彼らは
《彼ら》に触れられると、灰になって消えてしまう。
それは、この世界で生きている私たちには常識である。
私たちが生きるこの世界では生きる場所を争っているものがいる。
一つは私たちである。
もう一つは《彼ら》である。
《彼ら》に正式な名称はない。
私は《彼ら》と呼んでいるが他の人は《敵》とか《悪》とか《闇》とか呼んでいる。
《彼ら》に触れられると死んでしまう。
灰になり崩れて最後には消えてしまうのだ。
《彼ら》の詳しい事は何もわかっていない。
ただ分かっているのは真黒な見た目で触れられると私たちは死んでしまうことだけ。
男か女かがあるのかすらもわからない。
そんな、《彼ら》と私は戦わなければならない。
なぜ、戦わなければならないのか。
それは私たちと《彼ら》とで領地戦争のようなものをしているからだ。
私たちが生きるためには場所がいる。
住宅地や繁華街など生活していく上で必要な場所それを彼らと争い奪い合う。
そこで問題になるのは、どうやって《彼ら》に対抗するかだ。
《彼ら》が現れ3年ほどたったころ、このままでは人類が滅亡する危機を感じていたころ。
何か対抗する術はないかと政府が調べていたころ《彼ら》が決して近づかない場所があった。
そこを詳しく調べていくと、ある鉱石が見つかった。
その鉱石を使い武器を作り《彼ら》と戦った者がいた。ある意味無謀ではあったがそのものの行動はのちに勇敢と称えられた。
その武器で戦えば《彼ら》は傷つき最終的には倒すことができることが分かったのだ。
政府はそれを「神聖石」と名付け様々な武器を作り出した。
そして民に戦うように命令を出した。
だが、そう上手くは行かなかった。
「神聖石」を扱える人間は全員ではなかったのだ。
「神聖石」を使って戦うにはなにか特殊な力がいるらしく、適性がないと戦えなかったのだ。
そこで政府は新たな命を出した、民は全員年に一度適性審査を受けるように。
そして、適性があるものは誰であっても戦うことを命じた。
いくら戦うことができると言っても触れられると灰になってしまうのであればどんどんいなくなってしまう。
生まれてすぐ適性があることが分かると親と離され訓練をされ戦えるようになるとすぐに戦いに出される。
老人になり適性が出たものはその力の研究のため連れてこられる。流石に危険な研究などはされていない、と思う。
政府は適性者たちにランク制度をつけ若くして適性が現れ、戦場で死ぬことなく成長しランクを上げ歳をとることができたものは研究に回されずその後の世代の育成を任されることになる。
適性がないものは畑仕事をして自給自足ができるようにしたり、武器を作ったりして戦う者たちを支えている。
「あら?あなた見ない顔ねぇ」
「はい、私今まで訓練を受けてて今日から実践なんです!」
「あらぁ、そうなのあなたまだ若いのに...死なないように気を付けなさいねぇ」
「あ、ありがとうございます」
1年前、17歳にになった誕生日の日私は適性が見つかった。
誕生日に適性が現れたわけじゃない、たまたま検査の日が誕生日だっただけだ。
そして、私はそのまま政府の施設に連れていかれた。
施設で教わったのは《彼ら》が敵だということと戦い方それだけ。
ただそれだけを教えられて私はこれから戦いに出るのだ。
今までのようにシミュレーションなんかじゃなく実践だ。
私は生きて帰れるかわからない、それどころかこの隣のお姉さんもこのロビーにいる人たちの中のどれ程が帰ってこれるかわからない。
そんな戦場に私は行かなければならない。
「君たちがこれから行くのはショッピングモールだ。今激しくなっている最前線からは離れているので奴らはそう多くないだろう、そのため新人も多いが頑張ってくれ」
政府の偉い人がそう言った後、ベテランのランクが高いものから順に目的地へのワープゲートへと突っ込んでいく。
ついに私たち新人たちの番が来て私たちもゲートへと走って行った。
―――――――――――――――
タンッ
足を付けたが立ち止まってはいけない。
ここで立ち止まると後から来る人にぶつかるからだ。
「おい!新人はこっちに来い!」
鍛えられた肉体を持ち、いかにもランクの高そうな人物が新人を一か所に集めている。
新人はやはり多いようで集まると十数人いる。
私と同い年くらいの子も5人ほどいる。
皆やはり緊張した面持ちだ。
「いいか、君たちはまだ新人だ。幸いここは前線から離れているしこれから来るだろうがまだ敵はいない。新人の諸君は無理だと思ったら下がってくれても構わない、これが初めての戦闘の奴も多いだろう仕方ないさ。だが今回は若いものも多い、どうか死なないことを願う」
このおじさん、顔は厳ついがとても優しい人だ。
そう思った。
こんなところで集まって話をしていてもいいのかと思ったがおじさんの話を聞いている限りまだ《彼ら》は来ていないらしい。
良かったと思う反面これから来るのかと不安と緊張が溢れてくる。
ふと隣を見ると同い年ぐらいの女の子がいた。
彼女も同じようで泣きそうな顔をしている。
「うぅ、怖いよぉ。帰りたい」
と思ったら泣き出してしまった。
そっと隣にハンカチを渡した。
「あ、ありがとう」
「ううん、泣いたら前見えなくなるよ。これから戦うんだから頑張らないと」
頑張らないと。
それだけ聞けばなんでもないように聞こえるが私たちのことばの先にあるのは頑張らないと死ぬってことだ。
うん、頑張ろう。
「来たぞ!全員散れー!!」
少し遠くから聞こえてきた若い男の声に全員がハッとする。
何度も戦闘に出たことがある人たちは次々に散っていく。
私たち新人たちもベテランの後ろについて走り出す。
「おっりゃあああああ!!」
「はぁ!」
「ひっ!」
2体ほど倒したとき。
後ろから声が聞こえた。
見ると先ほどの女の子がいてじりじりと《彼ら》が近づいている。
女の子は腰が抜けたのか座ったまま後ろに下がっている。
「やぁっ!!」
私は自分の武器(剣より短くナイフより長い物)を彼女に迫っている《彼》に突き刺した。
すると、相手の動きが止まりサーと灰になり消えた。
「ありがとう」
「うん、気を付けないと!」
そう、話をした時だった。
唐突に本当に何の前触れもなく大量のワープゲートが現れた。
とても多い数だった。
誰がつぶやいたかはわからないが嘘だろ。と全員が思ったことを言った。
その先の地獄を誰も考えたくなかった。
しかし、無情にも《彼ら》は現れた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
誰かが叫んだ。
誰かが泣き出した。
誰かが、誰かが、誰かが、誰もが絶望した。
でも、死にたくない。
生きたい。
その為には戦わなければならない。
「ああああぁぁぁぁ!!!」
私はひたすら武器を振るった。
我武者羅に叩き付けるように、殴りつけるように、切りつけるように、突き刺すように。
ひたすらに我武者羅に。
もはや生きていることが奇跡だ。
隣にいるあの女の子が一緒に生きてることが救いだ。
私たちは怯える暇がなかった、嘆く暇がなかった、絶望に浸ってなんかいられなかった。
ただ生きるために、それだけのために動いてる。
「私たち、帰れるよねぇ!」
「帰ろう!一緒に、こんなとこで死にたくない!!」
そう、死にたくない!
そして、もう動かないエスカレーターを階段にして二階に上がった。
あの、最初に話してたあのおじさんがそこでは戦っていた。
二階は一階に比べて数が少ないみたいだ。
良かったと思いつつ自分も武器を振るう。
「俺は向こうの奴らの多いところに行く!ここは任せたぞ!!」
「頑張ります!」
元気よく返事をしたのは彼女だ。
ちょっと前までの不安げな顔でない、生きるんだという気持ちが前面に出ている。
「はぁ、やっと終わったね!」
「ここら辺にはもういないみたい」
そこにいた《彼ら》を倒すともういない。
少しほっとした。
二人で笑いあった。
そして、帰ったらどうしようとか考えた。
「私ねぇ、まずねご飯食べるの!美味しいやつ!で、フルーツをたっくさん食べるの!それで後悔しないようにいk
またしても唐突だった。
彼女のそこから先の言葉は聞くことができなかった。
目の前で。
すぐ手の届く距離で。
直前まで話していた。
笑っていた。
同い年くらいの。
私と同じ境遇であろう少女が。
さっきまで生きていた彼女が。
黒く染まっていく。
灰になっていく。
消えていく。
死んでいく。
「え、あ、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
彼女がいなくなってそこに立っていたのは、私より背の高い《彼》だった。
周りにも次々と《彼ら》がワープゲートから出てくる。
彼女を消したそいつがこちらに手を伸ばしてくる。
彼女を殺したその手を伸ばしてくる。
私に触れようとしてる。
触れようとしてる...?
「うぅ、あああああああ!!」
触れられてなるものか。
死んでたまるか。
私は生きるんだ。
生きてやるんだ。
嫌だ死にたくない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「絶対に生きてやる!」
右にいる奴を薙ぎ払い、左にいるものを突き、後ろに向かって振りかぶる。
はっきし言って精神的にも体力的にも限界だ。
でも止まるな、動け。
走れ、力を入れろ!限界なんて超えろ!
何度も何度も繰り返し念じながら動く。
―――――――ザシュッ
大きく振りかぶって薙ぎ払ったとき、反動でバランスを崩してしまった。
そこに、影が現れた。
その者の手がこちらに迫る。
あぁ、もう終わりだ。
なぜかその瞬間はゆっくりでひどく冷静で。
何にも聞こえなかった。
ゆっくりとゆっくりと手が迫ってくる。
そして、私の手に。
触れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!
じわじわと細胞が侵されていく感覚。
痛い、痛いよ。
助けて、嫌だ。
「・・・」
上から私に触れたやつが見下ろしているのが分かる。
とどめを刺してくれればいいのに。
じっと動かずそこにいる。
スッとそこにしゃがむ気配がした。
そして、それは私の手をとって何かを近づけている。
「な、にをっするつもり」
すると相手は驚いた顔をした。
「黒陽石、これを埋め込むとこの黒いのが早く回る」
「や、っめて」
小さな声だったがやめてというと彼は石を持った手を下ろし、隣に座った。
しばらくすると私の視界は端から暗くなって来た。
あぁ、やっと死ぬんだなと思った。
そう、思った。
意識が浮上する感覚があり、目を開けると夕日が綺麗な黄昏時だった。
「起きたか」
そう聞こえ、隣を見ると先ほどの男がいた。
白髪に濃い青目の若い男、右目の下にはスペードのマークがあった。
「あなたは、誰?」
「・・・」
何も答えてはくれなかった。
周りを見るとところどころ壊れている。
私の仲間たちはどこにもいない。
皆はどこに行ったのか。
「ねぇ、ここにいたひt「おーい!!ここにいたのかぁ」
隣の人に聞こうと思ったら、誰か来た。
あれ?お嬢ちゃんあれじゃねーの?俺たちを倒そうとしてた。ダメじゃん、メア。ちゃんと後始末しなきゃ」
「え、どういう」
こと、という前に現れた男は急に私の腕をつかんできた。
どう言うことだろうか。
初対面の男性に腕をつかまれるなんて。
「って、あれ!?え、メアこの子もしかして」
「そう言うことだ。帰るぞ」
そう言ってメア?って人は立ち上がった。
そして歩き出した。
あとから来た男はあとを追って歩き出した。
しばらく歩くとメアは立ち止まった。
「なにをしてるんだ?お前も行くぞ」
「えっ!私?」
「他に誰がいる」
そう言われればそうだ。
でも、そうですかと言ってのこのこ着いて行けるわけもない。
すると、ノアがこちらに戻ってきた。
「まだ、痛いのか?それならそうと言ってくれ」
動かないでいると、勘違いをされたようで急に私を横抱きにして歩き出した。
え、ちょ、え!!
「痛くないです!大丈夫ですから!下ろしてください!」
「遠慮するな」
「まぁ、甘えとけば~?」
と、そのまま連行された。
その後連れてこられたのはどこかの町だった。
「あら!メア、ルーク。あんたたち今日あのショッピングモール行ったんでしょ?おかえり、無事でよかったよ」
「あ、おばちゃーん!ただいま!」
先に男が歩き、後ろをメアに抱えられついていく。
家から出てきた女の人に話しかけられていた。
優しそうな女の人だった。
そして、ルーク?と話をしている。
あ、目があった。
「メア?抱えているのは女の子じゃないの?どうしたの?どこか怪我でもしたのかしら?」
「い、いえ!大丈夫なんですけど」
私が抱えられているからかとても心配してくれた。
眉も下がり本当に心配そうな顔だ。
申し訳ない。
「あ、あの。下ろしてもらっていいですから!」
「そうか」
やっと下してくれた。
「こっちだ」
「おばちゃん、ばいばーい!」
女の人と別れた後、ずんずんと奥へ進んでいく。
私の方が背が小さいしコンパスが違うんだから考えてほしい。
少し小走りになりながら着いたのは、大きなホテルだった。
ホテルの中に入り最上階に上がった扉が一つしかなくその中に入った。
めちゃくちゃ広い。
「さて!君の名前は?あ、僕の名前はルークでこっちはメアね!」
「え、あ、あぁ。私はリリ」
「リリちゃんかー!ねぇ、君は僕たちのこと分かる?」
「ルークとメア?」
違うのだろうか、先ほど自己紹介してもらったのだが。
名前を呼ぶと少しうれしそうな、だけどちょっと複雑そうな顔をルークはした。
メアはソファに座って何にも言わない。
どう言うことだろう。
「僕たちはね、物に触るとそのものの生命力を奪ってしまうんだ」
「え」
「すでに死んでいるもの、生きてないものは触っても平気なの家具とか食べ物とか。あと自分と同じ人種」
「人種?」
「回りくどかったね、つまり僕たちはさっきまで君と戦っていたんだよ」
「!?」
つまり、《彼ら》がこの人たち?
さっきの女の人も?
でも、《彼ら》は。
《彼ら》は敵で、倒すべき相手で。
じゃあ、この目の前のルークとメアが敵で。
「あれ、でも《彼ら》は真黒で顔なくてしゃべらなくてあれ?」
「真黒?」
「まあ、待てルーク彼女も混乱している。俺らも状況を整理したいしな。とりあえず今日は休ませてやれ」
そして、こっちだとメアに呼ばれ。いくつもある扉のうちの一つに案内された。
ここで休むように言われた。
扉が閉められると早速ベッドに倒れこむ。
さっきまで寝ていた(倒れていた)はずなのに疲れたのか、すぐに寝てしまった。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「おはよう~!」
朝起きて、部屋を出るとメアとルークがいた。
メアはソファーに座っていてルークはその横にある一人掛けのソファに座っていた。
「リリ、朝食前に少し話いいか?」
「はい」
メアが言うとルークがメアの隣に移動した。
ルークが座っていたところへ座れということなのだろう。
そう思い、そこに座った。
「それで、僕らのことは昨日話した通りなんだけど。君たちの中で僕らってどういう認識なのかなって」
「え、と。昨日の話を信じるなら私たちの中では皆さんは「敵」という認識にあたります。正式に名前は決められてはいませんが、倒すべき存在だとそう教わりました。真黒でしゃべらなくて詳しいことは分からない神聖石で作る武器で倒せるが害をなす存在だと悪だと教わってきました。だって触られると死んじゃうんですもん。だから倒さなきゃいけないって。なにより、私たちには他に選択肢はなかった」
「選択肢がなかった?」
「適性がある者は誰であれ戦わされる、拒むことはできない。今まででも拒んだ人はいるそうなんです、でもその人は研究のために研究所に連れて行かれて帰ってきませんでした。研究されて死ぬか、戦場で戦って死ぬか。どっちかしか残されてなかった。だから、何があるかわからない研究所に連れて行かれるくらいなら戦った方が生きれるって思って」
「そう...ありがとう。君にはこれからここで暮らしてもらうことになるんだ、詳しいことは朝食の後に話すけどいい?」
「え、あ。はい」
そう言われ、私たちはエレベーターを使い一階まで行った。
一階に食堂があるそうで、場所を覚えるようにと言われた。
扉を開けて食堂に入る。
広い綺麗な食堂だった。
一面窓で外が見える、二階もあるようで私たちは二階に向かった。
途中、メア様ルーク様と呼んでいる声も聞こえた。
何を食べるか聞かれ、適当にメニューから選んだ。
「あの、メアさんとルークさんって偉い方なんですか?」
「俺たちの中に地位などの格差はない。皆家族なんだ」
「でも、様とか仰々しく呼ぶ人もいるね。あんまり親しくない人は特に。リリちゃんも呼び捨てでいいし、堅苦しく喋んなくていいからね!」
「はい、じゃなくて。うん」
そうそうって言いながら頭を撫でられた。
そんなに子供じゃないんだけどな。
そう多いながら、食べ進め食べ終わるころにルークが私にここら辺を案内するよって言ってくれた。
メアは何かやることがあるらしくて戻るらしい。
「ここが洋服屋さんでー、ここがコンビニ!」
「へぇ!いろいろあるんだ」
「うん、リリちゃんがいたところと戦って半分こしてるからね。結構広いよー」
「あ、あの。あのね、憎くないの?だって私あなた達と戦って」
「...喫茶店入ろうか。昨日のおばちゃんのとこ!」
そう言ってルークは歩いて行った。
すると、昨日会った女の人の家に着いた。
家で喫茶店をやってるらしい。
ルークは扉を開けて手招きしてる。
それで二人で中に入った。
中では昨日の女の人がいた。
「あら、ルークじゃない!そちらは昨日の女の子?」
「おはよう、おばちゃん」
「何か大事なお話があるのね?ちょっと待っててお店閉めるから」
そう言って女の人は入り口に向かった。
すれ違いざまに好きなところに座ってなさいなと言って。
そう言われたのでテーブル席にルークと座った。
「さぁ、閉めてきたわ。何でも話しちゃいなさい!」
そう言って紅茶を持ってきてくれた。
あったかくてほっとする。
「リリちゃんさっきの話だけど」
「うん、だって。私あなたたちの敵だった、あなたたちの仲間を傷つけた!あなたの知り合いを私が殺してしまったかもしれない!!きっと、ここで生きてる人たちを傷つけたわ!私、ごめんなさい。ごめんなさい」
「落ち着いて、リリちゃんほら紅茶飲んで」
そう言ってルークは紅茶を勧めてなだめてくれた。
「僕たちはさ、触ったものが灰になっちゃうんだ。それは知ってると思う、僕たちだって殺したいわけじゃないけどどうしてもこうなる。君は僕たちの仲間を傷つけたって、殺したかもって言うけどそれは僕らだっておんなじだ。それに君のこと知ったし、君はもう僕らの仲間だ。憎くはないし恨んだりもしないよ。それに僕初めてあったとき君を殺そうとした」
「え?仲間?殺そうとしたって」
「そう、初めて会ったとき君を殺そうとした。触ろうとしたでしょ?メアにあったのにメアは優しいから殺さなかったんだと思って、だけど君に触っても君は灰にならなかった。だから「ちょっと待って!」
「そう、そうだ。私あの時あの子を殺した人が。それで触られて、痛くて。あれ、なんで生きて」
「落ち着いて、今から話すから。あのね、僕らと君たちは本来全く違う存在なんだ。だけど、時々両方の性質。とは違うな、僕たちに耐性を持って生まれてくる人が出てくる時がある。例えるなら僕らの持っているこの力がウィルスのようなもので耐性を持って生まれ僕らの力に触れて耐性が強いものは抗体ができる場合がある。これがリリちゃん」
「え、でもそんな人聞いたことない。もうあなた達との争いは100年も続いてるのに」
「その100年で耐性を持った人は5人抗体が作られたのはリリちゃん含めて3人しかいないからさー、多分向こうは知らない。」
「そうだったんだ...私以外の二人はどこに?」
「一人はずいぶん昔の人だったからもういないんだ。それで、もう一人が「私よ!」
「え、」
そう言ってクッキーを持ちながら現れたここの主であろう女の人。
え、この人が私とおんなじ?
「アリシアよ!アリシアお姉さんとでも呼んでちょうだい!」
「お姉さんって年でもないくせに~」
「そんなこと言う口はこの口かしらー?」
痛い痛いとルークとじゃれあうアリシア姉さん。
そんな様子を見ていると敵同士だったとは思えない。
「ふふふ、リリちゃんよね?嬉しいわぁ、同じ彼らを理解できる人が現れるなんて!」
「アリシア姉さん、は私と同じあちらから来たんですか?」
「そうよ、貴女と同じくらいの年の時にね。ねぇ、貴女家族とは仲が良かった?」
「はい...」
「そう」
辛かったわね。とアリシア姉さんは私を抱きしめた。
そうか、この人は私の気持ちが分かる上に私と同い年の時に来たと言った。
つまり、あそこに入ったのも私と大体同じくらいの年だったのだろう。
「...っ」
「泣いていいのよ、泣いちゃいけないことなんて何にもない。辛かったわよね。苦しかったわよね。悲しかったわよね。大切な人を殺されるのは。知らない人でも目の前で死んでいくのは怖かったわよね」
「...う、ひっく...私っ、分かったの、誕生日の日でっ!っおと、さんとお母さんは連れて行かないでって!せめて、今日だけでもって!...わた、しも行きたくなくて!そしっら二人とも...っ!」
「やっぱり・・・」
「あの、おばちゃん」
ぽんぽんと子供をあやすようにアリシア姉さんは背中を叩いて、辛かったねって言ってくれて。
私も我慢できなくなってしまった。
困惑してるルークには申し訳ないけど、私はもう喋れそうにない。
「あのね、ルーク私の時もそうだったの。向こうでは適性を持っている人しかあの武器を扱えない、だから誰であっても適性が見つかったらすぐに政府の施設に連れて行かれるの。適性が見つかった子供の親の多くはもちろん反対するわ。いくら報酬が支払われるって行っても危険だもの、そんなところに子供をやるなんてって。でも、あまりに抵抗すると殺されてしまうの。私やこの子の親のようにね」
「そんっな、そんなのってねぇよ!」
「そうね、酷いわよね。でもそんなことがしょっちゅう行われるのが政府。武器を扱える適性者も使い捨ての駒みたいなものなのよ、顔すら覚えてない。だからこそ私やリリちゃんがいなくなってここにいるのも分からないんでしょうけど」
「あの人たち、私の両親を殺して言ったの。「こいつらの代わりなんていくらでもいる、だが君は違う」って何が違うのか分からなかった。私にとっては唯一だったのに」
「そうよね...私の時も似たようなこと言われたわ」
「最っ低!!ほんと最低だよ!誰!?そいつどこの誰?ちょっと殺ってくるわ」
「落ち着きなさいバカ」
そんなことを言って出て行こうとしたルークをアリシア姉さんがどこからか出したスリッパで叩いていた。
面白い。
それに、自分のことではないのにここまで怒ってくれることがうれしかった。
「ありがとう、ルーク」
「え、なんでお礼!?僕まだ何にもやってないよ?」
「いいのよ。ねぇ、リリちゃんここはいいところでしょ?ここに住んじゃいなさいな、歓迎するわ!皆ね家族みたいなの。私ここに来れて良かったと思うわ、旦那や子供にも出会えたし」
「え!姉さん旦那さんとお子さんいるの!?」
「あら?まだ聞いてないの?ここではね、抗体がついた人は最初に触れられた人に嫁ぐのよ?」
え、最初に触れられたって?
嫁ぐって結婚するってことだよね!?
私、まだ18だし。あ、でも結婚はできる歳か。ってそうじゃなくて
「あらあら、混乱してるわねぇ。この子に最初に触れたのって」
「メアだよ」
「まぁ、大変ねぇ」
「まぁ、そこら辺はあとで話そう!メア入れて!そうと決まればここら辺案内するよー、公園があるんだ」
そう言いながらルークはまだ混乱している私の手を引っ張り歩き出した。
え、行くの?ちょっと助けて姉さん!と思いアリシア姉さんをみると笑いながら手を振っていた。
どうやらもう行くしかないようだ。
喫茶店を出てまっすぐ行くと賑やかな場所から離れたところにとても広い公園があった。
小さな子供たちが遊んでいる。
「子供もいるんだね」
「そりゃあね!流石に戦いに小さい子たちは出せないよ。それに自らやるって言った人たちにしかやらせてない」
「そうなんだ」
私たちのところとは本当に違う。
世界がまるきり違うようだ。
私も最初からこっち側に生まれたかったな。なんて。
そんなことを思っていると下からくいっと服を引っ張られた。
「だっこ」
「え、」
「だっこ...して?」
小さな男の子だった。
両手を広げてこっちを見ている。
どうやら、私にだっこをしてほしいみたい。
してもいいのだろうかとルークを見るとニコニコ笑って頷いたので私はその子をだっこした。
「エル、珍しいね。公園にいたんだ、誰に連れてきて貰ったの?」
「ロビンおばさん」
「ルークこの子と知り合い?」
「うん、この子親がいなくってそういう子は皆で育てるんだ。でも、エルがなつくなんて珍しい。抱っこまでせがむなんて」
「そうなの」
「そうだよー?すぐなついたのはメアぐらい」
そう言っていたら、また下から引っ張られた。
下を見ると今度は女の子だ。
ふわふわしたピンクの洋服に髪はハーフツインテールにしていかにも女の子って感じの女の子だ。
「どうしたの?」
「おねーちゃん一緒にあーそーぼ!エルも一緒に!!」
「えー、僕は入れてくれないのー?」
「仕方ないからルークも入れてあげるー!!」
ふふふー、となぜか得意げにルークにどや顔をして入れてあげると言っていた。
エルも遊ぶというので一緒に砂遊びを始めた。
砂で山を作ってその山に穴をあけて開通させてみたりドロ団子を作ってお店屋さんごっこをしたり、滑り台を滑ってみたり。
たくさん遊んだ。
「私ねー!逆上がりできるんだよ!」
「そうなんだ!ミリアちゃんすごいねぇ」
「えへへー」
かわいらしくミリアちゃんは笑った。
そう、彼女はミリアちゃんと言うらしくエルを連れてきてくれたロビンさんの娘さんらしい。
ふわふわとしたかわいらしい見た目とは裏腹に意外とアクティブだ。
そのロビンさんは電話がありちょっと離れたところで電話をして帰ってきたら私たちが遊んでいたので遠くから見ていたそうでさっき「遊んでくれてありがとう」と言われた。
クールな感じの人だった。
「そろそろ帰らないと、ミリア、エル帰るわよ」
「あ、エルは僕たちが連れて帰るよ」
「あぁ、そうね。帰る場所が一緒だものね、じゃあ私たちはこれで」
「おねえちゃーん!!ルーク!エル!ばいばーい!!」
ばいばいと三人で手を振って別れた。
エルはまただっこと言ったので今私が抱えている。
「エルはホテルで暮らしてるの?」
「そうだよ、皆で育ててるって言っても主に面倒を見る人は決めるんだ。エルはメアが面倒を見てる。まぁ、メアは忙しいから他の人が面倒みることが多いんだけどね!それにあそこは人が多いし子供もたくさんいるしね」
「そうなの」
子供が多いんだ。
それに周りの大人も面倒を見てくれるんだ。
それは私にとってとても新鮮な感じだった。
向こうではみんなどこか冷めていて、自分や自分の家族が生きることに必死で他のことなんて全く見てなかった。
本当にここは皆が大きな家族みたいだ。
「ただいまー、メア」
「ああ、おかえり」
「ほら、リリちゃんとエルも!おかえり!」
「「ただいま」」
ただいまと言うのは久々だ。
ただいまと言う相手が今までいなかった。
それが言えるだけで嬉しくなる。
「よし!エル!今日は僕と寝よっか!」
「やだ、一人で寝る」
即答で振られてた。
しかも、一人で寝れるじゃなくて一人で寝るって言われてる。
「ふふっ、あっははははは」
「あー!リリちゃん酷いよー!!もう!何が何でもエルと寝てやるー!!」
そう言ってルークはエルを抱えて走って行った。
え、エル嫌がってるけどいいのかな...
「リリ、立ってないでこっちに座れ。聞きたいこととかあるんだろう?」
「あ、うん」
二人が去って行った扉を見つめているとメアに話しかけられた。
そうだ、いろいろ聞きたいことあるんだった。
「え、と私抗体がついてて、そういう人は最初に触れられた人に嫁ぐって。それで私に最初に触れたのはメアだって聞いて」
「そうか、聞いたのか。そういうことになってるがあまり気にしなくていい。俺はお前の友人を殺したのだから、そんな男に嫁ぎたくはないだろう?」
「友人を殺した?」
「そうだ、俺があのショッピングモールに移動した際ワープの出口にお前と一緒にいたあの少女がいて触れてしまった...」
「あ、あぁ。あの子か。でも、それはメアのせいじゃないでしょ?」
「だが、殺してしまったことには変わりない」
「あのね、メア。確かに私とあの子は一緒に行動してたし同じところに所属していたけれど友人ってほどじゃないの。顔を見たのすらあの日が初めてだったし...それにね、私も同じことあなた達にしてしまったわ。でも、ルークがね許してくれたの。あと、私の方がひどいわ?だって、あなた達のことよく知らずに自分が生きるために殺そうとしたんだもの。だから、これから皆のこともっとよく知って仲良くなれたらいいなと思うわ!結婚とかそういうのはまだまだ考えられないし、よく知らないから出来ないけどこれから知り合っていきたいと思うの。ねぇ、メア。私ここにいていいのかな」
「もちろんだ!リリ...ありがとう」
本当に私は酷い人間だと思う。
空っぽだったし今もまだなんにもない。
けど、自分勝手だと思うけどこれから色々なことを知って作っていけたらいいなと思う。
「これからよろしくね!メア!」
そうして、私の新しい人生が始まった。
これからはきっと楽しい日々が始まるだろう。
―――――――――――――
「ちょっとメア!離れて!アリシア姉さんのところにバイトしに行かなきゃいけないんだから!!」
「バイトなんてしなくていいじゃないか。リリはずっとエルと俺のそばにいればいいのに...」
「エルは私と一緒に姉さんのところでお手伝いよ!」
「おかーさん、遅刻するよ?」
彼から随分と月日が経ち、私は色々なことがあった。
メアがここの王様的立場だったってことを知ったり(ある日ルークが突然「あ、メアってここの王様なんだよね☆」とか言った。目の下のマークがその証らしい)
メアのことが好きになってしまったり。
アリシア姉さんがうちで働かない?と言ってくれたり。
エルがもっとなついてくれてなかなか離れなくなったり(これは別にいい。嬉しい)
メアに唐突にプロポーズされて結婚したり。(緊張しすぎて付き合うより先に結婚という言葉が出てきたらしい)
エルが私とメアをお母さんとお父さんって呼ぶようになったり。
メアがエルと私に過保護になったり。
ロビンさんとママ友的な関係になったり(色々と世話を焼いてくれるとてもいい人だった)
ルークが唐突に遊びに連れだしてくれたり(帰るとメアに怒られる)
まあ、主にメアが関わってくるんだけど。
私は本当にここに来れて良かったと思う。
向こうの人とこっちの人が分かり合えたらいいのになとも思うけど、向こうは悲しいことが多すぎてあまりいい思い出がないから別にどっちでもいいかなとも思う。
ただ、戦いはまだ続いている。
だから私は、どうかどうかみんなが無事が帰ってくるのを祈るばかりだ。
いつか、どうかこの戦いが終わりますように。
そして、平和な世界で笑い会えますように。
「おとーさん、いい加減離れてあげなよ」
「でもな、お父さんはお母さんとエルが心配でな?」
「いや、アリシア姉さんのところ行くだけだから!」
「変な客に絡まれたらどうするんだ!」
「撃退するわよ!元戦闘員なめないでよ!」
「でもっ!」
「ていっ!まーた捕まってたの?メアも過保護ねぇ、いい加減にしないと愛想着かされるわよ?」
「姉さん!!助かりました!エル行くよ!」
「うん!!」
ああ、今日も(一応)平和だ。