十一話 アリスの失敗
魔法の本を借りて特訓をしたソラ
今日も特訓をしようと朝早くに外の森に行く、外に出る時に時計を見たら4時を少し過ぎたころだったので、大体1時間くらいは特訓ができることになる。
ソラは少しでも多く特訓がしたいと思い自然と歩くスピードが速くなる
――――タッタッタッ
「……よし、ついた、昨日と同じようにまずは体を動かさなくちゃ」
―――スパンッ
――――ザッ…
―――ドゴオオォオン!!
まずは剣を使い素振りをし、剣を使った後に使う魔法の練習もする。
最初に剣を使った攻撃を繰り出し、その後すぐに後ろに下がり火の魔法を使う。今ソラが使える魔法が『エアカッター』と『ファイアーボール』しかないので、この組み合わせが最善なのだ。
「…よし」
まずまずの結果にソラはかすかながら手ごたえを感じる、この積み重ねが後々で役に立つと信じているのだ。
そしてソラはある程度、剣と魔法の訓練が終わると時間もないのかすぐに剣をしまい歩いていく、ソラの歩いていく先には森の中で他の木よりも少し大きい木があった、ソラはその木の前に立つと魔力と精神を集中させる
「……はぁぁあ」
そしてソラは念じる、『覚醒』と――
シュゥウウウウッ!!
前に使ったときと同じようにソラの体から黒いもやが出てきてソラの体を覆っていく、ソラはすぐに集中し覚醒の力を制御しようとする。
「…グッ…はぁはぁ…はぁあああ!!」
力が暴走しそうになるが気合で何とか持ちこたえる、しばらくたち段々慣れてきたのか少しずつ制御ができるようになっていく。
「…な、なんとかなったのかな?…」
ソラはちゃんと力を制御できているのか気になり自分の右手を見る
すると右手から右肩にかけて黒いもやが張り付いている、これを見てソラは確信する、ソラ自身はこの黒いもやは覚醒したときにみんな出てくるような一般的なものかと思ったが,力が落ち着いたときもこの黒いもやが出ているということは、この黒いもやがソラの力であり、ソラの覚醒の効果だということがわかったのだ。
するとソラはゆっくりと右手を前に出す
(この状態で魔法を使ったらどうなるんだろう?……)
そう、覚醒した状態でこの黒いもやを使えば武器にもなるということは感覚でなんとなくわかるのだが、前覚醒を使ったときは武器、魔法を使わず、手を使う攻撃だけをしたので覚醒を使った状態でどうなるかはソラ自身にもよくわからないのだ。
するとソラは何かを決断したように顔を引き締め、右手に魔力をこめる
「……ファイアーボール!」
ソラが魔法を唱えるとソラの手に魔方陣が浮かびあがり、魔法が放たれる
ただし―――――――黒い魔法が
―――ドゴォォオオオオオオオオオオオオン!!!
するとソラの放った黒い玉は勢いよく木にあたり爆発した
魔法がぶつかった木を見てみるとソラは驚く
「え、えぐれてる…」
黒い玉は木にぶつかるとそのまま爆発し爆発した場所はボロボロになり、少しえぐれている、ソラ自信が子供で魔力もあまり多くないため少しえぐれる程度で済んだがこれが魔力の多いものに放たれたらどうなるのだろうとソラは考え顔を真っ青にさせる。
「…やっぱり覚醒の状態で魔法を使うときは気おつけよう、そろそろ家に帰らないと…あ」
そろそろ覚醒をとき家に戻ろうと思ったとき、ソラは思い出したように口から声をもらす
「僕、覚醒しているときってどう見えるんだろう?」
それは単純な疑問だった、ソラは覚醒すると少し体に変化が出るタイプだと予想しているのでそのとき自分がどうなっているのか自分ではわからないのだ。
ソラの足は自然と近くの池へと近づいていく
ソラは気になる心を抑えきれずに、自分の移る池を覗き込む
「……え?」
そしてソラは絶句した
声を出すことができなかった
「…なに、これ…」
池に移るソラは右手から肩にかけて黒いもやが張り付いていて、背中の右側から黒い翼のようなものが生えていたのだ。
ソラは驚愕し、見開いた目を元に戻すことができない
その姿はあまりにも黒く、いびつだった。
そして何よりもソラは思う
「…まぁ僕にはぴったりなのかな?」
散々醜い人生を歩んできたソラ、魔物を殺し、人を殺し、楽しいことなんて何もなかった、だからこそ自分の感情が能力にまで影響してしまったのかと、そんなことを考えてしまった。
「あ、家に帰らないと、エリイ姉さんが心配しちゃう」
たしかに見たときは少し驚いたが便利な能力とは確信しているので特に気にすることなく、ソラは家に帰るのだった。
ソラが家に帰るとちょうどエリイが起きてくる少し前だったらしく、ソラが武器を片付け終わり、服を着替えているときにエリイが起きてきた
「あら、ソラ、もう起きていたんですか?」
ソラが時計を確かめると時刻は5時を少し回ったころだった
なるべくばれないようにソラは笑顔で言葉を返す
「うん、早く起きるのが癖になっちゃってて」
全てが嘘でないのがこまるものである
「そうですか、早く起きるのはいいことですが早すぎるのも問題ですよ」
エリイは苦笑し、ソラの頭を撫でる、ソラはそれを拒むことなく、エリイに黙って特訓していることもあり、多少の負い目を感じ俯く、エリイはその行動にソラが自分の言葉に落ち込んだのではないかと感じ、ソラを抱きしめる。
「私はソラのことを心配して言っているのです、ただ怒っているわけではないのですよ?」
その言葉にソラは頷く
エリイが自分のためにしているということは十分しっている、だからこそ申し訳ないと思ってしまうのだ。
――――ギュゥウウウ
するとエリイはソラを抱く力を急に強くした、急なことに対応できずソラは苦しそうにエリイの背中をたたく
「く、くるしい、くるしいよエリイ姉さん」
「ソラの栄養を補充しているんです、我慢してください」
(…僕の栄養を補充してるってどういうこと?)
それは一種の吸血なのではないかと思う
そらからしばらくの間、抵抗されながらも離すことのないエリイの抱きしめ攻撃が続いたのであった。
(…く、くるしい)
あれからしばらくたち、エリイはソラを幼稚園に行かせるために送っていっている。
その時、最初ソラはエリイから1mほど距離をとり歩いていたがエリイが泣きそうな顔をするものだからソラは溜息をつき、エリイに近づく
するとエリイが
「ゆるしてくれるのですね!!」
といい、再びソラに抱きつく、ソラは再び、今度は、先ほどよりも少し大きくため息をついた、先ほどと違うところといえば嫌がるそぶりを見せながら嬉しそうな顔をしていたというところだろう。
幼稚園に着き、ソラが扉を開け部屋の中に入る
入る際に外からエリイが大きな声で
「ソラ!今日もがんばってください!」
と、大きな声で言うとソラは少し恥ずかしそうな顔をしながらも笑顔で手を振り替えした。
中に入りいつものように本の置いてある本棚の近くの窓際に座ろうと歩き始める、窓際に着き本を取り出しそこに座ると前からドスドスドスと誰かが近づいてくるのがわかる。
「アリス?」
誰が来るのだとソラは本から顔を上げ前を見ると仁王立ちし、なにやら得意げな顔をしたアリスとその横に何やらそわそわしていて落ち着きのない女の子がいた。
「えっと、どうしたのアリス?」
ソラがいろいろと気になりひっくるめてアリスに尋ねる、するとアリスは良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに隣にいる女の子を前に出した。
「私の友達のミレイちゃんよ!!!昨日友達になったの!!」
どうやらアリスの友達らしい、アリスに紹介されたミレイという女の子はオロオロしながらソラに頭を下げる。
「え、えっと、み、みミレイですっ…あ、その、は、はじめましてっ」
がんばって挨拶をしてくれたミレイにソラは微笑みながら挨拶をする
「よろしくね、僕はソラ、アリスの友達だよ」
「は、はいっよろしくです!」
落ち着いたように話すソラにミレイは緊張が少し解けたのか笑顔でソラの挨拶に返してくれた。
すると隣でアリスが自信満々の顔でソラを見ている
(えっと…つまり何が言いたいんだろう?)
ソラが思考し答えを出す前にアリスがソラに話しかける
「どうよ!私だってこれくらいできるのよ!」
アリスの言葉に少し困惑するソラ
「えーと…すごいですね?」
ソラの返しに不満なのかアリスはほほを膨らませる
「むぅー!そうよ!すごいんだから!」
アリスは毎度ソラに言葉では勝てないし、なにかとソラは自分より頭が回ると感じていたアリスはどこかでソラに勝ちたいと思っていた、そのときたまたま話をして仲良くなったのがミレイだったのだ、そしてその時思いついたのが友達の少ないソラに自分が友達を作って紹介すればソラは多少い悔しがると思ったのだ。
だが予想外なことにソラは全然悔しがっていない
アリスはそれが不満なのだ
「私はね!ソラより友達が多いのよ!?」
なにやらやけになってきているアリス、隣にいるミレイはアリスの様子にオロオロしてしまう。
「う、うん、そうだね」
ソラとしてはそれ以外ないも言う言葉がおもいつかない
だがアリスはそれが気に食わないのだろう、頭に血が上りついに口走ってしまう。
「私はソラが友達じゃなくなっても大丈夫なんだから!・・・あ」
いってから気づいた、自分のおろかさに、言った後に後悔した、自分の言っていることの重要性に
アリスははっとなり、すぐにソラの顔を見る
するとソラは少し目を開き驚いているように見える
だがすぐに元に戻り、ソラはすっと立ち上がる
「……わかったよ、じゃあこれで終わりだね、ばいばい」
ソラはそれだけいいそのまま立ち去っていった
ソラ自身はアリスに新しい友達ができ自分がいらなくなったのだと認識した、ミレイをみて同年代で少しオロオロしているところはあるが悪い子ではなさそうだし、同じ女の子ということもあり仲良くなって当たり前だとおもう、そして先ほどのアリスの言葉にソラは友達をやめたいといわれていると誤解してしまったのだ。
ソラが立ち去った後もアリスはそこでなにもできず、ただずっとたっているだけだった。
・・・・・伯爵家・・・・・
―――チリン
玄関のドアが開き、なかに俯きながらアリスが入ってくる
マルティナは自分が迎えに行く前に帰ってきたアリスに驚き駆け寄る
「アリス、どうしたの?いまから迎えにいこうと思ったのに」
するとアリスは顔を上げマルティナを見上げる
そのときマルティナは驚いたように固まる、アリスの目に涙がたまっていたのだ。
「わ、私…ソラにひどいこと…ひっく……う、うええええええええええええええええん!!ひっぐ…ごべんだざあああああああい!!」
マルティナは泣くアリスの頭をなでながら泣き止むまでずっと抱きしめ続けた。




