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おばけの国、7

 チェロは、目を丸くして固まっています。


 テーブルの上に置かれたカボチャの種から、小さな手が出ています。

 何かを探るように、ゆっくりゆっくり動くその手は、猫のしっぽみたいな形で、動きもそっくりです。

 種の形も相まって、まるで貝からはみ出たベロが動いているようにも見えますが、その手の向こうに、うっすらとテーブルの木目が透けて見えるのはなんとも不思議です。

 

「ぽっくい、れてきた・・」


「ホントだ・・」


 オバケを見るのは初めてですが、夜に出るものと思っていたオバケが、朝のお日様の下で出てくるのなんて思いもしなかったチェロには二重の驚きでした。

 ピアノとふたりで種に顔を近づけると、その手がピアノが握っているキャンディの方へニュ~ンと伸びました。


「ぽっくい~」


 ピアノがそっと呼びかけると、ピクンと跳ねて、ピュンと種の中に引っ込んでしまいました。

 その勢いで、種は揺れながらクルーっと回ります。

 ちょうど半回転したところで止まった種は、ぴったりと動かなくなりました。

 

「ひっこんじゃった」


「うん。でもわたしも見たよ! ホントにオバケだね。すごいね!」


「ワッフーもぽっくいが食べたんらよ。ほら!」


 ピアノが種を指差すと、確かにところどころチョコやクリームがついています。

 

「ホントだ! ワッフル食べたんだ!」


「ぽっくい~。ワッフー食べたれしょ。おこあないから、れてきてー」


 少し待ちました。


「ぽっくい~」


 ピアノが指先でチョイとつついてみましたが、やっぱり変わりません。

 ふたりは顔を見合わせました。


「おかしあげたら出てくるかなあ?」


「れてくうかな~?」


 チェロもピアノも、今さっきウルルさんからもらったキャンディは持っていますが、それをあげてしまうのは、なんだかウルルさんに申し訳ないような気がしました。


「そうだ!」


 チェロは、ごそごそとスカートのポッケから飴玉を一粒取り出しました。

 今朝、教会でもらったものです。

 包みを開くと、そのままそっと種の近くに置きました。


「ぽっくい~。アメだよ~、どうぞ~」


「ど~じょ~」


 ふたりは椅子の上に膝立ちになって、種に顔を寄せました。


 動きません。


 まだ、動きません。


「ふたりともどうしたの?」


 振り向くとピアニカさんが、腰に手を当てて笑っていました。


「おかーしゃん! ぽっくい、れた!」


「うん! ワッフル食べちゃったの!」


「ワッフル食べたの? オバケが?」


 ピアニカさんはニコニコ笑いながら、ふたりの肩に手を置いて種を眺めました。

 アメの包み紙が落ちているだけで特に変わったようには見えませんが・・。


「あえ!?」


「アメなくなった!」


 チェロとピアノは、テーブルに手をついて椅子の上に立ち上がりました。

 確かに置いたアメが包みだけ残して消えていました。


「こら、ふたりとも! お行儀悪いわよ、ちゃんと・・」


「ピアニカさん! アメなくなった!」


「ぽっくいが食べちゃった!」


「もう、わかったからちゃんと座って!」


「ここに置いたんだよ! ねえピアノちゃん!」


 ピアノは大真面目な顔でうんうんと頷きます。

 チェロがアメの包みに手を伸ばしました。

 その時です。


 突然。


 カボチャの種が、ポーンとテーブルから飛び上がりました。

 そのまま空中でグルグルと回り始めます。

 店内がどよめきました。

 ピアニカさんは、咄嗟にふたりをかばって抱きかかえましたが、チェロとピアノはぽかんと口を開けてグルグル回る種を見上げています。

 すると種はピュ~っと外へ飛んでいきました。


「あ! こら待ちなさい!」


 ピアニカさんの制止も耳に入らず、ふたりは種を追いかけて走り出していました。

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