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おばけの国、21

 先頭を走りながらウルルさんは華麗に枝を振ります。

 剣術なんてよく知らないチェロの目から見ても、腰から回る見事な枝さばきです。 


 ぴしりぴしりと枝を振るうと、フワフワおばけもモノバケもみんな悲鳴を上げてひっくり返るのです。

 よっぽど痛いのでしょう。


 おばけの門に近づくにつれ、急にチェロたちを捕まえようとするおばけたちが増え始めました。


 まだ門の近くにはおばけたちがひしめき合って大騒ぎしているのが見えますが、こっちに逃げてくるおばけも大勢いるので、チェロたちを見ていたおばけもいるのかもしれません。


 さっきジャックオがいたところからお池を挟んで反対側を進んでいますが、なにか指示でも出ていることも考えられます。


 おばけ布がない今、どうやって門までいけばいいのかチェロはずっと考えていました。


「そうだ! さっきピアノちゃんポンポンに『おいでー』っていったらきたっていってたよね」


「そう・・らよー」


「もう一度呼んでみて、あんなにたくさんいたんだもん、助けてくれるかも!」


「うん・・やって・・みるー! ポンポン!・・おいれおいれー! こっちら・・よー!」


 さすがにピアノも息が上がってきていますが、元気な声でお空に呼びかけました。


「おいれおいれー!」


「はあい、はい。きましたよー、オチビさんたちー!」


 ぎょっとして振り返ると、ギターのような楽器から体の生えたモノバケがすぐ後ろに迫っていました。


「ギターおばけらー!」


「ギターじゃありませんよ。マンドリンですよ」


「わあー! あっちっけー!」


「まあ待ちなさい、ホレ待ちなさいおほほほ」


 マンドリンばけは長い手足を使った余裕のストライド走法で簡単に横に並びました。


「さあ捕まえます、いま捕まえますよ~」


 楽しげに笑いながらヒョイと手を伸ばしてきます。

 

 チェロは咄嗟にスプーンを咥えると、マンドリンばけにピューっと聖水を吹きかけました。


「ドアッチェエエエ!」


 悲鳴をあげてひっくり返ったマンドリンばけは倒れてジャローンと弦を鳴らしました。


「よし! やっぱり効いたよ!」


「ちぇおちゃんしゅごー! ピャーノもやる! ピューってしゅるー!」


「サロンも・・わたしも・・」


「うん! これで少しは戦えるかも」


 ですがやはりチェロたちに向ってくるおばけはどんどん増えてきます。

 ついにチェロたちの前進は止まってしまいました。

 次々にやってくるおばけたちをいなすのが精一杯です。


 ウルルさんは少し体の切れがなくなってきたようにも見えましたが、その分チェロとピアノとサロンさんはピューっと吹いてはスプーンを咥え、交代に忙しく頑張りました。

 風船膨らました時のようにもうほっぺの内側が痛くなってきましたがそれでも頑張りました。

 

「ぼくもやる!」


「え?」


 全然戦いに参加していなかったぽっくいがしびれを切らせたようにチェロのスプーンを咥えました。


 チェロは驚いてスプーンを引っ張りました。おばけたちは聖水がかかると悲鳴を上げて逃げていくのです、ぽっくいだってただではすまないでしょう。


 ですがぽっくいは凄い勢いで聖水を吸い込んでパンパンに膨れ上がると放水車さながらに噴き出したのです。


 周りを取り囲んでいたおばけたちは悲鳴を上げて逃げ惑います。

 モロに聖水を被ったおばけはその場にトロトロと溶けてしまうものもありました。

 噴出の勢いで周りには霧が立ちこめ、ピアノは「ぽっくいしゅご~い!」と飛び跳ねました。

 広範囲を薙ぎ払ったぽっくいはすぐに第二弾の充填を始めます。


「ぽっくい、大丈夫なの!?」


 チェロはびっくりしながら訊ねましたが、ぽっくいはスプーンを咥えて風船のように膨れながら、上目遣いでウンウンと頷きました。


 なぜだかわかりませんが平気みたいです。

 ぽっくい砲・第二弾の弾幕を張った中、チェロたちはまたジリジリとおばけの門の方へ動き出しました。

 その最中、チェロは大変なことに気がつきました。


 逃げ惑うおばけたちのうち、聖水をもろに浴びたおばけは溶けてしまったように見えたのですが、よく見ると違ったのです。


 モノバケはおもちゃだったり、お茶碗だったりもとの姿にもどりつつ、その足元にとろりとした液体を残し、ふわふわおばけも溶けた後にはやっぱりとろりとなったあとそれでもピクピクと震えているのです。

 それはチェロにとっては見慣れたものに見えました。


―― あれ? スライムだ!


 物心ついた頃にはすでに身近にスライムがあったチェロにとって、それは見間違えようもないものでした。


 おばけたちはスライムで体を成していたのです。


 さらによく見ていると、スライムになったおばけの体からなにやらモヤモヤしたものが浮かび上がりました。


 そのモヤモヤは意外なスピードで飛んでいくと、音もなくお池に飛び込みました。

 そしてすぐに一回り小さなハンディサイズのおばけが「アー、ビックリシター」なんて高い声でいいながら浮かび上がってきたのです。


―― あれ! じゃあお池のお水はみんなスライム!?


 ハンディおばけは、「ヤー、マイッタナー」なんていいながら飛んでいってしまいました。

 チェロは驚きのあまり、飛んでいったおばけの方を見ながら固まっていましたが、その視界にふわふわしたものが入ってきました。

 雪・・・に見えましたがそれは、


「ちぇおちゃん! ポンポンきたよー!」


 ポンポンがピアノの呼びかけに答えてくれたようです。

 無数のポンポンが、雪のようにチェロたちの上にどんどん舞い降りました。


 凄い戦いの中にいるはずなのに、チェロはなんだか安心してホッと溜息をつきました。



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