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おばけの国、18

 石の台座の穴にそっと玉を入れると、中から「コーっ」という玉の転がる音がしました。


 音は段々下に下がりながら時々「カリン」とか「キラン」とか澄んだ音を鳴らし、やがてコトンという音が聞こえました。


 少しして「ドコン」という重い音が辺りに響き、続いてごごご~と低い音が地面を細かく揺らしはじめます。


 おばけの門が開き始めました。






 逃げ回っているはずのニンゲンを探せなんていわれたフワフワおばけのうち一人が、ふんふ~んと鼻歌を歌いながらプヨプヨと空を飛んでいました。

 はじめのうちは面白かったのですが見つからないものを探していてもすぐ飽きてしまい、今はもっと面白そうなことを思いついておばけの門の周りをウロウロしています。

 もうすぐおばけの門が開く時間です。

 おばけのくせにお顔にそばかすを散らしたわかりやすいイタズラ者のそのおばけは、門が開いたらニンゲンの街に一番乗りしてやろうと考えたのです。一番最初に街に着いたらみんなに自慢できるし、それだけ長く街で遊んでいられます。今年はどんなイタズラをしてやろうかな?なんて考えながらニヤニヤ笑っているのです。


 そこへ「ドコン」と重い音が届いてきました。

 あれ?ちょっと早くないかな?なんて思いましたが、なんにせよ毎年聞いているおばけの門が開く音です。そばかすは、二ヒヒと笑いながら門の方へ飛んでいきました。


 なのに、気がつけばいつの間にか門の前にひとりのおばけが立っていたのです。

 そばかすおばけはチェーっと口を尖らせました。せっかくの一番乗りがとられてしまったと思ったのです。

 ですが不思議なことにそのおばけは門から離れてトコトコ歩いてくるのです。

 まだ少ししか開いていない門の隙間から出てきたのでしょうか? 

 そばかす以外にも少しづつ門へ集まっているおばけたちがいる中、そのおばけは両手を上げて「お~いタイヘンだよ~」と大きな声でいいました。


 そばかすも周りにいたおばけたちも「なんだ?なんだ?」と集まってきます。

 近づいてみるとそのおばけは凄く変なおばけでした。

 体は妙にでこぼこしていて、なんと足が八本もあるのです。こんな変なおばけは見たことがありませんでした。


「わたしはニンゲンの街に住んでいるエライおばけだー。今ニンゲンの街ではタイヘンなことが起こっているぞー」


 その変なおばけが急に変なことをいいはじめました。


「タイヘンなこと?」

「なになに~?」


 集まってきたおばけたちが口々に聞くと、その変なおばけはフーっと一息ついてから


「ニンゲンたちは街中のお菓子や食べ物を全部秘密の場所に隠してしまったんだー!」


 と、とっても大きな声でいったのです。





 さっき結界の中でみんなと相談しました。

 まず、チェロとピアノがなぜこの国に来ていたのかを説明し、改めておばけ達が街の食べ物を全部盗ってこようとしていることサロンさんとウルルさんに伝えました。ウルルさんは青くなって黙り込んでしまい、サロンさんはポカンとしていましたが、「・・じゃあその変な団扇・・を取り返せば・・」といいます。ここへきて意外にも大胆な意見でした。

 それを聞いてチェロは「あ」とおめめを小さく丸めました。

 早く街に帰ることばかり考えていたせいですっかり忘れていましたが、その変な団扇のせいでおばけたちは乱暴者になってしまったのです。じゃあその団扇を取り返せばおばけ達は元に戻って、街の食べ物を盗ってこようなんて考えなくなるかもしれません。


「なんかね・・持ってるだけで・・人を変えてしまう恐いものがあるんだって・・じゅ・・じゅ・・ジュムツ?・・だったかな? でもそういう恐いものも聖水できれいにできるんだよ・・きれいにするところ、サロン見たことあるよ・・」


「聖水で・・」


 少しだけ顔を見ながら話すようになってきたサロンさんの言葉にくっついて、みんなの目がチェロの首元に集まりました。

 聖水ならあります。そして洗えばきれいになると聞いてチェロの中の別の火口に火がつきました。


「よ~し、その団扇、お洗濯しちゃおう!」

 

 お洗濯すればみんなニッコリニッコリになるはずです。

 チェロはペンダントのスプーンを握り締めて強くうなずきました。


「でも・・どうやってそのおばけのところまでいくの・・」


 サロンさんのもっともな意見に、「じゃあ・・」とウルルさんが真剣な顔で提案しました。




 


 おばけ布の中でチェロは緊張しながら小さな声で後ろに尋ねました。


「えっと。なんだっけ? ぽっくいがいってたこの国のエライおばけって?」


「えっとね、ん~とね。たしかね、シャックリらよ」


「シャックリ!? そうだっけ?」


「・・ジャックオ・・だったと思うよ・・」


「あ、そーらった。ヤックオらった」



 今みんなは残っていた二枚のおばけ布の中に一列にくっついて入っています。

 先頭がチェロでその後にピアノ、その後ろにサロンさん、最後にウルルさんです。

 みんなで一緒にがんばろう!って言ったら、なんとなくこうゆうスタイルになりました。

 さっきまでの格好はもうばれてしまっているのでちょうどいいとも思ったのです。

 それになんだか心強いし、ちょっぴり楽しいのです。

 この格好でジャックオに近づいて団扇をなんとかして、さらにぽっくいを助け出そうという作戦です。

 

「早くぽっくいというおばけを連れていかないとその秘密の場所がわからなくなってしまうぞー! ジャックオさんに伝えるんだー!」


 チェロは気を取り直してもう一度大きな声でいいました。






 おばけの門から広場まではたいして離れていませんが、そのちょっとの距離を歩く間にチェロたちはびっくりするくらいたくさんのおばけたちに囲まれてしまいました。

 前後左右どころか頭上も大きく覆われてしまう勢いです。遠くから見たら小山がゆっくり動いているように見えてしまうかもしれません。



「そのワッフルっていうお菓子はどんなお菓子なの?」


「うん、ワッフルはね、サクっとしてるのとかフワッとしてるのとかあってね、甘いにおいがしてとってもおいしいの。そのままでもおいしいけどジャムやクリームをつけたりもするんだよ」


「ジャム!?」

「くり~む!」


 おばけたちはワイワイとすごい大騒ぎです。


「ねえねえほかには? ほかには?」


「たくさんあるよ。冷たくてフルンとおいしいプリンとか、あったかいお汁粉とか・・鯛焼きとか、シュークリームとか・・」


 お菓子の名前がでるだけでいちいち「オー!」とか「キャー!」とか悲鳴のような歓声が上がります。おばけたちはあまりお菓子のことを知らないみたいですが、これだけいちいち大騒ぎになるのはどういうことでしょう? 聞いてみるとどうやら、「お菓子という夢のようにおいしいものがある」ってことは知ってるけど、食べたことはないというのです。 


「たべたい!」


「食べた~い!」


 おばけたちの「お菓子ってどんなのがあるの?」という質問にちょっと答えただけなのにほんとに凄い騒ぎになってしまいました。


「でも! 早くぽっくいを街に連れて行かないともうお菓子は見つからないぞー! 食べられないぞー!」


 チェロが大きな声でいうと、周りにいたおばけたちは一斉に飛びのいて道を開けました。それはまた見事な光景でした。お菓子効果は抜群です。


「おい! おまえら一体なにやってやがる。すぐ出発だぞ!」


 開けた道の先に、怖いモノバケたちがワラワラと集まってきました。

 リンゴおばけ、セロリおばけ、茗荷おばけ、長いもおばけ、ズッキーニおばけ・・。

 真っ黒なバナナのおばけがずいっと前に出てきてチェロたちをにらみつけました。


「ん~? なんだてめえは?」


「・・・! わたしは! ニンゲンの街に住んでるエライおばけだぞ!」


 一生懸命お腹に力を入れてチェロはぐっと体を前に傾けます。

 

「んん? エライおばけだとう・・」


 モノバケたちが周りを取り囲みました。

 どのモノバケもニンゲンの大人たちより大きいくらいです。それが嫌なにおいをブンブン撒き散らしながら覗き込んでくるのですからチェロはタジタジになりましたが、腰に回されたピアノの小さな手を思い出して、「ウン!」と唇を噛みました。



「そうだぞー! みろーこんな八本も足のあるおばけを見たことがあるのかー!」


 足をガニ股にしてドタドタすると少し遅れて残りの足もドタドタしました。


 モノバケたちが一瞬たじろいだ隙に、ウルルさんが近くにいたセロリおばけの足をピシリと枝で叩きました。セロリおばけは悲鳴をあげてひっくり返ります。

 モノバケたちは驚いて後ろへ飛びのきました。


「わたしには毒針もあるぞー! わかったら早くジャックオさんのところに案内するんだー!」


 ウルルさんが持っていた木の枝は、さっきチェロがスプーンから出した聖水を使ってサロンさんが加護を施した特別製になっています。


「たぶんおばけには効くと思う・・」なんてサロンさんは随分自信なさそうでしたが、本当にただの枝なのに、びっくりするような威力です。


 それまで普通にしゃべっていた変なおばけが、急に背中から声を上げたのでモノバケたちは驚いて飛びすさりました、それに毒針!


「わ、わかった。 案内する・・します! どうぞ・・こちらへ」


 バナナおばけがペコペコと頭を下げました。






 モノバケたちの案内でお池の近くにあった舞台の方へちょこちょこ歩いていくと、向うから大きな塊りが色んなモノバケを引き連れてズシンズシンと近づいてきました。

 それは大きな大きなかぼちゃのおばけでした。

 体はひょろひょろに痩せているのに、どうやって支えているのか頭の大きさは大人が四、五人手をまわしてやっと届くかどうかでしょうか。まるでお家の二階の部分だけが歩いてきたような大きさです。

 かぼちゃおばけはチェロの前でゆっくり止まりましたが、止まった勢いだけで大きなカボチャ頭が前後にグラングランと危なっかしく揺れました。


「オマエが街からきたってやつか? 我輩がおばけ王の、んジャックオだ~!」


 遥かに頭上を見上げるチェロの前で、そのかぼちゃのおばけは大きな体のわりには意外にコミカルな高い声でガハハと笑いました

 チェロはジャックオのあまりの大きさに思わず震え上がりましたが、ギュッと拳を握って耐えました。


「おばけ達が食べ物を盗りにくるって、今。街中大騒ぎだー。ニンゲンたちは食べ物を全部隠してしまったぞー。その場所はぽっくいというおばけしか知らないそうだぞー」


「なぁにい~っ!」


 ジャックオがガパッとお口を開けて間近にチェロを覗き込みました。

 その大きなお口はチェロたちみんなを一口でパクリと食べてしまえるくらいです。


「おい!」


 ジャックオが体を起して後ろに呼びかけると、これもまた大きなおばけがワッサワッサと葉っぱを揺らせながら近づいてきました。多分、葉っぱが伸びきった白菜のそのおばけは片手にロープでぐるぐる巻きにした細長いものをぶら下げていましたが、それをジャックオに渡すと、ジャックオはひょいと顔の前にぶら下げました。


「おい、ポップリ。オマエまだ隠してることがあったんだな? いい根性してるぜまったく」


 なんとそのぐるぐる巻きはぽっくいでした。逆さに吊るされてまるで白いタクアンみたいにシオシオになっています。


「なんてヒドイことするの! ぽっくいを離して!」


「ああん? こいつぁニンゲンたちのスパイだったんだ、当然だろう。それともオマエはこいつの味方でもすんのか? ああ~ん?」


「ぽっくいはスパイなんかしてないよ!」


「じゃあなんだってチビニンゲンなんかをここに連れてきた上に、ご丁寧に逃がしやがったんだ? そいつらがばらしたせいでニンゲンどもは食いモン隠しちまったんだろう?」


「それは・・・」


 チェロは言葉に詰まってしまいました。そんなことまで考えていなかったのです。


「大体、そのチビニンゲンどものこともこいつは話さねえからな~。一体どんなやつらだったんだよ? え?」

 

「え? ん、ん~と。ふ、フツーの子どもだった!」


「なんでフツーの子どもがオレたちのことを嗅ぎまわってたんだ? 本当に子どもだったのかそいつら・・」


「カワイー子たちらったー!」


 ジャックオを遮ってピアノが叫びました。

 チェロは驚いてビクンと目を見開きましたが、ジャックオも唖然としています。


「そ・・そんなことよりぽっくいを離して! そしてわたしの団扇を返して!」


 ここぞとばかりにチェロも大声で叫びました。


「ぽっくいから聞いたよー。羽でできた団扇! あれわたしのだから返してー!」


「な・・なんのこと~?」


 ジャックオはグリンとそっぽを向きました。


「とぼけないで! ぽっくいがあなたに渡したっていってた!」


 チェロは頑張ります。いくらおばけ相手でもウソをつくのはイヤでしたが、仕方がないって頑張りました。ですがジャックオはそっぽを向いたままフンフ~ンと鼻歌を歌い始めました。


「し~らな~いな~♪ 俺たち忙しいからまたこんど~♪」


 木の枝みたいな手をヒラヒラさせながらチェロを避けて歩き出すと、ご機嫌そうにぽっくいをしばったロープをグルグルまわし始めました。

「食いモンの隠し場所はこいつが知ってんだろ~。情報サンキュ~、まあ土産でも持ってきてやるよ~」


「待って! 団扇はどこにあるの? それにニンゲンの食べ物盗ったりしちゃダメだよ! みんな頑張って作ったんだよ!」


 チェロの声に立ち止まったジャックオはゆらりゆらりと頭を揺らしながら振り返ると、ぐうんとチェロを覗き込みました。


「頑張ってつくったあ? おい聞いたかてめえら!」


 ジャックオはゲラゲラと大笑いはじめました。

 ですが周りのモノバケたちはみんな恐い顔でチェロをにらんでいます。


「頑張ってつくったものを平気で捨てたり腐らせたりすんのがニンゲンだよう! 俺たちだってそりゃあ頑張って育ったんだぜえ、きっと喜んでくれるだろうってなあ! だけどなんだあ? カタチがワルイ? 虫が食ってる? そんなでオレたちゃ捨てられちゃったンだよ! こ~んなことなら種のまんまでずっと眠っていたかったねえ・・だかルぁ!」


 なんだかお芝居のように妙な動きで話していたジャックオが突然すごみました。


「こりゃな。恩返しなんだ! おかげさまでこんな風に育ちましたよってなあ! ニンゲンさんたちにお伝えしなきゃよう~。わかったかよ!」


「で・・でも! そんな人たちばっかりじゃないよ! わたしの知ってる人たちはお野菜大事にしてるよ! おいしく食べようねって! ありがとう、いただきますっていつもいってるよ!」


「そりゃオマエの勘違いだ」


「そんなことない! みんなおいしいって食べるとニコニコになって仲良くなれるんだよ! だからみんな・・」


「なあ、おまえら白いのはどいつもそろってアホばっかりだ。いいかあ一番大事なのはなあ。自分が満足するってことなんだ。オレがやりたいことをするのが大事なんだ。そして今オレはニンゲンを困らせたい。いじめたい。泣かせてやりたい。それでオレはニコニコだぜえワハハ!」


 ジャックオの笑い声に回りにいた沢山のモノバケたちも同じようにニヤニヤ、ゲヒゲヒ笑い始めました。あからさまにこっちを指差して笑うモノバケもいます。


「ば~か」


「なんだあいつホントにおばけかよ」

 

 みんなで仲良くニコニコしていることが一番大事なことだと思っていたチェロにとってジャックオの言葉もモノバケたちの態度も衝撃でした。

 誰かを困らせるのが楽しいだなんて全く意味がわからないのです。

 チェロは混乱しながらどんどん悲しくなってきました。

 こんなにないがしろに扱われたのははじめてだったし、一生懸命、話をしているのに聞いてもらえないというのがこんなに辛いことだとは思いもしませんでした。


「ぁぅ・・でも・・」


 涙が声を邪魔します。


「・・でも・・」


「ああ、もううるっせえ。変なヤツが来たっていうからちょっと面白そうだったのによ。こうゆう変はいらないよ~ん」


 ジャックオが無造作に掴みかかってきました。

 その手をピシリという高い音が食い止めます。


「いってえええ!」


 ジャックオが手を押さえながら後ろへ下がりました。

 同時に他のモノバケたちは一斉に殺気立ちます。


「ちぇおちゃんが、がんばっておはなししてるのに!」



 バサリとおばけ布がめくれました。

 ウルルさんがジャックオとの間に入って枝を正眼に構えます。

 サロンさんが合掌して小さく法術の詠唱をしています。

 ふたりともきつく両目を燃やしていました。

 ピアノは合掌したサロンさんの腕の中に挟まれて動きが取れないながらも、お顔を真っ赤にしてちょこちょこ跳ねています。


「なんだオマエら!」


「コ・ラー!!」


 ジャックオの大声なぞ木っ端微塵に打ち砕く、怒りの雷鳴が爆発しました。





 大音響に驚いて涙が止まったチェロは、さっきと同じようにぽかんと立ち尽くしていましたが、ウルルさんが優しく抱きしめてくれました。

 やっと息をもらすと、まだぎこちない笑顔で笑いかけます。

 安心したように体を離したウルルさんはそれでもチェロの両手を持ったまま「大丈夫?」とチェロの目を覗き込んできました。


「うん。大丈夫だよ、ありがとうウルルさん、サロンさん」


 サロンさんも心配そうに隣にいましたが、くすぐったそうにコクリとうなずきました。そんなサロンさんにウルルさんが抱きつきます。


「成功してよかったね! サロンちゃんすごい」


 サロンさんは直立不動のままお顔を真っ赤に染めました。


「・・なんかね・・ピアノちゃんにくっついてると・・力がでるみたい・・」


「へえー。なにそれ? がったいわざ?」


 体を離したウルルさんが素早く口角を上げるとサロンさんは小首を傾げます。


「・・わかんない・・でも不思議・・」


 すこし嬉しそうに上目でちらりちらりとふたりに目をやり、ゆっくり後ろへ顔を巡らせます。

 チェロはハっとしました。ぐるりと見渡す限りおばけ達が固まっています。その範囲はさっきの比ではありません。モノバケたちはその場で凍りついたように止まっていますし、フワフワおばけたちもみんな地面に落っこちています。まるでお米を撒き散らしてしまった時みたいだとチェロは思いました。


「なんだか全然さくせん通りにいかなかったけどなんとかなったね。よかった・・」


 そういいながらチェロはピアノがいないことに気が付きましたが、ピアノを見つけた瞬間「わっ!」と声を上げて駆け出しました。

 ピアノは固まったジャックオの巨体の下で、まだプンプン怒っていたのです。


「なんらー!」

「もうっ!」


 怒りに任せて両手でジャックオの右足を押しています。

 それは器用に大岩の乗せられた柱の、まさにその根元を押すような戦慄すべき光景でした。

 どんと押す勢いでピアノの体の方が押されますが、さらにその戻る力で「えい!」とさらに押します。そしてジャックオの体は固まったときの姿勢のせいか小さなピアノの力でもグラングランと揺れているのです。


「ピアノちゃん!」


 夢中でピアノの腕を引っつかんだチェロの前で、ぐぐーっと前のめりに倒れそうになったジャックオはなんとかバランスを保った後、今度こそ後ろ向きに倒れました。

 その音と地響きにチェロとピアノは思わず首をすくめてその場でパタタっ足踏みしました。

 驚いたまま、おめめもお口もパカッと開いてピアノに顔を向けるチェロ。

 してやったりと顔中で輝くピアノ。


「やっちけた!」


 そしてとても嬉しそうにそういったのでした。


 

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