十四話 病院で
「…うぅん……?」
(…ここ、どこかな?)
ソラは目が覚め、早速自分の状況を把握しようとする、体は痛くて動かないことから相当の重症だったのだろうと予想がつく。
(…ベッド?)
自分の寝ているところがとても柔らかく、寝心地のいいところだったので目だけを動かし、自分がベッドの上で寝かされていることに気づく。
周りを見てみると自分以外にもベッドは沢山あり、服は薄くて地味な物を着せられている、状況から察するに病院だろうとソラは判断する。
「また、迷惑かけちゃったな……ん?」
自分の失敗を責めながら、妙に体が重く圧し掛かられている感じがすると思ったら自分のベッドの横でアリスとミレイが椅子に座りながら寝ていることに気がつきソラは苦笑いした。
(心配かけちゃったかな?…)
ソラは心配をかけてしまった二人に申し訳なく思いながらあの時、ダッグを呼んできてくれたことに感謝の気持ちがわく。
「…ありがとう…ふふっ」
ソラは自然と口から笑みがこぼれ、二人の頭を優しくなでる
「…ふにゅうぅ……ううん…うん?」
「……はにゃぁ…あれ?」
上からアリス、ミレイの順番である
流石にしばらく撫でていると目が覚めたのか二人とも起き上がり、ソラの顔を見る。
「ふふっ…やぁ、ありがとね?」
ソラはいろいろなことをひっくるめて、感謝の言葉を二人に送った、本当は謝罪の言葉も言いたかったが、この場合では感謝の言葉を言ったほうがいいだろうと判断したのだ。
しかし二人はソラが起きているところを見て何もいえわない、いや、何も言えずにただ目を見開き、じーとソラを見ている。
そして――――
――――ダッ
ひしっ
アリスとミレイは勢いよくソラに抱きついたのだ、ソラは何とか二人を受け止め、倒れないようにする。
「ふぇえええええん!!ソラぁああああああ!!よがっだよおおおおお!」
アリスが泣きながらソラに抱きついている、ソラはアリスの涙と鼻水で服がぬれてしまっているが気にせずにアリスの頭を優しくなでる。
「ソラぐううぅううう!!よがっだでずぅうううう!!」
ミレイも泣きじゃくりながらソラに抱きつく、勿論涙や鼻水はソラの服についてしまっている。
だがソラは気にせずにアリスと同じようにミレイの頭をなでる。
「二人とも、僕は大丈夫だから落ち着いて、ね?」
ソラが優しく話しかけても二人は泣いたままソラから離れない。
ソラは少し困った顔をしながらも二人に怪我がないことを確認して胸をなでおろす、もし二人に怪我があったら自分が囮になった意味が無くなってしまうというのもあるが、怪我をした二人を見たくないとソラ自身も強く思っていたからだ。
「でも二人に怪我がなくて安心したよ」
ソラの言葉に何とか話せるまで落ち着いたのかミレイが答える
「は、はい…えぐ…ソラ君がわたしたちを…守ってくれたから……その、あ、ありがとうううふぇええええええん!!」
せっかく話せるまで回復したのに答え終わったらまた泣き出してしまったミレイをみてさすがに苦笑いのソラ。
「う、うん、あの時は必死だったから……そういえば、僕ってどれくらい寝ていたのかな?」
―――ガラガラ
「3日よ、二人ともずっとソラ君のそばを離れなくて大変だったわ」
ソラの質問に答えたのはアリスでもミレイでもなく、アリスの母、マルティナだった。
「えっと…アリスのお母さんですか?」
ソラの言葉にマルティナは少し驚いたような顔をする
「あら、よくわかったわね?」
「はい、顔立ちとか髪の色が同じだったので」
自分の顔立ちと似ているからという理由を聞き、マルティナは少しうれしそうな顔をする、やはり子供が自分と似ているということが嬉しいのだろう。
「ふふっありがと、でも本当に落ち着いてる子ね、アリスにも見習ってほしいわ」
そういい、いまだソラに抱きつきないているアリスをチラリと見る
だがアリスは自分の泣き声でマルティナの言葉が耳に入っていない、それを見てマルティナは苦笑する。
「ごめんなさいね?うちの娘が服を汚しちゃって」
マルティナの言葉にソラは問題ないと手を振る
「いえ、大丈夫です、それに自分のことを心配して泣いてくれているので嬉しいですよ」
「あら、そういってもらえると助かるわ、でも何で私に敬語なのかしら?」
疑問に思い、感謝の言葉とともにソラに質問するマルティナ
するとソラは一度頭を下げてから話し始める。
「はい、恐れながらアリスの母、つまり伯爵家のマルティナ様ですよね?逆に敬語を使わないほうがまずいと思うのですが…」
当たり前といっては当たり前なのだが、それを5歳児のソラがいうと違和感を覚えるのはマルティナのせいではないのだろう。
「別にいいわよ、敬語なんて使わなくて、貴方はアリスの友達なんだから私の友達でもあるわ、だから敬語なんて必要ないの」
微笑みながら返されてソラは少し悩むそぶりを見せ俯く、無論うつむきながら考えている間も二人はソラに抱きつき、ソラはその二人の頭をなで続けている。二人ともいつの間にか泣き止んでいるがなぜかソラから離れない。
「…わかりまし…わかった」
「ふふっいい子ね?」
了承してくれたソラに感謝と共にマルティナはソラの頭を撫でる、ソラはそれを受け入れ黙って撫でられる、ソラもまんざらではないのか少しうれしそうな顔をする。
だがアリスとミレイはそれが気に食わないのか少し不満顔になる
「「むぅ~…」」
―――ギュゥウウ
ついつい二人はソラを抱きしめる力を強くしてしまう
すると案の定ソラは苦しそうに顔をしかめる
「い、痛い痛い、二人ともちょっと力をゆるめて」
ソラの痛そうな顔を見てマルティナは二人をソラから離す
「こら!二人ともソラ君はまだ怪我してるんだからそんなことしちゃだめでしょ!」
マルティナの叱る声と自分たちがソラを苦しめてしまったということを自覚し、せっかく泣き止んでいた顔は再び涙を浮かべる。
「「ふぇえええええん!ごめんなぁああああい!!」」
「いやいや、大丈夫だよ、気にしないで、ね?」
「「死んじゃいやぁぁああああああ!!」」
「……いやいや死なないよ?」
あまりにも二人の思考が極端すぎてついつっこんでしまったソラ
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した二人
そして二人してソラに頭を下げてきた。
「「ごめんなさい!あと助けてくれてありがとう!!」」
急に頭を下げられ困惑したソラだが感謝の言葉を聞かされ、ソラの顔には笑顔が浮かぶ。
「ふふっどういたしまして」
大体の話が終わるとマルティナがソラに話しかけてきた
「先生によると傷は魔法で直したらしいんだけど、完全にはふさがりきらなかったみたい、だからあと3日は絶対安静っていってたわ」
マルティナの言葉にソラはその3日がとても長く感じてしまう
「……長いね」
だがソラの言葉を聞きマルティナが訂正する
「いい?あなたは危ない状態だったんだから3日じゃ早すぎるほうなのよ?今回は事がことだからいいけどあまり無茶はしてはだめよ?」
訂正とともにこれからのことに注意を受けソラはマルティナの顔を見る
その顔には先ほどまでの笑顔はなく、真剣な表情をしている。
「ごめんなさい…でも、また二人が危険な状況になって、守る手立てがない場合は、僕はまた同じことをします」
ソラは理解はしているが了承はできないとマルティナに答える
だがマルティナもなんとなくわかっていたのか「はぁ」とため息をつきソラの頭を撫でる。
「まったくもう…でもちゃんと大人には頼るのよ?」
それだけは守ってね、と言われてソラは渋々頷く、ソラ自身も毎回今回のようにうまくいくとは思っていない、今回だって結局は最後にダッグに助けられたのだ、それならなおさら二人のためにも頷くしかない。
すると頷いたソラをみてマルティナはうれしそうにソラの頭をなでる
「ふふっ…かわいいわ~」
「「むぅ~」」
そんな光景を見せられアリスとミレイは頬を膨らませ、機嫌が悪くなるのだった、マルティナは二人の様子を見ながらさらに微笑む。
(もうちょっとからかっていようかしら?)
そんなことを考えているマルティナだがこの空気に乱入してくるものがいた
それは――――
―――ガラガラッ!!
勢いよく病室の扉が開けられ一人の女性が入ってくる
「ソラ!目が覚めたのですね!!」
そういい病室に入ってきたエリイはソラに抱きつく
「うわぁあああああああん!!よかったでずぅうううう!!」
泣きながらソラを抱きしめるエリイ
そんなアリスとミレイとおんなじ反応をするエリイを見て、ソラは思わず苦笑いを浮かべるのだった。
(……まぁ、しょうがないのかな?)
心配をかけてしまったのは自分なのでエリイがこうなってもしょうがないのだと自分を納得させるソラ
「うわあああああああああああああああん!!」
(……えー)
アリスとミレイよりも大声で泣き続けるエリイにソラはもう何もいえなくなってしまった。




