chapter.2 -開幕- “After Fate,Beginning Night's Dream” ~アフターフェイト・ビギニング・ナイツ・ドリーム~
あの後の話をしよう。
運命のラストバトルを終え、鵺の存在しない、最後の世界線を生きていくことになったあたし達。
結局、あたし達の親は、誰一人生き返らなかったが、雷門は、黒幕撃破の報酬として、みんなを代表し、ボーナストラックよろしく、新たな生を生きることになった。
また、チカは、力を使いすぎて寝込んだ、ババアの看病のため、ババア宅に居候を決めたが、ババアの回復は早く、一か月後には、ピンピンしていた。
そう、まだ、チカがアメリカに行くことを告げる前。
そんな、ある日のことだ。
バカは風邪をひかない、の典型である乙女が、数年ぶりに風邪を引いた。
肝心の姫は、天王の祭事によって、家を出られず、誰が看病するのか? という話になった。
意外なことに、まっさきに乙女を介抱したのは、一番、関心薄そうにしていた、雷門だった。
なんでも、熱にあえぐ乙女の唇に、ひとさじひとさじ、おかゆを運んでやったらしい。
後日、全快した乙女は、面白い行動をみせた。
雷門を、しきりにチラ見し、目が合えば、真っ赤になって逃げる。
そんなおかしな光景が、まるまる1週間続き、やがて乙女も慣れたのか、普通に……というか、あからさまに、雷門にべたべたしはじめた。
それが、いわゆる思春期特有の病……、惚れた腫れたのアレだと、その頃には誰もが気づいていた。
子ライオンよろしく、なつきまくる乙女を、最初は邪険にしていた雷門だが、むっとしたチカが、ふたりの間に、無理くり割り込んでまで、引き離そうとしたことに、味をしめ、しまいには、わざと乙女と仲良くしはじめた。
乙女に構うと、チカとイチャイチャできる。
というわけで、雷門は乙女に積極的にからみ、それをみたチカがまた嫉妬し……と、しばらく乙女とチカが、雷門を取り合う、奇妙な状態が続いた。
チカを好きなあたしとしては、何も思わない訳じゃないが、男同士だし、まあ、これといった過ちも起こらないだろう。
そう思っていたあたしが甘かった。
ある日、ババアの家を訪れると、ババアは留守だった。
物音がしたので、きっとチカだろうと、のれんをくぐり、リビングに入った。
あたしは、目を疑った。
なんと、雷門が、チカをソファに押し倒していた。
ただ、馬乗りになっているだけなら、どうとでもいいわけのしようがあったが、雷門は上半身裸で、そのうえ、チカのシャツの下に手をもぐりこませていた。
「あ」
チカが、あたしに気づき、仰向けのまま、間抜けな声をあげた。
「あ、じゃねえだろ!!」
あたしは、容赦なくぶん殴った。
しこたま殴られ、頭をさするチカは、反省の色もなく、あぐらをかきながら、こう答えた。
「こいつがどうしても、オレとヤりたい、って言うから、借りあるし、約束したし、そろそろいいかなって」
聞けば、チカは、この戦いが終わったら、なんでもひとつお願いを聞くと、約束したらしい。
その結果が、これかよ。
「何がそろそろいいかな、だ」
怒るより前に、呆れた。
雷門は、正座で膝をついて、
「悪かった。マジで反省してる」と謝ったが、謝るぐらいならやるなよ、という話だ。
しばらく会話はもちろん、三メートル以上近づくの禁止、とあたしが告げると、雷門は、ショックを受けたように固まったが、男らしく、腹をくくり、頷いた。
チカは、ぶうたれたように、そっぽを向いていたので、もう一度殴った。
でも、問題はまだ解決していなかった。
その後の話である。
乙女は、高校を卒業後、雷門と結婚した。
乙女は、あのドラマティックな一夜の後、姫の子を身ごもっており、その子、乙姫は、進藤が引き取ることになった。
なんでも、乙姫は、魔神と鬼の血を、色濃く受け継いでしまったがゆえ、リミッターである、魔装具で力を押さえたうえ、定期的な健診が、必要らしい。
結婚の一報を聞くなり、チカは、あからさまに気分を害したように、こう言った。
「もうヤったのか?」
乙女は顔を真っ赤にし、もじもじとしていた。
雷門も同じく、真っ赤な顔でこらえていた。
察したらしいチカは、雷門のすねを全力で蹴った。
急所を攻撃され、ぷるぷる震える雷門に、
「オレ以外にも、勃つのかよ」
と、チカはぶすっとした顔で言った。
それには、答えず、雷門は頬をかいた。
別れ際、飼い主を取られたにゃんこよろしく、いまだにご機嫌斜めで、沈黙しているチカに対し、雷門は言った。
「安心しろ。俺がこの世で、一番愛してるのはお前だ」
頭をくしゃりと撫でられ、チカは、にまにまご満悦だった。
嫁の横でBLすんな、と姫がクールに叩き切った。
チカの嫁としては、非常にイライラしたが、雷門は、チカをかばって死ぬほどの、男の中の男だ。
チカがデレるのもわかる。
わかるがムカツク。
あたしは、当分、チカにツンデレすることを決めた。
惚れた弱みとか、知ったことか!!
そういえば、なんだかんだありつつも姫一途な乙女が、雷門との結婚を決めたのは、自分の子と、姫の子を結婚させ、姫と、家族になる約束をしたはいいが、そんな、踏み台みたいなこと、自分を好きになってくれた男に、できるわけない!!
と頑なに拒否っていた乙女にとって、
同じく、同性であるチカが最愛である、雷門なら、この複雑な想いを、わかってくれるだろう、と思ったからだという。
実際、叶わぬ恋に、身をやつすふたりは、すぐに意気投合したらしく、ゴールインまで、あっという間だった。
姫はといえば、親族の決めた相手とのお見合いに嫌気がさし、あてつけに、リッパーこと、切崎猟也とできちゃった婚をした。
当然、まさかすぎる事態に、乙女をはじめ、一同は騒然としたが、当の姫はどこ吹く風で、ひょうひょうとしていた。
乙女は泣きわめき、しばらく雷門がなだめまくっていたが、最終的に、我慢の限界で、姫宅に直談判しに行ったあと、妙に、ほくほくとした顔で帰ってきたらしい。
ちなみに、朝帰りだったらしい。
何があったかは、オトナなら、もうわかるな?
ちなみに、姫の体質はもとにもどらなかったらしく、女のカラダに男のブツ、という両性具有のままらしい。
本人は特に、気にしてないようだが、海や温泉の時は、とんでもない大騒ぎになりかねない大事態だ。
まあ、乙女との関係を考えると、あながち悪い話ではないというか、役得だろう。
すべての呪いが解放されたことで、二度と姫と契れない、というリミッターも外れたらしく、
それ以来、たびたび乙女は、姫の自宅へと足を運んでいるようだが、夫である、雷門やリッパーの立場はどこにあるんだろうか。
総理である、乙女の父親のはからいで、正式に、同性婚が認められたことだし、いっそ、姫と乙女が結婚すれば、丸くおさまるような気がするが、姫は乙女を、天王のしきたりに、縛ることをよしとしないようで、そこらへんはおいおい、ということらしい。
リッパーはリッパーで、普段はやとわれ兵をやっていて、家を空けることが多く、まさか自分の嫁がGLやってるとは、夢にも思っていないだろう。
まったく、ご愁傷様だ。
雷門は雷門で、相変わらずチカにデレデレしているし、なんだこの夫婦。
――マジキチかよ。。
まあ、すったもんだのあげく、チカとあたしの間にも、夏夜ができた。
腹のなかには、もう一人いるし、これから、たくさん思い出を作ってやりたいと思う。
しかし、あたしはこの時、まだ知らなかった。
第二世代は、こんなモンじゃない。
近親相姦上等の、モンスターチルドレンばかりだということを。
性別迷子な3人の天使が織り成す、真実の愛の物語は、また別の話だ。
“After Fate,Beginning (K)Night Dream”
~アフターフェイト・ビギニング・ナイツ・ドリーム~
「運命の後、はじまる夜(騎士達)の夢」




