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おばけの国、17

「え・・どういうこと・・」


 チェロはつるつるのおでこに可愛い皺を寄せました。






 ようやく泣き止んだチェロは、鍵穴が見つからなかったことをみんなに話しました。

 ですがそれはウルルさんの一言で簡単に解決してしまいました。

 結界の真ん中にある石の台座を指さして「これじゃないかな?」と首をかしげたのです。


 台座の上面には門に彫られているような模様が描かれていて、その真ん中に穴が開いています。そっと鍵の玉を添えてみるといかにもピッタリでした。

 パアっと笑顔を浮かべたチェロに、「でも・・」とサロンさんがおずおずと話しかけてきたのです。門を開けてもすぐには街へ帰れないかもしれないと。


「この門を見て思い出したの・・大聖堂の地下にも同じ門があってね・・年に一度だけ豊穫祭の日に開けるんだって・・だけどこっち側もあっち側も開かないと『通路』ができないって・・門は五時の鐘が鳴ると開けるの・・だから・・」


フーっと息を吐いてウルルさんがいいます。


「じゃあどっちにしろ五時にならないと帰れないんだ・・今は、何時くらいかしら」 


「どうしよう、それじゃ間に合わないよ」


 チェロはおでこの皺を深くしました。ぽっくいはその事を知っていたのでしょうか?

 でもぽっくいは最初、ピアノをおばけの門から連れてこようと思っていたといっていました。それなら他の方法があるのかもしれません。

 それに街の方にも門があるというのはある意味いい話です。街側で開かなければおばけたちはやってこられないのですから。

 ほかに街に戻る手段がありさえすればですが・・。


「その『通路』はどうなってるのかな? もしかしたら通路の先で門をひらけないかな?」


「ごめんなさい・・それは知らないの・・人は入れないって言ってたから・・」


「そっかあ・・」


 車座に座ったままチェロもサロンさんもウルルさんも、一様に腕を組んで同じ方向に首をかしげ、うーんとうなりました。

 せっかくここまで来られたのにあと一歩が思い浮かびません。いっそのことどこへ出るかわからなくても他の道を使うか、それとも一か八かで門を開けてみるか・・。

 

「じゃあぽっくいをたしゅけにいっておしえてもあおうよ!」


 あっけらかんとピアノが言います。

 やっぱりそれしかないのでしょうか? でもどうやって・・。


「れもまたピーマンきたらやらなー」


 うなり続けるチェロたちに構わずピアノは違う意味で顔を曇らせました。

 その様子にクスリと笑ったウルルさんが、ピアノの頭をそっと撫ぜました。


「ねえピアノちゃんの好きなお野菜はなに?」


 唐突な質問でしたが、ピアノはキラリと目を輝かせました。


「あのね、おいもが好きらよー。グぁタンにすーのもおみそしるのも好きらなー。れもいちばん好きなのは、にっこぉがし!」


「にっこぉ・・ああ、煮っころがし? おいもの煮っころがし、おいしいよねー」 


 ピアノは、「ふぅ~んん!」と嬉しそうにうなずきました。


「あとねトマトも好き。お肉にはさんれね、おなべれシューってしたのおいしい!そえかあ、おナスも好きらよー。網れ焼いたのにショーガをしゅしゅってやって、かっちょぶしフワってやって、おしょーゆピーってすうと、こえがまたあうんらよー!」


 膝をポンと叩いてウキウキと体を揺するピアノに、チェロもサロンさんもつられてフフっと笑いました。

 チェロは、何に合うのかな?ってちょっぴり思いましたが、パンではなさそうなのでごはんでしょう、きっと。

 ウルルさんもニコニコしながら「おいしそうだねえ」と言いました。


「でもホントはね、トマトもおナスもピーマンの仲間なんだよ」


 ピアノは目を開いてピタリと止まりました。


「ホント・・?」


「うちは農家だからね、トマトもおナスもピーマンも作ってるからホントだよ。でも一生懸命作ったお野菜を嫌いって言われるの悲しいなー。それにうちの弟と妹はピアノちゃんより小さいけどピーマン食べられるよ」

 

 それを聞いてピアノは、むむっと難しい顔をしました。考え込むようにうつむいて体を前後に揺すります。


「うーん。れもピーマンおいしくないんらもん・・」


「うん。小さいうちはピーマン嫌いな子多いんだって。でもね今嫌いでもお姉さんになったら食べられるかもしれないよ。その時になって『あの時キライっていったよね』ってピーマンから嫌われたら仲直りできなくなっちゃうよ。だからキライって決め付けないで、ちょっと待ってて~って言えばいいのよ」


「おねえさんになったら・・?」


「そうだよ。みんな仲良しの方がいいでしょ? お料理はお肉やお野菜が仲良しで、食べる人とも仲良しじゃないとおいしくならないんだよ。ピーマンだけあっちいってって言ったらかわいそうだよ」


 そういって、ウルルさんは口角を素早く上げて笑います。

 ピアノは腕を組んで考えはじめました。コテンコテンと首を左右に動かしながらうなっていましたがやがて顔を上げると微妙な笑顔で笑いました。


「・・そうらね、なかまはじゅれはらめらよね・・うん。そーすうよ。ちょっとまってて~っていう!」


「うん、えらい! そうやって少しづつお姉さんになるんだよー」


「うん! ピャーノおねーさんになる!」


 ピアノは弾けるようにパッと両腕を上に広げました。ですがその手がシオシオと下がると、そっとお腹を撫ぜはじめました。


「ごはんのおはなししてたあ、おなかすいっちゃった・・」


 クウ、とお腹も相槌を打ちました。

 そういえばとチェロもお腹に手をやります。

 朝ごはんはたっぷり食べたし、ほしのしずくも食べましたが確かにお腹が空いています。それに今さらながらとっても喉が渇いていました。

 そうはいってもお水も食べるものも当然ありません。チェロは息を吐いて空を仰ぎました。正面にまん丸なお月様がありました。


「あ・・」


 チェロは慌てて首にかけたペンダントを外しました。

 さっき約束していたのを思い出したのです。

 小さなスプーンの柄をつまんで、落とさないように鎖を手首に巻きつけると、うんと背伸びをしてお月さまに手を伸ばしました。

 その仕草を理解したピアノは、パアっと顔を輝かせてチェロの傍らに駆け寄ります。


「はいピアノちゃん。お月さまのアイスだよー」


「やったー!」


 掬い取ったお月さまの光をスプーンに乗せてそっとピアノに差し出します。

 大きなお口あけてスプーンを咥えたピアノは、なぜか目をパチクリさせました。

 スプーンを咥えたまま動きません。


「ん? ピアノちゃん?」


 チェロが不思議に思った瞬間、ピアノの喉がこくりこくりと動き始めました。

 スプーンを摘んだチェロの手を両手で支えたまま、おめめがどんどんキラキラしていきます。

 一体どうしたのかと、チェロが本当に心配になってきたとき、ピアノはやっとスプーンから口を離して、「ぱぁ・・」と満足そうに息をつきました。


「ピアノちゃ・・」「ちぇおちゃん、お水らよ! アイシュがお水になった! おいしー!」


「え?」


 チェロはわけがわからずにスプーンを覗き込みました。「お水??」


「そうらよ! ちゅぷーんからお水がれたんらよ! ちぇおちゃんも飲んれ!」


「ええ~?」


 ピアノはチェロの手を掴んだまま「はやくはやく」とピョンピョン飛び跳ねます。

 チェロはいわれるままに背伸びをしてお月さまの光を掬い、口に入れました。


「んん~!」


「れしょ~!」


 確かに・・確かにスプーンから水が出ているのです。

 冷たくてとっても美味しい水が次から次に溢れてきます。

 飲むペースにまで配慮してくれるような勢いで、奥にゆったりした甘さを感じられるようなまろやかさで、たっぷりたっぷり水が湧き出しました。


 嬉しそうなピアノと驚いているサロンさんとウルルさんの前で、すっかり満足するまで水を飲んだチェロは、ようやくスプーンを離してホウっと溜息をつきました。

 フーっと肩を落としながらピアノに笑いかけ、ウルルさんとサロンさんにポワワ~ンとした顔でスプーンを差し出します。


「お水・・だよ~」

 





「これ・・たぶん神器だよ・・・」


 ウルルさんに続いてスプーンを咥えたサロンさんは、一口飲んだ途端に「聖水・・」とつぶやきその後は夢中で喉を鳴らしました。

 やっと一心地ついたあと、スプーンを見せて欲しいとチェロに頼みこむと、ジッとスプーンを見つめたり、目を閉じたまま動かなかったりしましたが、やがてそっとチェロの手にスプーンを戻してしみじみとそう言ったのでした。


「しんき・・?」


「うん・・神さまの加護がほどこしてあるの。しかも・・とびきり強い加護が・・」


 チェロも改めて小さなスプーンを見つめました。

 心当たりはあります。カッパ淵のスライムを鎮めたときです。あの時は確かにお母さんに守ってもらっている気がしました。それにそのあとビッグマムから直々にお礼を言ってもらえたのです。きっとあの時です。


「そう・・なんだ・・」


 チェロは心がふんわり嬉しくなってくるのを感じました。

 お母さんもビッグマムも「いつも一緒にいるよ」っていってくれたのです。

 ゆっくり目を閉じたチェロは、そっと微笑みながらスプーンを握り締めました。






「なんだか・・すごく元気になったよ!」


 ウルルさんが、うーんと背伸びをしながらいいました。

 そうなのです。

 スプーンから湧き出したお水を飲んだら、喉の渇きはもちろん、疲れていたのもお腹が減っていたのもどこかへ行ってしまいました。

 それどころか元気も勇気もどんどんわいてくるのです。

 さっきまでシンミリしていたのがウソのようにみんなピカピカ笑っています。


「よーし! 考えててもしかたない。まずはおばけのポックイを助けにいきましょう!」


 ウルルさんが素早く口角を上げていいます。

 チェロもピアノもサロンさんも力強く立ち上がりました。


「うん! まだ時間があるならがんばってみよう!」


「・・そうだね・・わたしも・・」


「そうらよ! きっとライジョーブらよ! らけど、うーるしゃんチョコッとらけちがうよー」


 みんなが「ん?」とピアノの方を向きました。


「ポックイらなくて、『ぽっくい』らよ~」


「え~」


 みんなでアハハと笑いました。

Special Thanks 小鳩子鈴さま

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