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『ミッドナイト・ロストサマー』 ~この100回目の夏を、「輝ける悪魔」と~  作者: 水森已愛
-アフターアポカリプス- 「“MS+ND”<ミッドサマー・ナイツドリーム>編」
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「-友愛の絆- ~ゴースト・プリズナー~」


ぷらいべったーにて限定公開していました、双子坂死ネタです。

双子坂とチカが、無駄にいちゃいちゃしているので、ご注意ください。

「君は僕が死んでも、きっと泣かないんだろうね。とんだ貧乏くじを引いたものだ」


さびれた公園の真ん中で、オレと双子坂は向き合っていた。

夜のとばりが落ちても、風はなまぬるく、オレ達をなぶる。


「悪い。双子坂。おとなしく、殺されてくれ」


「はいはい。じゃあとりあえず、さよならかな。君の活躍をもっとみたかったな。――君が、僕たちを救うところを」



「……悪い」


双子坂の瞳から目をそらさず、オレは形ばかりの謝罪をした。



「謝らないでくれ。千夜と、奈津菜ナズナによろしく」


「――わかった」



「じゃあ、一思い(ひとおもい)に」


「……双子坂」



「ん?」


「……今まで、ありがとう……」



オレは、震える声で、感謝を述べた。


双子坂と過ごした時間は、オレにとって、かけがえのないものだった。

施設で孤立していたオレに、双子坂だけは、付き合ってくれた。


それだけじゃない。


こうして今も、オレの勝手な願望のために、その命まで捧げようとしてくれている。

どんな謝罪も、感謝も、とても言葉では足らなかった。



「礼には及ばないよ。それより、僕は君のことが心配だ。 その呪われた能力を使ってまで、僕の霊体をモノにしたところで、 君は君の悲願を叶えられるのか」


「……叶えてみせる。――この名にかけて」



「君がそういうならそうなんだろうね。じゃあ」


ため息をついた双子坂に、オレは、“あの言葉”を投げかけた。



「“菩提樹ぼだいじゅの先で"」



「ああ。“菩提樹の先で"君を待っている。……“また会おう、親愛なる友よ"」



その合言葉に、オレは、胸をつまらせながら、こくりとうなずいた。



「――ああ……」


オレは、ナイフを持つ手に力をこめ、 勢いよく、双子坂にぶつかった。


ぶしゅ、という音と共に、赤い花びらに似た鮮血が飛び散った。


崩れ落ちた双子坂を抱き締め、オレは震えた。

それでも、涙がにじむことすらなかった。


(――ああ、双子坂、オレは壊れているな)


右目がぴりり、とうずき、オレは空を見上げた。



<ゴースト・インカーネイション>。


双子坂の魂が、オレの力によって、 高度精神アストラル体となって、受肉じゅにくするのを感じながら、 オレは、双子坂の亡骸なきがらを抱き締め続けた。



(( ――そんなに哀しんでもらえるなんて、光栄だね―― ))



そんな軽口が聞こえ、オレは立ち上がった。


「……それでも、泣けなかったな」


『わかりきったことを言うね。それより、さっさと僕の死体を始末してくれ』



「――ああ」


オレは、双子坂の霊体に、標準を合わせた。



<<ゴースト・チャネリング>>


チャンネルを変えるように、 双子坂とオレの魂の周波数を合わせ、ありったけの力を注ぎこんだ。


霊的な力を得た双子坂が、 もはや、ただの脱け殻となった自分の体に向けて、手を伸ばした。



<<テンペスト>>   


双子坂が呟いた次の瞬間、その死体にくたいは勢いよく飛び散った。


当然、オレは、肉片と返り血で、ベトベトになった。



「――双子坂」


げんなりした気分で、顔をひきつらせ、オレは静かに肩を震わせた。


『いい気味だね。これぐらいの仕返しができないと、僕も死んだかいがないよ』 


「性悪」


じとっ、とにらみつけると、 双子坂は、嫌味な微笑アルカイック・スマイルで肩をすくめてみせた。


『怒らせてしまったかな。 ――まあ、これで僕の死体は最早、施設の人間には解剖不可能だ。あとはせいぜい、土にでも埋めてくれ』


「……お前、性格変わってないか」



『リミッターが外れたからかな。ともかく、これで僕は、 人を殺せない不自由な縛りから、解放されたわけだ。 ――どうぞ、奴隷どれいのように、こきつかうといいよ』


「……言われなくても」


オレは、双子坂の霊体に、ふたたび照準を合わせた。


双子坂は、自分で自分の頬をつねるはめになった。


<ゴースト・ドミネーション>。


主人を、オレに定めることで、 霊体の支配権<ドミニオン>を、一時的にオレに移したのだ。



『痛覚は、今の僕にはないんだけどね』


「じゅうぶん、マヌケだから安心しろ。これからマジで、こきつかってやるからな」



『ハイハイ。ご主人様のおおせのままに』


双子坂は、そんなジョークを言いながら、執事のように一礼すると、地面に足をつけた。



<ゴースト・エイドス>。


霊体の構造を、一時的に改変し、その存在定理<エイドス>を書き換えることで、物や人に、触れることができるようになったわけだ。


立て続けに能力を行使こうしした反動で、くらりと目眩めまいを感じ、オレは悪い、と意識を手放した。



『――やれやれ。手間がかかるご主人様だ』


そんな軽薄けいはくな台詞と、抱き抱えられる感触を感じながら、オレは眠りに落ちた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




――悪夢(ゆめを見ていた。


この世で一番大事なものを失う夢だ。



それを阻止そしするために、オレは唯一の友達を殺した。



「……チカ」


静かな低音が耳をくすぐり、オレは重たいまぶたをあけた。



「……双子坂」


オレは、双子坂の膝の上に寝ていた。



「――……救えなかった」


言って、その腰に抱きつく。


「仕方ないよ」


きみはただの中学生なんだ、と頭をなでられた。


「――違う」


オレは、化け物だ、と嗚咽おえつをもらすと、チカ、と再び声が降ってくる。


「君は間違っていない」


「……どこがだよ。お前を殺したのに」



「僕でもそうする」


「――お前はオレを殺せないだろ」



「――どうかな」


ひとしきり、頭をなで終わると、双子坂は、コアラのごとく、腰に抱きついたままの、 オレを引っ張りあげ、やわく抱き締めた。


「まだ、チャンスはある」


終わってないよ、と、固く、自分の肩にオレの頭を押し付けた。


「終わってない」 と反芻はんすうするオレに、

「ああ。これからが勝負なんだろう? ――君の底力をみせてくれ、救世主」


と、双子坂は、首をかしげ、目を細めて、微笑ってみせた。


「……ん」


オレは、こくりとうなずき、返事代わりに、双子坂の肩口に、顔をこすりつけた。



はあ、と双子坂がため息をついた。


「こんなことなら、ナズナを抱いておけばよかったよ」


「……わりぃ」


オレは双子坂の肩に、ぐりぐりと、頭をこすりつけた。



「オレでよかったら抱くか?」となけなしの誠意を見せると、「君を抱いてもね」と、またため息をつかれた。



「そうだよな」


オレはほっとして、双子坂から離れた。



「――行くぞ、相棒。世界をひっくり返しに行こうぜ」


「頼もしいね。コケなきゃいいけど」



「ばっか。炎に誓いし暗黒仮面様は最強無敵、いつだって完全勝利なんだよ」


いって、ひらりと片足を踊らせ、両手を広げた。



「お前に、最高の世界を見せてやる。そしたら、ちゃんと成仏じょうぶつしろよ」


「ハイハイ」


双子坂はやれやれといった風に笑うと、オレの後を着いてきた。



「どこまでもお供しますよ、マイロード」


・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして、オレ達はどこまでも、歩いていく。

その先が絶望の未来でも、かまわない。


――裏切ってやる。

残酷こんな運命も、自分の気持ちさえも……。


そう、たとえ、その果てにあるのが、自分のおわりだとしても。


オレは、手に入れる。

……その愛しい夜を、今度こそ、永遠に。


そのためなら、オレはもうすべてを裏切り、破壊することができるだろう――。


オレは隣に並んだ双子坂をみつめた。

双子坂は微笑みながら、オレをみつめかえした。


お前の死を、けして無駄にはしない、と、深く深く、心に刻む。


お前と出逢って、オレはきっと、何者にも屈しない無慈悲とうめいな銃を得た。


このトリガーに手をかけるとき、きっとオレは、世界の終わりをみるだろう。



    (( さあ、絶望の運命を、撃ち落とせ――。 ))



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