表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ミッドナイト・ロストサマー』 ~この100回目の夏を、「輝ける悪魔」と~  作者: 水森已愛
-第二章- 「“施設”<オルタナティブ・ダークナイト>編」
11/133

第1話 “前夜”<ドーン・ダークネス・スカイブルー>


――クソックソッ。……クソッ。


 ライターをカチカチと鳴らす。


―― 火がつかない。火が。


――クソッタレ。なんで、俺の妻はいなくなった。


――――クソッ。こうなったら、死んでやる。



『やめなさい』


――千景ちかげ。


『そんなことしても、何にもならないわ』


――なんだと……? 俺は、お前が、お前がいなくなったから。

職もないし、酒もまずいし、「千夜」も俺を捨てやがった。


―― お前が、お前が、お前のせいだ。


『辰壬たつみ。あなたは、何もわかっていない』


――ふざけるな。よし、そこにいろ。 殺してやる。


――突き落としてやる。「お前」を……!




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――ピーポーピーポー……。

  救急車の音が窓から聞こえた。

  あたしは、シャーペンで、見取り図を書く。


――施設。


 そこは、未知の領域だ。けれど、噂うわさがないわけじゃない。

 げんに、インターネットの掲示板では、頻繁ひんぱんに取りざたされている。



  一。人体実験は、毎月4のつく日。いきすぎた不良はそこで脳をいじられ、更生こうせいさせられる。

 

  二。入口は林に繋がっていて、公正に失敗した死体はそこに埋められる。


  三。いわく、身寄りのない子供たちを洗脳し、犯罪に利用しようとしている。



  さすがのあたしも、その噂のすべてを信じているわけじゃない。

  はっきりいって、尾ひれのついた、都市伝説だと思う。


  だけど、火のないところに煙けむりは立たない。

  そこには、わずかでも、真実への糸口があるはずだ。


  あたしは、ネット上から拾った情報を、ルーズリーフにまとめ、それをまず、正しそうか正しそうでないか——。


  つまり、まるでデマカセか、その裏に、なにか情報が隠れているか——のふるいにかけ、その全体像を、少しずつ、あぶり出していった。


 いや、わかった気になっているだけかもしれない。

 一介いっかいの中学生であるあたしに、なにができるかというと、せいぜい落とし穴にはまらないよう、慎重になることぐらいだ。


 だけど、自分で言うのもなんだが、あたしはたとえ、義務教育中のガキでしかなくとも、そんじょそこらの高校生より、マシな自信がある。

 

 自分のバカさ加減かげんもわかっているし、その上でどう振舞ふるまうかも、自分になにができてなにができないか……、そのぐらいはわきまえている。


 少なくとも、上の下。それぐらいの矜持きょうじはある。

 

 そこまでつらつらと考えながら、昨夜、パソコンで調べてプリントアウトした、掲示板の内容のなかでも、最も多く話題に上った話題に、赤マルをつける。


 いわく、


「施設では、なんでも、警察でもすら扱いに困った不良の他に、なんらかの特殊な能力を持った少年少女を、秘密裏に養育・管理している」


 他の眉唾まゆつばの話題だと、一時的には話題になっても、すぐに廃すたれる。

 だけどこの話題だけは、定期的に、必ず現れる。


 まるで、「どこかの誰か」のメッセージのようだった。


 あたしは、そいつのIDをチェックした。

 だいたい一致している。おそらく同一人物で間違いない。


 そしてそいつは、こうも言っていた。


「9月9日、赤羽あかばね町にて、集会が行われる」


 集会。なんの集会かは記されていない。

 ヴァルハラレディースの有姫ゆうきに聞いてみた。どうやら暴走族関係ではないらしい。


――だったら、なんの?


 あたしは、掲示板でつぶやいた。



「赤羽町の集会、あたしも参加する」


 鼓動こどうが跳ねる。

 もし、これを書いたのが、施設の関係者なら、あたしは、自ら罠にかかりにいったようなものだ。


 掌にじっとりとした汗を感じつつ、スマホを握り締めると、すぐに、それらしい返事がきた。


「――0時に、赤羽町の4番地で」



――これだ。

……これしかない。


 あたしは、危ない橋を渡ろうとしていた。

 命を奪われても不思議じゃない、危険な賭かけ。


 でも、やっぱりあたしは、いくら自覚したところで、慎重になったところで、わきまえたところで……。

  ただの、中坊、七織千夜でしかなく――。


  自分の大事なダチが、今この瞬間、もし危険な目にあっているのだとしたら、とても平然としてはいられない。


  それどころかためらいもなく、自分の命さえ賭けようとする、それぐらいにバカで、大馬鹿で、――無謀むぼうなヤツなのだった。


 これでもう、アイツのことは言えないな、とあたしは苦笑し、スマホの電源ボタンを押した。


  必要な情報は、おおむね揃そろった。



 今日は、9月6日。


――9月9日まであと三日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ