Fragment(Y)「お前に、あげたい」~オルタナティブ・ダークナイト~
この町の隣には、施設、と呼ばれている場所があって。
それは犯罪を犯したガキや、問題のあるガキを、まとめて押し込んでいるような場所だった。
誰もが存在を知っていて、知らないふりで、腫れ物扱いをするその場所は、あたしにとっても、内心小さくない恐怖の対象だった。
いわく、人体実験をしてるだとか。いわく、電気ショック療法で何人も死なせたとか。
黒い噂がたえないその場所は、あたしでなくても、「そう」だったろう。
誰も彼もが、避けていた。冗談めかして、揶揄しつつも、恐れていた。
けれど、あたしは自分が良い人間だとは思っていなかったし、犯罪を犯すような、どうしようもない奴らが、自分とくらべて、たいして変わっている、とも思えなかった。
だから、チカが、施設の人間だと知った時、実は、それほど驚かなかった。
いや、ちょっとは、本当は、かなり驚いたけど。
でも少なくとも、チカがおかしいとか、イカれてるとか、可哀想なヤツだとか。
そんな、はた迷惑なレッテルを押し付ける気は、さらさらなかった。
だって、あたしにとって、チカはすでに「特別」で。
変わりようもなく、「格別」だったから。
そう、チカは、あたしにとって。
――大切で、格別の。
英雄<ヒーロー>だったんだ……。
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いずれ、遠くて近い未来、あたしは、お前に誓う。
たとえ、お前があたしを引き裂き、食い殺す悪魔だったとしても。
あたしは、そんなお前と出逢えたことを、もう二度と、後悔なんてしない。
なあ、××。
――あたしと出逢ってくれて、ありがとう。
――あたしをみつけてくれて、ありがとう。
……あたしを、好きになってくれて……。
だから、お前に言うよ。
死んだように生きていたあたしに、お前がくれた、あの言葉を。
その、最初で最後の答えを、お前にやるよ。
あたしの心臓ごと。
――だから××、お願いだ。
あたしを、××てほしい。
どうか、この気持ちを、受け取ってほしい。
お前はきっと、拒絶するだろう。
そして、あたしを殺すだろう。
それでも、やるよ。
お前の欲しがったすべてを、お前の失ったすべてを、与えてやるよ。
“大嫌い”なお前に、“世界で一番どうでもいい“お前に、あたしは、今――。