十二話 守りたい人
アリスを落ち着かため、マルティナはアリスが泣き止むまで抱きしめ続けた、しばらくたちアリスも落ち着いてきたのか少しずつ話し始める。
「ひっく…私、ソラに、ひ、ひどいこといっちゃった…き、嫌われちゃった…ひっぐ…うえぇ」
「あぁ、よしよし大丈夫、ね?ちゃんと最初から話してみて?」
アリスがまた泣きそうになったのでマルティナは慰めるためアリスの頭をなでながら事の成り行きを聞くことにした。
「えっとね、私友達ができたの、それをソラに言いたくていったの、でもソラは全然驚いてくれなくて、ほめてくれなくて……」
「悔しかったの?」
「…うん、それでわ、私、ついソラに友達やめるなんていっちゃって、ひっぐ…えぐ……ふえぇえええん!!」
マルティナの確認するかのような言葉にアリスは頷き、事情を話し終わると我慢できなくなったのか再び泣き出してしまった。
マルティナはアリスの頭を撫でながら少し考える素振りを見せる、マルティナとしてもアリスを変えてくれて、アリスの友達になってくれたソラには仲良くしてほしいのだろう。
そして何かを思いついたように急に笑顔になる
「ねえアリス、貴方はソラ君と友達でいたいのよね?」
確認するマルティナの言葉にアリスは泣くのをやめ、流れそうな涙を我慢しながら答える。
「えぐ…ひっく…う、うん、なかよくしたい」
その言葉を聞き、マルティナはアリスを抱きしめる
「それなら大丈夫よ、あなたがソラ君に「ごめんなさい」ってあやまればいいのよ」
アリスはマルティナを見上げる
「…あやまれば、また、と、友達になってくれるかな?」
「ええ、ソラ君ならきっとなってくれるわ」
母の言葉を聞き、また友達に戻れるとわかったからかアリスの顔から笑顔が戻る。
「ほ、ほんとかな、大丈夫かな…あ、でも幼稚園でいうの…みんながいるから…恥ずかしい…」
アリスは希望を見つけたような顔から羞恥心により顔を赤くし、俯いてしまう、そんなアリスを見てマルティナは自分の手を頬に当てる
「あらあら、ふふっアリスは恥ずかしがりやさんね?」
アリスの顔はさらに赤くなるが同時に不安がアリスを襲う
「ど、どうしよう…」
見かねたマルティナがアリスに提案をする
「それじゃあ誰もいないところに呼び出して、そこで謝ったら?幼稚園の裏とか」
「う、うん!…がんばる!!」
「ふふっがんばってね?」
母に支えられ、自信を取り戻したのかアリスは笑顔になり、明日のことを考え始めるのだった。
(えっと…誰もいないとこ…あ、あそこの森にしよ!)
誰も知らない、自分しか知らない秘密の場所、そんな森なら誰もいないとアリスは考える、確かに名案だろう、だが・・・
――――アリスは知らない、その森が今は危険区域になっていることを
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ソラは今、幼稚園の中で、いつもの場所で本を読んでいる、だがソラの心は本には集中できず、あることをずっと考えていた。
その原因はつい先ほど起きた
ソラが本を読んでいるとアリスがミレイを連れてこちらに向かって走ってきたのだ、そしてソラの目の前まで来るとアリスは少し緊張したように
「あ、あの!休みの時間、北の森に来て!」
それだけいいアリス達は走ってどこかにいってしまった。
これがソラの悩んでいる原因である、ソラ自身はアリスのいなくなった事に少し寂しさを感じていたが、まさかこんなに早く話しかけられるとは思ってもみなかった。
だが話しかけられた嬉しさと同時に不安な気持ちもあった
「…北の森、何のようだろう?」
そう、問題がそこである、北の森に呼び出して何をしようというのか
アリスのことなので酷いことをしたりはしないと思うが、じゃあ何のために自分を呼び出すのだろうと、それだけがずっとソラの頭を悩ませていた。
ソラはうなりながら時計を見上げる、時刻は午前11時を回ったところ、休みの時間まであと30分程だ。
「休みの時間に北の森にいけばいいんだよね?」
誰に尋ねるわけでもない言葉を口から漏らす、無論返事は返ってこない、ただ自分に確認を取るつもりで言ったのだ。
「はーい、それじゃあみんな休みの時間だよー」
先生がみんなに大声で伝える、その瞬間アリスとミレイが玄関から走って出て行くのを見た。
ソラは必然と北の森に行ったのだろうと推測する。
(…でも常に休み時間みたいな感じなのに、それに休みの時間って…いままでのはなんだったんだろう…)
ソラは自分も玄関から出て北の森に行く最中、そんなことを考えていた。
ソラにとっては今までの周りの環境が悪いせいで変に大人びてしまったため、こういうことはあまり理解ができないのだ、幼稚園の子供たちの仕事は遊ぶこと、そして休みの時間に体を休める、子供たちにとっては十分意味のある時間なのだ。
「えっと、北の森だから…こっちか」
ある程度は地図を暗記していたので北の森といわれただけでどこに行けばいいかわかる、無駄に本に虫ではないのだ、だがそれと同時にソラはアリスに一言言ってやりたい。
――――言われたのが僕じゃなかったらわかんないじゃん
そう、これは地図を暗記しているソラだからできることでほかの人に北の森に来てといっても、それどこだよと返されるだけである。
そんなことを考えながらソラは木や雑草の沢山生えている道を掻き分けながら歩き続ける、気づかないうちに森に入っていたようだ、ソラは迷わないように道を確認しながら目的地へと進んでいく。
しばらく歩き続けると木の沢山生えている所から抜け、少し広い広場のようなところに出た、周りはあたりまえだが木々が囲んでいるので少し幻想的な風景である、ここで本が読めたらいいなとのんきに考えているソラだがすぐに前で立ってまっているアリスとミレイを見つけ歩いていく。
「…えっと、何かよう?」
ソラの口から出たのは純粋な疑問だった、だがそんな言葉も今のアリスには堪えるようで俯いてしまう、困ったように頭をかくソラだがアリスがすぐにソラの顔を見る、その顔には何かを決断するような、我慢しているような、緊張しているような、そんな表情だった。
するとミレイがアリスの肩をたたき、小さな声で頑張ってとっている
アリスはミレイに励まされながらソラの顔を見る
「あ、そ、その……ごめんなさい!」
「……へ?」
突然謝り頭を下げてきたアリスに困惑するソラ
思わず口から間の抜けた声が出てしまったがそんなことを気にしているところではない。
「わたし、ソラにひどい事いっちゃって…ついいっちゃっただけでっごめんなさい!そ、その、友達になって!」
「……」
唖然として答えることのできないソラ
ソラ自身、すぐに言われたことを考えそして理解する、だが理解した瞬間に自分をひどく恥だのだ、アリスがこんなに真剣に自分のことを考えてくれているのに自分はそれに気づいてあげれなか、それがなによりもアリスに申し訳なく思うのだ。
だがアリスは違う受け止め方をしたらしい
「う、うえぇ、ご、ごべんだざい…ふぇええええ!!」
ついに我慢できなくなったのか泣き出してしまった、だがソラはアリスに近づき、アリスの頭の上に自分の手をのせ、撫でる、優しく微笑みながら
するとアリスはキョトンとした顔になり、ソラを見上げる
「いいんだよ、僕も悪かったんだ、また友達になろう」
「あ…そ、その…いいの?」
まだ信じられないのかソラについ尋ねてしまうアリス
「うん、僕からもお願いするよ、友達になってよ」
「……うん!!」
ソラの言葉にアリスは輝くほどの笑顔になる、今まで不安だった分、とてもうれしいのだろう、ソラはそんな様子のアリスをみて微笑み、今度はミレイに近づく。
「ごめんね、僕のせいで問題ごとにつき合わせちゃって、よかったらミレイも僕と友達になってくれない?」
ソラの言葉にミレイも同じことを思っていたのか、うれしそうにうなずく
「は、はい!よ、よろしくおねがいしますっ」
「ははっよろしくね?……ッ!!」
ミレイとも友達になり、言葉を返したソラだが、返した直後にいままでの優しい顔が別人と思ってしまうほどソラの顔は険しくなり、森のある一点を睨んでいる。
突然豹変したソラの様子に二人は驚きながらソラの袖をつかむ
「ね、ねぇどうしたのソラ、何かあったの?」
「そ、ソラ君、顔が怖いです…」
二人のそんな言葉に耳を貸さずにただ何かを見極めるかのようにただずっと森の一点をにらみ付けている、そして何かを発見したようにソラの目は見開かれる。
「……いい、二人とも、よく聞いて」
「「?」」
「ここに…魔物が近づいてきてる」
「「え!?」」
ソラの突然の報告に混乱するアリスとミレイ
「ゴブリンと…ボスゴブリン……」
ソラの顔にも焦りが見れる、ゴブリンだけなら何とかなるがボスゴブリンは別だ、しかも二人を守りながらなんてほとんど不可能に近い。
「いい、二人とも、僕が魔物と戦うから二人はこのことを騎士の人に伝えるんだ」
ソラの言葉に二人は理解する、つまりそれはソラが囮になるということだ。
だがそんなことはアリスやミレイが許さない
「だ、だめよ!ソラもにげるのよ!」
「そ、そうです!いっしょににげるの!」
アリスは慌てたように、ミレイは混乱しすぎてか言葉が少しおかしくなっている、だがそんなことが許されるほど相手は甘くない。
「だめだ、あの魔物は足が速い、僕たちが走ってもすぐ追いつかれちゃうよ、大丈夫、僕は魔法が使えるから」
「で、でも!」
「このままだと町の人にも迷惑がかかっちゃうから、だから早くしらせるんだよ!」
ソラのはじめてみる真剣な表情に二人は黙って従うしかなかった
だが去り際にアリスとミレイが振り返り
「「ぜったい、また遊ぶの!!」」
「ははっわかってるよ」
そういい二人は走っていった
二人が見えなくなったのを確認してソラは服の中に隠し持っているナイフを取り出す。
「……ゴブリンが3匹、ボスゴブリンが1匹…」
ゴブリンならソラでも倒せるだろう、だが問題はボスゴブリンだった、本で読んだことのあるソラだからこそ知っている、ボスゴブリンはゴブリンとは比べ物にならない、ゴブリンよりも一回りも二回りも大きな体、右手には金棒、ステータスではすべての項目でC以上の強敵だ。
「…今の僕には倒せない」
ソラは正気な感想を述べる、二人の前では強がっていたがそれは二人を逃がすための仕方のない手段だった。
「倒せない、でも…僕には…僕には!!」
――――グガァアアアアアアッ!!!!
魔物の鳴き声が近づいてきている
だがそれと同時にソラは今までのことを思い出す
助けてくれたダッグ
家族になってくれたエリイ
友達になってくれたアリス、ミレイ
「僕には!……守りたいと思える人ができたんだ!」
そして同時に今までのことを思い出す、ごみを食べさせられ、掃除し、殺し、殴られる日々。
「僕なんかに…優しくしてくれる人がいるんだ!それを僕は守る!!」
そしてソラは心の中で念じる
――――覚醒…
ブワァ!!
ソラの体から黒いもやが出てくる
それはまるでソラを飲み込もうとしているようにも見える、だがソラは気にも留めずにナイフを魔物にむける。
「…いくよ!!」
こうしてソラと魔物の殺し合いは始まった。




