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愛すべき悲しみ

作者: 有谷ゆり

23時59分。予想はついていたけど、とうとう今日もやつからの連絡は来なかった。SNSを8回も更新する暇はあるのに、と軽く憤りながらひとりため息をつく。今日で1週間連続で会っていないことになるのだ。…あ、日付がかわった。8日間連続に変更。

別に無視されているわけではない。わたしから連絡すれば当り障りのない返事をしてくれる。でも、それだけ。わたしばっかり連絡して、わたしばっかり好きで。うれしいことがあればやつも一緒だったらな、なんておもうし、悲しいことがあればやつがこんな悲しみにあわなければいいとおもう。でもきっとそうしてやつのことで一喜一憂している間、やつはわたしのことなどついぞ考えたこともないんだ。なんだかすごくアンフェアな気がする。

「…あんなやつきらいだ」そううそぶいてみても、たぶんやつはお見通しだろう。わたしの気持ちを知っていて、わざとこんな態度をとっているんだ。そう思うと、なんだか異常にいらだたしかった。

あー、もうあんなやつしらない。勝手に思い込んでひとりで舞い上がればいい。顔もみたくない。もう二度と連絡しないし、まあ、ないと思うけど、万が一、もし万が一やつから連絡がきたって無視してやる。独りよがりのけんかだとわかっていても、やつへの怒りはとまらなかった。

…あれ、なんで泣けてくるんだろう。もう苦しい。いっそ着信拒否して一生連絡とれなくしてやろうかしら。


そのとき。


0時01分。わたしのケータイがなった。やつから着信だ。つい1分前の誓いも忘れて反射的に電話にでてしまった。

「あ、もしもし?ごめんねこんな遅くに。ちょっと伝えとかなきゃいけないことがあったの忘れててさ…」

ただの業務連絡だったけど、たった3分の会話だったけど、それでも、緊迫にも似たこの胸の高鳴りは抑えられなかったし、抑える気もなかった。やつがわたしのために電話をかけてくれた。もうそれだけでこの1週間、いや8日間の嘆きすべてが消えた。連絡がくるまで自分からはなにも言えなかったことを猛烈に反省し、今度はもう一度わたしから連絡しようかな、いや必ずしようと決めた。…まあ、先週も同じことを考えてたはずなんだけどね。

もっとやつに近づけるように、少しでも彼の心の中にわたしがいられるように、できることはなんでもやってみよう…ふと窓の外を眺めて、ああ、お月様ありがとう、なんて思ってしまった。感傷的すぎる。

自分でも思う、なんて単純なんだわたし。


まあきっとこんなことを思ってみたって、わたしは繰り返すだろう。たまの連絡があれば全力でよろこんで、つぎの連絡まで、また何日しゃべっていないと嘆いて、適当な女友達にぐちってうわべだけの慰めをしてもらって。

これでいい。やつがわたしを弄んでいたとしてもかまわない。こうしてここまでわたしを喜ばせるのはいまのところやつしかいないのだから。

わたしはこんなことではめげないからね。聞こえるはずもないのに、一方的にやつと約束を交わした。でももし聞こえてたらなんて言うかな、そんな不毛なことを考えながら、ひとりでふっと笑ってしまった。


0時05分。寝るのが少し遅くなってしまった。まだ心は踊ったままだが、また明日も嘆くために早く寝て体力を蓄えなくては。なんとも愛すべき悲しみだ。

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