第X話 “二重人格者”<ドーン・ダークネス・クリミナルブレイン>【前編】
心のなかに、その怪物はいた。楽しいとき、幸せなとき、その化け物は囁く。
――タノシイカイ? シアワセカイ? ヨカッタネェ。
気がついた時には、おれの前には、動物の死体が転がっていたり、あるいは自分と仲良くしていた同い年の子どもが、怪我をして転がっていた。
それはエスカレートしていった。虫から、小鳥へ。子猫から、犬、果ては人間。
しだいに、おれは恐れられるようになっていた。
まるで人でないものをみるように、怯えたまなざしを向けられて、戸惑った。
自分はやっていない。記憶がない。
だが、周りの子どももオトナも、おれがやったという。
考えれば考えるほど、今にも胸がはじけそうで、腕をかきむしった。
――おれじゃない! おれはなにもやってない!
でも、現実は残酷だった。
警官であった父はクビを切られ、母はうろんな噂を広められ、孤立した。
引っ越し先でも、同じことが起こった。公園で普通に遊び、友達ができる。
だが、気がつくと目の前の砂場に、鉄棒の下に、植木の茂みに、友達が血まみれになって転がっている。
――なんで。なんで。なんで。なんで?!!
母が精神を病み、首を吊るのに、時間はかからなかった。
無職となったうえ、最愛の妻を失った父は、おれの首をしめた。
『お前が。お前さえ、生まれなければ……っっ!!』
遠くなる意識のなか、おれは怪物の声を聞いた。
――タスケテアゲル。オレガ、コロシテアゲルヨォ。
 




