『チカの秘密Ⅰ』 ~タナトスとメサイア編~
青春ダークファンタジー『ミッドナイト・ロストサマー』の天真爛漫にして、謎めいた準主人公、チカについての考察です。
大量のネタバレを含みますので、ここまでのストーリーを未読の方はご注意です!
――Are you Ready?――
*アンフェア・シークレッツ*
命は、チカの秘密を、全て知っている。
もちろん、その出生の秘密も、千夜に隠している事実も。
だからこそ、チカを「プシキャット」と呼び、歪んだ方法で愛でている。
チカは命のことをなにも知らないというのに。完璧にアンフェア。
*メサイア・ネバー・クライ(泣けない救世主)*
チカはどんなに悲しい映画をみても、一切泣かない。
険しい顔で見て、見終わったら、「つまんなかったな」って言って終わり。
――チカは、泣けない。決して。チカが泣けるのは、××が×××時だけ。
*ヒーローでなければ*
チカはたぶん、ものすごい純粋な魂の持ち主。別作品、『リシアンの契約』のリシアンを越える純度の心を持つ。
だからこそ、簡単に壊れてしまったし、赦されない罪をおかしてしまった。
それでも、罪人リシアンサスのような、大量殺戮者にならなかっただけまし。
ヒーローでなければなさないと言う縛りが、チカを大量殺戮から遠ざけたといえばそうだし、
……ヒーローだからこそ、手を血に染めなくてはならなかった。
今後、チカは自分の罪と真っ向から向き合い、絶望の果てに、どんな結末をもたらすのか。
――裏切りの物語は、最後の1ページへと加速していく。
*チカの真実*
チカは、現実にいたら、とてもモテるタイプではあるんだと思うけれど。
「ピカピカ光るものは、誰でも愛せる。しかし、その光が失われたとき、何人がその者を愛すのだろう?」
という命題がある。それはリンドウにも言えること。だから、誰でも赦し、愛す完璧超人のリンドウさんも、チカにだけは少々辛辣。
そして、チカの無敵の輝きが、一体何で出来ているか、どんな絶望と引き換えかを知った時、千夜ははじめて本当の、本物のチカを知るのだろう。
ただし、リンドウが、チカに対してキツいのは、もちろん、そんなくだらない同族嫌悪だけじゃない。
チカは絶対に許されない、赦されてはいけない罪を犯したから。
だからこそ、リンドウだけは、チカを許さないし、赦してあげない。
それは、冷たいわけでも、酷いわけでも、見放しているわけでもなく、その逆。
リンドウは、チカを憎んでいるわけでも、軽蔑しているわけでもないのだから。
今は比較的、好かれてるチカだけれど、すべての真実が明るみになっても、それでもまだ好いていてもらえるだろうか。
ピカピカきらきら輝くチカが本当は……だと知って、一体何人がこの子を愛してくれるのだろう。
チカの裏切りは、たぶんミッドナイトで、一番手酷い裏切りなので、読む方に全然優しくありません。
*チカの秘密と罪*
チカの秘密はあと三つ。
そのうち一つは、本文内で、すでに何度か、さりげなく明かされているものの、主人公・千夜もまったく気づいていないし、わざと分かりにくくしてあるので、よーく読まないと、気づかないかもしれません!
一見、あっけらかんとしたチカは、その印象に反し、ものすごい罪を背負っているわけですが。
だからこそ、中二病という、暗黒仮面という、ばかばかしい逃げ場にすがっているわけだけど。
千夜にだって、罪はある。無知という、重い罪が。
*デス・デミゴット・ブライト・ディスペアfromタナトス*
まるで、死の神<タナトス>のように、チカの<DNA>は目覚めてゆく。
愛情の鎖と、嫉妬の手錠が繋ぐ予定調和の未来。
――物語は、残酷に加速する。魔女が囁き、手招くその先に、果たして、希望はあるのか――。
*“だから、なんだ”*
たとえ、許されない生だとしても。生まれる前から、死せる定めだったとしても。
「だから、なんだ」とチカは吼える。
そんなことで、この魂の呼ぶ声は、渇望は、果てしなく燃え上がる欲望の焔は、消せやしない。
チカは、けっして諦めないだろう。自らが消滅し、抱いた闇に呑まれるその時まで。
失われた未来を、取り戻すためなら、チカは何度だって自分の命を棄てるだろう。
まるで、運命をねじ伏せ、その屍の上に立つように。




