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おばけの国、13

「おい、ポップリなにがあった!」


 サロンさんの悲鳴を聞いたオバケたちが、わらわらとぽっくいの部屋の前に集まってきました。部屋の前の通路もその先の空中にもフヨフヨ、フワフワ大変な騒ぎです。


「ごめんなさい! でっかい虫が出たからびっくりしちゃったの! 今、薬撒いたから大丈夫! 騒いじゃってごめんなさい!」


 ぽっくいは、ドアの前で何度も何度も必死に頭を下げます。


「なんだよ情けねえなー」


「ポップリじゃしょうがないよー」


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 呆れて帰っていくオバケもいますが、オバケたちは騒ぎが大好き。

 オバケだかりを見て、「なんだなんだ」と楽しそうに次から次へドンドン寄ってきます。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 とにかくぽっくいはいろんな方向に謝りまくりました。





 部屋の中でチェロは、サロンさんとウルルさんの服をなんとか着られるようにあれこれ頑張っていました。

 サロンさんはなんとか落ち着いたものの、まだおどおどしながらチェロの作業を見ています。

 道具のひとつもないので、どうにかするにしても力技でしたが、幸い寒く暑くもないので、ふたりにはシャツ一枚で過ごしてもらうことになりました。


 ウルルさんは簡単でした。

 シャツの袖を捲くり、ジーパンを脱いで、ブカブカになってしまっているパンツの両端を結んで落ちないようにして、後は靴の先に布を詰めるだけです。


 サロンさんの方はちょっと大変でした。

 やることは基本的にウルルさんと同じですが、サロンさんのパンツはサロンさん本人も含め、その場にいた全員が首をかしげるほど変なパンツだったのです。

 ちょっと布地があるだけで、あとはほとんどリボンみたいな平たい紐だけでできていました。おかげで端を結ぶのは簡単でしたが、サロンさんはこんなパンツは穿きたくないとダダをこねたのです。

 チェロは「アハハ・・」と苦笑いしてしまいました。

 チェロだってこんなパンツは穿きたくありません。

「はかないとお腹が冷えちゃうよ」と、三人でどうにか言いくるめましたが、なんとも説得力のないパンツでした。


 今はふたりともチェロと同じくらいの子どもなっていて、なぜそうなったのか、どうやってここにきたのか覚えていないし、わからないといいます。

 気がついたら変な場所にいて、不安で泣き出すサロンさんをウルルさんがなんとかなだめながら、とにかく一番高いところに登ってみようとやっと崖のところまで来たのだそうです。


「お山で迷ったら高いところに行けっていわれてたから・・」


 ウルルさんは、はにかみながら言いました。

 


 ぽっくいには申し訳ないのですがベッドのシーツを裂いて、靴の先に詰める部分とシャツをお腹の辺りで結ぶ帯。それからふたり分のオバケ布を作りました。

 布を裂くために、岩壁の角でごしごし切れ込みを入れる作業に少し手間取りましたが、それでもようやくふたり分の装備が整った頃、部屋の外からぽっくいが「も~いいかな~」と顔をのぞかせました。

 またサロンさんが叫んで泣きそうになりましたが、ぽっくいが「星のしずく」を人数分配ってみんなで食べると、今度こそようやく落ち着いたようでした。




 どうしてウルルさんたちが子どもになってしまったのか、ぽっくいにもわからないといいますが、とにかく今は街の大人たちにオバケたちが食べ物を盗りにくるのを伝えることが先というチェロの意見に従って、まずはみんなでオバケの門を目指すことになりました。


 ぽっくいを先頭にお部屋を出ます。そのあとにピアノ、木の枝をしっかり持ったウルルさん、その背中に隠れるようなサロンさんと続き最後はチェロです。


 お城の中は、大きな空洞になっていました。

 まっすぐな縦穴の周りを螺旋を描くようにずっと上の方まで道が続いていて、見上げると一番上に明り取りの窓のように、光が降りてくるところがあります。

 ぽっくいが「お日様の光を薄めてるの」と教えてくれました。

 ぐるぐる廻って伸びる道の壁側にオバケたちの部屋が並んでいて、ちょこちょこオバケが出入りしています。

 歩きながらいろんなオバケとすれ違いましたが、ぽっくいの言っていたように、元はカバンや食器なんかだと思われるモノバケたちは、ちょっと怖い感じです。

 とりわけモッタイナイオバケと呼ばれた野菜や魚のモノバケたちは、街に行くためにいきり立っているのかとっても怖い雰囲気でした。


 何回かオバケの道を通るたびに明り取りの光が近くなっていくので、だんだん上に登っているのがわかりました。

 

「もうすぐオバケの門だから、ちょっと休憩しよう」


 ぽっくいの後に続いて小さな公園のような場所に入りました。

 真ん中に、小さなおもちゃの噴水みたいなものがあって、そこから小さな川ができてます。床の上なのに山や谷みたいな起伏があって、チェロはなんだか小人の国みたいだと思いました。

 みんなでまるくなってちょこんと座ると、ぽっくいが「星のしずく」を配ってくれました。ところがサロンさんは摘み損ねて落っことしてしまったのです。


「もういっこちょうだい・・」


 サロンさんが下を向いたまま言いました。


「おとしたの食べられないから、もういっこちょうだい・・」


 チェロは、ちょっと困った顔で落ちてしまった星のしずくに手を伸ばしました。せっかくくれたものだし、元々外に落ちていたというし、洗えば大丈夫かなと思ったからです。

 ところが手を伸ばした先で、星のしずくがほんのちょっぴりだけ上に持ち上がったのです。ゴマ粒くらいの大きさしかない星のしずくを、ちっちゃな白いものが抱え上げたようにみえました。


「やい、おまえ! ニンゲンだな!」


 チェロはビックリしました。

 その白いのはお米のモッタイナイオバケだったのです。


 


 今までどこにいたのか、チェロたちはあっという間に白いお米オバケたちに囲まれてしまいました。

 お米オバケたちはワイワイぷんぷん、すごく怒っているみたいです。


「まって! ちがうよ、みんなオバケだよ!」


 ぽっくいが叫びましたが、じわじわと追い詰められてしまいます。

 

「ウソつけ! 星のしずくは大事なんだぞ! 落としたくらいで食べられないなんてこというのはニンゲンだけだ!」


 そうだそうだと、お米オバケたちは大合唱をはじめました。

 あっちこっちでピンピン飛び跳ねてます。


「そうやってニンゲンはすぐにぼくたちを捨てるんだ! みんなこいつら捕まえろー!」


 ワーッと、お米オバケはチェロたちに殺到しました。

 小さなお米オバケがものすごい数で体をよじ登ってきます。


「やめてー!」


 チェロが叫びました。

 でもお米オバケは止まりません。

 体に登ってくるオバケたちをワサワサ掃うことはできますが、どうしても足を動かせません。だって、だって・・・。


「やめてー! お米踏んづけたくなーい!」


 ウルルさんが叫びました。

 そうです。

 ちょっとでも足を動かしたら、お米オバケを踏んづけてしまうのです。

 ウルルさんは、大声でウワンウワン泣き始めました。

 チェロもつられて泣き出します。

 ピアノもつられ、サロンさんもエグエグ泣き出しました。


 ぽっくいだけは宙でオロオロしていましたが、みんなが泣き出すと同時に、お米オバケたちがピタッと止まったことに気がつきました。

 サアっとお米オバケがチェロたちから離れます。


「おまえたち、ホントにそう思ってるのか?」


 お米オバケが聞きました。


 チェロはヒックヒクックとしゃくり上げながら、コクリと頷きます。

 だって本当にお米は大事なんですから。


「去年は・・きょーさくだったから・・・あんまりお米が取れなかったの。だから・・お米は・・・とっても・・大事なの・・」


 ウルルさんが泣きながらいいました。

 チェロもウンウンと同意しながら「お米・・だいじ・・」とつぶやきます。


「そーらよ! ちぇおちゃん、おむしゅびつくぅのじょーずなんらよ! すごくおいしーんらから!」


 ピアノがヤケクソ気味に叫びました。「んふー!」と鼻の穴が広がります。


 お米オバケたちの間で、「おむすび・・・」「いいなーおむすび・・」と、ざわざわ言っているのが聞こえてきました。


 しばらくお米オバケたちがざわざわしていましたが、サロンさんが下を向きながら前に出て「・・ごべんなざい・・食べ物だいじにじまず・・」というと、部屋中が溜息をついたように、プシューと空気が軽くなりました。


「よし・・・。反省したなら許してやる。ただし覚えておけ! ぼくたちだっておむすびになったり、炊き込みご飯になったり、パエリアとかにもなりたかったんだ! ビーフンとかにもなってオイシク食べてもらいたかったんだ! がんばってがんばってやっとお米になれたのに、おまえたちニンゲンが台無しにしたんだ! 下手に炊いたり、もういらないとか、作りすぎたとか言ってなー! 今度やったら絶対許さないからなー!」


 お米オバケたちは、一斉に腕を組んで「ふん!」と横を向きました。


「わかったらとっとと出て行けー!」


 そういって今度は一斉にピョンピョン飛び跳ねます。


「わあ、ごめんよ~」


 ぽっくいがサッと飛び出していきましたが、チェロたちは「ごめんね」といいながら、お米オバケの一粒一粒に謝るように頭を下げて、ゆっくりと進みました。

 最後にピアノが振り返りました。


「れもみんな。ごはん、らいすきらよー」



 ニンゲンたちを見送ったお米オバケたちは、しばらくそのまま動きませんでしたが、一粒のお米オバケが、


「そんなこといわれたって知らないんだからね!」というとみんな一斉に「フン!」と横を向きました。


 なんだか急にお米オバケたちがツヤツヤと輝きだしました。

 炊き立てごはんのにおいが漂いはじめました。

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