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第6話 -生け贄の血- ~サクリファイス・ネメシス・オブ・アポカリプス~

あたしは、目の前のチカの、異様な姿に驚いた。


だって、その瞳は、赤く染まっていて。

唇は裂け、狼のような牙がのぞいていて。

その爪は長く鋭く、まるで、チカじゃないみたいだった。

いや。

現実逃避はやめよう。


目の前にいるのは、化け物だった。


あたしは、信じられなくて、確かめたくて、

チカに触れようと、歩み寄った。


チカが、暴れ、もだえ、叫ぶ。


あたしは、気が付くと、チカに引き裂かれていた。


服は破れ、胸からは、幾筋いくすじもの血がしたたった。



もし、あたしがチカにおびえ、一歩足を引いていなかったら。


あたしは、チカに殺されていた。



あたしは、傷口を押さえ、へたりこんだ。


もう、あたしには、なんの気概も残っていなかった。



チカは、あたしを、殺そうとしている。


その瞳は、狂気と歓喜にぎらついているし、

その息は、獲物を前にした獣のように、荒い。



チカは、一歩、あたしに向かって、踏み出した。


あたしはもう、ただむさぼり喰らわれる、

ただのえさにすぎなかった。



その時、チカが、膝をついた。


頭をむしり、うなり、もだえだした。



「ぅあアああアアアア゛ア゛ぁ……!!」


「――チカ……?!」



「千夜……ニゲ、にげ……ろ……!!」


“逃げろ”

チカの言葉に、あたしは気づいた。


チカは、あらがっている。


最後の力で、あたしを、助けようと、している。



         << ―リン。 >>



その瞬間、鈴の音が聞こえた。


あたしは、その一瞬で、すべてを理解した――。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




――ああ。思い出した。

お前は、こんな風に泣きそうな顔で、あたしを殺して。


同じ手で、何度も、あたしを救おうとした。


時には、あたしの代わりに死んで、でも、それでも救えなくて。


何度も何度も、あたしを看取みとって、

その亡骸なきがらを抱いて、


泣いて、泣いて、たくさん泣いて、れるほど泣いて。


とうとうお前は、絶望の果てに、運命さえねじ曲げた。


あたしが、お前の親父の死に、関わらないように。

あたしを自分の手で、殺めてしまわないように。


そうだな、チカ。辛かったよな。



――ごめん。

お前は覚えていたのに、ずっと、全部を覚えていたのに。


その罪を背負って、あたしに笑いかけて、

あたしのために、すべてを犠牲にしてくれていたのに。


あたしは、ぜんぶぜんぶ、ずっとずっと、忘れていて。


そんなお前のことも、あたしが、お前にしてしまった罪も、

忘れて、忘れきって、


お前のことをわかろうともせず、勝手な理想を押し付けて。


あたしは、チカに再び、歩み寄った。



(近づくな)



(――近づくな……!)



(――千夜、お願いだ。

   これ以上、オレに近づかないでくれ――!!)



そんな声が、聞かなくても伝わってきた。



「“いやだ”。」


あたしは、最後のきょりを詰めると、チカを抱き締めた。



「いやだ、つってんだろ、チカ。

 もう、いやだ。これ以上忘れるのも、これ以上やり直すのも。

 ……もう、お前を離さない。お前を忘れない。

 お前を――死なせない!」



「――離れろ!!!」



獣のように咆哮ほうこうし、

あたしを、引きがそうとするチカに、言った。



「――言ったろ。」



「約束なんて、いらない。

 

 運命が、あたしたちを引き裂くなら、

 神様だろうがなんだろうがかまわねえ。

 邪魔するやつは、すべてぶっとばす。

 

 あたしは、お前が、どんなにあたしを拒絶しようが、お前に会いに行く。


 ……なあ、運命を、裏切ってやろうぜ。

 あたしとお前で、世界を変えるんだ。

 

 “一緒に、戦おうぜ”。――”世界と”。

 ――そんで、このくそったれな世界を、ぶっ壊してやろう」



一瞬、おとなしくなったチカを抱いて、あたしは言った。



「――チカ。これが最後だ、聞いてくれ。」




――あたしは。




――“お前がどれだけ人に嫌われても、

         あたしが、お前を好きでいるから”――




その言葉に、チカはおびえたように、体を震わせた。



「……ちや……」



「だから、安心しろよ。こんなことで、嫌いになるもんか。

 お前がどんなに拒絶しようが、逃げようが――

 あたしは絶対に――永遠に、お前のそばに、いてやる……」



チカのまぶたが、安らいだように、閉じられていくのをみて、

あたしは、おやすみ、とその耳にささやきかけた。



「くっっ……こんなことが……!

 でもいいわ。また繰り返してあげる。

 死と絶望に満ちた、裏切りの物語をね!!」



「――そこまでにしてもらおうか」



「――クリストフ……!!」


「“クリストフ”……?」


あたしは、気を失ったチカを抱き締め、呟いた。


現れたのは、山羊やぎの角を生やし、

大烏おおがらすのような翼を持った、壮年そうねんの男だった。



「……やれやれ。おれとしたことが、

 まさか、無限回廊むげんかいろうごときにてこずるとはな。

 

 だが、ようやく見つけた。

 これで、お前はもう、逃げられないぞ、

 ――冥府の魔女、ミランダ・ベルン」



「クリストフ……! あなたはあの時確かに、死んだはず……!」



「ああ、死んだふりだ、ミランダ。

 俺のような魔神が、お前ごときの、ちゃちな罠にかかると思うか。

 

 魂と肉体を切り離しすぎて、肩がこったぞ。

 おかげで、飽きるほど、昼寝するはめになった。」



「さて、フルパワーとはいかないが、

 お前ごときを葬ることなど、たやすいのだぞ。

 どうする、ミランダ。もう、後がないぞ。

 泣いて謝るなら、許してやらないこともない」



「ふん、減らず口を……! あなたの弱点は、もう、知っているのよ!」


魔女は、両手を広げた。


その眼前に現れたのは、十字架にはりつけにされた、若い娘だった。


「――ヴァージニア……」


「――乙女……?!」


あたしとクリストフは、同時に声をあげた。


目の前に捧げられた生贄いけにえは、どうみても、

あたしのよく知る少女、神早乙女かみはや・おとめだった。


クリストフは、彼女を、見知らぬ名前で呼んだ。

ヴァージニア。それが、乙女のほんとうの名前……?!



「そうよ。あなたの愛した、か弱い女の孫娘。

 この小動物の首を跳ねたら、あなたもおとなしくなるかしらね?

 さあ、ひざまずき、あたくしに忠誠を誓いなさい!」



「――ミランダ」



「さあ、さっさとあたくしの足にキスをなさい。

 あたくしのオモチャになるなら、

 あなただけは許してあげても良いのよ?」


クリストファーは、ミランダに歩み寄った。


そして、歯を食いしばり、険しい顔をしながら、ゆっくりと膝をついた。







「――なあ、じいちゃん。あたしはいつまで、じっとしていればいい?」



「――なっっ」


乙女は、その瞳を開けた。


左目はヒヤシンスの澄み切った青、右目は鮮やかに燐光をはなつ、薔薇色。


そして、ゆっくりと拘束をぶちきり、その足で立つと、腕を鳴らした。



「……さあ、魔女さんよ。――このあたしの鉄拳、食らってみるか?」


「な……何よ、あなたなんて、ただの混ざりものじゃない。

 そんなあなたに、このあたくしが負けるとでも?」



「そうだな。

 でもあたしには、じいちゃんの魔力と、ばあちゃんの、聖なる力がある。


 それだけじゃない。

 父さんも、兄ちゃんも、みんな、あたしを見守ってくれてる。

 

 だからあたしは、絶対に負けない。

 お前を、こてんぱんのボッコボコにしてやる」



「……あたしも忘れるなよ」



カツカツと音をたて、現れたのは姫だった。


鮮血に染まったぼろぼろの白い姫装束に、折れかけたヒールを鳴らし、

姫は、ゆっくりとその剣を、胸のなかから取り出した。



「ちょうど、この新しい剣の切れ味も、知りたかったところだしな」



きらめく刀身は、赤くまがまがしく、死を囁く。



「ツクヨミ。てめえのからだ、少し血にまみれるが、かまわないか」



  (( ――御意に<イエス>、

           我が姫よ<マイ・ロード>―― ))



剣がそう答え、姫はそれをかまえた。



「――そういうことだ」


クリストフがうなずき、腕を組んだ。



「ヴァージニア、鬼姫の末裔。お前達の真の力、とくとみせてもらうぞ」



「了解、じいちゃん。孫の晴れ舞台だ、目ん玉かっぽじっとけよ」



「目は見開くものだろうが。乙女こそ、あたしの足手まといになるなよ」



「誰に向かっていってるんだ? 

 この猛き戦乙女<ヴァルキリー>、ヴァージニア・ブラッドリー様に、

 負けという二文字はねえ!!」



「……茶番を!! クリストフもろとも、

 このあたくしが、消し炭にしてあげるわ!!

 さあ、ぬえ、ナイトメア、おいでなさいな!」



「――あたしも忘れてもらっちゃ困るな」


ナズナがイズナ、オサキ、クダギツネたちを引き連れ、

巫女装束をはためかせた。


「――同感だ」

双子坂がメガネを押し上げ、


「ヒャッハーー!」

とリッパーがナイフを躍らせ、


「トリップしてやがるクズは、引っ込んでろ」

と雷門がツッコんだ。


「遅れてすまない。僕も参戦するよ」


家畜かちくの世話は、飼い主の責任だからね」


リンドウと命が、颯爽さっそうと現れ、よどみなく構えた。



「わらわら、わらわらと! 人間ごときがこざかしいわ!

 あたくしの大いなる力の前に、ひれふしなさいな!!」


ミランダがわめいたが、もう誰も、そんな声は聞いていなかった。



……乙女が超重力で、ぬえ達を虫けらのように押しつぶし、

     重力を何乗にも加算したその拳で、ぶっとばす。



 

 ――姫が美しく舞い、

      血しぶきで着物を、くれないに染める。




  

 ……ナズナが鈴を鳴らし、鎮魂の舞<レクイエム>で、

      ナイトメアたちを眠らせ、鵺達を昇天させていく。

   

   

  ――双子坂が、テンペストを解放し、

       鵺達を、内側から壊しつくす。


    

    

  ……リッパーが、千本のナイフを躍らせ、

        鵺たちをバラバラに切り裂き、

         

   

   ――雷門が、神の怒りのごときハリケーンと雷撃で、

       ナイトメアもろとも、蹴散らし、次々と爆破する。




   ……リンドウが、花々でナイトメアを包み、

     手品のようにハトに変え、

     薔薇色のサーベルとレイピアで、鮮やかに裁いていく。




    ――命が、翼のある水晶の馬に乗り、錫杖を鳴らしながら、

      ケルベロスの「黒夜」と、

      百の目を持つ鬼虎ひゃくめおに、「白夜」を解き放ち、

      鵺たちを、食い散らかしてゆく。




あたしは、そんなみんなを一瞥いちべつすると、

チカをクリストフに預け、目を見開いた。


あたしが、もし本当に、鵺達を封じた、高貴なる姫――、

血闇姫ちやみひめの生まれ代わりなら。



あたしにも、やれるはずだ。


たとえ、皆にはかなわなくても。



――あたしにだって――。



「……力は、ある……!!」


両手を広げて、あたしは、叫んだ。



「――血闇、あたしに力を貸せ……!!」




       

(( ――仕方ない小娘じゃの。 ))




しゃん、と鈴の音が聞こえ、目の前に、

美しい、夜色の髪を結った少女が現れた。


十二単じゅうにひとえを華麗に脱ぎ捨てた、

はかま姿で、彼女は言う。




 (( ……さあ。わらわの末裔よ。

            ――せいぜい、その名に恥じぬ戦をしてたもう))




次の瞬間、あたしの掌には、なくしたと思った、紅の扇が握られていた。


扇のずっしりとした重みに耐えながら、あたしは、どこからか流れてくる、

信じられないほど美しい、琴と笛の音にあわせて、

ゆっくりと、ゆっくりと、舞った。




「――この者たちの力が増している……?

 なんという、こざかしい真似を……!!

 小娘、まずはお前から手折たおってあげましょう……!」



「――させねえよ」



「――チカ……!?」


あたしは、いきなり飛び出してきたチカに驚いた。



「……クリストフ、千夜、礼を言うぜ。

 ――さあ、真打しんうち登場だ。どう出る? ミランダさんよ」



「――なんですって……?」


ミランダが、目を見開いた。


チカの後ろから現れたのは、

西洋の貴族のようななりをした、品のある男と、


静謐せいひつでありながら、あでやかな美しい女、


そして、最後に、

からすのような翼をはやした、優しげな顔立ちの若い男だった!!


「親父! ばあちゃん! ――兄ちゃんまで!

 駆けつけてくれたんだな!!」



「愛しい娘が戦っているのだ。僕も観戦に来た」



「わたしの可愛い孫娘が、こんなに頑張っているのなら、

 この勝利の女神たる“ばあば”も、力を貸さずにはいられませんよ」



摩耶まや

 魔女ごときにはいをきした、不肖ふしょうの兄だが、

 どうか、僕にも戦わせてほしい」



「――く……っ!! 

 なぜ、あたくしの許可もなしに、死人がわらわらと……!」


僕はまだ死んでいない、と乙女の親父はつっこんだが、

祖母というには若く美しすぎる婦人と、柔和な顔立ちの兄は、

勝ち誇るように微笑った。



チカが、口を開いた。


「<ゴースト・プリズナー>。

 ミランダ、あんたの敗因は、オレ達にこんな力を与えたことだ。

 

 あんたのかけたのろいは、

 あんたにさえ解くことができない、不浄ふじょうのまじないだ。

 

 過ぎたるは、なお、及ばざるがごとし。

 あんたは、けっして手を出してはいけない領域に、

 片足を突っ込んだんだ」



手か足かどっちかにしろ、という、

クリストフのツッコミが聞こえた気がしたが、

チカはやっぱり、華麗にスルーし、こう言った。



「人を呪わば穴二つ。……墓石の準備はできてるな? 魔女」


「冥府の墓守である、あたくしが死ぬとでも……? 

 ちゃんちゃらおかしいわ!!」



「……殺すことはできなくても」


「――封じることはできる」


乙女の父と兄が、重ねるように言った。



「そういうことです。

 この勝利の女神、あなたの呪いを、そのまま祝福に変えてあげましょう」



「――何を……」



 「“あなたに幸いあれ。勝利あれ。

           希望あれ。愛あれ。命あれ。誕生あれ……”」



「いや……!! やめろ……やめなさい!!

 このあたくしに、そんなものを、突き付けないで!!」



「ミランダ。

 あなたが、みなさんに与えた、すべての呪いを、祝福に変えましょう」



「――い……っ、いやああアぁあアア゛!!!!」



「“そして、あなたにも、最上級の幸せを”」




ミランダはしばらく、

のたうちまわるように、地面を這いつくばっていたが、

やがて気を失ったように、動かなくなった。


「死んだのか……?」


あたしは、様子をうかがうように、一歩近づいた。



「……眠っているのです。

 あれだけの魔力を浪費しては、

 さしもの彼女も、だいぶ疲れていたでしょう。

 

 今度、目覚めるときには、

 彼女は、その力のほとんどを失っているでしょうね」



「それじゃあ……」



「――ええ。彼女には冥府の墓守を引退してもらって、

 我が楽園で、新しい職をみつけてもらいましょう。


 まずは下積みとして、雑用から覚えてもらって、

 いずれは、死して楽園を訪れた方たちの、案内係を務めてもらいます。 

 

 誰よりも、深く激しく、殿方を愛したこの方には、

 きっと、その溢れる愛を、もっと、ひろやかに、

 解放できる場所が、必要でしょうから」



「……ずいぶん寛大なことだな。

 てめえは、まごを殺された恨みはないのか」


姫の責めるような葉に、女神は艶然えんぜんと、涼やかに微笑んだ。



「いえいえ。すべては、決まっていたことなのです。

 誰しも、命には終わりがある。それは、我々、神々も同じ。

 

 すべては、天にまします、我らが最高裁のお決めになったこと。

 わたしたちは、ただ、その御心みこころに従うだけですわ」



女神は、花咲くように、にこりと微笑うと、こう続けた。



「それに、罪人に反省させるには、罰では不足ですの。


 それより、めいっぱい、恩赦おんしゃを与えることで、

 罪悪感をかきたてるのが、定石じょうせきですわ」



「銃でおどすより、笑顔でおびやかせ、ということか。

 さすがは神様ですね」


双子坂が、唇を吊り上げ、ニヒルに称賛しょうさんした。




「――神なんて……」


チカがくやしそうにこぼした。



「あら。あなたは、あなた達の父が、そんなに気に食わない?

 我らの父は、確かにあなた達、人の子に、

 たくさんの試練をお与えになった。

 

 でも、こうしてすべてが、まあるく回りだしたことが、

 すべてを証明しているのですよ。

 

 あなたは、愛されている。他のすべての仔らと一緒にね」



「でも、これで、すべて終わりなのか……?」


あたしが不安そうに問うと、勝利の女神は、

りんとした静謐せいひつな声で応えた。



「――ええ。試練に合格したあなた達には、選択権がある。

 すべてをなかったことにして、最初の世界をやりなおすか、

 それとも、このまま、最後の世界で生きていくか」



「……最初と、最後……。

 じゃあもう、二度と、やり直すことはできないんだな」


ナズナが溜め息をつき、


「……難しい問いだね。さて、どちらを選ぼうか」


双子坂が考え込み、


「よくわかんね。千夜が決めろよ」

と乙女が丸投げし、



「お前は、もう少し悩め」

と姫がげんこつをくらわせた。



「――俺は、生き返れるのか」


雷門が呟くと、勝利の女神は、こう言った。



「――すべての呪いは解けました。

 これからは、代わりに、祝福を抱いていきることになります。

 

 ……もちろん、雷門。

 ぬえによって呪われたあなたも、

 正しい生を生きることができます」



「……本当か? ――よかったな、雷門……!」


だが、喜ぶあたし達に浴びせられたのは、優しくも、甘くない言葉だった。



「ただし、雷門、あなたの生は、そんなに長くありません。

 死と隣り合わせのあなたの人生は、太く短い幸福に彩られるでしょう。

 

 運命は、けして、あなたを甘やかさない。

 あまり、長生きはできないとみていいでしょう」



「――そんな……!」


ナズナが悲鳴にも似た声をあげたが、

勝利の女神は、毅然きぜんと答えた。



「……それが、運命なのです、人の子よ。 

 我らが父は寛大ですが、誰よりも厳しくあらせられます。

 

 皆に等しく、機会<チャンス>をお与えになりますが、

 幸福を手にできるかは、あなた達しだい。

 

 あなた達の人生を決めるのは、あなた達以外には、存在しないのです」



「――なんだよそれ」


と乙女はすねたが、



「まあ、そんなにうまい話はないってことだ」


と姫はさっくりと切った。



「決めるのは、オレ達……か。じゃあ、決めるのは千夜だな」


長くだんまりを決め込んでいた、チカが言った。



「……あたし?」


いきなりふられたあたしは、

大げさに驚きこそしなかったが、疑問は口にした。



「――でも、お前達の人生だろ」



「……そうでもない。君なら、正しい答えを導ける気がする。

 ……根拠はないけどね」


双子坂が言い、



「……そうだな。あたしも、お前に任せるよ」

ナズナが頷き、



「変な答えしたら承知しょうちしねえぞ」


雷門が、こちらをにらみつけながら笑い、



「――な? な? あたしの言ったことは正しいだろ?」


乙女が調子にのり、



「……ハイハイ」


と、姫が面倒くさそうに返した。



あたしは、皆の顔をみて、最後にチカのほうを向いた。



「……千夜」


チカは、あたしの名前だけ呼ぶと、大きく頷いた。



「そうだな。女神、決めた。――あたしは……」


“Sacrifice” ~サクリファイス~


【不可算名詞】 [具体的には 【可算名詞】] 神にいけにえをささげること.


【可算名詞】 (ささげられた)いけにえ,ささげもの.


【不可算名詞】 [具体的には 【可算名詞】] 犠牲(にすること) 〔of〕.


【可算名詞】 犠牲(的行為).

【可算名詞】 犠牲になったもの.


〔動詞(+to+(代)名詞)〕〔…に〕いけにえをささげる.


【語源】

ラテン語「神聖にする」の意


“Nemesis”~ネメシス~

「天罰」、「復讐」


“Apocalypse”~アポカリプス~

「黙示録」


“Sacrifice Nemesis of Apocalypse”

~サクリファイス・ネメシス・オブ・アポカリプス~


「黙示録の復讐(天罰)に生贄を捧げろ」


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