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おばけの国、5

 チェロは、お皿に残っていた玉子をクロワッサンでぬぐって、口いっぱいにほおばりました。

 お口の中で、サクサクとふわふわととろとろが広がってとってもおいしい!

 ピアノもそれを真似をします。


「おいし~」


「ね~」


 ふたりの愛らしいやり取りを見て大きな笑顔で笑いながら、ティンパニさんが新しいお皿を運んでいきました。

 ふんわりと湯気を立てるワッフルが乗せられています。


「はい、チェロ。ピアノ。豊穫祭おめでとう!」


「きゃ~!」


 チェロもピアノも、高々と両手を上げました。


「ティンパニさん、ほーかくさいおめでとう!」


「ほーかくしゃい、おめれとー!」


 豊穫祭では、大人から子どもに、おかしを贈る慣わしがあります。

 おかしは、『豊かさの象徴』という意味を含み、子どもに安心を贈るという隠喩に基づいたものです。

  

「はい! ふたりとも大好きだよ! 今日はお祭り楽しみなよ」


 腰に手を当てて満足そうに笑ったティンパニさんは、ピアニカさんに近づくと顔の前で手を合わせ「ちょっとだけバイト頼めない?」とウインクしました。

 ピアニカさんは最近、ちょくちょくこのお店の手伝いをさせてもらっているのです。

 

 ―― 少しだけでもピアノに働いている姿を見せたかったし、見てもらいたい。


 そういう思いから引き受けた話でした。

 ですがこの頃では『働くピアノカさんとその姿をニコニコ見ているピアノ』という図が、なんとも絵になると、それを目当てにカフェを訪れるお客さんもいるそうです。

 

 ―― 世の中、本当に何がどこへ結びついていくかわからないなあ。


 ここのところ毎日そう感じて、毎日ワクワクできるのでした。

 ピアニカさんはニッコリと頷き、チェロにピアノを託すと席を立ちました。




「おはようございます」


 お店の奥に入っていったピアニカさんと入れ替わるように、テーブルに近づいてきた女の人が、チェロたちに挨拶しました。

 長袖のシャツにタイトなジーンズというシンプルな装いが、さらりとセンスよく似合う背の高い美人です。

 コントさんのお店の常連さん。コルネット探索社の冒険者。ウルルさんでした。

 いつもはアップにしている長い髪を下ろし、見慣れないメガネを掛けていたので、チェロは一瞬誰だかわかりませんでしたが、素早く口角を上げて笑う顔を見て気がつきました。


「ウルルさんおはよー!」


「おはよう。チェロちゃん」


「おはようございます、ウルルさん。今日はお仕事お休みでしたよね?」


 ウルルさんは、背中に担いでいた大きな荷物を、ドスンと下に降ろしました。


「はい。というか、これをお預けしたら休みです。テントですが火曜日までにお願いできますか?」


「はい。承りましたよ。いつもありがとうございます。すぐに伝票切りますでな」


 ちょうどコーヒーを飲み終えたコントさんは、チェロとピアノに声をかけるとテントをかついでお店に向いました。


「よろしくおねがいします」


 ウルルさんはコントさんの背中にぺこりと頭を下げると、キレイな金髪をふわりと揺らして乱れを直しました。

 キョトンとした顔でその仕草を見ていたピアノに体をかがめると、素早く口角を上げてニッコリ笑いかけます。


「チェロちゃんのお友達かな? はじめまして、私はウルルといいます」


 ピアノは、パチパチと瞬くと「はりめまして、ピアノれす!」と元気に返しました。


「ピアノちゃん。よろしくね」


 そう言うとシャツのポケットから、キャンディを二本取り出して、それぞれに手渡しました。


「はい、どうぞ。豊穫祭おめでとう」


 ふたりは嬉しそうにキャンディを受け取ります。


「ほーかくさい、おめでとう!」


「ほーかくしゃい、おめれとー!」


 ちょうどそこへ九時を知らせる鐘が鳴り始めました。


 豊穫祭がはじまったのです。


 街中から、歓びの雰囲気がパアッと広がりました。


 三人は改めて豊穫祭の感謝を述べ合いました。

 みんな街の雰囲気に嬉しくなって、周りをきょろきょろ見回していたので気がつきませんでした。


 テーブルの上のカボチャの種が、こっそりこっそり動いていることに・・・。

  

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