六話 幼稚園
「幼稚園です!」
(……へ?)
ソラは一瞬思考が停止したように声を出せなかった。
しかしすぐにとまった思考が回転し始めた、だがソラの頭の中には「幼稚園」という単語はのっていなかった。
「幼稚園ってなに?」
ソラが不思議そうに聞く、ソラは普通の生活をしてないため一般常識が欠けている、ゆえに幼稚園という単語の意味もわからなかった。
するとダッグがソラの横に立ちエリイに声をかける
「いきなり幼稚園といっても分からないんじゃないか?」
ダッグの言葉にエリイは「あっ」と声を出しソラにわかりやすく説明する。
「幼稚園というのはソラと同じ年くらいの子が集まる場所ですよ、そこで友達をつくったり一緒に遊んだりするんです」
エリイの言葉にソラは「なるほど」と頷き、エリイに向き直る。
「でも…いいの?、そういうのってお金がかかるんじゃないの?僕は別にいかなくてもいいんだけど…」
「だめです!」
ソラの遠慮がちの提案を即答で却下するエリイ、顔には反論を許さないといってるかのような形相でソラに言うものだからソラは反射的に後ろに一歩さがる、しかしソラもこのままではいけないと思いエリイに言う。
「でも……お金は?僕は働くっていう手もありだと思ったんだけど…」
ソラの言葉を聞きダッグが大笑いをする
「はっはっはっは!お金の心配をするなんて相変わらずソラは子供らしくないな、だが心配は無用だ、たしかにお金は掛かるが安いんだよ、幼稚園は」
可笑しそうに笑うダッグを見て、安いなら大丈夫かな?と思うソラは最後に本当に大丈夫かどうか確認するためにエリイを見る。
ソラに顔を向けられたエリイは優しく微笑みソラの頭を撫でる。
「大丈夫ですよ、ですから心配せずに幼稚園にいってください、幼稚園卒業後は魔法学校だってあるんですから、そんなにお金のことが心配になるならお金の換わりにしっかりと学んできてください、いいですか?」
「……うん、わかった」
こうしてソラの幼稚園デビューが決まったのだった。
あれから1週間、今ソラは大きな建物の前に来ている、ソラの横には笑顔のシスターことエリイが立っている、そう、幼稚園に来たのだ。
「ソラ、大丈夫ですか?緊張してませんか?」
エリイの心配そうな言葉にソラは苦笑いしながら頷く
「…大丈夫、それ、4回目」
「うっ、ごめんなさい…」
あれから1週間の間にソラの私服を買ってあげたり、一般常識を教えたりとバタバタした日々が続いた。だがなんとかここまでこれて内心ホッとしているエリイ、いままで子供を、というより弟の面倒を見たり世話をしたりすることなんてしたことのないエリイなのでそれなりに大変だったらしい。
だがほとんどはソラが自分でこなしてしまう所があったのでそれはそれで少し残念に思うエリイである。
「ううん、心配してくれてありがとう」
笑顔を向けながら言うソラの言葉にエリイは満面の笑顔になりソラに抱きつく。
「ん~!ソラ、可愛いです!!」
エリイに力いっぱい抱きしえられたソラは苦しそうに暴れている、それに気づいき、慌ててソラを離す。
「ハァハァ……」
「ご、ごめんなさい」
息を切らしているソラを見て再び謝罪の言葉を述べるエリイ、普段からこの繰り返しのことが多いので、ソラ自身も少しなれてしまった所があるようで何もいわない。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
無言の時間が耐え切れなくなったのかエリイが何もなかったかのようにソラの手をとり幼稚園へと入っていく。
幼稚園の中に入ると中は少し広いと思う程度の一階建ての建物だった
中に入り最初に見たものは左右に二列ずつ並んでいる靴箱だった、靴箱の中にはすでにいくつもの靴が入っており自分たちが途中から来たという事がわかる、といっても今回はエリイが事前に幼稚園に遅れてくると伝えているという話を聞いたので問題はないだろうと思うソラである。
ソラにとっては少し長いと思う廊下を歩き、とあるドアの前で立ち止まる
するとエリイがなぜか緊張したように
「いいソラ、虐められたりしたらすぐに私に言うんですよ?そういう時はお姉ちゃんが守ってあげますからね」
「…なんで僕よりエリイ姉さんのほうが緊張してるの?」
「こ、これは緊張じゃないのでいいんです!かわいい弟の幼稚園デビューに感動して震えているだけです!」
なぜか無駄な言い訳をしているエリイを見てやっぱり優しい人だな、と思うソラである。そしてソラは可愛い花の模様が描いてあるドアを開け中に入る
無論ここからはソラだけしか入れないのでエリイとは暫くここでお別れだ。
ソラは手を小さく振り、いってきますと口を動かす。
それを見てエリイは笑顔で手を振り替えしてくれた。
ソラが中に入り周りを見渡す
するとそこらじゅうで好きに遊んでいる子供たちを見つける
「ぶーん!!ドラゴン様がとおるぞー!!」
「僕は騎士!やっつけてやる!」
「えりゃー」「うりゃー!」 バシバシッ バチン!
「うぇ~ん!!だいちゃんがたたいたー!!」
だいちゃんというこの振った手が男の子に当たり当たった子が泣いてしまう
その状況に半分呆れ顔のソラが今度は反対方向の子供たちを見る、どうやら女の子が集まりおままごとらしきことをしているようだ。
「わたしお姫様やるー!」
「えー!わたしもやりたーい!」
「わたしがやるのー!!」
こちらも遊ぶ内容は違うが同じような感じだった。
周りをひとまず見渡し終わりどうしたものかと悩んでいるソラに若い女の先生が近づいてくる。
「あなたがソラ君?」
先生の言葉にソラは頷く
「はい……ソラです、よろしくお願いします」
そういいソラは頭を下げる
だが何時までたっても返事が返ってこない先生を不思議に思い、頭を上げ先生の顔をうかがうと先生はポカンとした顔でソラを見ていた
「…先生?」
問いかけるようなソラの言葉に先生は我に帰ったように「ハッ」とした顔をしてすぐに笑顔になる
「えらいわねえ!しっかりあいさつができるなんて!」
挨拶をしただけで褒められたソラは困惑した、ソラにとっては常識でもあった、いや、一般でも常識だと思っている挨拶をしただけで褒められ、困惑するしかなかったソラ、だがじっさいソラの年でちゃんとした挨拶ができるのは一部の貴族くらいしかいないことをソラは知らない。
「えっと……ありがとうございます?」
「うんうん!じゃあ紹介するからまっててね、みんなー!今日から新しい友達が増えましたよー!名前はソラ君です、仲良くしてあげてね」
「「「はーい」」」
先生の言葉に帰ってくる無数の子供たちの声
だが子供たちはすぐに自分たちの遊びに戻りソラのことを気にしていない
すると先生が
「最初は落ち着かないかもしれないけど直ぐに慣れるから、みんなと仲良くしてあげてね?」
「はい」
返事をし、ソラは今から何をしたものかと考える、文字などは昔に商人とのやり取りで使うからと無理やり教え込まれたことがあるので本などは読めるが読みたい本がない。
(…うーん…)
ソラは悩むだけ悩んでエリイの言葉を思い出す
――――好きなことをすればいいのよ?
そしてソラは思いつく
(そっか、好きなことをやればいいんだ…じゃあ)
ゆっくりと歩き始め外の見える窓際まで来てソラは歩くのをやめ、そこに座る、そして窓の外の空を、雲を見始めた。
周りの子供たちはソラの行動に不思議に思うものもいたがすぐに自分たちの遊びにもどる。
それからソラはずと空を見続けた。
そしてソラは自分の名前の由来になった空を見て考えに耽る。
「…やっぱり、いつみても綺麗だなぁ」
ソラにとって空とは昔から数少ない心の安らぎの一つであった
なにかあったら、なにかなくても空を見ると安心する、そしてうらやましく思うのだ。
「…空は自由でいいよなぁ、僕も空になりたい」
子供の考えとしてはどうかと思うがそれでもずっと空を見続けるソラ
あれからどれくらい空を見続けていただろうか?そう思うソラの前には自分を迎えに来たエリイが歩いてくる、外を見るとすでに空は赤く染まり、夕方ということを表していた。
「…ずっと僕、空見てたんだ…」
時間に気づかずにずっと空を見ていたと知りソラは微かに笑う
「ま、いっか」
こうしてソラの幼稚園初日は終わりを告げた。
エリイの家に着き、エリイは待ちかねていたようにソラに質問する。
「そ、それで、幼稚園はどうでしたか?大丈夫でしたか?」
エリイのそんな姿にソラは微笑みながら答える
「うん、大丈夫だったよ、たのしかったよ」
ソラの言葉にエリイは自分の胸をなでおろすかのように肩の力が抜ける
「そうですか、あぁよかったです、それで何をしたんですか?」
「うん、空を見てた」
ソラのそんな言葉にエリイの目は点になる
「へ?」
エリイの口から気の抜けた声が聞こえる、だがそれはしょうがないことだろう、大丈夫だったかと聞き、大丈夫と答え、何してたと聞き、空を見てたといわれれば誰だってこうなるだろう。
「えっと…空を見てたんですか?ずっと?」
「うん、すごくたのしかったよ」
笑顔で話すソラの顔を見てエリイは自分の頭が痛くなってきたのがわかる、頭に手を当て、うなるように「うぅ~ん」と声を上げている。
「…ソラは友達を作らないのですか?」
散々考えた結果エリイはまずもっとも気になることを聞くことにした
するとソラは当たり前のように平然と答える。
「別に僕はエリイ姉さんがいればいいよ」
「そうですか、そですね、ソラには私がいれば問題ないでsってだめです」
思わず嬉しさのあまりソラに同意しそうになるが何とか踏みとどまる。
そしてエリイはソラに向かって頭をなでながら言う
「いいですかソラ、無理に友達を作れとは言いませんが友達はいいものです、この人と仲良くなりたいと思ったら友達になれるように頑張りなさい」
そんな言葉にソラは考えるように手を組む
「……わかった、じゃあ相手が複数いたとして大切な順番とかはどう決めるの?」
ソラの言葉にエリイは自信満々に答える。
「私がソラの一番です!!」
「……えー」
納得はするが、それでいいのかと思うソラだった。
あれから3日が過ぎた、だがいまだにソラに友達はできていない、というのもソラがずっと外を見ているのが問題でもあるのだが。
しかしある日、何時も通りソラが窓際で空を見ているとソラの前に一人の女のことが仁王立ちしているのに気がつき、顔を女のこの方に向ける。
仁王立ちしている女の子は金髪で、長さはセミロングといったところだろうか、顔は整っており、だがどこか気の強そうなところを見せる元気な女の子だった。
「わたしがそこ座りたい!どいて!!」
いきなりの横暴な扱いを受けるソラだがそんなものは過去に散々受けているので今更何も思わない、が、とりあえず聞いてみることにした。
「……どうして?」
「わたしがそこにすわりたいの!!わたしのお父様は、はくしゃくなんだから!」
なにやら最後に自分の親の紹介をしてくれた女の子を見るソラ
(はくしゃく…『伯爵』かな)
自分の頭の中で言葉を変換して解釈する
(…?これは、チャンスなのかな?)
そこでソラは思いつく、これは友達を作るチャンスなのではないかと
普通だったらここで喧嘩になるか場所を譲り終わるところだが、ソラにそんな常識は通用しない。
「うん、いいよ」
口でそういいつつ、場所を譲らないソラに女の子は激怒する
「じゃあはやくどいてよ!」
「いいけど……僕と友達になってくれない?」
「……ふぇ?」
少女の口から漏れ出した声にソラは笑い、そしてまた少し空を見る。