタシヲケシテ」


「そんな!そんなことできないよ‼僕に……姉さんを殺せないよ……」


「じゃあ俺がやってやるよ」


 後ろから、部下の声がした。翡翠がこの言葉に反応し、風を発生させようとしたが、それより先に部下が放った銃弾が、セミレットを吹き飛ばした。部下は鼻を掴み、こう言った。


「ウッゲェ~。この失敗作やっぱくせ~な。ウンコよりひでぇや」


 部下の一人が、飛び散った液体の一部を踏んでしまい、悲鳴を上げた。


「ウワッ!ウンコ踏んじまったよ‼」


「うっわ、きったね~」


「靴捨てねーとな。あのウンコ魔法使いのクソが付いた靴なんて、履いてらんねー」


「いい素材かと思ったのによー。クソみてーな女だったな」


「体つきは良かったけどな、殺す前に一発ヤりたかったな」


 と、セミレットを馬鹿にするような言葉を言い、笑い始めた。ユアセルは怒りを抑えきれず、部下を殴ろうとした。だが、その前に翡翠が動いた。


「あなた達」


「あん?あ、さっき追ってたガキだ」


 この直後、強烈な突風が部下を襲い、遠くの壁に吹き飛ばした。突風を受けた部下の体が徐々にモンスター化していったが、地面に落ちた際に体は塵となって消えた。


「人の命を何だと思ってるの?生き物の命を何だと思ってるの?」


 翡翠は武器を構え、部下達に近付いて行った。


「命……ハッ‼他の命なんて知った事か‼俺達は俺達、好き勝手に生きる。他の命を奪おうがそんなん弱い奴が悪い‼」


「俺たちモンスター様に歯向かう弱者は、全員ぶっ殺すんだよ‼」


 部下達はモンスター化し、翡翠に襲い掛かった。


「弱い奴が悪い。じゃあ……私に殺されても、文句言わないでね」


 その直後、翡翠は目の前の部下達を切り刻んだ。


「どうかしたか?」


 別の部下が、部屋に入って来た。翡翠はすぐにその部下に近付き、こう聞いた。


「あなた達は全員モンスターなの?」


「……そうだ。ならどうする?俺を殺すのか?」


「あなた達、全員を殺すわ」


 翡翠は部下の首をはねた。首を失った部下の体はモンスター化したのだが、塵となって消えた。


「おい、こっちだ‼」


「いたぞ‼」


「銃を持ってこい‼」


 翡翠達を追っていた部下が、全員集まってしまった。ユアセルは恐る恐る翡翠に近付いた。


「ユアセル。部屋の中で隠れていて」


「で……でも」


「私の言う事を聞いて。あいつら全員……私が始末するから」


 そう言うと、翡翠は魔力を解き放った。魔力から発生したオーラは、龍の形を作り出した。




 その頃、別の部下と戦っていた凛子と凛音は、翡翠の魔力の変化を察し、動きを止めた。


「どうかしたか?」


「翡翠ちゃんの魔力が変わった」


「龍の力を開放した、お姉ちゃんと同じだ……」


 海人の質問にこう答えた後、二人は先に行ってしまった。


「どこ行くんだよ!」


「翡翠ちゃんのとこ‼」


「何かあったみたい‼」


「あとの事、よろしくね」


 二人は海人にこう言った後、先に行ってしまった。




 風龍の力を開放した翡翠の力は、部下達に恐怖を植え付けていた。


「おい‼こっちにいるぞ‼」


「早くカベロ様に逃げろと伝えろ‼」


「やばい、俺達に気付いた!」


「応戦しろ、銃か魔法で攻撃しろ‼」


「風のせいで銃も魔法も通用しません‼」


 慌てる部下達の悲鳴が、廊下に響いた。翡翠は部下の声をたよりに、敵を探していた。そして、翡翠は逃げ回る部下達を見つけた。


「見つけた」


「ヒィィィィィィイィィ‼」


「やけくそだ‼一斉射撃だ‼」


 部下達は翡翠に向けて発砲したが、翡翠が纏っている風が、銃弾を切り刻んでいった。


「次はお前らを切り刻んでやるわ」


 翡翠が右手を前に出すと、無数の風の刃が部下達を切り刻んでいった。しばらくし、廊下にいた部下達はバラバラになっていた。その中で、一人だけが生き残った。


「い……生きてる……」


 間一髪、生きていることを察し、生き残った部下は涙を流した。だが、翡翠が後ろにいた。


「あなた。カベロの居場所を教えなさい」


「お……教えたら見逃してくれますか?」


「私の気分次第ね」


 翡翠は部下を立たせ、カベロの元へ案内させた。


「こ……ここです」


 翡翠は扉を蹴り飛ばした。その直後、中にいたカベロに奇襲された。


「よくも俺の部下達を、よくも俺の計画を‼」


「あなたこそ、結社の魔法使いや、セミレットさんを殺し、死体を下らないことに使って……絶対に許さない」


 翡翠は部下をカベロに向かって蹴り飛ばした。


「おい、邪魔だどけ‼」


「すみません‼」


「まとめて始末してやる。人の皮を被ったモンスター共」


 翡翠は巨大な風を作り出し、カベロと部下に向かって風を動かした。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」


「見逃してやるって言ってたのに‼」


「こうなったら、意地でも風から抜け出してやる‼


 風の中のカベロと部下は風に対抗しようと思い、モンスター化した。だが、風は徐々に龍の形に変形し、二人を噛み砕いた。風が消えると、そこには無残な死体となったカベロと部下の姿があった。翡翠は死体に風を当てると、死体は塵となって消えた。


「翡翠‼」


 ここでユアセルが部屋に入って来た。それに続き、凛子と凛音、輝海と湯出と海人もやって来た。


「一人でやったのか」


「ええ……」


 翡翠はこう答えたが、その直後に倒れた。




 数時間後、翡翠は湯出の車の中で目を覚ました。


「あ、起きた‼」


「気分はどう?」


「凛子ちゃん……凛音ちゃん……」


「あ、起きたんだ。だけど、もう少し寝てなよ。まだ頭がくらくらするんじゃない?」


「うん……」


 翡翠はもう一度横になり、凛子と凛音にこう聞いた。


「あの後どうなったの?」


「カベロ達は全滅。翡翠ちゃんがやっつけたのよ」


「アジトは後に結社が調べることになってるわ」


「翡翠ちゃん、龍の力を使ったのよ」


「私が……」


「きっと、セミレットさんが殺されたのをきっかけで、使えるようになったんだよ」


「セミレットさんの……あ‼ユアセルは!?」


「輝海さんの車の中。ショックで立ち直れてないみたい」


「そうですか……」


 翡翠はこう言うと、再び眠りについた。




 その後、結社内でセミレットの簡易的な葬式が行われた。参加していた翡翠は、ユアセルの姿を探していた。どこにもいないので、翡翠は近くにいた輝海に聞いた。


「ユアセルはどこ?」


「部屋から出てこないよ。あれからずっと出てこないんだ……」


「……すみません、ユアセルの所に行ってきます」


 と言って、翡翠はユアセルの部屋に向かった。


「ユアセル、入るわよ」


 部屋の扉を開け、翡翠は部屋に入った。部屋は暗く、どこにユアセルがいるのかどうか分からなかった。


「ユアセルどこー?」


「……翡翠か?」


 ベッドの方から声がした。翡翠はベッドに近付き、ベッドの下でうずくまっているユアセルを見つけた。


「隣座るね」


 翡翠はこう言うと、ユアセルの隣に座った。


「……ごめんね、セミレットさんを助けられなくて」


「翡翠の責任じゃない。あの時点で、姉さんは殺されていた……あの時、僕が早く起きて姉さんを止めてれば……僕は……弱い。大切な人を守れなかった‼」


 ユアセルはこう言った直後、大きな涙を流し始めた。


「姉さん……姉さん……」


 翡翠はユアセルを抱き寄せ、こう言った。


「気が済むまで泣いていいわ。私の胸、貸してあげる」


「翡翠……」


「苦しい時は強がらないで泣いて。セミレットさんの代わりにはなれないけど、慰めることと涙を受け止めることは出来るから」


 その後、ユアセルは翡翠に抱き着き、声を殺して泣き始めた。翡翠はユアセルが落ち着くまで、ずっとユアセルを抱きしめていた。




 翌日、翡翠達は空港にいた。ユアセルの帰国の日が来たのだ。


「皆さん、お世話になりました」


 ユアセルは翡翠達に向かい、頭を下げた。


「いや……セミレットさんを助けられなかった俺に頭を下げる必要はないよ」


 輝海は申し訳なさそうにこう言った。続いて、ユアセルは翡翠に近付きこう言った。


「翡翠、本当に世話になった。君がいなかったら、僕は自分の弱さに気が付かなかった」


 その後、ユアセルは翡翠の顔に近付き、そのままキスをした。この光景を見て、凛子と凛音は顔を真っ赤にし、輝海と湯出は驚いて口を開き、海人は茫然とした。


「次は強くなって戻ってくる。約束だ」


「……うん」


 最後にユアセルは笑顔を見せ、去って行った。翡翠は自分の唇に手を触れ、去っていくユアセルを見てこう言った。


「待ってるからね、ユアセル」

 今回で番外編は終了です。次回から、また通常の話に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ