三話 エリイ・マルリア
今少年の目の前では一人の男と若い女が口論をしている。
内容は明白だ、少年のことである。
「こんな幼い少年に何てことをしてるんですか!!大人として恥ずかしくないんですか!?」
エリイはダッグに詰め寄り詰問するように言葉をぶつける。
まるでダッグが少年を虐待しているみたいになっているが誤解である。
「違う!!俺がそんなことをするわけないだろう!?」
「なんですって!?幼い少年にこんな汚い服を着させて靴も履かせずに、床でご飯を食べさせていることは貴方にとっては軽いことだとでもいうのですか!」
完全に興奮して冷静に話をできていないエリイ、だが誤解である。
ダッグのほうも誤解を解こうと必死だ、少年はというと食べ終わり自分の食べた分の皿を洗う作業に移っている。
エリイはそれを見てさらに声を強くする。
「こんな格好で掃除までさせていたのですか!?」
「だから違うといっているだろう!?それに洗い物くらい誰でもするだろう!?」
「まさか…毎日こんなことをさせているのですか!」
何かを誤解して解釈しているエリイ
「そういう意味でいったんじゃない!だから…「ダッグさん」…ん?」
少年の声が聞こえダッグは振り返る、少年が声を発したのでエリイのほうも一時的に頭の血が下がり、冷静な思考を取り戻しつつある。
少年は心配そうにダッグに質問する。
「僕のせいで…けんかしてるの?」
ダッグとエリイはその言葉に我に返―――
「僕は大丈夫だよ?……慣れてるもん」
「「な!?」」
らなかった
少年の発言によりエリイは一瞬固まりすぐに硬直は解け見る見るうちに顔が赤くなっていく。
「あなたって人はッ!!」
「いや、だから違うといっているだろう!?」
完全に火に油を注ぐ形になってしまった少年であるが悪気はない。
あれから30分程時間がたち二人とも気持ちも落ち着き冷静になりエリイはダッグが昨日少年を拾ったことを思い出しダッグは何もしてないことを理解しダッグに謝罪した。
「ごめんなさい…私冷静じゃなかったみたいです」
ダッグのほうも申し訳なさそうな顔をしてエリイに顔を上げさせた。
「俺のほうもすまない、もっと正確に説明すべきであった…」
二人は和解し事の発端の少年を見る。
先に口を開いたのはエリイだった
「それでこの子が昨日言ってた少年でいいのですよね?」
「ああそうだ、間違いない、俺が昨日町の前でこの少年が倒れているのを見つけ助けたのだ」
エリイは視線をダッグから少年のほうへと移動させ少年を見る。
見た目は白髪で幼く、顔はどちらかと言うと整っているほうで、髪が綺麗な白髪ということ意外は普通の少年だった。
エリイは怖がらせないように少年へと近づき話しかける
「こんにちは、私はシスターのエリイ・マルリアといいます、よろしくお願いします」
そういい少年に握手を求める、少年はエリイの顔を見て同じように手を出し握手に答える。
「こんにちは、えっと……よろしくお願いします」
エリイは初対面でここまで話せる5歳児が珍しいのか驚いたように目を見開く。一方少年は何事もないように握手をしている。
「ふふっ挨拶ができてえらいですね、名前を教えてもらえますか?」
エリイのこの質問に反応したのは少年よりもダッグのほうが早かった
「そうだな、実を言うと俺も少年の名前を聞いていなかったな、今更で悪いが名前を教えてくれないか?」
その言葉を聞きエリイは少し呆れたような顔をしてダッグに話しかける
「ダッグさん、さすがに名前くらいは最初に聞いておきましょうよ」
「うむ、すまない…」
エリイの言葉に返す言葉がないのかダッグは申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。肝心の少年はというと、なぜか首をかしげていた
不思議に思ったエリイが少年に声をかける
「えっと…名前わかりますか?」
エリイの言葉に少年はさらに首をかしげエリイに質問を質問で返す。
「…なまえ…?」
エリイは困惑したような顔をしてできるだけ分かりやすく説明する
「前の場所で自分がなんて呼ばれていたか覚えていますか?覚えていたらぜひ私たちに教えてほしいのです」
エリイはできるだけ優しい声で少年に語りかける。
すると少年は何かを思い出したように顔を上げた
「!!…名前、前の場所でなんて呼ばれていたかですか?」
「はい、そうです、おしえてくれませんか?」
すると少年は何も思わせないような顔で、苦しそうでも悲しそうでもなく嬉しそうでもない無表情で口を開き、自分の名前を言う。
「……7」
7という言葉を聞きダッグたちは違う認識の仕方をする
ダッグが疑問を口にする
「ナナ?男なのに変わった名前だな、いや、悪く言うつもりはない、いい名前だ」
するとエリイも同じように
「そうです、人の名前は皆すばらしいものです、苗字はわかりますか?」
だが少年は首を横に振る
「苗字がないのですか?」
エリイは今時苗字がないのはほぼありえないので不思議に重い質問する
だが少年は同じように首を横に振る
「ナナじゃない…」
「ん?ナナって自分で言ったではないか、違うのか?」
ダッグも不思議に思い質問する
少年はダッグとエリイをまっすぐ見ながら今度は間違えのないようにしっかりと言葉を発する。
「僕の名前は……『7番』」
「「ッ!?」」
二人は硬直する、言葉を発することができない
そう、二人の頭の中で「ナナ」が「7」に変換されたのだ。
だからこそ二人は驚愕し言葉を発することができないでいる
―――二人は知っている、人を番号で呼ぶときは何のときか
―――二人は知っている、その名前の意味を
―――二人はしっている、それが違法であることを
―――二人は理解する、この少年がなんなのかを
―――二人は理解する、なぜ傷だらけだったのかを
―――二人は理解する、なぜご飯を床で食べたのかを
そしてエリイは口にする、少年に対して今は無くなってしまった言葉を
「……奴隷?」
それは本人の意思が関係なく自然と口から漏れたのだろう
だがダッグはすぐさまエリイをしかる
「ッ!!エリイ!!」
「あ…ご、ごめんなさい!!」
その言葉を少年にいうのは皮肉でしかないのだから
だが少年はまったく気にした素振りを見せずに笑う
まるでその言葉の意味がわかっていないかのように
「うん、しってるよ、だって皆がそういってたもん僕はどれいだって」
二人は顔をしかめダッグに関しては拳を握り締めエリイは唇を噛んで何かを我慢するような表情をしている。
「少年は…逃げなかったのか?」
ダッグが少し遠慮がちに質問をしてくる
少年は頭の上に?マークをつける、まるで「何を言ってるんだろう?」とでもいいたげな顔だ。
「逃げるって…何処にですか?」
エリイが少しは声を小さくして少年に話す
「ほら、親とかその…友達とか…」
またしても少年は頭の上に?マークをつけ
「僕、親なんていませんよ?」
「「……ッ」」
あまりに普通に答える少年に二人は戸惑う
「だって…これって普通じゃないんですか?」
「…なんですって!?」
エリイが声を荒げる、エリイはシスターなので人は人に縛られないものという教えがあり奴隷の扱いを普通と、常識と認識している、洗脳されている少年を見てエリイは少年の持ち主に怒りを感じた。
だが少年は急に声を荒げたエリイに驚きおびえた表情になる
エリイはこれはまずいとすぐに怒りを納め目の前の名前もない親もいない少年をただただ悲しく思った。そしてゆっくりと少年を抱きしめるエリア
――ギュゥ
「え?…あ、く、苦しい」
あまりに強く抱きしめすぎたせいで少年は苦しそうにもがくそぶりを見せすぐにダッグが止めに入る。
「お、おい!少年が苦しそうだぞ!?」
だがエリイは聞く耳を持たずにバッと顔を上げる
「この子は私が育てます!!」
「はぁ!?」
「へ?…う、くるしい」
ダッグが驚愕で声を上げ、少年までも変な声を出してしまう。
「育てるって…どういうことかわかっているのか!?」
「大丈夫です!教会は孤児院もやってます!!」
「孤児院といっても誰もいないじゃないか!?」
「私が育てるんです!!」
エリイは聞く耳を持たない
ダッグは何をいってるんだと言うがダッグにも分かっている、孤児院に今のとこ人はいない、それに保護者が見つからないとこの少年は途方に迷うことになる。
それに保護者にはできるだけ信用できる人に任せたい、それがダッグの気持ちだった。
「どちらにしてもまずは本部に報告しに行かなくてはいけない、それまでは何が何だろうと待ってもらわないといけないぞ?」
するとエリイは渋々少年から離れる
「…わかりました、でも絶対私が育てますからね」
「…はぁ」
ダッグは諦めたように手をひらひらとさせる
だが肝心なことを聞いていない
「エリイ、お前がよくても少年がなんというかわからんぞ」
「…っ!!」
今気づいたといわんばかりの顔をして少年の目を見る
少年は何の話をしているかは大体理解しているようだ。
「えっと…私のところで暮らしませんか?」
度ストレートに聞くエリア
少年は困惑したようにエリアを見る
「…一緒に暮らすの?」
「はい!」
「…今度は何すればいいの?」
少年がそう聞くとエリアは少年を優しく抱きしめ語りかけるように少年に言う。
「もうなにもしなくていいのです、床でご飯を食べなくてもいいんです、いやな事をしなくてもいいんですよ?」
「え、でもそんなの」
「いいんですよ?」
エリアはやさしく少年の頭を撫でる。
そして少年はエリアの胸の中で始めて子供らしい笑みを浮かべて
「…うん、ありがとう」
「…っ!!」
ギュゥ
エリアが少年を強く抱きしめる
(この子可愛いです!!絶対育てます!)
エリアが心の中でそんなことを思っていると
「そういえば少年の名前はどうするんだ?さすがに7番はまずいだろう」
その言葉を聞きエリアはハッとした顔になり少年を見る
「…どんな名前がいいですか?」
いままで名前なんて付けたことがないエリイはつい聞いてしまった
すると少年は考えるように「うーん」といい
「……7番でいいや」
―――ガタッ
ダッグとエリイがずっこける
そしてすぐにエリイが少年の肩をつかみ
「だめです!名前は必要です!!」
と あまりの剣幕に少年は少しおびえた表情になる
その顔を見てエリイはすぐにごめんなさいとあやまった
だがそのおかげで少年はまじめに考え、そして一つの名前を思いつく
「……ソラ、僕はソラがいい」
「どうしてだ?」
ダッグが疑問に思い尋ねる
「うん……僕は空みたいに自由になれたから、だからソラ」
それを聞きエリイは涙を流し再び少年、いや、ソラを抱きしめる
「…ッ…うん、うん、素敵な名前です」
何度もうなずきながらソラを抱きしめ続けるエリイ
そして少しだけソラの目に光が戻ったような気がした
この瞬間、7番の少年がソラという名前を手に入れたのだ。