ストーカー日記
3月1日。
今日も彼の帰りは遅かった。
彼は帰宅し、しわになるのも気にせず服を脱ぎ捨て、カーテンも閉めずにご飯も食べずに、ベッドに倒れこんだ。
相当疲れているのだろう。
私は明日胃に優しいおかゆを作ろう、と思った。
3月2日。
私は朝ごはんにおかゆを作った。
彼は一口も食べてくれなかった。
食べなくちゃ元気が出ないのに、彼は私の作る料理を殆ど食べてくれない。
3月3日。
今日、彼の仕事は休みだった。
疲れているはずの彼は、エッチなホームページを見ていた。
私というものがあるのに、疲れているはずなのに、正直別れようかと思った。
私の恨めしい視線に気が付いた彼は、慌ててカーテンをした。
手遅れだ。
私はしっかり見たのだ。
手遅れなのに、私の心から彼は消えなかった。
3月4日。
むしゃくしゃしていた私は、彼のノートパソコンを盗んできた。
いや、借りてきた。彼が帰ってくる前に返した。
とにかく、エッチなホームページを見れなくしようと思ったのだ。
しかし、私はそんな方法を知らなかった。
せいぜい『お気に入り』を削除するくらいしか出来なかった。
削除する必要はなかったかもしれない。
もう彼なんてどうでも良いのだから。
もう私たちは別れるのだから。
彼のパソコンには『日記』と名づけられたフォルダがあった。
中には『西暦ハイフン日付』とシンプルな名前がつけられたテキストファイルが沢山あった。
最近の日付の物を私は見てみた。
ー ー ー ー ー ー ー ー
3月1日。
今日も仕事が遅くなってしまった。
例の彼女はおきているだろうか? と心配したが大丈夫だった。
ちゃんと俺の帰りを待っていてくれた。
俺はサービスシーンのつもりで全裸になった。
だけど、今日は疲れている。
そのままベッドに倒れこんだ。
だから、これは、2日の朝に書いたものだが、未来の君、というか俺は覚えていたかな?
3月2日。
今日の朝、玄関を開けたらおかゆがあった。
これが鍋だったならば、まだマシなのだけど、どんぶりにおかゆが入っていた。
ラップはしていない。
これじゃぁ、埃が入ってるじゃないか。
いつから置いてあるのか分からないそれを、食べる気にはならなかった。
彼女はちょっと大雑把過ぎる。
3月3日。
今日は昨日のおかゆの件を反省してもらおうと、エッチなホームページを見ている様を彼女に見せ付けた。
予想以上に怒っていたので、慌ててカーテンをした。
俺たちの関係は終わったかもしれない。
ー ー ー ー ー ー ー ー
以上。
全文一字一句同じ。
気味が悪い。
3月5日
私はすぐに引越しの準備を始めた。
愛しの彼はストーカーだったのだ。
このままじゃ、私の身が危ないわ。