十九話 デート?
「…時間は…約束の10分前だね…」
ソラは町の中心の柱についている時計を見る、時計の針は9時50分を指している。
今日はミレイの買い物の手伝いをする日、ソラとしては勉強の手伝いや、掃除、洗濯などでもよかったのだがミレイが買い物の手伝いをしてほしいというので荷物もちという形で手伝いをすることになった。
時間を確認したソラは時計の近くに噴水があることに気づく
(…あ、本当だ、噴水がある)
今日の約束ではミレイが提案した町の中心にある噴水に集合するということだったのだが、ソラは必要最低限のところしか町のことについて知らなかったのでミレイに場所を教えてもらったのだ、ソラとしては別に態々町の中心にある噴水に集合しなくてもミレイの家までソラが迎えに行き、それから買い物に出かけたほうが早い気もしたのだがそれをミレイに言うと
「だめです!ふんすいで集合です!」
と、なぜか噴水に集合ということにこだわりがあるようでソラは無理に断る理由もないと思い了承した。
そして1分もたたないうちに噴水に向かって誰かが走ってくるのが見えた
綺麗な白のワンピース、少し長めの茶髪を揺らしながら右手には母から貸してもらったであろう買い物バッグを持っている、ミレイだ。
「ソラく~ん!おまたせしました!」
ミレイはソラの前まで来ると元気のいい明るい笑顔を見せる、ソラはその顔を見て優しく微笑む。
「ううん、僕も今来たとだから」
自分も今来たところだとソラがミレイに言うとミレイは安心したように、そして少し顔を赤らめながらもじもじしている。
(こ、このセリフはっ…で、ででデートとかいうものなんでしょうか!?)
もじもじしているミレイを不思議に思ったのかソラが心配そうに声をかける
「えっと…ミレイ大丈夫?体調が悪いなら今日はやめにしたほうが…」
ソラがミレイの体調を心配して今日はやめにしよかと提案する、ソラとしてはミレイのことを思っての提案なのだがミレイにとってはそうでもない
―――ガシッ
ミレイがソラの前に立ち、両肩を掴む
「大丈夫ですよ?」
いきなりのミレイの行動に動揺を隠せないソラ、戸惑いながらもミレイを見る。
「で、でも体調が悪いなら無理しないほうが…」
―――ミシミシッ
ミレイのソラをつかむ手の力が強くなる、ミレイの表情は先ほどと同じように笑顔であるが目が笑っていない。
「だ・い・じょ・う・ぶ・です!」
「あ、う、うん」
ミレイの凄まじい剣幕にソラは頷くしかなかった。
頷くソラを見てミレイはいつもの笑顔になり、自分の空いている左手でソラの手をつかもうとしたがそれより先にソラの右手がミレイの右肩に触れる
「…ふぇ?」
顔を赤くし、間の抜けたような声を上げるミレイだがソラは気にせずにミレイの買い物バッグを自分の手に持ち返る。
「僕は今日荷物持ちできたんだからミレイが持ってちゃ意味ないよ?」
そんなソラの言葉にミレイは正気に戻ったのか頬を染めながらソラに小さな声でお礼を言う。
「…あ、ありがとうですぅ…」
「ふふっ、どういたしまして」
ソラはそんな様子のミレイをみて小さく笑いながら商店街へと歩いていく
噴水から離れ、しばらく歩いていくと人通りが多くなっていき迷子になったり、人に当たらないようにとソラがミレイの手を握る、ミレイは俯きながら顔を赤くしている。
「…えへへっ」
ミレイはうれしそうな声を口から漏らすがソラは気づいていない
そしてソラは商店街の中に入り、歩いていく最中に質問する。
「それでミレイはお母さんからなにを買ってくるように頼まれてるの?」
今回の買い物で何を買うのか聞こうと思ったソラだがミレイはソラの質問に答えない。
いや、どう答えていいかわからないのだ
(な、なんていえばいいの?今日はお母さんから何も頼まれてないよ…)
実はミレイは今回のことを母に言ったところ、妙にはりきってしまい買い物をさせるわけではなく、食事代くらいのお金を渡しただけで、特に買うものはないのだ。
どういえばいいか困っていると、ソラが首をかしげる
「…ミレイ?」
「え!?…えっと、きょ、今日はそこまで買うものがないといわれたので好きな物を買ってきていいっていわれました」
結局は何と言い誤魔化したらいいかわからず、母に言われたことをそのままソラにいう事にしたミレイ。
「あ、そうなんだ」
じゃあ今日は何をすればいいんだろうとソラが考えていると、ミレイが緊張したように顔を真赤にさせながら口を開く。
「あ、あのっ、その…だから今日はわ、私とっあ、遊びませんか!?」
「え?いいよ?」
「だ、だめですよね…そんなの……えっ!?いいんですか!?」
駄目もとで聞いたのか、ソラに軽く了承されたことに驚いた
ソラとしてはここまできたのに何もせずに帰るのも勿体無いし、今日はミレイのために来たのだからミレイが喜ぶことなら何でもいいのだ。
「うん、今日はミレイのためにきたんだから、ミレイがしてほしいことやしたいことに僕はつきあうつもりだし」
ソラの「ミレイのしてほしいこと」という言葉を聞き、ミレイは嬉しそうな顔をする。
「じゃ、じゃあっ今日は一緒に町で遊んでください!」
「ふふっいいよ、じゃあいこっか?」
「は、はい!」
ミレイは眩しいくらいの笑顔を見せ、ソラの手を引き町の中を歩いていく
人ごみの中を歩いていくとミレイがある店の前で歩くのをやめる
ソラは不思議に思いミレイの目の前の店を見る、店を見るとそこは串に刺さったお肉を焼いたものが売っていた、ミレイはそのお肉を食べたそうにじーっと見ている。
ソラはなんとなく状況を察し、自分の懐からお金を取り出す、そしてその店の人であろう肉を焼いているおばさんに声をかける。
「すみません、そのお肉いくらですか?」
するとおばさんは声をかけられたほうを向き、周りを見渡し、目線を下げソラの存在に気づく。
「あら、可愛らしいお客だね?これかい?一本で銅貨2枚だよ」
「2本ください、僕と隣にいるこの子に」
するとミレイは慌ててお金を持っているソラの手を掴む
「わ、悪いですよ、今日は私がお金もらっていますから…」
ミレイのお金は母から今日のソラとの食事代にでもといわれ貰ったものなのでそちらを使うのがミレイにとって道理なのだが、ソラは違う。
ソラは苦笑いを浮かべながらミレイにいう
「流石に女の子にお金を払わせるわけにはいかないよ、それにこれくらいなら僕もお小遣いもらってるし」
ソラの言う事に店のおばさんは感心したような声を上げる
「ほぉ、いうじゃないか坊や…ん?坊やの横にいるのはもしかしてミレイちゃんじゃないかい?」
ソラを感心したように見ていたおばさんがソラの隣のミレイを見て声をかける、どうやら知り合いみたいだ。
「お、おばさん、おはようございます、えっと…その、これは」
ミレイの反応を見ておばさんは頬を赤くして手を当てる
「あらまぁ!!もしかしてミレイちゃんの彼氏?格好いい男の子つかまえたじゃない!」
おばさんの「彼氏」という言葉にミレイは顔を真赤にさせる
「ち、ちがいます!ソラ君とはその…と、友達です!!」
「はっはっは照れなくてもいいんだよ?私は応援するからね」
おばさんの言葉にミレイはさらに顔を赤くさせソラの袖を掴む手の力を強くし、ソラの後ろに隠れてしまう。だがそんな状況でもおばさんは微笑ましいものを見るような目で見ている。
「おばさん、あんまりミレイをいじめないであげて、恥かしがりやだから」
「あら、ごめんなさい、お詫びにこのお肉はただでいいよ」
優しく笑いながら串に刺さったお肉を渡してくるおばさんにソラはわるいと断ろうとする。
「いえ、それはさすがに…」
だがおばさんが強引にソラにお肉を渡す
「いいんだよ、こっちとしてはミレイちゃんの可愛い反応が見れただけで十分さ、それにこう見えて結構もうかってるんだよ?」
そこまで言われて断るわけにもいかずソラは笑顔でお肉を受け取る
そして自分の袖をつかみ俯きながら後ろに隠れているミレイに一本お肉を渡す、するとミレイは俯きながらも弱弱しくプルプルしている手でお肉を持つ
そんな様子のミレイにソラは苦笑いしながら軽く同情してしまう。
落ち着けるようにとソラはミレイの頭を撫でる、だが本人は気づいていないがそれは逆効果のようでミレイの頭からは湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にさせている。
「あらあら可愛いわぁ~」
おばさんはそんな二人をいながら微笑んでいる、道を歩いていく人も二人の様子を見ながら和むような目で見ている。
「そ、ソラ君!はやく次いきましょう!!」
ミレイはその空気に耐え切れなくなったのかソラの手を引き、急ぎ足で歩いていく。
「え、ちょ、ちょっとミレイっは、はやいはやい!」
転びそうになるのを何とか耐えながらミレイについて行くソラ、その二人を町の人たちは微笑みながら見ていた。
ソラとミレイはおばさんからもらったお肉を食べながら商店街を歩いている
(あ、すごくおいしい)
ソラはお肉を食べて驚く、商店街などで食べ物を買って食べるのは初めてだったのでここまでおいしいのかと驚いた、ソラの横を歩きながら食べているミレイも美味しそうに食べている、顔や名前をしっていたくらいだからけっこう常連なのだろうとソラは思う。
だがミレイはお肉を食べ終わり、時間を確認するとまだ時間があるというのに少し残念そうな顔をする。
「どうしたのミレイ?」
気になったソラはミレイに質問する
時計はまだ11時を回ったところ、十分に時間はある。
「ううん、また明日から勉強だと思うと…」
「あぁ、なるほど、でも今日はまだまだ時間があるんだしちゃんと楽しまないと」
「…うん、そうですよね!」
ミレイはソラの言葉を聞き、笑顔に戻り元気にうなずく
「あ、そういえば」
元気に頷いたミレイは笑顔に戻るがなにやら思い出したような声を上げる
「ん?どうしたの?」
ソラが聞くとミレイは少し遠慮がちに気になったことをソラにいう
「えっと、ちょっときになったんですけど、前にアリスの家でソラ君のステータスを見たときなんですけど…」
「…?」
「ソラ君のステータスの称号のとこで【7番の少年】って書いてあるのが気になって、名前の横にカッコで7番って書いてありましたし…」
「…ッ…」
ソラは顔を笑顔から少し驚いたような顔に変わり、すぐに笑顔に戻る
「えっと、まあいろいろあってね、それよりあっちにいかない?」
「え?あ、はい」
ソラは誤魔化すように話を変え、町を歩く
(…僕が元奴隷だってしったら…どうなるんだろう?)
そんなことをソラは考え、まだ言うには早いかもしれないと判断し、自分の心の整理がつくまで黙っていることにした。
それからしばらく町の中を歩き、もう買うものもないとミレイが言うので
商店街を抜け、自然が多い野原にいく事になり、少し歩き野原に到着して
どこかに座るためソラとミレイが歩き出そうとしたときだった
「あ、あれ見てください!きれいなちょうちょがいます!…きゃっ」
青く輝く綺麗な蝶を見つけたミレイはそちらに走っていこうとしたが、急な方向転換に足元への注意がおろそかになったのかつまずいてしまう。
「ミレイ!」
ソラは転びそうになるミレイを支えようとしたが力が足りずにそのまま一緒に倒れてしまう。
―――ゴテンッ
「いててっ…大丈夫ミレイ?」
怪我がないかとソラがミレイに声をかける
「は、はい私は大丈夫……ッ!?」
大丈夫だと言おうとしたところで今自分がどういう体制か理解し驚く
ソラがミレイを庇ったおかげでミレイが野原に倒れることはなかったが、ミレイを庇ったソラはミレイの下敷きになっている、そしてミレイが現在進行形で起き上がろうとしたためソラが下に寝転がり、ミレイがその上に覆いかぶさるように地面に手をついている状態だ。
ミレイは自分の現状を理解し、顔を今日一番なくらいに真赤にさせる。
「こ、これはっ!その、わざとじゃなくてっ!えっと……ふぇっ」
なにやら立場が逆のような気がするが、ミレイは必死にわざとではないと説明しようとするが、うまく説明できずに最後には泣きそうな声を上げる。
ソラはそんなミレイの様子に微笑みながら頭をなで、ミレイを横に移動させ座らせる。
「ふふっ大丈夫だよ、わざとじゃないってことくらいわかってるから、それに支えきれなかった僕が悪いんだし」
そういい、撫でられるミレイは泣きそうな顔は戻ったものの、先ほどと同じように顔を赤くし俯いてしまう。
「「……」」
しばらく二人は無言で野原の中座り続けている、するとソラは自分の肩に重さを感じ顔を向ける。
「…ふにゅぅ」
ミレイはどうやら疲れてしまったらしく、ソラの肩を枕にして座りながら寝てしまっている、そんなミレイの寝顔を見てソラは小さく笑い、起こさないように慎重にミレイの頭を寝やすいように自分のひざへと移動させ、膝枕の状態にする。
「…ははっ今日は疲れたもんね?」
誰にいうでもないような言葉を口から漏らし、ミレイの頭をなで続けるソラ、無論その言葉に帰ってくる言葉はない、今聞こえるのは野原の草の音、風の音、どこかに小さな川があるのかせせらぎも聞こえてくる、そしてもうひとつは―――
「…ふにゅぅ…そら君…」
ミレイの寝言だ
今日は良い一日だったなぁとソラは思うのだった。




