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番外編 憎しみの閃光

 十年前。イギリスの魔法結社。


「お父さん……お母さん……」


 一人の少女が、少量の塵の前でしゃがみ込んでいた。結社の魔法使いが、上司に報告をしていた。


「我々がアジトへ着いた時……もうすでにモンスター化していました」


「それで、戦闘に入ったのか……」


「はい」


「……あの二人を殺したのはお前のせいではない。モンスター化された時点で、あの二人はすでに殺されていた」


「……はい……」


「部屋に戻って休め。つらかっただろう……」


「私よりつらいのは……セミレットとユアセルです」


 セミレットは、塵をすくおうとしたのだが、塵は両手から零れ落ち、消えてなくなった。


 お父さんとお母さんは死んだ。お父さんとお母さんは殺された。


 この現実を突き付けられ、幼いセミレットは大声で泣き始めた。横にいる幼いユアセルは大声で泣くセミレットにこう聞いた。


「ねぇ……パパとママもう戻ってこないの?」


 セミレットは泣くのを止め。ユアセルを抱きしめ、こう答えた。


「そうよ……戻って……来ないのよ……」


 それから、セミレットとユアセルは死に物狂いで強くなろうと考えた。セミレットは経験を積んでいくうち、戦闘方法と仲間との連携を学んだ。ユアセルも同じように強くなっていったのだが、個人で戦う方が向いていると思い、ずっと一人で戦うようになった。




 早朝。セミレットは結社の出入り口で輝海と話していた。


「セミレットさん、ユアセルに話はしなくていいのか?」


「ええ。あの子にはなすと、絶対無茶すると思いますので」


「……無茶をしてるのはセミレットさんだと、俺は思うけどな」


 輝海の言葉を聞き、セミレットは黙った。


「分かってます。だけど……無茶をしてでも、お父さんとお母さんを殺した奴を倒したいんです」


 この言葉を聞き、輝海は黙った。その後、二人は車へ向かい、車に乗ってどこかへ向かった。




 その日の放課後、学校が終わり、翡翠達は結社へ向かった。その時、ユアセルの声が響き渡った。何事かと思い、翡翠は近くにいた職員に聞いた。


「何かあったんですか?」


「ユアセルが暴れてるんだよ。輝海さんとセミレットさんが二人で親の仇を取りに行ったらしいんだ」


「今朝からこんな感じだよ」


「全く、坊主はこれだから」


「うるさい……」


 話を聞いた凛子と凛音はこう言ったが、翡翠は慌ててユアセルの元へ向かった。翡翠を止めようとした凛子だったか、海人がやめろと言った。


「何で止めるのよ!」


「あいつに任せておけ。話をするだけだろう」


 海人にこう言われ、凛子は黙った。




 その頃、セミレットと輝海は人里離れた山の中にいた。


「ここがあいつらのアジトなんですね」


 車から降り、セミレットが輝海にこう聞いた。


「ああ。あそこの縦に割れている岩盤があるだろ、そこが入口だ。だが、その周りには隠しカメラが設置されている。雷の魔法を使えるあなたなら、雷で隠しカメラを故障させることは出来ると思うが」


「ありがとうございます。ここからは、私一人で行きます」


「は?」


 セミレットは左手に電撃を纏い、輝海を触った。


「がああああああああああッ‼」


 電撃を浴び、輝海は気絶してしまった。


「すみません、輝海さん」


 セミレットはこう言うと、西洋刀を装備し、電撃を発生させた。その瞬間、隠し扉周辺に煙が発生した。


「お父さん、お母さん、私に力を!」


 セミレットは隠し扉を破壊し、アジトに入って行った。


 アジトに侵入し、セミレットは身を隠しながら、先に進んでいった。入った時点では、人の気配はしなかった。少しおかしいと思いながら、セミレットは奥に進んでいった。


 しばらく奥に進むと、誰かが息を吐く音が聞こえた。誰かがいる。そう確信したセミレットは、武器を構えて奥に進んだ。すると、セミレットの目の前に、液状になったモンスターが現れた。セミレットは武器を振るい、モンスターを一閃した。だが、モンスターはすぐに元に戻った。その時、モンスターがうめき声をあげながらこう言った。


「タ……タスケテクレ……コロシテクレ……」


「話ができるの?」


「ア……アア……オレハ……コノチイキノマホウツカイ……モンスターヲ……ツクッテイルヤツガイルトジョウホウヲキイテ……トウバツニムカッタガ……カエリウチニアッテ……コンナスガタニ……ナッチマッタ……」


「あなたをこんな姿にしたのは、カベロという男では?」


「……ナンデシッテイル?」


「私の両親の仇です。奴なら、元に戻す方法を知っているかもしれません」


「……ムリダ。ワスレタノカ?モンスターノモトハシンダイキモノノイタイダト」


「では、あなたはもう……」


「ソウ。オレハコロサレテ……コンナスガタニサレタ……タノム、サキニイクマエニ……オレヲコロシテクレ」


「……分かりました」


 セミレットは武器に電撃を纏い、液状化された魔法使いに刺した。周囲に電撃が走り、液体から煙が発生した。


「ア……リガ……トウ……」


 魔法使いがこう言った直後、液体は消えてなくなった。


「何の騒ぎだ?」


 この騒ぎを聞きつけ、カベロの部下達が現れた。


「あー‼こいつか、入口の隠しカメラと隠し扉を壊した奴‼」


「こいつ、結社の魔法使いか?」


「構わねぇ、誰であろうと、個々の秘密を知った奴はぶっ殺せ‼」


 部下達は、一斉にセミレットに襲い掛かった。セミレットは左手を前に出し、魔力を溜めた。そこから閃光が放たれ、部下達を襲った。


「チッ、この女ァ‼」


「ふざけんな!」


 部下達の罵倒を聞き流し、セミレットは攻撃を続けた。この攻撃で、何人か部下が倒れた。


「あなた達には用がない、カベロを出しなさい‼」


「言われなくても、出てやるよ」


 男の声が響いた。しばらくし、男が姿を見せた。


「ごきげんよう、美しい魔法使いよ」


「お前がカベロか……」


「こんな美しい女性を俺は見たことがない……いや、一度あるな。人妻だったが、美しい女だった。旦那と一緒に実験したが……失敗作だったな。そういえば、お嬢さんはあの時の人妻と同じ顔をしているな。クックック……まさかそいつの子供か」


「お前……お前……」


 カベロの挑発を聞き、セミレットの怒りが高まった。


「お前だけは許せない‼」


「あっそう。だが、死ぬのはお前だ」


 カベロは笑みを作ってこう言った。その笑みを見て、セミレットは叫ぼうとしたが、後ろにいた部下が、持っていた剣でセミレットの体を突き刺した。


「え……」


「急いでそいつを始末しろ、そいつの死体でもう一度実験だ」


 去っていくカベロを見て、セミレットは追おうとしたが、部下達の攻撃が一斉にセミレットを襲った。




 翡翠は結社の中央部へ向かった。ユアセルを探すのと大人しくさせるのに苦労するだろうなと思いながら、走っていた。中央部へ着き、目に入ったのは、ユアセルと口喧嘩する湯出の姿だった。


「お前‼何でこの事を知らせなかった‼」


「何度も言うが、君に危険な仕事をさせたくないと、セミレットさんが言ってた‼」


「僕のいう事を聞け‼」


「静かにしなさい‼」


 翡翠がユアセルの後ろで、大声で叫んだ。


「お姉さんの気持ち位分かりなさい‼そりゃあなただって、ご両親の仇を取りたいのは分かるわよ‼だけど、それが危険だからお姉さんと輝海さんは二人で向かったのよ‼」


「僕だって……僕だってもう魔法使いとして一人前だ‼誰よりも強い、モンスターだって何匹と戦ったって疲れたりしない‼」


「昨日、一人でモンスターと戦って、バテバテになったのはどこのどなたさんでしたっけ?」


「ぐ……」


「落ち着きなさい。今頃、輝海さんとセミレットさんが仇を取ってるわよ」


「それまで、何もせずに待ってろってか?」


「そう。もし、一人で行こうとしたら、私が意地でも止めるからね」


「私達も止めるわよ」


 後ろから現れた凛子がこう言った。ユアセルは翡翠の話を聞き、その場に座った。


「なんか……君には敵いそうもない……」


 ユアセルはぽつりとこう言った。その時、緊急無線が鳴った。


『湯出、皆‼緊急事態だ‼セミレットさんが単身でカベロのアジトに乗り込んだ‼』


 話を聞いた湯出は驚き、慌ててマイクを手に取った。


「何で一人で行かせたんですか!?」


『電撃を浴びせられた‼今さっき麻痺が解けたところだ‼湯出、今からこっちに来い‼合流してカベロの討伐、セミレットさんの捜索に行くぞ‼』


「分かりました!少し時間はかかると思いますが、すぐに行きます!」


 湯出はマイクを置き、すぐに出ようとしたが、翡翠達が行く手を阻んだ。湯出は溜息を吐き、こう言った。


「言わなくても分かるよ」


 湯出は再びマイクを持ち、こう言った。


「輝海さん‼翡翠ちゃん達と一緒に向かいます‼」




 数時間後、翡翠達を乗せた湯出の車は、カベロのアジトの近くに着いた。


「やっと来たか」


 車の傍で、待機していた輝海がこう言った。ユアセルはすぐに彼に近付き、こう聞いた。


「姉さんは?姉さんは今どこに?」


「中に入ったのは確認できた。だが、その後の事は分からん……」


「姉さん……僕には無理するなって言ったくせに」


「輝海さん、早く行きましょう」


 翡翠の言葉を聞き、輝海はうなずいた。


「分かった。だが、その前に潜入班と待機班で分けようと思う。潜入班は俺と翡翠ちゃん、ユアセルと海人。後は待機」


「えー!私達も暴れたーい!」


「チェーンソーの手入れもしっかりしたのに」


 凛子と凛音の言葉を聞き、輝海はこう言った。


「もし、俺らが何かあった時に暴れろ。とにかく!今はここで待て‼湯出、結社への連絡とこの我儘姉妹の面倒を頼むぞ」


「分かりました」


「よし、行くぞ‼」


 湯出の合図と共に、翡翠達はアジトへ向かった。中に入ると、異臭が翡翠達の鼻に入った。


「何この匂い?」


「何かやってんだろう。迷子にならないようについて来いよ」


 翡翠達は足音を殺し、先に進んだ。奥へ行くたび、異臭が強くなっていく。その時、海人が声を出した。


「向こうから足音がする」


「分かるのか?」


「聴覚の訓練はクソ爺から学んだ」


 海人は皆に身を隠すように伝えた後、様子を見た。


「こっちに来る。一人のようだ……都合がいい」


「どうするの?」


「捕まえて尋問する」


 しばらくし、部下が翡翠達が潜むところまで近づいてきた。


「こちらには気付いていない。よーし」


 海人は気配を消し、部下の後ろに着き、左腕を部下の首に回した。そして、急いで身を隠す場所に戻った。


「俺達が来る前に、誰か来なかったか?」


 海人は右手に装備した小刀を部下の喉に近付け、こう聞いた。


「誰が言うか……」


「じゃあ死ぬか?」


 小刀の先が、喉にちょっとだけ刺さった。喉元から出る血を見て、部下は悲鳴を上げようとしたが、海人が口をふさいだ。


「騒いだらこれより深く刺さるぞ」


「分かった。言うよ。結社の魔法使いがここに現れたのは聞いている。だけど、その後どうなったのかは分からない。俺、その時現場にいなかったからさ」


「そうか」


 話を聞いた後、海人は部下の首を絞めた。


「ま……まさか殺したのか?」


 ユアセルが怯えながらこう聞いた。


「大丈夫だ、気絶させただけだ。だが、ろくな話は聞けなかった」


 その後、翡翠達は先に進んだ。しばらく進むと、研究室のような施設が、見えてきた。


「何だこりゃ?」


 その施設には、緑色の液体が詰まったカプセルがたくさん置かれていた。


「見て、この中に人がいる」


 翡翠はカプセルの中を見て、こう言った。ユアセルが周りを見渡すと、音を立てているカプセルを見つけた。


「何だこれは……」


 そのカプセルの中には、人型から変形しようとしている異形の物が入っていた。


「うわっ‼」


 それを見て、ユアセルは驚き、尻もちをついた。


「おいおい……まさかここでモンスターを作ってんのかよ」


 全てを察しした輝海はこう言った。その直後、近くのカプセルが割れ、中にいたモンスターが輝海を襲った。輝海は難なく撃退し、翡翠達にこう言った。


「このカプセルを全部壊すぞ‼この中にいるのは全部モンスターだ‼」


「はい‼」


 その後、翡翠達はカプセルの破壊を始めた。異変を知らせるチャイムが鳴り響き、部下達が現れた。


「何だお前らは!?」


「まさか、午前中の奴の連れか?」


「何でもいい‼全員ぶっ殺せ‼」


「痛い目に合うのはお前らの方だ‼」


 輝海は武器を出し、部下達と戦い始めた。輝海が振り回す槍は部下達を薙ぎ払い、宙へ吹き飛ばした。


「撃て‼撃ちまくれ‼」


 銃を持った部下達が、輝海に向かって発砲したが、翡翠が強風を発生させ、弾丸を落とした。


「ナイス!」


「姉さんはどこだァァァァァ‼」


 ユアセルの怒りの咆哮が響いた。その直後、無数の閃光が部下達を襲った。


「あまり力を使うな。大物と戦う時にばてるぞ」


 海人はそう言い、ユアセルを落ち着かせた。


「ここは俺に任せろ。忍びの力、見せてやろう」


 海人は両手に小刀を装備し、部下達を斬り始めた。


「ユアセル、ここは輝海さんと海人君に任せて、セミレットさんを探しに行こう!」


 翡翠がユアセルの手を引いて、こう言った。ユアセルは頷き、翡翠と共に扉から出て行った。

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