戦意高揚の詩
朝、私はいつもと同じ時間に起きたが、昨日告発の手紙を書いていたせいで少し眠たい。さて、この手紙は、誰に届けるのがいいのだろうか。校長にするか? まぁ、私はこの問題を取り上げるということを望んでいるから……主任に渡すか。あとは事が起きるのを待つのみだ。主任の机に告発の手紙を置き、そそくさと教員室を出る。さぁ、あとは呼び出しを食らうのを待つだけだ。もし、もみ消されたらそれはそれで問題があるからな……軍・兵学校教育委員会に訴えるか。そうするか。さて、暇になった。勉強のために図書館へ行くか。
軍学校の敷地内、正門からだいぶ離れた位置にある図書館。今は、電子書籍が主流だからあまり使われないため、図書館司書と指で数えられるほどの人数しかここを利用しない。まぁ、取り壊されない理由は希少価値の高い本をたくさん管理されているということだろう。さて、ドグラ・マグラでも読むか。窓際の席が空いていたのでそこに座る。外はしとしとと雨が降っていた。本を読んでいると図書館の奥の方から、椅子をひっくり返したガタンガタンという音が聞こえた。私は、読んでいた本に栞をはさみ、奥の方へ足を運んだ。
覗いてみると、一人の小さな少女と二人の男が居た。少女は、何かを訴えながら暴れ、男はその少女をなだめていた。趣味は少々悪いと思うが、事案が発生してはダメだからな。私は、三人の会話を耳を澄まして聞いた。
「依頼が来たと思ったら戦意高揚? いやよ! 私は、戦争なんか嫌いよ!」
「引き受けてしまったのですよ。仕事はちゃんとしましょう」
「そうですよ。終わったら、甘い物でも食べに行きましょう」
「物で釣ろうっての? ふざけるな! 私は、詩歌を書き始めてから写生文しか書かないの!」
何やら少女が駄々をこねているようだ。人が少ないとはいえど、大声を出すのは迷惑だ。注意をしなければ……私は、三人に近づく。少女は駄々をこね続けているようだが、男二人は私に気が付き会釈をした。少女の近くに近寄ると、彼女は不機嫌そうな顔で私を見上げた。
「図書館ではお静かにしてください」
「何よ」
少女は私をきっとにらんだ。初対面の人を睨みつけるのは、第一印象が悪くなるからやめた方がいいと思うが……まぁ、気が立ってる状態の彼女に言っても火に油を注ぐようなものだな。話が聞ける状態になったら言うか。そんなことを考えながら椅子に座る彼女をじっと見つめると、男が一人話しかけてきた。どうやら、この少女は詩歌を書いているようで、依頼された内容を書きたくないと駄々をこねているようだ。嫌なら最初から受けなければよかったのに……、しかし幼い少女ならば親が勝手に依頼を受けた可能性もある。とりあえず、この件に関しては私は無関係だ。頑張れみたいなことを言ってこの場から立ち去ろう。
「ほう、それはそれは……気の毒に……いい詩が書けるよう祈ってますね。それでは……」
記憶に残らずこれは去ることができたな、普通の人間ならここで引き止めはしないはず……
「……だったら、あんたが教えなさいよ。戦意が上がる言葉を」
少女は強い口調で私を引き止めた。この少女は普通じゃないのか、いや注意したのが間違いだったのか……。