迷宮学園の殺人
オレ達は危機的状況に陥っていた。
けれども、誰もこの場から逃げ出そうとはしなかった。
目の前の光景を受け入れられなかったからだ。
これまで積み重ねてきた疲労が祟り、現実を受け入れるだけの体力がもう残っていない。
細い通路を抜けると、鉄錆びの香りがむわりと広がった。
足の痛みを堪え、肩で息をしながら辿り着いた小部屋には、至る所にべったりと血がこびり付いていた。
血だまりの中に倒れているのは五人の少年少女たち。
オレ達と同じ、ティエラ迷宮学園に通う一年生だろう。
一緒に行動していた少女が口元を押さえてその場に崩れ落ちた。
意識が遠のきかけたオレは、壁に手をついて体を支える。
……居心地の悪い沈黙の後、少年が口を開いた。
「ここまで、誰ともすれ違わなかったな」
「そう……、だな……」
オレはガリガリと壁に爪を立てて、意識を現実に繋ぎとめた。
処理限界を迎えて回らない頭なりに、彼の言葉を理解しようと脳みそを酷使する。
彼は鋭い目つきで小部屋の奥を睨み付けていた。
「ここまではしばらく一本道。俺たちはここまで誰ともすれ違っていない。……それじゃあ、これをやった犯人はどこに消えたんだ?」
「……」
彼の視線の先に目を向けると、通路が一つ先に延びていた。
重々しい空気がその先から流れてきているように思えた。
「俺たちは戻れない。ならば、大量殺人犯が逃げたであろうあの先に進むしかないんだ」
少年が指摘したことはオレたちの誰もが理解していた。
理解していたが、明確に言語化するのを拒んでいた。
……誰かが漏らした嗚咽がむなしく響き、空気は重々しく灰色に染まっていた……