九話 幼稚園の日常
――――パタンッ
「…ふぅ」
ソラは読み終わった本を閉じ息を吐く、思いのほか本に集中していたらしい。
壁の上にかけてある時計を見ると時刻は昼の12時を過ぎ、あと15分程度で1時になるころだった。幼稚園に来たのが8時なので4時間以上本に集中していたことになる、だがソラに疲れた様子はなく本を棚に片付け外を見る。
「おい、いまあったったぞ!」
「へっへーん!バリアがあるからきかないも~ん」
「なにお~!」
ワーワー、キャッキャと、子供たちの遊ぶ声が聞こえる、ソラも「遊んでいいんですよ?」とエリイに言われた事があったがソラにあそこまで無意味なことをして体力を消耗するのはどうしてだろう?と逆に不思議に思い遊ぶことはなかった、また理由としていままでの経験が体に染み付き騒ぐということを拒否しているためというのも含まれているのだろう。
「元気だなぁ…」
ソラは正直な感想をいう、ソラからしてみれば外で遊ぶより本を読んで知識を蓄えるほうがあとあと役に立つと思うのだが子供たちにそんなことは理解できない、精神がDのソラだからこそ考え付くことなのだ。
そこでふとソラは疑問に思うことがある、エリイ達は自分のステータスを見て驚いていたが普通の子供たちはどんなものなんだろうと
そしてソラは部屋の入り口から誰かが入ってくるのが見える
髪の色が金髪だったのでアリスだろうと頭の中で結論ずける、はっきりと見えるところまで近づいてきてアリスだとわかりやっぱりかと思うソラである
するとアリスは声を強くしてソラに話しかける
「ソラ!そとであそぶのよ!!」
いきなりの誘いに少し驚くソラだがすぐに遊ぶ相手がいないのだと察する
そして逆にいままでづっと一人で遊んでたのかと思うと少し同情する
「いや、僕はいいや、アリスは外で遊んどいでよ」
やんわりと断るソラだがアリスは引き下がらない。
むしろ機嫌を悪くしほっぺたをプクーと膨らませている
「だめ!友達はそとでいっしょにあそぶのよ!」
(…うーんどうしようかな…あ)
どう断ったものかと悩んでいたソラだが、何かを思いついたように顔をアリスへと向ける、急に顔を向けられたアリスはしばらくじーっと睨んでいたがずっと顔を見ているのが恥ずかしくなったのか顔をプイっと横に向けてしまう。
「ねえアリス、ちょっとステータスを見せてくれないかな?」
「え?すてーたす?なにそれ?」
ソラの言葉にわけがわからないと困惑したように言うアリスを見て、やっぱりこの年ではステータスのことは教えられてないんだなと思うソラ。
「えっとね、頭の中でステータスって考えてみるんだよ」
「…こう?すてーたす!」
考えるだけでいいといったのに声に出してしまうのは幼稚園だからこそなのだろうかと、ソラはのんきに考えながらアリスの前に出てきたステータスを見せてもらう。
「ちょっと見せてね…」
名前:アリス・イリス・ストアシア
種族:人間
年齢:5歳
体力:F 筋力:E 覚醒:E
魔力:F 精神:F
[装備]
『貴族服』
[魔法]
【なし】
[称号]
【伯爵家】
アリスのステータスを見てソラは小さく頷く
(へぇ、体力や魔力量は僕は一般より多いのかな?あ、筋力がアリスより下だ……)
ソラがエリイから聞いた話では5歳くらいの年では大体みんなのステータスに差はないのだそうだ、全部がFやEばかり、まれに天才などが高い数値を出すことがあるが一般ではこれが普通である、ソラは自分のステータスの異常性を理解しほいほいとは見せないようにしようと心に誓うのだった。
ステータスを閉じさせ、アリスにお礼を言う
「ありがとうアリス、知りたいことが知れて助かったよ」
ソラの言葉にアリスは上機嫌になったように顔をにっこりさせている
「ふふん!これくらいどうってことないわ!じゃあ私は外に遊びに言ってくるわ!」
そういいアリスは本来の目的を忘れ一人で外に遊びに行くのだった。
ソラはこれからも知らなければいいけないことが沢山あるなと、もっと魔法について勉強しようと思ったのだった。
「って、ソラもいっしょにいくの!」
目的を思い出し怒りながらソラに強くいうアリス、ソラ自身もステータスを見せてもらって事もあり、簡単には断れないと思い、自分の重い腰を上げる
「…わかったよ、今行く」
ソラは渋々と部屋から外に出てアリスのいる所まで歩いていく。
歩いていく途中にふと上を見上げたソラは眩しくて目を細めたがすぐに見開くことになる。
「…へぇ、部屋の中から見る空とは違うんだ…」
普段から部屋の中からしか空を見ていなかったため外から見た大きな空に少し圧倒されてしまった。
すると途中で止まり上を見上げて全然こちらに来ないソラを見てアリスはドシドシと音がしそうなくらいに地面を踏みながら歩いてくる。
「ちょっとソラ!早くきてよ!なに見てるのよ!」
「ごめんね、空が綺麗だったから」
怒鳴るアリスにソラは微笑みながら謝罪の言葉を口にする
だがそんなことでアリスが納得するわけもなく、さらにソラに怒鳴る
「空なんてどうでもいいのよ!早く遊ぶのよ!」
アリスの様子にソラはやれやれと苦笑いしながら肩をおろす
そしてここまで来ておいて聞きそびれていたが、疑問に思いアリスに尋ねる
「遊ぶっていっても…なにで?」
「え?……えっと…」
ソらの質問にアリスは自分が何も考えていなかったことに気づき、周りを見渡す、周りは子供たちがあちこちで遊んでいるためもう自分たちが遊べる場所がないように見えた、そのことにアリスは焦り、何をしてソラと遊ぶかを考える。
すると何かを思いついたように遊んでいる子供たちを指差し、自信満々にソラの質問に答える。
「あそこの子達をどかして私たちで遊ぶのよ!」
「……」
――――ギュウゥウウ
ソラがアリスのほっぺたをつねる
「いひゃい、いひゃい!」
痛がるアリスから手を離すソラ、するとアリスが怒ったようにソラに怒鳴る
「い、いやいじゃない!なにするのよ!」
アリスの言葉に呆れたように答えるソラ
「いいアリス、ほかの子たちのものを横取りしたりしちゃだめだよ?今はあの子達が遊んでいるんだから遊び終わるまで待ってないと、アリスだって場所を横取りされたらいやでしょ?」
ソラは優しくアリスに何がいけないのかを説明する
するとアリスは自分がされたときのことを考え、嫌そうな顔をする
「いや…よこどり、いや…」
「でしょ?だから別のことで遊ぼ?」
何時までも優しく話すソラにアリスは自然に笑顔になる
「うん!べつのとこであそぶ!」
「ふふっ、アリスは偉いねぇ」
―――ナデナデ
微笑みながら自分の悪いところを自覚しソラの言っている事を是認したアリスにソラは嬉しく思い、ついついアリスの頭を撫でてしまう
頭を撫でられたアリスは少し顔を赤らめそっぽを向いてしまう、でもソラの撫でる手を拒否しないのは嫌に思ってないからこそだろう。
そこでソラは何かを思いついたようにアリスに提案する
「あ、そうだアリス、部屋の中で本を読まない?僕が読んであげるから」
ソラの言葉にアリスは目を輝かせる
「ほん!わかった!よんでよんで!」
そういいはしゃぎながら走って部屋の中に入っていくアリスにソラは苦笑いする、さっきまで自分を外に連れ出そうと散々言っていたのに凄い変わりようである。
「はやく!ソラ!」
「わたったよ、いまいくね」
ソラも部屋の中に入り先ほどまで自分のいた本棚の近くに腰を下ろしているアリスのそばに座る。
アリスは本棚を見てどれを見ようか悩んでいる
「え~っと……う~ん…これ!!」
アリスが持ってきたのはいかにも女の子がすきそうな王子様とお姫様の絵が載っている絵本だった。
「これでいいの?」
「うん!!」
確認を取るソラにアリスは早く読んでといわんばかりに答える
ソラはわかったと頷き自分が読みやすいかつアリスに見え安いように窓際で背もたれのある壁際のアリスの隣に座る、本を見せる体制なので自然と距離が近くなる、ソラの本を持っている腕がアリスの体に当たってしまうのもしょうがないことだろう、だが―――
(…腕を絡まされるのも…しょうがないことなのかな?)
アリスは隣にいるソラの腕にがっちりと自分の腕を絡ませている
この行動にソラは転入前にエリイが聞かせてくれた一般常識の言葉を思い出し自分の頭の中で思考するが、エリイから聞いた内容にこの行動は乗っていないため、まだ自分の知らない常識があるんだなと結論付ける。
「はやくぅ!!はやくよんで!」
ソラをせかす様にいうアリス、不思議と組まれているソラの腕にかかる力が上がって気がする。
「わかったよ、だから落ち着いて」
興奮しているアリスを落ち着かせるソラ
(なんか言葉遣いも性格も違うけど、強引なところはエリイ姉さんににてるきがする……)
「じゃあ読むよ?…昔々あるところに――――――」
日は落ち空は赤く染まりもう夕方であることを示している
エリイはソラを迎えに来るために幼稚園行き、中に入ったところで部屋の前で立ち止まっている二人の女性を見るける。
一人は幼稚園の先生だとわかるがもう一人は話したことはないが知っている人だった。
エリイは立ち止まっている二人を疑問に思い近づいていく。
「あのー?どうしたんですか?」
エリイの質問に対し二人は一本指を立て口にあてる
「「しーー!」」
静かにしろという合図なのは察しが着いたので声を小さくして質問する
「…どうしたのですか伯爵様まで一緒になって?」
すると金髪の二人目の女性がエリイに振り返り笑顔で答える
「なるほど、貴方がソラ君の保護者の方ですか、いえ、ただあれを見ているとつい顔がほころんでしまうんです」
そういい指を指す方を見るエリイ
指の指された先には壁にもたれかかって二人して肩を寄せ合い眠っているソラとアリスの姿だった。
本が近くに開いたまま置いてあるので読んでいる途中に寝てしまったんだろうと想像がつく。
二人の寝顔のかわいさとその光景のほほえましさにエリイも自然とほほが緩んでしまう。
「なんというか…」
「「「和むわ(みます)ねぇ~」」」
その日以来、マルティナとエリイは二人のことでよく話すようになったのだという。