五話 ステータス
ソラのナイフを受け止める男、ソラは目を見開き明らかに驚いた表情をし、後ろに下がる。
「フゥー、フゥー……」
――――ダッ!!
ソラは体勢を立て直し、再び金髪の騎士の喉に刃を刺そうとする、だが同じように四十代くらいの男が剣で受け止め跳ね返す。
「落ち着け少年!!」
――――ギィイイン!!
こんどは跳ね返した跡に少し追撃を加え、ソラに剣を振るう、ソラはギリギリナイフで受け止めるが支えきれずに後ろに吹き飛ぶ。
ザザザァアアッ
だがソラも空中でうまく体勢を立て直し地面に着地する。
そこでやっと現状を把握したダッグ
「まてソラ!急に何をしてるんだ!?」
ダッグ自身も急に豹変し、ナイフで騎士を刺そうとしたソラに対して困惑している。だがソラはナイフを収めずに金髪の騎士と団長と言われた男から目を離さずにダッグの質問に答える。
「剣を抜き、僕たちに向けたんです、敵は殺さないと」
ソラはただ淡々と無表情で答える
「いけません!!ソラ、むやみに人を殺してはいけません!すぐにナイフを収めなさい!!」
エリイの半分涙声になりながらの言葉を聞きソラは目線を金髪の騎士と団長からダッグとエリイに向ける。
「……なんで?殺さなきゃいけないんじゃないの?」
こんどはソラが困惑する番だった。ソラは敵は問答無用で殺すように教育されているため事の異常性に気づいていない、いや気づけないのだ。
そんなソラを見てエリイは悲しそうな顔をし、ソラに優しく声をかける
「もう、しなくていいんですよ?人を殺すことなんて普通はしません、ですからソラ、落ち着いてくれませんか?」
その言葉に続いて団長と言われた男がソラに近づいてくる。
「このたびはうちの部下がすまないことをした、今回はこちらに非があるのでしかるべき罰を与える、だから殺さなくてもいいのだ、ナイフを収めてくれないか?」
「……わかりました」
エリイと団長の言葉にソラは小さくうなずき自分の上半身の服をたくし上げ、ズボンの所にナイフをしまう。それを見てダッグは驚いたように声を漏らす。
「…どこから出したと思えばそんな所に隠していたのか…」
「うん…ナイフはいつも持ち歩くようにしてるの」
当たり前のように言うソラを見て団長は感心したように頷く
「うむ、いつ何が起こるかわからんからな、いい心がけだ、少年は騎士に向いているかも知れんな」
団長のどこか気の抜けた言葉にエリイが激怒する
「5、6歳の子供になにいってるんですか!!そんなの私が許しません!」
まるで母親のように反攻の姿勢を見せるエリイ
まあ確かにエリイはソラの姉というポジションの保護者なのであながち間違ってはいない、それに幼い少年に騎士がどうだのいうのも間違っているとは誰でもわかることだ。声を荒げるエリイもしょうがないだろう
「団長、そろそろ話をしたいのですが…」
話がそれすぎているのでダッグが本題を切り出す
「ああ、すまないそうだったな、おい!この金髪は一日牢獄に閉じ込めておけ!そうすれば頭が冷えるだろう」
団長の指示を受け恐怖で気絶している騎士を牢獄へと連れて行く騎士たち
「すまない、それでは話を聞こうか、今更だがその子が例の少年でいいのだな?」
「…はい、ソラです、初めまして」
「うむ、私は騎士団長のアグドア・ホークツだ、よろしくたのむ」
こうしてやっとダッグの報告が始まるのである
ダッグとエリイがソラと会うまでと会ってからのことを説明し終わると団長のアグドアは考え込むように俯きうなっている
「…うーむ…ソラといったか、ソラ君、君がこれまでどう生きてきたか教えてくれないか?君を違法な方法で捕らえて働かせていた者たちの手がかりが掴めるかも知れない」
その言葉にダッグはうなずき、エリイは心配そうにソラを見る
だがソラは目で大丈夫とエリイに合図を送りアグドアに向き直る。
「…はい、わかりました、でも前の人は見つからないと思いますよ?」
ソラの言葉にアグドアは違和感を感じソラに尋ねる
「それはもう遠くに行ってしまったということか?」
アグドアの言葉にソラは首を横に振り、否定する
「もう、生きてませんから」
「ッ!!…殺したのか?」
アグドアの言葉にエリイが先に反応しアグドアに詰め寄る
「何いってるんですか!?正気です「エリイ!黙っていろ!今は団長とソラが話しをしているのだ!!」…ッ…すみません」
ダッグの言葉によりエリイは我に返り謝罪の言葉をアグドアに送る
だがアグドアはきにしていないといい特に気に留めていないようだ。団長だけあって器の大きさや判断力などがやはり高いようだ。
「それで…どうなのだ?」
団長の言葉にソラは苦笑いを浮かべ団長を見る
「そんなことする分けないじゃないですか、魔物に殺されたんですよ」
「ふむ…そうだったか、すまない、気を悪くさせたか」
「いえ、きにしていません」
アグドアの言葉にソラは何も気にしていないと無表情で言う。無表情のせいで本当に気にしていないのかどうなのか判断に困る団長である。
「まあ、それなら有難い、それでこれからのことだがエリイ殿が面倒を見るということを聞いているが間違いないか?」
「はい、間違いありません」
「わかった、それでどのような生活をしてきたかは言えるか?」
「はい、僕は基本、掃除をしたり酒を運んだりすることをしていましたが必要であったり命令されれば魔物も殺しましたし、人も殺したことがあります、食事などは一日一回で、残飯や生肉を食べていました。」
ソラの口からはじめて聞く衝撃の事実にアグドアだけでなくダッグとエリイも驚愕し、開いた口がふさがらない。
「……そうか、悪い事を聞いたな、あと、魔物を殺したといったがどんな魔物を殺したのか覚えているか?」
アグドアの質問にソラは今まで殺した魔物の代表的なものを口にする
「全部は覚えていませんがゴブリンやハイゴブリンなどは倒したころがあります」
「なんだと!?ゴブリンだけでなくハイゴブリンもだと!?」
ダッグは驚いたように声を上げる、驚くのも無理はないゴブリンは騎士たちにしてみれば雑魚でしかないが子供や一般人にしてみれば十分脅威の存在だ、それを殺し、さらには上位種のハイゴブリンまで幼い少年が倒したと聞けば誰でも驚くだろう、エリイも口をあんぐり開け、アグドアも目を見開き驚いている。
「……ソラ君、君は何歳だ?あと君の専門はナイフじゃないのか?」
アグドアが疑問に重い質問をする、たしかにナイフでゴブリンを倒すことはできないことはないがハイゴブリンになると話は別だ。
「5歳ですが?あと僕は武器ならある程度なんでも使います、よく使うのは剣やナイフです、あと魔法ですね」
「……ソラ君、君のステータスはどうなっているんだ?」
アグドアの言葉にダッグだけでなくエリイもうなずいている、だがソラだけが頭の上に?マークをつけている
「?ステータスってなんですか?」
するとエリイが驚いたようにソラに聞く
「ステータスを知らないんですか!?……いえ、ソラの場合はしょうがないかも知れませんね、年齢的にも…いいですかソラ、ステータスというのはその人の力の強さを表す表みたいなものです」
「そうなの?…えっと、こう?『ステータス』」
名前:ソラ(7番)
種族:人間
年齢:5歳
体力:E 筋力:F 覚醒:C
魔力:E 精神:D
[装備]
『ナイフ』『汚れた布』
[魔法]
【ファイアーボール】【エアカッター】
[称号]
【7番の少年】【幼き悪魔】
「「「……ッ!?」」」
3人ともソラのステーツを見て硬直する
その硬直の空気を破り最初に声をあげたのは団長のアグドアだった
「何だ、このステータスは!?」
アグドアに続きダッグも声を上げる
「覚醒がCだと!?この年で!?…あ、しかし筋力が底辺だな」
「すごいですソラ!この年で魔法が使えるなんて!やはりソラには精霊様がついてるんですね!!」
早くも親ばか、いや、姉が馬鹿になりつつあるエリイ、だがエリイの言うことも大げさではない、普通魔法は学校に行きちゃんとした基礎から学ばないとわかりにくく、ましてやソラのように幼い少年が使えるものではない
さらに魔法はそれぞれの属性に精霊がやどっている、精霊に気に入られればより強力な魔法を得やすくなるのだ。
そしてダッグのいっている覚醒とは魔法と似たようなもので使う所有者の筋力や魔力などを一時的に上げるものだ、内容はさまざまで同じ覚醒の能力を持つものは珍しくない、逆に誰も持っていない能力というのも珍しくない、だがどちらにしろ使ってみないとわからないので学校に行き教育を受けることでより理解することができるようにするのだ。
「……なるほど、わかった、もうステータスを閉じてくれてかまわない」
「はい」
――――ヒュンッ
ステータスが閉じる音が聞こえる
「育ってきた環境が環境なのでそこは察する、何か質問はあるか?」
「いえ、ありません」
「そうか、わかったこれだけあれば報告書も書けるだろう、質問は以上だ協力に感謝する。」
「はっ」
アグドアの言葉にすぐさま返事をするダッグ、団長が出て行くまで頭をずっと下げたままでいる。
アグドアが帰り見えなくなるとダッグは顔を上げエリイのほうを向く。
「それで、これからどうするんだ?家の心配はないだろうが『アレ』はどうする?」
エリイがダッグの言葉を聞き自信満々の顔をしダッグを見る
「ふふふっすでにこちらに来る前に手続きはすませました!」
「それであんなに遅かったのか……」
何かを理解したように頭をかくダッグ、その中で唯一現状を把握できていないソラがエリイに質問する
「エリイ姉さん、アレってなに?」
するとエリイは腰に手を当て仁王立ちするようにソラを笑顔で見る
ソラは何が起こっているかさっぱり理解できていない、さっきまでアグドアとステータスのことについて話していたと思えば気づけば目の前でエリアが仁王立ちをして笑顔でソラを見ている。
そんなソラの疑問に答えようとエリイはすぅうっと息を吸い込み少し大きな声でソラに言う。
「幼稚園です!!」
(……へ?)