第1話 -その檻のなかで- ~インセスト・ラブ・ポーション~
目を覚まして、これで気絶するのは何度目か、と嘆息した。
お決まりの展開になりつつある。
できれば、もう、よしてほしいな、と、すっかり平和ボケした頭で思った。
(ここは……?)
予想に反して、周りには、誰もいなかった。
寒気を感じ、ぶるり、と躰を震わす。
――ぽちゃん。
水音が聞こえて、ふと、そちらを見上げた。
そこには、大きな水槽があった。
「親父……!?」
そこに浮かんでいたのは、あたしのクソオヤジだった。
両手両足、蛇に巻きつかれ、
水槽の中に、力なく浮かんでいる。
「嘘だろ……っ」
思わず、水槽を叩いた。
親父が、目を開ける。
ち、や、と口が開く。
――生きてるのか。
ほっとするが、その顔に生気はなく、こちらをみつめる目はうつろだ。
「親父……っ、今助けるからな!!」
どんどん、と水槽を叩くが、びくともしない。
周りを見渡しても、水槽のほかになにもない部屋で、
壊せるような道具もない。
「くそ……っ」
どうして親父が、なんで。
でも、これは、まぎれもない、現実なんだ。
ふと、昔の親父を思い出した。
子どもの頃、頭をなでてくれた大きな手。
ママとあたしと三人で、行った遊園地。
ママがいなくなって、酒におぼれて、
あたしなんかいないみたいに扱った、あのクソッタレな日々。
親父が、また口を開けた。
ごぼり、と水泡が目の前を踊る。
(いいんだ)
(もう、いいんだ、ちや)
「何がだよ……っ!!」
親父は、もうなにも言わず、ただ、力なく微笑った。
そのまま、親父は、目を閉じた。
「親父……? 親父……っっ」
「うるさい子ブタね。おかげで、起きちゃったじゃない」
奥の扉から、姿を現したのは、ネグリジェ姿の妖艶な女、
魔女、ミランダこと千冬だった。
「あら、ここに辿りつくなんて、運がいいのね。
でも、いくら叩いても無駄よ。
この水槽は、あたくしの意思がなければ壊れない、
魔法の鳥籠なの。
開けてほしければ、あたくしの言うことを聞くことね」
「教えろよ……っ、あたしは、なにをすればいいんだ……!!」
「そうね……しいていうなら、あなたの純潔が欲しいかしら。
お相手は、そうね……この男でいいかしら」
ミランダがぱちんと指を鳴らすと、そこには、彼がいた。
「進藤……っ!!」
「千夜……」
青ざめたような顔で、進藤が、呟いた。
「あは。実の親子同士でまぐわせる。これこそ、最高のショーよね。
ああ、心配しなくていいわ。
あたくしは、別室で楽しく拝見するから、
後は親子水入らず、ごゆっくりね」
「進藤……っ」
あたしは、進藤に駆け寄る。
「近寄るな……!!」
突然の大声に、あたしはびくりと足を止めた。
「今、僕の身体には、
媚薬と催淫剤が盛られている。
この空間にも、それと同様の香が焚いてあるようだ。
頼むから、僕から離れていてくれ」
進藤は、懇願するように眉をしかめ、言った。
「でも……お前が……」
「僕のことは、もう、ほっておいてくれ。
それより、親父さんを助ける手段を考えよう」
「でも、この水槽は、あたしとお前が……その……」
「セックスしないとダメなんだろう?
でも、それはダメだ。君に、そんなことはさせられない」
「でも……っ」
「でももだってもない。君だって、はじめてが僕だなんて嫌だろう……?」
それはそうだ。
だって、あたし達は、育て親の親父とは違い、血のつながった親子なんだ。
そんなことできないし、しちゃいけない。
でも、この感じ。
なんだ……?
あたしは、ぶるりと震え、へたりこんだ。
「…………っ」
ぎゅっと目をつぶり、生理的な涙をこらえる。
「千夜……?」
異変に気付いた進藤が、あたしの肩に手を伸ばした。
「……ふぁっ……」
変な声をもらし、唇を噛んだ。
「千夜、君、まさか……」
その通りだ。進藤の言ったとおり、
おかしな香りが、部屋中に充満している。
媚薬と催淫剤。
効果はよくわからないが、進藤に触れられた瞬間、
全身がしびれて、意識が飛びかけた。
――もっと。もっと、あたしに触って。
あたしは、甘くしびれる躰を、進藤にこすりつけた。
「千夜、何を……」
ああ。頭がぼんやりとしてきた。
あたしの目に、進藤がうつっている。
怯えているような、求めているような、潤んだ瞳だ。
「しんどう……」
あたしは、進藤を押し倒し、馬乗りになった。
どうすればいいのか、なんとなく、知っていた。
「千夜……いけない、それ以上は……」
進藤は抵抗するが、躰に力が入っていない。
それでいて、その部分だけは、固くなっていた。
「ダメだ、千夜……お願いだ。やめてくれ……」
進藤が懇願するように、力なく首を振るが、
あたしには、もう聞こえていなかった。
それに触れ、口に含もうとした時だった。
扉があき、冷たい空気が入り込んできた。
信じられないほど寒い外気に、あたしの目が覚める。
――あたし……?
自分のしたことに今さら気づき、驚いて、飛びずさる。
空気が入れ替わったせいだろう、頭もはっきりしてきた。
「久しぶりね、千夜。私のこと、覚えてる?」
その声は、とても懐かしい響きをともなって、
あたしの耳朶に入り込んできた。
「――ママ……」
そこにいたのは。
三年前、あたしを残して出て行った、大好きな、あたしのママだった。
Incest ~インセスト~
「近親相姦」
Love Potion ~ラブ・ポーション~
「ほれ薬」
(飲ませた相手に恋情を起こさせるという薬)
「媚薬」
“Incest Love Potion”
~インセスト・ラブ・ポーション~
「近親相姦の媚薬」




