表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドナイト・ロストサマー』 ~この100回目の夏を、「輝ける悪魔」と~  作者: 水森已愛
-第二章- 「“施設”<オルタナティブ・ダークナイト>編」
17/133

第X話 “二重人格者”<ドーン・ダークネス・クリミナルブレイン>【後編】

『お前が。お前さえ、生まれなければ……っっ!!』


 遠くなる意識のなか、おれは怪物の声を聞いた。



――タスケテアゲル。オレガ、コロシテアゲルヨォ。



 目を覚ませば、目の前に、父が寝ていた。


「お父さん……?」


 背にふれると、生暖かい、べったりとしたものが、掌にこびりついた。

 

……父は、死んでいた。



 おれは、しばらく、ぼんやりと床に座っていた。

 もう、なんの気持ちも浮かんでこなかったし、もう自分が、呼吸をしているのかどうかもわからなかった。


 不思議と、涙だけは、壊れたように流れ続けていた。

 おれには、もうわかっていた。

 

 おれがやった。おれが、殺した。化け物は、怪物は……おれ自身だったんだ。


――ヨカッタネェ。タノシイネェ。アハハ。アハハハハハハ!! アハハハハハハハハハハアッハハハ!!――トッテモトッテモ、ユカイダネェ!!


 化け物はわらう。おれが嗤う。

 はは、ハハハ。はは、ハハハ、ははハはハハはははハハハハハ。


 狂ったように笑っていると、玄関のドアが開いた。


 ハハは......。


双子坂ふたござか遠馬とおまくんだね? ようやくみつけたよ」


 おれは、ガスマスクをつけ武装した男達と、白衣の男が、ずかずかと、アパートに入ってくるのをみたのを最後に、意識を失った。


 目を覚ましたおれは、医務室のような部屋のベットに寝ていた。

 食べ物と飲み物を与えられて、おれは空っぽな心でそれを食べた。

 

 おかしいぐらい、ひどく渇いていた。無心でむさぼる自分は、まるで「どうぶつ」のようだと、思った。


 白衣の男が、カルテのようなものをみながら言う。


「結論から言うと、君にとりついている悪霊は、はらうことができないものなんだ」


「悪霊……」


 おれはつぶやいた。霊なんてばかばかしいと、今の「僕」ならいえるが、残念ながら、あまりのショックにうつろな「おれ」には、通常の思考能力も、判断能力も残っていなかった。


「だが、手術で、君に巣くう化け物の残虐なふるまいを、ある程度、抑えることはできる」


「…………?」


  おれは、ぼんやりと白衣の男をながめた。

  男は子ども受けする優しげな顔をしていたが、眼鏡に反射して、その表情はうかがえなかった。


「簡単に言うと、君は人を殺すことができなくなる。そういうリミッターを、脳に埋め込むことで、君はこれ以上の犠牲ぎせいを出さずに済むんだ」


「……犠牲を」


「……そう。双子坂くん。君はまだ救われる。施設には、君のような子どもがたくさんいる。仲間ができることで、君の容態ようだいはだいぶ改善するだろう」


「……おれは病気なの」


「そうだよ。だが、不治の病ではないのだから、安心するといい。これから言うことを守ってさえくれれば、生活も保障しよう。君はもう、なにも心配することはない」


「…………」


「双子坂くん。君の守るべきこととは……」


 僕は思う。この世は、地獄だ。そこには混沌こんとんがあり、幸福はまやかしにすぎない。

 だが、今の僕には、最後の希望が、あった。



 チカ。塗りつぶされた宵闇よいやみを切り裂く流星。

 牢獄ろうごくのようなこの世界で、手を差し伸べたるその救い主は、やがては、捕らわれた子どもたちすら解放するだろう。



――DAWN WORLD.――



 夜は明け、僕たちは、「夏」を取り戻す。

 そこに、どんな犠牲や、「裏切り」があったとしても――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ