「-友愛の絆- ~ゴースト・プリズナー~」
ぷらいべったーにて限定公開していました、双子坂死ネタです。
双子坂とチカが、無駄にいちゃいちゃしているので、ご注意ください。
「君は僕が死んでも、きっと泣かないんだろうね。とんだ貧乏くじを引いたものだ」
さびれた公園の真ん中で、オレと双子坂は向き合っていた。
夜の帳が落ちても、風はなまぬるく、オレ達をなぶる。
「悪い。双子坂。おとなしく、殺されてくれ」
「はいはい。じゃあとりあえず、さよならかな。君の活躍をもっとみたかったな。――君が、僕たちを救うところを」
「……悪い」
双子坂の瞳から目をそらさず、オレは形ばかりの謝罪をした。
「謝らないでくれ。千夜と、奈津菜によろしく」
「――わかった」
「じゃあ、一思い(ひとおもい)に」
「……双子坂」
「ん?」
「……今まで、ありがとう……」
オレは、震える声で、感謝を述べた。
双子坂と過ごした時間は、オレにとって、かけがえのないものだった。
施設で孤立していたオレに、双子坂だけは、付き合ってくれた。
それだけじゃない。
こうして今も、オレの勝手な願望のために、その命まで捧げようとしてくれている。
どんな謝罪も、感謝も、とても言葉では足らなかった。
「礼には及ばないよ。それより、僕は君のことが心配だ。 その呪われた能力を使ってまで、僕の霊体をモノにしたところで、 君は君の悲願を叶えられるのか」
「……叶えてみせる。――この名にかけて」
「君がそういうならそうなんだろうね。じゃあ」
ため息をついた双子坂に、オレは、“あの言葉”を投げかけた。
「“菩提樹の先で"」
「ああ。“菩提樹の先で"君を待っている。……“また会おう、親愛なる友よ"」
その合言葉に、オレは、胸をつまらせながら、こくりとうなずいた。
「――ああ……」
オレは、ナイフを持つ手に力をこめ、 勢いよく、双子坂にぶつかった。
ぶしゅ、という音と共に、赤い花びらに似た鮮血が飛び散った。
崩れ落ちた双子坂を抱き締め、オレは震えた。
それでも、涙がにじむことすらなかった。
(――ああ、双子坂、オレは壊れているな)
右目がぴりり、とうずき、オレは空を見上げた。
<ゴースト・インカーネイション>。
双子坂の魂が、オレの力によって、 高度精神体となって、受肉するのを感じながら、 オレは、双子坂の亡骸を抱き締め続けた。
(( ――そんなに哀しんでもらえるなんて、光栄だね―― ))
そんな軽口が聞こえ、オレは立ち上がった。
「……それでも、泣けなかったな」
『わかりきったことを言うね。それより、さっさと僕の死体を始末してくれ』
「――ああ」
オレは、双子坂の霊体に、標準を合わせた。
<<ゴースト・チャネリング>>
チャンネルを変えるように、 双子坂とオレの魂の周波数を合わせ、ありったけの力を注ぎこんだ。
霊的な力を得た双子坂が、 もはや、ただの脱け殻となった自分の体に向けて、手を伸ばした。
<<テンペスト>>
双子坂が呟いた次の瞬間、その死体は勢いよく飛び散った。
当然、オレは、肉片と返り血で、ベトベトになった。
「――双子坂」
げんなりした気分で、顔をひきつらせ、オレは静かに肩を震わせた。
『いい気味だね。これぐらいの仕返しができないと、僕も死んだかいがないよ』
「性悪」
じとっ、とにらみつけると、 双子坂は、嫌味な微笑で肩をすくめてみせた。
『怒らせてしまったかな。 ――まあ、これで僕の死体は最早、施設の人間には解剖不可能だ。あとはせいぜい、土にでも埋めてくれ』
「……お前、性格変わってないか」
『リミッターが外れたからかな。ともかく、これで僕は、 人を殺せない不自由な縛りから、解放されたわけだ。 ――どうぞ、奴隷のように、こきつかうといいよ』
「……言われなくても」
オレは、双子坂の霊体に、ふたたび照準を合わせた。
双子坂は、自分で自分の頬をつねるはめになった。
<ゴースト・ドミネーション>。
主人を、オレに定めることで、 霊体の支配権<ドミニオン>を、一時的にオレに移したのだ。
『痛覚は、今の僕にはないんだけどね』
「じゅうぶん、マヌケだから安心しろ。これからマジで、こきつかってやるからな」
『ハイハイ。ご主人様の仰せのままに』
双子坂は、そんなジョークを言いながら、執事のように一礼すると、地面に足をつけた。
<ゴースト・エイドス>。
霊体の構造を、一時的に改変し、その存在定理<エイドス>を書き換えることで、物や人に、触れることができるようになったわけだ。
立て続けに能力を行使した反動で、くらりと目眩を感じ、オレは悪い、と意識を手放した。
『――やれやれ。手間がかかるご主人様だ』
そんな軽薄な台詞と、抱き抱えられる感触を感じながら、オレは眠りに落ちた。
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――悪夢を見ていた。
この世で一番大事なものを失う夢だ。
それを阻止するために、オレは唯一の友達を殺した。
「……チカ」
静かな低音が耳をくすぐり、オレは重たいまぶたをあけた。
「……双子坂」
オレは、双子坂の膝の上に寝ていた。
「――……救えなかった」
言って、その腰に抱きつく。
「仕方ないよ」
きみはただの中学生なんだ、と頭をなでられた。
「――違う」
オレは、化け物だ、と嗚咽をもらすと、チカ、と再び声が降ってくる。
「君は間違っていない」
「……どこがだよ。お前を殺したのに」
「僕でもそうする」
「――お前はオレを殺せないだろ」
「――どうかな」
ひとしきり、頭をなで終わると、双子坂は、コアラのごとく、腰に抱きついたままの、 オレを引っ張りあげ、柔く抱き締めた。
「まだ、チャンスはある」
終わってないよ、と、固く、自分の肩にオレの頭を押し付けた。
「終わってない」 と反芻するオレに、
「ああ。これからが勝負なんだろう? ――君の底力をみせてくれ、救世主」
と、双子坂は、首をかしげ、目を細めて、微笑ってみせた。
「……ん」
オレは、こくりとうなずき、返事代わりに、双子坂の肩口に、顔をこすりつけた。
はあ、と双子坂がため息をついた。
「こんなことなら、ナズナを抱いておけばよかったよ」
「……わりぃ」
オレは双子坂の肩に、ぐりぐりと、頭をこすりつけた。
「オレでよかったら抱くか?」となけなしの誠意を見せると、「君を抱いてもね」と、またため息をつかれた。
「そうだよな」
オレはほっとして、双子坂から離れた。
「――行くぞ、相棒。世界をひっくり返しに行こうぜ」
「頼もしいね。コケなきゃいいけど」
「ばっか。炎に誓いし暗黒仮面様は最強無敵、いつだって完全勝利なんだよ」
いって、ひらりと片足を踊らせ、両手を広げた。
「お前に、最高の世界を見せてやる。そしたら、ちゃんと成仏しろよ」
「ハイハイ」
双子坂はやれやれといった風に笑うと、オレの後を着いてきた。
「どこまでもお供しますよ、マイロード」
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そして、オレ達はどこまでも、歩いていく。
その先が絶望の未来でも、かまわない。
――裏切ってやる。
残酷な運命も、自分の気持ちさえも……。
そう、たとえ、その果てにあるのが、自分の死だとしても。
オレは、手に入れる。
……その愛しい夜を、今度こそ、永遠に。
そのためなら、オレはもうすべてを裏切り、破壊することができるだろう――。
オレは隣に並んだ双子坂をみつめた。
双子坂は微笑みながら、オレをみつめかえした。
お前の死を、けして無駄にはしない、と、深く深く、心に刻む。
お前と出逢って、オレはきっと、何者にも屈しない無慈悲な銃を得た。
このトリガーに手をかけるとき、きっとオレは、世界の終わりをみるだろう。
(( さあ、絶望の運命を、撃ち落とせ――。 ))




