十三話 ソラの力
ソラはナイフを構え、ゴブリンの横に回りこみ、ナイフでゴブリンの喉に突き刺す。
―――グギィイイイイイ!!
ゴブリンは苦しみながら叫び声のようなものを発するが、ソラは気にせず、一匹目のゴブリンに止めをさす。
「エアカッター!!」
――スパンッスパンッ
ゴトンッ
ゴブリンの手を、足を、そして首を切り落としゴブリンの首が下に落ちて鈍い音が響く。
だがじっとはしていられない、まだ後ゴブリンは2匹いる、そう思いソラはすぐさま残りのゴブリンの方に振り向き、魔法を放つ。
「ファイアーボール!!」
―――ドゴォオオオオン!!!
覚醒の効果で火の玉は黒色になり、威力も少し上がっているためゴブリン達は驚き反応に遅れた、だがその遅れが命取りになる。
「グギャアアアア…グギイ……」
黒い玉に黒焦げにされたゴブリンは苦しそうな声を上げるも、最後には力尽き倒れる。
「あ、後は…ボスゴブr…「グルァアアアッ」…ガハッ」
ゴブリンを倒し、強敵のボスゴブリンを探そうとしたが、いつのまにか後ろに回り困れていたようだ、ソラは金棒で腹を殴られる。
ソラがまだ子供ということもあるがいきなりのボスゴブリンの攻撃に耐え切れずに後ろに飛ばされ、受身も取れず地面に打ち付けられる。
「はぁはぁ……くっ、まだ…いける!!」
ソラは何とか体を支えながら立ち上がり、ナイフを構え前を見る
「グルァアアアアアッ!!!」
だがすでにボスゴブリンは目の前まで迫ってきていた、ボスゴブリンは金棒をソラの頭めがけて真上から振り下ろす。
―――ダッ
だがソラもそのまま攻撃を受けるほど馬鹿ではない、金棒が振り下ろされる寸前で横によけ、ボスゴブリンの後ろに回りこむ。
「くらえっ!…エアカッター!」
―――カキンッ!
だがボスゴブリンは振り返らずに金棒を自分の後ろに回し、ソラの魔法を防ぐ、ボスゴブリンはソラの魔法をすべて防ぎきったとわかると後ろに振り返り、ソラを探す
「…グルゥ…」
ボスゴブリンが後ろを振り返ってもそこにいるはずのソラは見当たらない、不振に思い、どこかに隠れているのかと探そうとしたときである。
―――ダッ
「こっちだ!!」
ソラはボスゴブリンの後ろから魔法を放つ、先ほど魔法を放ったと同時に後ろに回りこんでいた、そしてチャンスはここしかないと判断し魔法を放ったのだ。
「ファイアーボール!!」
―――ドゴォオオン!!
ソラの放った魔法に反応できず、魔法はみごとボスゴブリンの背中に命中する。
そして相手に攻撃の隙を与えないため、ここで一気に決着をつけるためソラはナイフを構えボスゴブリンの背中に向かって走る。
「うぉおおおおおお!!」
―――ザシュッ!ザシュッ!
ナイフはボスゴブリンの背中を何度も切りつける
「グギャァアア!!」
ボスゴブリンは痛そうに叫び、右手をこちらに振りかざす、だが
―――ガキィイイイン!!
ソラの背中に生えている黒い翼のようなものがソラを守るようにソラを覆う
そのおかげでボスゴブリンの攻撃はソラに届かない、いったい何時自分は黒いもやを操れるようになったのか疑問に思うが今はそれどころではない。
ソラは再びナイフを構え、力いっぱい振り下ろす――――だが・・
―――ガシッ
「なッ!?」
ボスゴブリンはもう一方の手でソラのナイフを持つ手を掴む
「グルァァアアアアア!!!」
そのまま金棒でソラを殴りつける、ソラは黒い翼で身を守ろうとしたが間に合わずそのまま飛ばされる。
「カハッ…ゲホゲホッ…ハァハァ…」
ピチャっと音がして自分の体を見てみる、ソラの体は殴られたところから血がにじみ出て、口からも血を吐いている、何しろ相手はボスゴブリン、ただ殴られただけでも十分致命傷になる相手なのだ。
だがソラは諦めることなく、体に力をこめる
「はぁああああ!!」
右手に力をこめボスゴブリンに向かい魔法を放とうとする。
だがなかなか魔法は発動しない、ソラ自身もう限界なのだ、殴られた腹からは血がでて、口からも血が出ている、それに体力てきにも限界は刻々と近づいてきている。
「まだっまだいける!…エアカッた「ザシュッ!!」…え?」
魔法を放とうとし、ソラは倒れる
(な、なんで…力が入らない)
ソラは不思議に思い、何やら音のした自分の後ろを見る、するとそこにはどこからか盗んできたのか右手に剣が握られているゴブリンがいた、その剣からはポタポタと血が地面にたれている。ソラは気づく、先ほどの2匹のゴブリンの生き残りだと。
「な、…倒しきれ…て…なかったん…だ」
その瞬間ソラは自分が後ろからゴブリンに剣で切りつけられたと理解する
「…くそ…この、やろぉお!!」
―――ヒュッ
ソラは手に持っているナイフをゴブリンへと投げつける
「グギャ!?」
ナイフはみごとゴブリンの頭部に命中し、ゴブリンは絶命する
だがそのせいですべて力を使い切ったのか、ソラは起き上がれない。
ソラの様子を見てボスゴブリンは馬鹿にしたように笑う、いや笑っているのではなく、ただ叫んでいるだけなのかもしれない。
「グルァアアアアアアア!!!」
ボスゴブリンは雄たけびを上げながらこちらに少しずつ歩いてくる
ソラに止めを刺すためだろう。
ソラは走馬灯のように頭の中をいろいろなことがよぎる。
「…あぁ、二人とも逃げ切れたかな?…やっぱり…かてなかったなぁ…」
ソらはこんな終わり方をするのがとても申し訳なく思う。
せっかく自分を助けてくれたダッグ、家族と認めてくれたエリイ、友達になってくれたアリスとミレイ。
(…あぁ…体も動かないや…せっかく仲直りできたのに…なんでこんな事になったんだろう…あれ?)
そしてソラは思考する
なぜこんなことになったのか
アリスのせい?違う、アリスは自分と仲直りしたいといってくれた
ダッグのせい?違う、ダッグはいく当てのない自分を助け、ご飯もくれた
エリイのせい?違う、それだけはないと断言できる、エリイは唯一自分を家族と認めてくれた優しい人だ。
じゃあ誰のせい?
そう考えながらソラは前を見る、前に見えるのは自分を殺そうと近づいてくるボスゴブリン、アリスとミレイを危ない目に合わした魔物、町の人に迷惑を、エリイやダッグに迷惑をかけるかもしれない化物。
(……憎い…)
そのときソラは初めて憎しみ、負の感情を抱いた。
悲しみや孤独感などではない、明確な負の感情を
(僕の大切な人を傷つけようとするコイツが憎い……)
そしてソラは立ち上がる、体からは血があふれ、口からも血がたれている
だがソラは気にしない、目の前の憎しみの対象だけを睨み続けている。
「……許さない…憎い…お前がいなければ…」
そしてソラの体にまとわりついている黒いもやが負の感情に反応するように動き始める。
「おまえが、お前がいなければ…お前がいなければぁああああああああああああああああァァァアアアアアアア!!!」
ソラは叫び、声にならないような声を上げる、急に叫び始めたソラの様子にボスゴブリンは近づくのをやめ、警戒する。
そしてソラの体にまとわりついている黒いもやがソラの顔の右側に広がっていく。
――ブォオオオオ!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ソラが憎しみの感情を爆発させ、右手を勢いよく、ボスゴブリンに振りかざす、するとソラの右手から黒いもやが飛んで行きボスゴブリンの右手をもぎ取る。
「グルギャアアアアア!!」
ボスゴブリンは無くなった右手に気づき、苦しそうに叫ぶ
だがソラは攻撃をやめようとはしない、止めをさそうと新たに攻撃をしようとする、が
「あ゛あ゛あ゛……ガハッ!?」
急に力が入らなくなり口から血を吐いてしまう
―――シュウゥウウウウ
黒いもやもソラの少しずつ薄くなっていき最後には全て消えてしまう
「な、なんで…え……魔力切れ?…そんな」
完全に魔力を使い果たし地面に倒れてしまう
そして攻撃がやみソラが無防備になったとわかったボスゴブリンはこちらを振り返る。
「グルアアアア!!」
完全に切れているのかボスゴブリンはソラに向かって金棒を振りかざし走ってくる、それと同時にソラはもうだめだと判断し、目を瞑る。
「……」
だがいつまでたってもボスゴブリンの攻撃はこない、もしかしてもう自分は死んでしまったのかと思ったが先ほどきりつけられた背中は痛いし殴られた腹は痛いのでまだ生きていると判断し、ゆっくりと目を開ける。
「……え?」
ソラの目の前には先ほどまで自分に金棒を振りかざしていたボスゴブリンの首が落ちていた、何があったのかと周りを見渡すと自分の真横に剣を持ち、振り下ろした体勢のダッグがいた。
「…ダッグさん?」
「大丈夫かソラ!?」
「…あり…が…とうご……」
ダッグの顔を見て自分は助かったのだとわかると、今までの疲れと体の傷の痛みに耐え切れずに意識を失ってしまう。
そしてダッグは意識を失ったソラの体を見て目を見開く
「ダッグさん!子供は無事でしたか!?」
あとからきた若い騎士がダッグに近づいてくる、ダッグはすぐにその騎士にソラをあずける。
「ああ、今は無事だがまずい状態だ、はやく回復の魔法が使えるものがいる所に連れて行ってくれ!!」
「は、はい!ではキルノア魔法病院まで連れて行きます!」
「ああ、急いでくれ!」
そういい騎士はソラを抱え馬に乗り去っていく
ダッグはそれを見送ると、先ほどまでソラが戦っていたであろう現場を見る
「…なんだこれは…」
(これは魔法か?覚醒か?…これを子供のソラがやったというのか)
ダッグ自身先ほど、覚醒を使いボスゴブリンを倒したのだがダッグはここまで周りがボロボロになるほど子供が戦えるとは思っても見なかった、だからこそ驚愕してソラがいったいどういう生活をしてきたのか疑問に思うのだ。
ソラは意識を失う前に理解した
自分の覚醒の能力を、力を
―――自分の負の感情と比例しているということを




