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おばけの国、14

少し慣れれば、おばけの道を通るのは、すべり台をすべるみたいな感じです。

ほんのりオレンジ色がかった暗いトンネルの中をシューンと引っ張られるように進みます。小さな光の粒が線を引いて後ろへ飛んでいくのがきれいでした。

滑っていく先がぼんやりと明るく感じられると、もうチェロはしっかりした地面に足をつけていました。


いきなり開けた場所に立ってチェロはポコっと口を丸くしました。

オレンジ色の空が近くて、真っ白な満月が急に大きくなって見えます。

重くて大きな風がゴーンとゆっくり体を押していきます。

目の前にはとてつもない光景が広がっていました。

雲海です。

ピンクと紫を混ぜた黄金色の雲海がキラキラ輝きながらどこまでも広がっています。

ゆっくりゆっくりあちこちで光の加減を変えながら、空の果てまで続いていく大きな大きな眺めの前でチェロはポーっと固まったまま動けなくなってしまいました。


「しご~い!」


ピアノがチェロの腕を掴んでピョンピョン跳ねます。

跳ねた拍子にまたオバケ布のお口から顔がスポッと出てしまったのを、チェロはそっと直してあげました。


ウルルさんとサロンさんも隣に並んでやっぱりポーっとしています。


「きれい・・・」

「・・・うん・・・」


どうやらおばけの城の天辺に出てきたみたいです。

こんなに高いところにきたのも、こんなにも夢のような景色をみるのもはじめてで、チェロはこのままお空に溶けていってしまいそうな気がしました。


「キレイだよね~。わたしもここからみるお空が大好き~」


斜め上からのんびりした声が降りてきました。


「うん・・・すごくキレイだね・・・」


ゆっくりうなずいて声の方に目を移せば、お空の色をキラキラ映しながらフヨフヨと漂っているおばけがニッコリ笑いかけてきました。

そしてフヨフヨといってしまいます。


チェロはうっとりと景色に目を戻してホウッと溜息をつきました。ですが・・。


「!」


ギョッとして身を固くしました。今のおばけはぽっくいではなかったのです。

改めて周りを見回せば、結構な数のおばけが飛んでいるのに気がついてチェロは思わず後ずさりしてしまいました。


「ねえ、そろそろいこう~」


今度こそぽっくいが近づいてきました。

気が付かなかったチェロも悪いのですが、ぽっくいにはもう少ししっかり見ていてもらわないと困ります。


「ねえ、ぽっくい」


「なあに~」


「あのね、ほかのおばけとすぐに見分けがつくようにずっとバンザイしてて」


「え~、なんで~」


「いいから、してて!」


ぽっくいは不思議そうに体ごと首をかしげると、おずおずバンザイしました。






おばけのお城は山より高いまっすぐな岩の柱全体のことをそう呼ぶらしくて、なにか特別な建物があるわけではないそうです。


チェロたちは岩の柱の天辺。ちょうど大きなコップの縁のような場所にいるみたいです。

みんなで横に並んでももっとたっぷり幅の在る遊歩道のようになった道を歩いています。

柱の内側は反対側がやっとぼんやり見えるくらい広くて中心に向ってスリバチのようになだらかな坂が延びています。真ん中にまんまるのお池が金色にきらきら光っていて、その周りを囲むように広場ができていました。


「おばけいっぱいいるね~」


チェロの隣でちいさくスキップしていたピアノが、楽しそうにいいました。

たしかに広場ではたくさんのおばけたちがワイワイと忙しそうに動き回っているのが見えます。

その場所から四方に広い道が延びていて、それぞれの道の先に大きな門が建っているのが見えました。

チェロが通ってる学校の三階立ての校舎の壁よりも大きそうです。


「あれがおばけの門だよ。今一番手前に見えるのがニンゲンの街に通じる門で、一番遠くに見えるのが神さまの街に行く門なの」


真ん中でバンザイしているぽっくいが説明してくれました。


「神さまの街?」


チェロは目をパチクリさせました。

おばけの門を通ればニンゲンの街にはすぐに帰り着けそうなイメージをしていましたが、じゃあ同じくらい簡単に神さまの街にも行けてしまうのでしょうか?


「でも、誰かがあの門を通ったなんて聞いたことないからホントかどうかわからないの。他のふたつの門はどこに続いてるのか知らないし・・でも、ニンゲンの街にいく門はホントだよ。ぼく毎年あの門を通って遊びにいくもの」


「遊びにきてるの?」


うん、と楽しそうに頷いたぽっくいは、ニコニコしながらその場でクルリと回りました。


「お祭り見たりするよ~。ニンゲンの街は面白いから色んなところ探検したり、お空で踊ったりとかするの。ぼくはお仕事あるから毎日街にいくけど、普通のおばけは年に一度しか行けないからみんな楽しみなんだよ。夜が明けるまで遊んでるの」


ずっと街で育って毎年豊穫祭のお祭りに通っていたチェロでしたがこれには驚きました。

豊穫祭の夜には街中おばけだらけだというのですから。


「でも、ぼくはいたずらするおばけがいないか見てなくちゃいけないからちょっと大変なんだ~。みんなニンゲンにいたずらするのが大好きだから」


そういいながらもぽっくいはやっぱりなんだか楽しそうです。

ですがチェロはすごく心配になってしまいました。

ちょっとしたいたずらくらいならともかく、おばけたちが街の食べ物を盗ってくるなんてこと覚えてしまったら本当に大変です。

おばけたちと争いになってしまうかもしれません。

チェロはおばけ布の内側で、きゅっと口元を引き締めました。

そこへ「ヒッ!」という小さな悲鳴が聞こえ、同時にチェロのおばけ布がギュッと引っ張られました。

サロンさんが引っ張ったのですが、そっちへ顔を巡らせたチェロもギョッとしてしまいました。


「ちぇおちゃん!へんなコちかまえた!」


いつの間にか離れていたピアノがトテトテ駆けてきます。

その両手には大きな鳥の骸骨が抱えられていました。


「わ! なにそれピアノちゃん!」


「えっとね。ホネホネトリらよ~」


「は、はなして! はなして!」


「え~」


鳥の骸骨は抱えたピアノの両手の中で体をくるりと丸めて収まっていますが、顔の部分だけならピアノの頭と同じくらいの大きさがあって半分以上が大きな曲がったくちばしで占められています。

真っ黒な眼窩は何も映さず、なのにその目はキョロリとチェロの方に向いたのです。

突然のどを立てるとヒュイヒュイとおかしな声を出して、ブルルと頭を振りました。


「キャー!」


思わずチェロは悲鳴をあげました。

骸骨なのに、本当に骨しかないのに、そのホネホネ鳥(?)は動いたのです。

チェロの悲鳴に反応したのか、ホネホネ鳥はグルルカ!グルカ!と首を上下に振りながら大きな声で鳴きました。


「ほあ、いいコなんらよ~」


ホネホネ鳥を抱えたまま、ピアノはズイズイと寄ってきます。


「やー! ピアノちゃん! はなしてー!」


サロンさんとウルルさんもチェロにくっついてキャーキャー悲鳴をあげました。

なのに今度は近くにいたおばけたちもフワフワとどんどん集まってきたのです。


「あー、サンダ・バードのヒヨコだね~」


「すごいね~つかまえたの~?」


「あろね。おいれおいれ~っていったあね、きたんらよ~」


おばけたちに囲まれているのにピアノはエヘン!とでもいうようにホネホネ鳥を掲げました。

ホネホネ鳥はグルカ!っと返事するみたいに鳴きます。

チェロはカチカチに固まりながら涙目で『なんとかして!』と口をパクパクさせながら、ぽっくいの尻尾を引っ張りました。


「うん? あのねサンダ・バードはね石ころみたいな卵を生むんだけどね、そのまま殻が骨になってだんだん羽とか生えるの。羽が生え揃ったら飛べるんだよ」


『そんなじゃないのー!』


チェロの声にならない悲鳴はオレンジ色の空に響くこともなく消え、サンダ・バードを離したピアノはグエグエと鳴き真似をしながらチョコチョコ歩くその後を追いかけます。

集まってきたほかのおばけたちも楽しそうにピアノの後に続きました。


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