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憂鬱 1
優は喫茶店で本を読んでいた。友人に勧められたものだったが、特に面白くも無かった。ただ話題合わせの為に読んでいるに過ぎなかった。
「はぁぁ」深く溜息をつき雨に濡れた緑の看板に目をやった。隣の席に男が座る。男もまたコーヒーを飲み、はぁぁ、と深く溜息をついた。老けている訳ではないが、どことなくおじさん、と言った印象を持った。それは、さっきのため息なのかそれとも洋服なのか、自分の高いとは言えない語彙力では表せなかった。
男がこちら向いて、小説、お好きなんですか。と言う。内心余り人と関わらない私は、緊張した。だが、なぜか私はその問いに答えた、「それほどでも」すると彼はまたコーヒーに口をつけ、そのまま何も言わなかった。今度は自分から、「あなたは?」不意に言葉が出た。すると彼はまぁ好きですよ、何をお読みで?と、答える。「アクロイド殺しを、」また私は答えた。いや、答えてしまったと言う方が正しいかもしれない。男の声にも雨の喫茶店にも、そういう効果があるのかもしれない。あぁそれでしたら私も読みましたよ、良かったですよ。今にも話のおちを言いたくなるほどに、、、その後、窓を向いた私にこう言った。
雨はまだ止みそうにない。