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プロローグ 異世界に召喚されたおっさん

 俺の名前は稲荷山佐治いなりやまさじ、41歳。

 仕事はただの会計事務所の事務員だった。

 結婚はしていたが、前に離婚した。

 原因はなんだったか・・・、もう思い出すことも出来ないが些細な事だったと思う。

 子供は居なかった。

 妻が子供を作るのを極端に嫌がったんだ。

 理由はわからない。

 けど今、俺はなぜか子供達に囲まれている。


 「さじせんせー。リリーが泣いてるー。」

 「せんせー。ルーファがリリー泣かせたー。」

 「ちげーよ!リリーが勝手に泣いたんだよ!」

 「ルーフィがリリーの玩具取ったんでしょ!」

 「――――――――!」

 「さじせんせー。メティアが大人が来るって言ってるよー。」


 俺の周りには15人の子供達が居る。

 ちなみに子供達は人間じゃない。

 リリーって子はアラクネだし、ルーファって子はスライムだし、メティアって子は妖精だ。

 なんでこんな状況なのかって?

 アレは・・・ちょっと前の事だ・・・。





 俺は休日、草野球の帰りにコンビニに立ち寄って、おにぎりとパン、それに酒とツマミ、それに仕事で使う飴を買って家に帰る途中だった。

 ちなみにおにぎりの具は鮭が好きだ、パンはロールパンが良い。

 あれにハムとゆでたまごをマヨネーズでぐちゃぐちゃにしたのを挟むと美味いんだよ。

 夜のうちにぐちゃぐちゃにしたのを用意して朝飯に使う予定だったんだ。

 まぁそんな事はどうでもいい。

 問題はその帰り道なんだ。

 途中奇妙な祠を見かけたんだよ。

 いつも通る住宅街の道なのに全く知らなかったんだ。

 けどなんとなくそれに目を惹かれて、買った酒も日本酒だったし少しだけ酒とツマミを供えたんだ。

 野球の時の余りの紙コップがあってよかった。


 『あなたは・・・ここが見えるのですね?』

 「だ、誰だ!?」

 『そうね・・・あなたが良い・・・。私の願いを叶えてください・・・。』

 「な、なんだぁ!?」


 俺が困惑していると、祠が光を放ち俺を飲み込んだ。

 何が起こっているかわからなかったんだがその答えはすぐにでた。

 目を開けると住宅街じゃなく森の中だった・・・。

 何を言ってるかわからないだろうが俺もわかっていない・・・。

 もう一度状況を整理しよう・・・。

 コンビニから家に帰る途中に祠を見つけてお供え物したら光りに包まれて気づけば森の中・・・。

 うん意味がわからん。


 『突然すいません・・・。』

 「この声・・・。この状況あんたのせいか!俺に何をしたんだ!」

 『すいません・・・。けれどあなたしか居なかったのです。』

 「謝罪はいらん!理由を言え理由を!」


 聞こえてきた声は若い女のものだった。

 申し訳ないというのは声からわかるがどこに居るかもわからない。

 目の前に居たならド叱る所だ。

 拳骨の一つでも落とさねば収まりがつかん!

 だがまずは理由を聞かねばならん。

 それを知ってからきちんと筋道立てて叱るのが大人の役目と言うものだ。


 『まず最初に説明しなければならないのはここが異世界だと言う事です。』

 「はい?異世界?」


 異世界というとあれか?地球と異なる世界って事か?

 多少そういう小説なんかにも触れた事があるからわかるが、あっさりと「はい、そうですか。」と認めることが出来ない・・・。

 そもそも明日からは確定申告の対応でスケジュールが一杯のはずだ・・・。

 そんな所にほいほいと来ている場合ではない・・・!


 「いや異世界とか信じれん。良いから家に返してくれ。明日から忙しくなるんだ!」

 『残念ですが・・・戻ることは出来ません・・・。あなたはこれからその目の前にある道の先にある町へ行ってΕΣΤΙΑの使いと言いなさい。』

 「は?ヘスティアー?だから意味がわからん!ちゃんと説明しろ!」

 『これ以上話すことが叶いません。森には危険な生物が居るのであなたに守りの力を授けます。』

 「人の話を聴け!おい!こら!返事をしろ!!」


 それから何度も呼びかけたが返答はなかった。

 どうする事も出来ないまま近くに転がっていた荷物を持って森を抜ける事にした。

 ちなみにさっきまで居たのはなにやら祠っぽい場所で、その祠は俺が住宅街で見たものと同じだった。

 何度もその祠で祈ってみても何も起こらないし諦めた。

 道は一本道でそれなりに整備されていたし、野球の帰りで動きやすい服をしていたから歩きにくいという事は無かった。

 しかし訳の分からない異世界転移をしたが、空気が美味い。

 道は多少手入れされていたが森は手入れされていない。

 というより人が手入れをしていない様に見える。

 手付かずのままの自然の空気を感じていると、近くの茂みでガサガサと音が聞こえた。


 「や、やばい!野生動物か!?」


 慌てて野球バットを取り出す。

 普通のどこにでもある鉄製のバットだ。

 野生動物相手にこんなもの役に立つとは思わないがないよりはまぁまし程度だろう。

 ちょっと怯えつつ構えていると出てきたのは小さい子供だった。

 手には籠を持っていたから多分森の中で山菜や茸など採っていたのだろう。

 野生動物も居るかも知れないのに不用心な。

 いや、俺がこの辺りについて知らないだけだから下手にそういう事を注意できないが・・・。

 とりあえず子供だった事に安堵を憶えて構えを解くと違和感に気づいた。

 その子の目が点なのだ。

 いや漫画的表現とかじゃなく目が点。

 しかもその点が見えるだけで八個。

 そういうピアスとかもあるし、とりあえず考えないでおこう。

 けどこんな小さな子がピアスなんてするのか?

 いや、どう見てもこの子は日本人ではない。

 ならそういう風習の国の子かもしれない。


 「えっと君この辺の子?」

 「おじさん誰?」


 おじ・・・さん・・・。

 慌てるな落ち着け・・・、確かにこんな小学校低学年位の子からしたらおじさんだろう俺は・・・。

 取引先の子供からもおじさんって言われていたからな・・・。

 けどやっぱ言われるとキツい・・・、雨が降ってないのに目元が濡れてしまう・・・。

 まぁ今は深く考えるな・・・、日本語が通じた事が重要だ。


 「えっと、おじさんはね。ヘスティアーの使いらしいんだ。この先の町に行くように言われてるんだけど、君その町の子供かな?」

 「ヘスティアー・・・?もしかしてΕΣΤΙΑ様の使い?じゃあ新しい人だ!こっち!付いて来て!」


 なにやら嬉しそうに俺の手を引っ張ってくれているがまた違和感を感じる。

 冷たいわけじゃないんだが、体温を感じない。

 低体温症か?いや、それでも不自然なほど体温を感じない。

 なんというか・・・そう、昆虫を触っている感覚だ。

 目が点だったり体温を感じなかったり、俺をこの世界に連れて来た奴が異世界と言っていたからこの子はやはり人ではないのか?

 疑問はいくつも湧いてくる。

 けれど目の前で俺の手を引く少女にあれやこれや質問するのは間違っているだろう。

 それに少女が町へと案内してくれると言うのだ、そこに居る大人に聞いた方が良いだろう。

 疑問があるから子供にあれこれ聞くなんて大人として失格だ。

 今は落ち着いて少女の案内に身を任せよう。

 その間に疑問の整理だ。


 一つ、この世界は本当に異世界なのか。

 これについてはある程度受け入れ始めている。

 なぜなら見たこと無い植物が多いからだ。

 花屋にも顧客は居たがそこまで詳しいとはいえない、けれどある程度なら分かる。

 けれどこの世界の植物はどれもこれも俺の知っている物と違う。

 なんというか進化論から外れている、そんな感じがある。

 精神衛生面で外国だからという理屈もあるが、俺は日本の住宅街にいたのだ。

 異世界と外国・・・どっちがマシだろう・・・。


 二つ、この少女について。

 先程も疑問に思ったこの少女だ。

 多分目であろうものが点、それが八個ある。

 それに手から伝わってくる体温の違い。

 まるで昆虫だなと思った事からもしかしてこの子は蜘蛛?

 いやしかしそれ以外は普通の子供にしか見えない。


 三つ、ヘスティアーについて。

 どうも俺の発音がおかしいらしいが言葉としては間違っていないらしい。

 そういう名前のキャラの小説を読んだ事があるが同一の神だろうか?

 たしかギリシア神話の一柱だったか?

 竈の女神で慈悲深く、のんびりした女神様だったか?

 なんでギリシア神話の女神の祠が日本の住宅街にあったとか異世界にもあるだとか疑問は尽きない・・・。


 考えれば考えるほどわからない事だらけだ。

 今考えた三つが大きな疑問点である事は間違いはない。

 そんな事をうだうだと考えていると森の先に大きな壁が見えた。

 森の中に塀があるのか塀で森を囲んでいるのかどちらかはわからない。

 けど森の中にある道は確実に塀にある門へと繋がっている。

 それほど大きい門ではなく大型トラックが一台ぎりぎり通る位だろうか?

 よし考えるのは後だ、とりあえず今は目の前の少女に着いていこう。

 そう考えながら俺は少女に手を引かれ、門へと向かうのだった。


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