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第3話 ‐渇望の懇願‐ ~エンドレス・レイン・プリズン・レイン~

あれから三日が経過したが、一週間の猶予ゆうよを与える、と言った魔女<ミランダ>の宣言通り、見事に何も起きなかった。


身構えていたのがバカバカしくなるほどの、平和な日常。


有姫ゆうき提案ていあんで、昼間はいつも通り学校に通い、放課後ほうかごは作戦会議・けん食事会を行った。


しかし、魔女の弱点をはじめすべてを知っていると思われる、謎の女性・リンドウはついに姿を現さず、情報不足のあたし達に生産的せいさんてきな意見など、出るはずもなかった。



チカの様子はあいかわらずおかしく、言葉少なにはしっこのほうで黙り込んでおり、あれだけ好きなごちそうにも、ほとんど手をつけなかった。



当然、双子坂や雷門をはじめ、本来敵同士だという、乙女や有姫までもがたしなめたが、心ここにあらず、といった風でまったく聞く耳を持たなかった。



だが、三日目の晩、いつもの作戦会議の終わりに、チカはあたしの隣に座り、そっと耳打ちしてきた。



「……話がある。――明日の放課後、そっちに行く」


「……話って」



「明日になればわかる」


チカはあいかわらず無表情で、真意しんいは毛ほどもみえなかった。そして、言いたいことをいうなり、去って行ってしまった。


取り残されたあたしは、ぼんやりしながら、首をふった。なにか、すごく不吉な予感がしたのだ。


別に、深い意味はないよな。きっとチカも不安になってるんだ。明日、話をじっくり聞いてやろう、という考えが甘かったと知るのは、遅くなかった。




――いつの間にか、しとしと、と雨が降り出していた。季節外れの梅雨つゆだという。

前例ぜんれいのない異常気象に、テレビの向こうのキャスターの表情はかたかったが、そんなことはすでにどうでもよかった。



ついに、チカの口から、<あの秘密>が、語られようとしていた。

あたしをばらばらにする、<動かしようのない真実>が。





放課後、あたしは、いつも通り下校していた。いつも通りといっても、当然、クソオヤジのいる自宅には帰らない。


いまや、乙女の自宅兼アジトがあたしの家だった。途中まで歩いたところで、背中から、見知った声が降ってきた。



「千夜、ちょっと外せるか」


「ああ、うん……」


あたしは、あたしを追い越してすたすたと歩いてゆく、チカの背中を追いかけた。ちょうどいい空地で、二人っきりになって、静寂がおりた。



「で、なんだよ話って」

チカは、口を開きかかって、つぐんだ。



「さっさとしろよ」

苛立いらだつあたしの腕を、チカはつかんだ。


「チカ……?」


つかまれた腕が痛い。様子のおかしいチカに、あたしは首をかしげた。



「お前は、きっと気づいてないと思っていた。今から、大事な話をする。覚悟かくごはいいか」

かたい表情のチカに、あたしまで緊張して、落ち着かない気持ちになった。 


「だから、なんだよ。早く言えよ」 

 


「千夜――オレは【男】だ」 


「……はぁ?」


あたしは、拍子ひょうし抜けして、笑った。



「なんだよそれ、今日ってエイプリルフールだったか?」


「嘘だと思うなら、試してみるか」

チカは、握りしめたあたしの手を、自らの胸に押しあてた。


「…………っ!?」

あたしは、思わず手を引いた。


――なんだ、なんだこれ……!?


チカの胸は、まったいらだった。固いその感触に顔面が青ざめてゆくのが、はっきりとわかった。


「だって、そんな、いままでは……」


何度も、チカに抱き締められた。確かに、ひでー貧乳だとは思っていた。だけど、そこには、わずかなふくらみがあったはずだった。


「……わりぃ。だますつもりはなかった」


「そうじゃなくて……!」


「今までは、市販のシリコンを入れてた。施設のやつらから逃げるために、変装が必要だった。だが、生半可なまはんかな変装じゃ、すぐにバレて捕まる。それだけは避けたかった。さすがに、まったく胸がないのもおかしな話だ。だからこうして、誤魔化ごまかすしかなかった」



「――そんな……」

今度こそ、途方とほうにくれた。


チカが、男? とても信じられなかった。確かに背も高けえし、かっけえ顔立ちをしてるとは思っていた。


……でも、“男”?


「……嘘だろ……」


「……嘘じゃない。――千夜、オレは……」



「――っ、あたし……っ!!」


チカの声をさえぎるように叫び、勢いよく駆け出した。――まるで、チカから逃げるように。




「――は……はぁ……っっ」


全速力でけて、息が切れる。チカが見えなくなった頃、息をついてしゃがみこんだ。

何でこんなにショックを受けているのか、自分でもわからなかった。


――男でも女でも、チカはチカだろ?

それでもそれを認めたら、あたしのなかの“なにか”が、変わってしまいそうで。



「……くそっ……!」


むしゃくしゃする気持ちのままにコンクリの壁を、強く叩く。拳がじんじんと痛んだが、もうどうでもよかった。



その後、乙女の自宅に帰るとチカはすでにいなかった。だが、気が付けば安否を心配するより、ほっとしている自分がいた。そのことに気づいてますます苛立ち、こっそり泣いた。


怒ると泣く癖は、どうやら治ってないみたいだ。トイレの中で、ぎゅうっと目をつぶる。

最低だ。あたしも、チカも。もういやだ、という嗚咽がふいに喉をついたが、あたしはこぶしで涙をぬぐい、なかったことにした。


そういえば、ママがいなくなったあの夏の日も、こんな風な雨が降っていた。

もういやだ。信じるのも、裏切られるのも。もうなにも、失いたくない、それだけだったはずなのに。


いつの間にか、信じていた。何度も裏切られてなお、こんなにも恋しくて。

その感情をなんと呼ぶのか、あたしはきっと知っているんだろう。知らないフリを、してきたんだろう。


そしてこれからも。目をそらし続け……逃げ続けるのだろう。



チカは雷門と一緒にいるから問題ない、と双子坂は、有姫たちに打ち明けた。どうやら、双子坂だけはチカの居場所を把握しているようだ。

有姫は不審げな目つきでそれを聞いていたが、なにか察したのか深くは追及しなかった。



――その夜は、とても静かだった。

メシを食う気にもなれず、あの時のチカのように、ぼんやりと窓の外を眺める。なぜか前にも、こんなことがあった気がしたのだ。

思い出そうとしても、すぐに霧散してしまうそれは、まるで幻か霧のようだ。

布団に寝転がったまま、窓の外の星をみつめた。



――ふと、あの夏の夜、夜空いっぱいの流星群をみたことを思い出した。


『くれえな、本当によ』


ああ、たぶん、こんな言葉だったんだろう、とふと気づいた。

あの時チカが言いかけたセリフは、もしかしたらこの日を予知したものだったのかもしれない。

じわりと涙が浮かび、あたしは、借り物の枕に顔を押し付けて、そっと泣いた。



雨はやみ、星が降っていた。


――静かに、静かに。



翌日も、やはり、散々だった。



結局、一睡いっすいもできなかったし、相変わらずメシもろくにのどを通らず、おかげで学校の授業は頭に入らないし。いっそ、サボタージュもありかもしれない。


ぼーっと窓の外を眺めていると、やや乱暴に肩がたたかれた。



七織ななおり


「有姫……っ!」


気がつくと、有姫こと、鮫島有姫さめじま・ゆうきが、後ろにいた。  

ひとつ上級生の女暴走族、ヴァルハラレディースの、泣く子も黙るナンバーツーの襲来しゅうらいに、教室はどよめいていた。


「……放課後ほうかご、ちょっとツラかせ」


いつの間に、というまでもなく、周囲の雑音がMAXになって耳朶じだになだれこむ。


鮫島さめじま直々(じきじき)にヤキ入れんのか!? あいつ何したんだ!?」


「うっそ、かわいそー」


「鮫島超こええ」  


そんな声が飛び交うなか、いまだボーッとした頭で思った。

有姫と話したの、あの時以来だな。一体、何の用だろ……。



放課後はあっという間だった。あたしは、下校のチャイムがなるなり、まっすぐ校門に向かった。

周りがやけにザワザワしているのに気づいて、首をかしげる。


「あれ誰? スゲー可愛くねえ!?」

「つーか、美人すぎ」「モデル!?」


興奮こうふんする人混ひとごみをかき分け、校門はもう手前だ。



……目があった。


――注目を浴びていたのは。



あたしは、走り出した。くだんの人物から逃げるように。


「――どこ行くんだ」



腕をつかまれた、と思った時には遅かった。


やつに、チカに、追い付かれた。



あたしも、はあはあ、と息をしていたが、チカの息も荒かった。


走ってきたせいだけじゃない。

なにかに苛立いらだっているかのように。



「……お前に話がある」


チカは無表情で、あたしの瞳を射抜いぬいた。



――まるで、どこにも逃がさない、とでも言うように。



「あたしにはない」


あたしは、腕を振りほどこうとしたが、ぎり、と固定された腕は動かなかった。



「オレにはある」


「――嫌だ!」



「いいから、黙ってついてこい」



悲鳴を上げるあたしを、引きずるように、チカは裏山へと、あたしを連れ込んだ。


草むらの、ざかざかとなる音。



チカは無言だった。


あたしの焦燥しょうそうは、もはや、ピークにたっしていた。



開けた場所までたどり着いたチカは、あたしを離すと、あたしを、木にい付けるかのように、乱雑らんざつに手をついた。

 

もう、いつものチカとは、別人のその姿に、あたしは、小さくない恐怖すら感じていた。



「……オレのことどう思ってる」



仮面かめんのような無表情で、チカが言う。



「……どうって」


あたしは、内心ないしんおびえながらも、息がかかるほど近くにある、チカの顔をにらみつけた。




「――オレのことは、好きになるな」



……それだけだ、とチカは顔をそらした。



その表情はあいかわらず、恐ろしいほどの無表情だったが、チカを間近まぢかで見てきたあたしには、強ばって、必死になっているようにみえた。



ため息をつくと、チカは静かに去っていった。


ショックで凍りつき、微動びどうだにできないあたしを、裏山に置き去りにしたまま。


呆然ぼうぜんとしながら、校門まで戻って来た頃には、もう、かなりくたびれていた。 



「――七織ななおり


有姫の声に、振り向く。



「……遅かったな。――これから、ちょっと付き合え」



有姫のバイクに乗って、向かった先は、ヴァルハラレディースの集会場だった。



「――姫! 千夜! おせーぞ!」


片手をふって、リーダーの乙女が走りよってくる。



「今日も走るぞ、てめーら! 日の丸町の平和を守るため! パトロール開始だ野郎ども!!」


オー!! という女達のいさましいかけ声に、乙女は気をよくして、先陣せんじんを切った。



「――七織、あたしらが、ぞくをやってる理由がわかるか」


唐突とうとつな有姫の語りに、あたしは、首をかしげた。



「……守りたいものがあるからだ。何よりも大事で、何を引き換えにしても守りたい。だからあたしたちは強くなる。――命を懸けて、戦うその日のために」



「……ふうん」


すごいとは思ったが、頭はいまだぼんやりとして、モヤがかかったようだった。



「七織、お前、守りたいモノはあるか」



「守りたい、もの……」



何も思い付かなかったが、一瞬だけ、あの笑顔がちらついた。


すべてを包み込む、青空のようでいて、すべてを暖める、太陽のような、あいつの笑顔を。



「わかんねえ」


あたしは、ぼそりと嘘をついた。


実感もわかないし、認めたくもなかった。

だまりこむあたしに、有姫は言った。



「今日、ぼーっとしてた理由は、あいつだな」


「……あいつって」



「チカ。お前の愛しい、ヒーローだよ」


「なっっ……!」


思わず腰を浮かしたあたしに、「おとなしく、つかまってろ」とたしなめると、続けて言った。



「みりゃわかる。つうか校門にいただろ」


ぐっ……と唇をみしめ、あたしは、有姫の、服の背中をにぎりしめた。



「――何て言われた」



「……オレのことどう思ってるかって」


観念かんねんしてくと、り固まって、爆発しそうだったフラストレーションも、夜の闇に溶けていった。


「……それで、なんて答えた」


「……何も言えなかった。まごついてる間に、オレのことは好きになるなって」



「意味わかんねえな」


「――だろ」


あたしは、力なく答え、そのまま、有姫の小さい背中に、ぎゅうっとしがみついた。



いくばくかの静寂せいじゃくのあと、有姫は言った。


「それで、お前はあいつが好きなのか」


「……わかんねえ」


「――そうか」


有姫は、静かにうなずくと、「――じゃあ、行ってこい」と速度をゆるめた。


「え……?」


あそこ、と有姫は指を指をさした。


街灯がいとうに照らされた歩道ほどうの真ん中、そいつは立っていた。


……目が合う。

――その瞬間、あたしの息は止まった。


「……チカ」


歩道にぽつんと立っていたのは、チカだった。


「行ってこい」


姫はあたしの背中を押すと、音もなく走り去った。



あたしは、立ちつくした。


チカも、こちらを見たまま、立ちつくしていた。



――やがて、どちらともなく、歩き出した。


まるで、引き寄せられる磁石じしゃくのように、あたしとチカは歩みより、向かい合った。



見つめ合うことに、耐えきれなくなった頃、チカはうつむいて、こういった。



「……わりい。あんなこというつもりじゃなかった」



謝り終わるとチカは、顔をあげた。


その顔が、飼い主に捨てられて、途方とほうれた子犬のように、青ざめていたので、あたしまで途方にくれた。



「――今、抱き締めてもいいか」


「え…… 」


あたしの返事を待たず、チカは、あたしをぎゅっと抱き締めた。


「なっ……チカ……!」


あわてて引きがそうとした、あたしを離すまいと、チカの腕に力がこもった。



「――しばらく、このままでいてくれ……」


(え……チカ、震えてる……?)


あたしは驚いた。

チカの体は、小刻こきざみに震えていた。


まるで、みえない何かに、おびえているみたいに。



ぽつり、ぽつり、と肩に、水滴すいてきが落ちた。


あたしは、まさか、チカが泣いているのかと思ったが、見上げると、雨が降っていた。



突然、チカがぽつりと言った。



「――オレたち友達だよな」


「――え……」


あたしは、困惑こんわくして、聞き返した。 



「……お願いだ」


そうといってくれ……と、チカは吐息といき混じりにささやいた。


あたしは呆然ぼうぜんとした。


だけど、いまここで、イエスだと、お前はあたしの友達で、お前なんか、そういう意味で好きなんかじゃない、と言わなければ、チカがバラバラにくだけちってしまいそうで。


あたしは唇をみしめ、震え続けるチカを、強く抱き締めた。  



「……ああ、友達だ。――チカ、お前はあたしの自慢のダチだ」


その言葉を聞いて、ほっとしたように、チカの抱擁ほうようゆるんだ。


「そうか」


チカはゆるゆると、だが名残惜なごりおしそうに、あたしを離すと、不格好ぶかっこうに微笑んだ。



「ありがとな、千夜。オレもお前が好きだ……ダチとして」



そういって、晴れやかにチカは笑った。

だけどその晴天の笑顔は、まるで泣いているようだった。 



「――チカ……」


あたしは、チカのほおに手を伸ばした。


びくり、とチカが震えたのをみて、あたしは、その手を引っ込めた。



「……わりぃ」


チカはうつむいてそう言うと、「――じゃあな、チャチャ子。帰りは鮫島に送ってもらえよ」ときびすを返した。 



「――お前は!」


チカの背中に言葉を投げかけると、チカは振り向き、こう言った。


「オレは大丈夫だ。雷門がいる」


そういって、そこに雷門がぽかりと浮かんでいるかのように、空中に向けてうなずくと、チカは手を振った。



「――今度は家出するなよ、暴走娘」


「……ま……っ」


あのときと、同じ言葉。


それはまるで、さよならにも似たフレーズで。


あたしは、チカの腕をつかもうとしたが、体を引いたチカに、手はちゅうを舞った。



「――愛してるぜ」



チカは、泣き出す寸前すんぜんのような笑顔でそう言って、今度は振り返らず、去っていった。

 




なんなんだ……なんなんだよ……。



好きになるな、と言ったり、友達だよなと答えを強要きょうようしたり、それに、なんだって?



――“愛してる”……?



ふざけんな!! 勝手すぎるんだよ、お前……!!



あたしは、拳をぎゅっとにぎりしめた。

唐突とうとつに足が震えて、その場にへたりこんだ。


スカートが、雨とどろで、グシャグシャになったが、気にしなかった。




――雨が降っていた。


――――冷たい雨が。




物語は繰り返す。


残酷ざんこくに、不条理ふじょうりに、すべてをうばい、押しつぶすように。



今のあたしには、ただ泣くことしかできなかった。


みっともなく、子どものように。



――ああ。夏は嫌いだ。


大好きなママを奪っていった、あの夏が。



もういい、とあたしは、しゃくりあげた。


もういい。誰も好きになりたくない。

愛したくない。失うのは嫌だ。こわい。


もう、なにもかも、投げ出して、投げ捨ててしまいたい。


――それなのに、心に浮かんだのは。



「――お前がどれだけ人に嫌われても、オレがお前を好きでいるから!」



あのまっさらな、まぶしい笑顔と、軽やかに、おどる手足だった。



――ああ。好きだ。お前が好きだ。


たとえ、お前があたしなんか、好きでなくても。



好き勝手言って、振り回して、何度だって、裏切りやがるんだとしても。



……それでも。




「お前が好きだ……っっ、チカぁ!!」



降りしきる雨の中、あたしは、叫んだ。



「答えは決まったようだな」



どこからか、有姫の声がして、振り向いた。


街路樹がいろじゅわきから、有姫が、こちらに向かって歩み寄ってくる。


ほら、と、手をさしのべた有姫に、あたしは、涙をぬぐって、その手を取った。



「お前は、それでいいんだな」


「――ああ」



「後悔しないな」


「……うん」



たとえ、あんな身勝手な、ひどいやつでも。



「――あたしは、チカが好きだ。……この世界の誰より」



「そうか」


姫はうなずくと、あたしの背中をぽんぽんと叩いた。



「七織、今日はもう帰るぞ。夕飯は乙女のおごりだ。遠慮なく食え」



そのあと、乙女たちと合流ごうりゅうして、あたしたちは、同じなべかこんだ。



――真夜中は、けていく。


静かに、わいわいと、にぎやかに、残酷に。






「――ふふ」


夜を裂くように、その女は笑う。



「いよいよ、はじまるのね。あの夜が。さあ、あたくしに見せてごらんなさい。最高のショーをね」



女は笑う。たのしそうに、可笑おかしそうに、無慈悲むじひに、残酷に。


動き出した運命の歯車は、止まらない。


最後の一ページまで、裏切りと絶望を繰り返し、つむがれ続けるだろう。



さあ、さいは投げられた。


もう、残された時間は、あとわずか。



最後の夜を始めよう。

魂と命を懸けた、最期さいごのゲームを。



その先に、何が待っているかも知らずに。


あたし達は、ただ、走り続ける。


運命の操る糸に、宿命しゅくめいの奏でる音楽に、おどり続ける。 



――それでも、叶うなら、ただ、あの夏を取り戻せ。


失われたあの奇跡を、この手に掴むために。



あたしたちは、何度でも、繰り返す。


約束された裏切りを、約束された絶望を、約束された死を。



――それでもいい。


……あたしは、手にいれる。



<永遠の夏>を。

……あたしの愛しい、その夏を。


――そう、近い未来、あたしを殺す、<その悪魔>を――。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



Endless ~エンドレス~


「終わりのない; 永久に続く,無限の」

「果てしのない(ように思われる), 長々とした」

「無数の」

「循環の,継ぎ目なしの」


Rain ~レイン~

「雨」


Prison ~プリズン~


「刑務所; 拘置所、牢獄」

「投獄」


語源:ラテン語「捕らえること」の意


“Endless Rain,Prison Rain”

~エンドレス・レイン・プリズン・レイン~


「終わりなき(果てしない、無限の)雨、無数の雨、循環する雨」、

「雨の牢獄」、「投獄する雨、捕らえる雨」








































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