一話 7番と言われた少年
―――――少年は考える、なぜこんな事になったのだろうかと
少年の目の前には無残にも体を引き千切られ大量に血を出し、倒れている男たちがいる。
男たちは死んでいた、ある者は手がなく、ある者は足がなく、ひどい場合は顔が潰され誰だか判別ができなくなってしまった人もいる。その数はざっと20人程だろうか
少年は黙ってその真中に立っている、何も思わせないような無表情で。
そして少年は思考する、なぜこんなことになったのだろうかと
――――今から1時間ほど前―――
ある大柄の男が森の中で酒を飲んでいる、それも一人でく、大勢である。
腰には剣を下げていて服装はどこか荒っぽい感じのするものである
そう、盗賊である
盗賊の男たちは笑いながら酒を飲んでいる、手には金貨が数枚、奇襲に成功し、金を手に入れたのだろう。
その中でも体が他の者より一回り大きく装備も充実している男がいた、この男が盗賊のリーダーだと見た目でわかる、男は右手を上げ誰かを呼ぶしぐさをする。そしてやや荒々しい声で誰かを呼ぶ。
「ギャハハハッ、おい!酒をもってこい!!聞こえないのか7番!!」
すると男たちよりも少しはなれた所から手に酒を持ち歩いてくる少年がいた
7番と呼ばれた少年は体が小さく、顔もまだ幼い、年は5~7歳くらいの少年だった。服装は白の薄い布でできた服を着ているだけで靴などは履いていなかった。
少年は酒を持ち、男の前まで持っていくと酒を持っている小さな手を上げ男に渡す。
その瞬間だった
―――――バコオオン!!
男に少年が殴られ後ろに吹き飛んだ
「ガハッ…ゲホゲホッ…ハァハァッ」
体の小さい少年は守ることもできずに、受身も取れずそのまま後ろに吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。少年は苦しそうに殴られたお腹を押さえ息を整えようと必死だ。
「おせんだよ!!俺たちの奴隷ならしっかり働け!!」
男は横暴にもそして、非情な言葉を少年にぶつける、少年は息を整いきらないままヨロヨロと立ち上がり苦しそうに声を出す。
「…ハァハァ…ッ…ごめんな…さい」
「ハハハッ!!いいぞリーダー!!もっとやれ!!」
少年が謝罪の言葉を述べると少年の周りの男たちが少年を嘲笑うかのような声を上げ少年に話しかける。
「ギャハハ!勘違いするなよ7番?俺たちはお前に教育をしてやってるんだよ!!その証拠に7番っていう名前もつけてやったろ?ギャハハ!!!」
少年は自分を嘲笑う男を見ても何も思わない、少年は物心つく時からここで働かされているため感情が麻痺し、さらに常識もしらないためにこれが普通だと思い込んでいるのだ。
「…あり…がとうございます」
男たちは更に笑う、何かを見て喜んでいるように、笑う、嗤う
するとリーダーの男が嗤いながら他の男に声をかける
「ギャハハ!!おいおい、あまり無理に使うなよ?こいつは戦闘能力と顔はいいんだからな、ま、それ以外が何もないけどな!!」
「なにいってんすか、殴ったのリーダーじゃないですか!」
男がリーダーに笑いながら言う
「ちげぇねえ!!」
「「「「ギャハハハハハ!!!」」」
男たちはまた笑う
少年は殴られたお腹を手で押さえながら後ろに下がる、そしてある程度下がると酒場のような大きい家のようなものが森の中にある。
盗賊の住処だろう、少年はそこに入り周りを見渡す
「…掃除しないと」
少年はそう言い雑巾を右手に掃除を始める、大きい家である、掃除がいつ終わるかなど見当もつかない。
だが少年は黙々と掃除を続ける、机や椅子、廊下などすべてが汚い、ある所にはガラスの割れた破片が
ある所には食べ物の食べかすが、ある所には血のような赤い液体もついている。
「次は……2階」
少年は階段を上がり2階に行く、その時だった
――――グウウウゥ
「ッ…お腹、すいたな…頑張れば、食べ物くれるかな…」
少年は誰に聞くでもない言葉を呟きそこで立ちすくす、するとすぐに「はっ」っとなり残りの階段を上りきる。少年の記憶では昨日も掃除したはずの2階は、まるで1年間掃除をしていなかったかのような汚さであった、だが少年は何も言わない、いつもの事だからと慣れてしまったのだ。
男たちが面白がってわざと汚くしているときもあるが今日はそれ程ではなかった。
少年は窓際のところで窓が割れ、ガラスが散乱しているのを見つけ、すぐにそこに歩いていく、箒もなく、雑巾は拭く為に必要なので結果として手で拾うことになる。
すると
――――スパッ
ガラスの破片で指が切れ、少年の指から血が滲み出るが少年は気にしない、まるで何もなかったかのように掃除を続ける。
どれ位経っただろうか・・少年が掃除を終え、窓から外を見るとすっかり暗くなってしまっている。
「あ……外のかたづけしないと」
そして少年が外に片付けをしようとしたその時である。
『グガァァアアアアアア!!!』
外から人のものではない声が聞こえてくる。
少年はその声を聞きすぐに何の声か理解する
「…魔物?」
少年はそう自分の中でそう結論づけ、すぐに戦う支度をする、少年は慣れた手つきで剣を腰に挿し、戦うために玄関のドアに手をかけ開く、
「なに…これ…」
少年は目を見開いた、人が死んでいた、人が死ぬのは今まで見せられたことがあったので気にはしないのだが死んでいる人がつい先ほどまで自分を嗤っていた男だったので一瞬思考が停止した。
少年はすぐに正気に戻りリーダーの指示をもらうために周りを見渡すと、そこは死体、死体、死体だった。
生きている者もいたがもう6人程度まで減っていた。
そしてこうなった原因を確かめるべく少年はその6人に近づく、いや、近づこうとした。
少年の行動はある声によって防がれた。
『グルアアアアアア!!』
声がしたほうを見ると先ほどの6人から少し離れたところに大きな魔物がいた。
狼のような体をして大きさは大体普通の狼の5倍はあるだろうか、その狼が6人のうちの3人の後ろに回り、右手をふり、3人の首をもぎとる。
するとそれを見た盗賊の仲間が声を上げる
「まずいですよ!!リーダー!」
それを聞いたリーダーは焦るように言い返す
「わかっている!だがどうすんだよ!!もう逃げられねえぞ!」
「お、俺は逃げるぞ!こんなの聞いてない!!」
「俺も逃げる!やるならリーダー、一人でやってくれ!!」
そういい2人は逃げるように狼に背を向け走りはじめる。
「おい!!てめぇら!!まて、行くんじゃねえ!!俺を一人にするな!」
だがリーダーの声をまるで聞きもせず2人は一心不乱に逃げるため走り続ける。
だがそれを狼の魔物が許さない、狼は大きく跳び、逃げた2人の先に着地する
「ひ、ひいいいい!!あ!7番!俺を助け…ギャアアアアア!!」
「いやだ!こんな…『ガアアアアアア!!』」
言葉を言い終わる前に狼の牙によって二人とも食いちぎられる
呼ばれた少年も急なこと過ぎて反応ができなかった。
すると今は死んだ男の7番という言葉に反応し、リーダーがこちらを向く
「おい!7番!俺は逃げるからおとりになれ!」
が、その言葉を言い終えるとともに狼がリーダーの目に立ちふさがる
「くそ!!もうきやがったか!よくも俺を!ぶっ殺してやる!!」
そういいリーダーは剣を右手に狼に突っ込んでいく、狼のほうもさすがに大勢を相手にしたせいか、所々から血が出ている。
狼が右足を振りかぶりその瞬間にリーダーが狼の中にもぐりこみ狼の腹を剣で突き刺す
『グガアアア!!』
狼は苦しそうに声を上げる、よく見ると今ので狼の口から血が出ているのがわかる
「へへっ!どうだ!人間様に逆らうからこんなことに…」
言い終わる前に狼の牙がリーダーの首に突き刺さる
「がっ!?ぎゃあああああ!!7番俺を助けろ!何している!?はやく…『グシャっ』」
リーダーの顔が地面につく、といっても顔だけが地面につく形になった
少年は助けようとしたが間に合わずにみんな死んでしまった。
少年は思う、自分はこれからどうしたらいいのだろう、と
時間は戻り少年は前を向く
そこには傷を負い苦しそうに息をする狼の魔物である
いつもだったらここで殺すのだが自分を指示する人はもう誰もいない。じゃあ自分はどうすればいい?
少年はわからなかった、幼い頭で考えるが何も思いつかない
そして少年は思考するのをやめ、狼に近づいていく。歩いていく途中にグチャっとなにかを踏む感触が合ったがきにしない、少年は狼の目の前まで行くきそこでとまる。
ただ狼をじっと見ているだけだ
狼は『グルル』と鳴き威嚇をしたが少年は動かない、狼は何かを諦めたように鳴くのをやめ、さっきまで立てそうになかったのが嘘のように「すっ」と立ち上がり、少年の顔を見た。
少年が戸惑っていると狼が先に口を開いた
『我を殺そうとした時に食ってやろうと思ったのだが・・・少年、なぜ我を殺そうとしなかった?』
少年は驚いた、いままで魔物が人間の言葉を話すとは知らなかったのだ
「あなたは……魔物なのに喋るの?」
『我はそこらへんの雑魚ではない、上のものになると普通に話すことはできる、それより質問に答えよ』
少年はそこで考え、しばらく間をおいて問われた答えを言う。
「…なんで殺さなくちゃいけないの?」
そう、少年は指示されたら殺そうとしたかもしれないが指示する人はもういない
よって少年はなにもしない、元々殺すのはすきではないのだ
だが狼は驚いたように目を開き少年に声をかける
『なんだと?貴様、あの者の仲間ではないのか?」
「違うんだって、前に言ってた僕は「どれい」なんだって」
少年は意味もわかっていない単語を聞いたまま口にする
『……そうか、すまぬことを聞いたな、あの者たちは我の卵を盗もうとしたのでな、だが貴様は奴隷だという、我は関係のないものは殺す意味はないと思っている、立ち去れ』
「……」
少年は動かない、いや、動けないのだ
それを不振に思ったのか狼は少年に先ほどよりも声を強くし繰り返す
『意味がわからぬか?殺されたくなかったら立ち去れと言ったのだ』
少年が静かに答える
「…どこに?」
自分の帰る場所なんてもうない、そんな少年はそう聞くしかできなかった
『…そうか、そうだったな、ならここをまっすぐ進め、そうすれば町に出る』
「なんで、優しくしてくれるの?」
『なんでだろうな?貴様が少し気に入ったからか、次ぎあったら少しくらい話はしてやる、だから生きろ』
少年はそういわれ「生きろ」の言葉に指示された、と認識し言われた通り歩き始めた
どれくらい歩いただろう、もう2時間は歩いたと思う
少年はそんなことを考えながらひたすら歩いていると森を抜け、町が見えたのに気がつく
そして町を見つけ目の前まで歩いていく
「やっと…ついた…」
安心したのか少年はそこで倒れ意識を失った。