『キル・アンド・キス』<殺人鬼と姫の殺し愛>
リッパー×姫の恋愛パロディです。
本編とは、似て非なる設定なのでご注意を!
「てめえ、あたしを好きって噂、本当か」
「そうだったらどォするんだよ、姫ェ」
「……次、その気色わりぃ呼び方したら、ブッ殺す」
深夜の路地裏で、あたし、鮫島有姫と、殺人鬼、切崎猟也は向かい合っていた。
はじまりは、あたしが近道を通って、自宅に帰ろうとしたことだった。
その最中、こいつとカチあった。
今、あたしは、こいつのだらしなくヘラヘラした顔をみて、果てしなくイラついている。
「こええ女だな、おい。まァ、そんなとこに惚れたんだけどよ」
「趣味わりぃな」
吐き捨てると、切埼は、愉しそうに嗤った。
「てめぇこそ、女囲ってるクセに」
「人の趣味に口だしてんじゃねぇ。大体、乙女<アイツ>はそんなんじゃねえ」
「じゃあなんだよ」
「てめえには関係ねぇ」
「教えろよ」
「――やなこった。もしどうしても知りたいなら、あたしを倒してからにしろ」
――こいつ、しつこい。あたしは、背中に背負った刀に意識を集中させた。
いっそ、一息に切り捨ててやろうか。
後ろ暗い思考のまま、背中に手をやると、切埼はにたり、と意味深に笑った。
「ヒャッハァ。そんなこといっていいのかなァ、子猫ちゃん」
「……カッチーン」
あたしは、額に青筋を浮かべ、背中に背負った、のこぎりのような刀を構えた。
「――ブッ殺す。」
「……ハッ、イイ顔だな」
切崎の舌なめずりするような顔をぶったぎるべく、一気に距離を詰めた。
がちん、という金属音が鳴り響き、切崎の、大振りのサバイバルナイフとかち合った。
ただのサバイバルナイフなら、あたしの特注の、この刀の前では、藻屑と化していただろう。
だが、切崎の精製したナイフは、大きさも強度も段違いだった。
分が悪い、とあたしは、後ろに跳ぶように下がった。
瞬間、あたしの頬を、ナイフが切り裂いた。
幸い、飛んできたナイフは小ぶりで、あたしの頬の皮一枚、裂いただけだった。
あたしは、指で血を拭うと、睨みつけるように目を細めた。
「オンナの顔に、何傷つけてんだ。――殺されてえか」
「ヒャハッ。お前に殺されるぐらいなら、おれがお前を殺してやるよ。なんなら、キズモノにした責任取るぜ?」
「――冗談」
あたしは刀を構え直すと、電光石火の勢いで突進した。
再び金属音。
(……読まれたか!)
舌うちをするが、遅い。腕を捕まれて、反転させられた。
刀が地面に突き刺さる。
(――しまった――!!)
「……捕まえたァ」
「――くっ……」
握りしめられた手首をうごかそうとするが、ピクリとも動かない。
――なんて握力だ。
ほそっこい、よわっちい男だと思っていた。
だが、その体が今、覆い被さるようにあたしを襲う。
「――もう降参かァ? 粋がってたクセに、随分弱いんだな、姫ェ」
「誰が……っ」
全身の力を振り絞って、刀に手を伸ばす。
「ダメダメ、やらせねぇよ?」
仰向けに押し倒され、キッと睨みつける。
「やっぱ、てめえ、イイ顔してるわ」
「――あたしの顔が、そんなに可笑しいか」
「んーん、美醜じゃねぇよ。その表情、すごくそそる」
「――な……っ」
羞恥に顔を熱くしたあたしに、リッパーの顔が近づく。
素早く唇を塞がれ、思わず反応が遅れた。
舌まで入れてきたら、咬みちぎってやろうと思ったが、すぐに離された。
「――ご馳走サマ。旨かったぜ、お前の唇」
じゃあな、とひらひらと手を振って去るリッパーを、あたしは茫然と見送った。
その姿が見えなくなった頃、そっと唇をなぞった。
「……あの野郎、ぶっ殺す……」
あたしはやけつくように熱い頬を、誤魔化すかのように、唇をぬぐった。
そして、ふらりと立ち上がると、帰り道を急いだ。
ああ、近道だからって、路地裏なんかに立ち寄るんじゃなかった。
次は、もっと武装しよう。
あたしのファーストキスを奪ったこと、絶対後悔させてやる。
地面に這いつくばらせて、その顔面を踏みつけてやるのだ。
そう思うと、胸がすいて、とても晴れやかな気持ちになった。
――そうだ、あたしはアイツが嫌いだ。
この世で一番――大嫌いだ。
いつか、あいつをひれ伏させ、「鮫島様」と呼ばせてやろう。
その時は、足ぐらいなめさせてやってもいい。
そして、あたしの駒として、一生、忠誠を誓わせるのだ。
もっとも、あのイカれた殺人狂は、あたしの言うことなんか、聞きそうにないが。
だったら、力づくでねじ伏せ、服従させるだけだ。
あたしは、刀を背負い直し、笑った。
いつまでも、優位にたてると思うなよ。
使い捨てて、ボロ雑巾みたいにして、この手で切り伏せてやるのだ。
――その時が楽しみだな、猟也。
あたしは、家路を急ぐ。もう一秒だって、待てなかった。
帰ったら、刀を手入れして、百回でも千回でも、一万回でも振ってやる。
そして、あいつをこの手で、完敗させる姿を想像しながら、もっと強く、強くなってやる。
もう、「子猫」なんて、言わせない。
あたしは、お前を喰い殺す。
ヴァルハラレディースの副隊長にして、黒豹<ブラック・レディ>……鮫島有姫の名にかけて、お前を打ち負かし、服従させる。
――たとえ、どんな手段を使っても。
以上、ブログにて特別公開していた、IFカップル企画(設定はパラレルです)でした!
このあとふたりは殺し合いならぬ、「殺し愛」を重ねながら、徐々に近づいていきます。
カップルになるかは謎ですが!笑
本編で、ふたりを結婚させるきっかけとなったお話です。
リクエストくださったニコラさん、ありがとうございました!!(ぺこり)
 




